ラインの黄金
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第一幕その十二
第一幕その十二
「またやって来る。その時に黄金を用意しておくのだな」
「若し遅れればフライアはわし等のものだ」
ファゾルトはフライアを見ながら神々に告げる。
「いいな、それで」
「それではな」
「姉様、これでは」
「フライア!」
二人の嘆きも効かなかった。巨人達フライアを連れていく。神々は追おうとするがそれは適わなかった。ローゲはそれを一人見て呟いていた。
「巨人達は切り株や岩を超えて谷間へ急ぐ。ラインの浅瀬を渡って進んでいく」
「ローゲ、その言葉は何だ?」
「荒くれ男達に連れられていくフライアは嬉しそうには見えませんね。ですがヴォータンよ」
「どうしたというのだ、一体」
「急にどうしたんですか?」
こう彼に対して問うのだった。
「何か考え込んでるようですが」
「考え込んでいるだと?私がか」
「そうですよ。霧に覆われたみたいに。夢にかられたみたいに」
ヴォータンの顔を見ながらの言葉だった。
「不安げでしおれてますよ。それも皆も」
「皆だと。何と」
ヴォータンはローゲの言葉を聞いて他の神々を見た。見ればローゲの言葉通りだった。フリッカもドンナーもフローも急に力をなくしていた。
「頬のつやはないし目の光も曇っている」
「力が」
「動きが」
「ドンナーもフローも」
まずは二人を見て言った。
「急に元気がなくなって。フリッカも」
「老いた?まさか」
「ああ、そういえばですね」
ローゲはそんな彼等を見てわかったのだった。
「まだフライアの黄金の林檎を食べていませんでしたね、今日は」
「夕刻に食するつもりだった」
ヴォータンは今にもへたれ込みそうになりながらローゲに答えた。
「だが今は」
「あの林檎を世話するフライアはいなくなった。だからですね」
「そうなのか。これは」
「フライアがいないと林檎の木も終わりですね。世話をしないともちませんから」
ローゲは他人事そのものの言葉だった。
「干からびて枯れて腐って落ちてしまいます」
「そんなことになれば」
「ですが私には関係のないことです」
冷たい声で告げたローゲだった。
「それも」
「関係ないというのか?」
「だって私は半分神で半分妖精ですから」
実にしれっとした言葉であった。
「フライアは私にはくれませんでしたからね」
「では何故平気なのだ?」
ヴォータンも実は今までこのことに考えたことがなかったのだ。
「そういえば御前だけが」
「ですから。半分は神で半分は妖精です」
このことをあらためて話すローゲだった。
「妖精は老いませんし神は死にませんから」
「だからか」
「貴方達は林檎に頼り過ぎていたのですね」
弱っていく神々を見下ろしての言葉だった。
「そして巨人達はそれを知っていたのですよ」
「それでか。それでフライアを」
「そうだったのか」
「弱ってしまえばそれで終わりです」
ローゲはドンナーとフローにも話した。
「神々は滅びますよ」
「ではどうすればいいの?」
フリッカが声をあげた。
「このままでは私達は」
「ローゲよ」
「はい」
「私と共に行くのだ」
こうローゲに告げてきた。何とか立ち上がりながら。
「ニーブルヘイムに行きあの黄金を手に入れるぞ」
「そうですね。そうしなければ話になりませんから」
ローゲもそれに応えて言う。
「では行きましょう。今から」
「うむ、それではな」
「ではヴォータン」
ここでローゲはヴォータンに対して問うのだった。
「乙女達の願いを聞き届けてくれるのですか?」
「フライアを救うのだ」
これがヴォータンの考えだった。
「あの者達のことなぞはな」
「まあそれではです」
ローゲはとりあえずそれを聞き流してそのうえでまたヴォータンに対して言うのだった。
「何処からニーブルヘイムに行きます?ラインからですか?」
「馬鹿を言え」
ラインと聞いて顔を顰めさせた。
「他の道だ。当然な」
「では硫黄の坑道を通りますか」
「そうだ。それで行くぞ」
「では。道を開きます」
ローゲが右手を下に掲げるとそれで。下に異臭のする道ができたのだった。
「それでは。ヴォータンよ」
「夕方には戻る」
こう他の神々に告げるヴォータンだった。
「黄金を手に入れてな」
「ええ。では」
こうしてヴォータンとローゲは硫黄の坑道に入る。そうしてそのうえでアルベリッヒのいるそのニーベルハイムに向かうのだった。
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