その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)
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第30話 仲魔、仲間、友達。そして、家族(2)
◆
あれからリリーさんも交えて相談を聞いてもらおうと言う話になり、元々目指していた翠屋へ3人で向かいました。
その道中、どうしていつもの4人ではなく2人だけ先に帰って来たのかを離していたんですが……
「いらっしゃいませ……あら、どうしたの、後ろ?」
翠屋につくと接客中の桃子さんが笑顔で出迎えてくれましたが、私達を見るとけげんな顔に変えてしまいます。けど、それもそうだろうなぁって思ってしまいます。
まぁ、だって
「うっ、うぅっ、ももこぉ~。ジュンゴが、ジュンゴが~~」
さっきまであれだけ颯爽としていたリリーさんがぐずぐず半泣きになって、私に手をひかれながら入ってきたんだから。
道すがら事情を話していて、“今日、放課後には純吾君に会えそうにない”って言う事が分かった時から、ずっとこんな感じです。ここに来る直前に感じたドキドキを返してください、割と切実に。
「私を! こんなにいい女な私を置いてっ! なのちゃんとどっかにいっちゃったのよぉ~~!! 今日は全部オフにするって聞いてたから、一緒にデートできるって思ってこうやっておしゃれしてきたのにぃ~!! こんなオチってないと思わないっ!?」
言いたい事を言うと今度はうわーんって大泣きし始めるリリーさん。ちょ、ちょっとお店の中の人が見てますって!
なんて言うか、純吾君が関わっている時だけは本当に自分の感情に素直で、子供みたいです。
「あぁもうっ! モモコ、実はアサリンとすずちゃんから相談に乗ってって言われたんだけど代わりに受けてくれない? 私、ちょっとやる事ができたから」
って、えぇっ! 気持ちの切り替えすっごく早い! いきなり顔をがばってあげてそんな事言いはじめるから、ちょっと驚いてしまいました。
「あら、何をするの?」
「決まってるわよ。ジュンゴとなのちゃんが行きそうな場所を徹底的に探し回って、なのちゃんからジュンゴを奪っ…しゅ……」
リリーさんが段々と顔が引きつっていったので、何なんだろうって思ったら……
「あらあら、あんまり良い趣味とは言えないわね」
も、桃子さんが怖いっ! ほっぺたに手をあてて笑っているけど、目が全然笑っていないですっ!
「ねぇ、そんな出歯亀みたいな事するのが、あなたの考える“いい女”?」
「え、えっとぉ、ね」
「それに、純吾君知ったらどう思うでしょうね~。“お友達の悩み事よりも、自分の我がままを優先させちゃう人”って」
「あっ! う、ううぅぅ~~~!」
ニコニコとした桃子さんが、リリーさんを口だけでやり込めています。
……私の家族じゃあ誰でもリリーさんに言い合いで勝てないのに、本当にすごい。私の隣でアリサちゃんも、どうやったらそんな事ができるか興味深々な様子で見ています。
「うぅぅ~分かったわよ! その代わりモモコっ、可能な限りすぐにジュンゴにお休みあげて頂戴ね! 絶対その時に今日の埋め合わせしてもらうんだからっ」
「ええ、それと一緒にお友達の悩みにも真摯に相談に乗ってた、って言っておきますね」
「あっそれいい! 分かったわ、じゃあ今日はとことん真剣にっ! 話し合っちゃうわよ~」
どんどんと桃子さんのペースで話が進んでいったと思ったら、コロってやる気のなかったリリーさんが相談に乗り気になってました。そうして先にリリーさんを席に案内していきます。
その後すぐ桃子さんが戻ってきて私達を案内してくれたんですが、別れ際に片目をつぶって「じゃあ、しっかり話しあってらっしゃい」って応援してくれました。
……これが、本当の大人の余裕なんだなって思いました。流石、お姉ちゃんでも頭が上がらない人だなぁ。
「それで、詳しい話を聞かせて貰えないかしら?」
桃子さんに案内してもらったのは店の奥に位置する席で、他のお客さんに私達の話がなるべく聞えないように配慮してもらった場所です。そこにリリーさんと対面するように私とアリサちゃんが座ります。
私達の前にはそれぞれジュースの入ったグラスが。リリーさんの前にはケーキやシュークリーム、果てはパフェまで、呆れるほどのデザートが並べられています。
注文の際、引きつった顔の美由希さんに言った「だって私、食べても全然太らないんだも~ん」という言葉に、私達をはじめ、店内全ての女性の嫉妬の目がいったのは仕方のない事だと思います。
「あっ、はい。えっとですね――」
それはさておき。私達はかわるがわる、自分達が悩んでた事をリリーさんに話しました。ジュエルシードに関わる事件で、私達が見ている事しかできない事、温泉にいった時からなのはちゃんと純吾君の様子がおかしくなった事。そして、それに対しても見ている事しかできず、遂に今の様に二人と離れざるを得なくなった事――
最初、デザートに手を伸ばしながら話半分に聞いてたリリーさんでしたが、段々真剣に私達の言葉に耳を傾けてくれました。
けど、最後の方になるとまた様子が変わります。片手で頭を支えて、もう片方の手はパフェについてたスプーンをくるくると所在なさげにさまよわせ、頭が痛いと言わんばかりの様子です。
「あの、リリーさん…」
「あぁ~、心配しないで。ちょっとジュンゴと、もう一人に言わないといけない事ができちゃったから頭痛くなっちゃって」
スプーンをひらひらと動かしてリリーさんは答えてくれます。私達の悩みを聞いてくれてる最中に色々と思うところがあったでしょう。
悪い事、しちゃったかなぁ……
「ったく、ジュンゴはともかくお尻ぷり子ちゃんめ。こんな面倒事まで引き込んでくるなんて……」
お、お尻? リリーさんが顔を俯かせたままぶつぶつと言っている内容、少し変な事も聞えたけどそれってもしかして――
「リリーさん! 温泉に行ったあの日に何が起こったか、教えてくださいっ!」
アリサちゃんが身を乗り出してリリーさんに問い詰めます。やっと見つけた2人の悩みの原因、それを逃してなるものかと必死な顔。それを見て私も同じように机に身を乗り出してリリーさんへお願いします。
けれども私達2人をリリーさんは一瞥すると、一言
「駄目よ」
そう短く言い放ちました。
「どうしてですっ! だって――」
「だって、それが分からないと2人の悩みが分からない、解決することができない、かしら?」
咄嗟に出たアリサちゃんの言葉が、リリーさんに先回りして言われてしまいます。
確かに、私達の言いたい事は貴女の言った通りです。だけど、それを分かってくれるのならどうして……?
「だって、私はジュンゴの“仲魔”ですもの。ジュンゴがまだ言わないって言うんなら、私が先に言う訳にはいけないでしょう?」
反論を封じられてどうしたらいいか分からない私達を尻目に、淡々とリリーさんがその理由を話します。机に頬杖をついて、私達ではなくくるくると回すスプーンを眺めながら、とてもつまらなそうに。
「それに」
と前置きして、私達の方を向きなおるリリーさん。その目はデザートを食べていた時の無邪気なものでも、ついさっきまでのつまらないというような感情が込められたものではありませんでした。
「そうねぇ……。例えばアサリンって、確かピアノ弾けるんですっけ?」
「え? あ、はい」
「じゃあ、アサリンがピアノ弾いてる時にピアノなんて知らない私が色々と演奏に口を挟んで、あまつさえ割り込んできたら……。あなたの演奏にとって良い影響があるかしら?」
「それは…」
リリーさんの質問に答えようとした、隣のアリサちゃんの顔が曇ります。机の下で、ギュって手を握ったのも見えました。
私の顔も曇っている事でしょう。眉間に力が入っているが自分でも分かります。
だって、
「それと一緒よ。あなた達みたいな、こういう事への素人に首を突っ込まれて困るのはあの2人よ?」
リリーさんの言葉が、重くお腹の上に落ちてきたみたいに感じられます。いつも純吾君の隣にいて、彼の事を一番に考えてるリリーさんの言葉だから、余計に。
さっきまで感じられた、やっと問題が解決するかもっていう高揚感も無くなって、自然に顔も下を向いてしまいます。
やっぱり、私たちじゃあダメ、なのかな……?
「と、言う訳で相談終わりねっ♪ はぁ~、相談にのるって良いわねぇ~。これだけで皆の悩みも無くなって、ジュンゴに褒められちゃうんだもん」
そんな私達を尻目にリリーさんは大きく伸びをしながらそう言うと、またぱくぱくデザートを食べ始めます。
本当に、私達との話は終わったっていわんばかりの態度に、とても暗い気持ちになります。それと、どうしてちゃんと聞いてくれないんだろうっていういらだちが出てきて、思わずリリーさんを睨んでしまいます。
「………」
むすっとした顔をしていたのでしょう。ぱくぱくと、私達を無視してデザートを食べていたリリーさんのスプーンが止まります。
それからしばらくじっとお互いに対峙していましたが、やがて小さくため息をつくリリーさん。
「……はいはい、分かったわよ。ちょっとイジメがすぎちゃったわね、ごめんね」
髪をかき上げ、リリーさんがそう言います。
「えっと、それってつまり?」
「あぁほらほら。そんなぽけっとした顔したらせっかくの美人さんが台無しよ。だからぁ、さっきだした結論は、私にとっても不本意だっていうの」
「じゃ、じゃあなんであんな事」
「あ~はいはい、そこもこれからちゃんと説明するわよ。あなた達2人の役に立ちたいって言ってたけど、2つ間違って考えてる事があるわよ」
アリサちゃんとリリーさんが言い合いを始めますが、あまりの展開の速さに私はついていくことができなくなります。ただ、言いあっている目の前の2人を見つめることしかできません。
「だ~か~らぁ、役に立つってジュエルシードの事だけじゃないでしょう?」
「でも、あいつらが悩んでるのだってそこなんだし――」
「そこよそこ。アサリン、そんなに悩んでるのに、どうしてあの2人がそれを話そうとしないか分かる?」
その言葉の意味を捉え兼ねたのか、アリサちゃんが次の言葉を言えません。
うぅん。どうして、どうして、かぁ。
「……怖い、からかなぁ?」
「当たりよすずちゃん! 間違ってる所その一、悩みを言わないのは渋ってるんじゃなくて別の理由だからっ!」
小さく呟いた私の声に、ビシッと手に持ったスプーンを私に向けてくるリリーさん。突然の大きな声に、考えに没頭してた私もアリサちゃんも驚いて顔をあげます。
そんな私達に少し微笑みかけてくれたあと、リリーさんは言います。
「2人は怖いの。今までの平和な生活から一変した事が怖い。あのモンスター達と会って戦わなければならないことが怖い」
少しだけ言葉を区切り、最後にリリーさんはこう付け加えました。
「そして一番、そんな日々を当たり前だって思ってくる自分達の気持ちが、あなたたちと離れていく事が、ね」
……あぁ、咄嗟に出てきた“怖い”って言葉だったけど。今の話で少しだけ、納得ができた気がします。
2人は、私が通ってきた道を通っているのです。人にないもの、それも、知られてしまえば今の生活が送れなくなってしまうほどの、途方もなく重たいものを抱えるっていう事がどれだけ怖いか。どれだけ心細くなるか、私は知っていたから、咄嗟に出てきたのです。
「ちょ、ちょっと待ってください。私達と離れていくって、どうしてそんな風に思うんですか? 私もすずかも、ちゃんと事情を知ってますよ」
私が自分の考えに納得をしている隣で、リリーさんへ更に疑問をぶつけていたアリサちゃんですが、急に何かに気が付いたようにはっと喋るのを止めます。それから少し自分の考えに没頭するかのように下を向いて、まとまったのかおもむろに顔をあげます。
「あの、それってやっぱりこの前の一件に――」
「だから、そこまでよアサリン。何回も言うけど、私からはそれについて言わないわよ」
アリサちゃんの言葉を、リリーさんが先回りして止めます。言いたい事を止められ、ぐっと何かに躓いたような顔をしたアリサちゃん。けれども、せっかく見つけたチャンスを逃す事はできません。
「……けど、事情を知らないと何で私達が離れてくんじゃないかって怖がってる理由も分からないじゃないです。
だからお願いします。少しでもいいんです、あの時の事を教えてくれませんか」
私が頼んでもダメかなぁ、と少し躊躇いながらも、私もリリーさんにそう言いました。するとリリーさんはそれを聞いて、ピクリと形のよい眉を動かします。
「へぇ。確かに、そう言われると弱いわねぇ。
……しょうがないわ。後で誰にも言わないでよ」
やった、とばかりに私達はその言葉を聞いて顔をみあわせます。ここ数日間ずっともやもやしてた気持ちがようやく晴れる、2人の頑張ってる友人の為に何かできると思うと、とても嬉しい気持ちになります。
「あぁもう、これで解決ってわけじゃないでしょうに。まぁいいわ。
それで何で悩んでるかだけど、単刀直入に言って、2人以外にもジュエルシードを集めている子がいたの。で、その子と種を巡って争いになったって訳」
リリーさんの口から出たのは、さっきまでの嬉しさを打ち砕くようなびっくりする内容でした。
「そんな、一体誰なんですかっ!」
アリサちゃんが机を叩いてリリーさんに問い詰めます。私も同じ気持ちで机の下で両手を強く握りしめます。
今まで街の為にって、責任を強く感じてたユーノ君の為にって頑張ってたのに、どうしてそんな事をその人はするのでしょうか?
「それが分かれば苦労しないわ。目的も、どこから来てるのかも謎。ただ分かるのはなのちゃんなんて目じゃない位に修練を積んだ魔導師で、すごいジュエルシードに執着してるって事だけ」
その人の事を思い出してるのか、先ほどよりももっと顔をしかめて吐きすてるように言うリリーさん。
そこまで言われたら、黙っていた他の理由にも思い至ります。きっとなのはちゃんや純吾君は、その人と争って怪我を負ったに違いありません。それで、私達に心配をかけるのが“怖くて”、黙っていたんだと思います。
そう思うと、先ほど胸に湧いてきた理不尽な怒りが一層強くなるのを抑えきれなくなります。
「ならそんな奴っ! とっととやっつけちゃえばいいじゃないですか! こんな事してられない、とっととあいつらのとこに行って」
そう言って立ちあがったアリサちゃん。私も感情の赴くまま、一緒に席を立って店を出ようとして――
「行って、何をするつもり?」
ぞわり、と。背筋を這いまわる恐ろしさに体を硬直させてしまい、イスに尻もち付くみたいに座ります。
これは、一度体験したことのある怖さ。はじめて悪魔と、リリーさんと出会った時のあの、怖さ。
「まぁったく、だから教えたくなかったのよ。言ったわよね、あなた達がこの事で手伝えることなんて何もないって」
目の前にいるのは、一見、退屈そうに頬杖ついているだけのリリーさん。けれども、その声はいつもより少し冷たい雰囲気を持っていて。
初めて会った時の、純吾君を守ろうと全てを拒絶していた時の様な、まるで目に見える全てが仇敵のような冷たい目で、私達を見つめていました。
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