スーパーヒーロー戦記
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第65話 第二次日本攻略作戦(後編)
なのは達とは別の場所で戦っていた甲児と大介達。そんな二人の元にも危機は訪れていた。
「何だこいつらは?」
「円盤獣だけじゃない! 他にも見たことのない敵も混ざっている」
二人は戦慄を覚えた。眼の前に現れた大群は戦い覚えのある円盤獣だけではなかった。甲児にとってはトラウマでもある戦闘獣も、そして百鬼帝国のロボットまでもが混ざっていたのだ。
「フハハハハ、今日この日が貴様の年貢の納め時だな、デューク・フリード! そしてグレンダイザー!」
「くっ!」
眼の前に浮かぶマザーバーンから笑い声が響いた。野太い男の声だ。だが、モニターに映っているその顔は人間のそれとはかけ離れた姿をしていた。黒い体に青い顔。両に生えた二本の角を持つ軍人を思わす男であった。
「貴様、バレンドス!」
「フリード星以来だなデューク・フリード! 今でも思い出すぞ。私の作戦を前にアホみたいな顔をして泣き叫んでいた貴様を!」
バレンドスの言葉にデュークはある苦い思い出がぶり返していた。バレンドスが仕組んだ作戦とはフリード星に住む子供達をミニフォーで吊り上げると言う作戦であった。高度五千メートルまで上がったミニフォーの下では髪の毛を縛られた子供達が泣き叫んでいる。
あの高さから落ちれば只では済まない。それを救う為にバレンドスが持ち出した要求とは、フリード星の武器を全て撤去する事であった。
デュークもその父もそれに応じ、フリード星にある武器と言う武器が全て処分された。だが、要求を呑んだ彼等の前に出た答えは悲惨な結果であった。
それは、次々とミニフォーから落されていく子供達であった。高度五千メートルから落下した子供の体はグシャグシャになり肉の塊となってしまった。
その光景を前にデュークは泣き叫んだ。止めるよう叫んだ。だが、その叫びを前に返って来たのはバレンドスの下卑た笑い声であった。
今でも鮮明に思い出せる。あの悪魔のような光景を。あれのせいで一体何十人の子供達が犠牲になった事か。
「許さない! この悪魔共め! 僕はお前達を一人たりとも許さない!」
頭に血が昇ってしまったのだろう。単身敵陣へと突っ込んでいくグレンダイザー。当然そんな事をすれば敵の総攻撃にあうのは目に見えている。
「大介さん! 無茶だ」
甲児も援護しに急ぐ。だが、甲児の乗っているTFOでは到底円盤獣達に対抗出来るはずがない。搭載されているミサイルも所詮は焼け石に水であった。
眼の前でグレンダイザーが袋叩きにあっている。以下に宇宙合金グレンで武装していたとしてもその装甲も歪みが生じ、やがては破壊されていく。グレンの悲痛な光景がまじまじと映し出されていた。
「止めろてめぇら! それ以上やるんじゃねぇ!」
「五月蝿い蝿だ、叩き落せ!」
マザーバーンから発せられたのは不気味に輝く光線であった。その光線はグレンの元へと向うTFOに直撃した。激しいスパークがTFOを包み込み、計器を破壊しその機体をボロボロにしていく。
「うわああああああああああ!」
内部で甲児が絶叫した。光線を浴びたTFOは黒煙を上げて墜落していく。だが、そんなガラクタになど目もくれずバレンドスはグレンを見た。グレンは右腕を失い体の各所も既にズタボロ状態であった。とても今の情勢を覆せるとは思えない。
「悔しいかデューク・フリード? 貴様は負けたのだ。あの時のフリード星と同じように、貴様は無様に負けたのだ」
「黙れ悪魔め! 僕はまだ生きているぞ。勝負はこれからだ!」
「そうか、ならば貴様には絶好の生き地獄をくれてやろう!」
マザーバーンから今度は青く輝く細い光線が発せられた。咄嗟にグレンはそれを避ける。だが、それはグレンの機体を傷つける事はなく、代わりに操縦していたデュークの左腕に命中する。
「なに、ぐわぁぁぁぁ!」
突如、激しい激痛がデュークを襲った。あの青い光線を受けたせいだ。
「ははは、それはベガトロン放射能だ! この星にはそれの治療法はない。じわじわと死の恐怖に苦しむが良い!」
下卑た笑いを残し、バレンドス達は引き上げて行った。一緒に連れてきた円盤獣達も共にだ。残ったのと言えば満足に動けないグレンダイザーだけである。そのグレンもまた大地に倒れ動かなくなってしまった。
宇宙の王者が今、強大な悪の前に倒れたのだ。
***
市街地を我が物顔で暴れまわっているのは三人の大怪人であった。シャドームーンの力により更なる力を得たダロム、バラオム、ビシュムの三名である。
その三大怪人を前に管理局の武装局員達、そしてフェイト達や仮面ライダーV3は苦渋を舐めていた。
圧倒的であったのだ。その一言に尽きる。これだけの戦力差があるのにそれを全く感じさせない程にこの三体は強かったのだ。
「つ、強い……」
傷ついた肩口を抑えながらフェイトは唸った。バリアジャケットもデバイスも既に傷ついている。三大怪人の猛攻の前に傷だらけとなったのだ。横を見ればユーノやアルフ、それにクロノも同じように傷ついていた。
風見の方も既に方膝をつく始末である。彼等でこうなのだから武装局員達などは既に立ち上がる気力すらない。それ程までに完膚なきまでの強さだったのだ。
「弱い、弱すぎる。噂の管理局とはこの程度か?」
「仕方あるまいダロム、我等が強すぎるのだ」
「感じるわ。溢れ出るほどの力を感じるわ」
三大怪人の歓喜に打ち震える声が聞こえて来る。その歓喜の声ほどフェイト達の心を打ち砕く物はない。明らかに圧倒的であったのだ。
フェイト自身特訓により更にパワーを増している筈だ。それが此処まで痛めつけられたのだ。心身共に打撃は痛ましいほどであった。
「ふん、遊びは此処までにしておくべきだな。これ以上時間を食ってはシャドームーン様にお叱りを受ける事になる」
ダロムがそう言う。それに隣に居た二人の大怪人も同様に頷く。そして、視線を未だ立っているフェイト達に向ける。恐らく始末をつけるつもりなのだろう。殺気がギラついているのが分かる。
「そうはさせるか!」
そんな一同の前に突如風見が遮るように立った。既に傷だらけとなり、切り裂かれた箇所からは機械のパーツなどが見えている。改造人間となった彼の名残だ。
「風見さん!」
「お前等は早く逃げろ! V3逆ダブルタイフゥゥゥゥゥゥゥゥン!」
残っていた全てのエネルギーを使用し、V3がベルトのダブルタイフーンから猛烈な突風を発した。かつて巨大な岩盤を打ち砕いた逆ダブルタイフーンである。しかし、その技を使用すれば風見は暫くの間変身出来ないと言う諸刃の剣でもあった。
「くっ、皆、此処は一端引くんだ!」
「でもクロノ、風見さんが!」
「急げ! 風見さんの想いを無駄にするな!」
クロノの激が飛ぶ。彼とて辛かったのだ。大切な仲間を見捨てて逃げる自分に。何も出来ない無力な自分に。
その想いを汲み取ったフェイトは苦い顔をしながらも頷く。そして、局員共々その場から撤退をした。一人奮闘する風見を置いて。
突風が止み、視界が良好になった時、其処に居たのは三人の大怪人であった。全くの無傷であった。V3の逆ダブルタイフーンを受けても今の三大怪人を傷つける事は出来なかったのだ。
そして、その三人の前には力を使い果たし無様に倒れる風見志郎の姿があった。
「こいつはどうする?」
「放っておけ、どうせ此処にも怪人が押し寄せて来る。始末はそいつらに任せれば良いだろう」
「それもそうね」
三大怪人達は倒れている風見の事など興味を示さずその場から消え去ってしまった。後に残ったのは破壊された町と動かなくなった青年だけであった。
***
アースラから寄せられてくる内容と言えば最悪な報せばかりであった。各地で暴れ回る侵略同盟の圧倒的物量差と力の前に次々と倒れる仲間達。転移で戻ってきた局員達も皆深い傷を負っており手当てが間に合わない状況が続いている。
「艦長! グレートマジンガーとゲッターロボGも中破、ウルトラマンも怪獣軍団の前に倒されたそうです!」
「まさか、こうもすぐに敵が動くなんて……」
この時リンディは自分達の不甲斐なさ、そして戦力のなさを悔いた。今の管理局は地球を守ろうと思う気など微塵もない。寧ろ辺境の惑星一つで済むのならばそれに越した事はないと見捨てる方針であったのだ。
その為、管理局の協力を得ずにリンディたち独断でアースラを発進させたのだ。そのツケがこれである。
戦力不足からなる圧倒的敗北。しかし余りにも凄まじい速さであった。今まで互いに牽制しあっていた敵勢力が突如手を組み攻撃を仕掛けてきたのだ。
これも恐らくはいたずらに戦力を分断し、あまつさえ守護騎士達の逮捕を出来ず時間を浪費した結果であったのだろう。
「例え私達だけになろうとも、あの星だけは守り通します! 直ちにアースラを地球へ……」
言葉の途中であった。激しい振動がアースラを襲う。何事かと想った刹那。正面モニターに映ったのは巨大な長い管状の物体であった。それが何本も現れ、アースラを雁字搦めに絡めとっている。
「艦長! 艦上部に巨大な怪獣が!」
「なんですって!?」
映像が映し出された。それはアースラ上部に取り付き幾本もある長い管を伸ばしてアースラを絡めとっている円盤生物シルバーブルーメであった。
やがて、長い管はアースラ全体を覆いつくして行く。艦橋は捻じ曲げられ、甲板は歪まされ、内部に管が入り込んでいく。
「艦内に謎の液体が侵入! 溶解液です! 艦内で被害多数!」
「これ以上の航行は出来ません! このままでは……」
万策尽きたとはこの事であった。これ以上この艦内に居てはアースラと運命を共にする事となる。まだ若い彼等を巻き添えには出来ない。無論、自分も此処で死ぬ訳にはいかないのだ。
「総員直ちに退艦! 悔しいけど、アースラを捨てます!」
「艦長!」
「早く脱出しなさい! これ以上此処に居ても無駄に死ぬだけよ!」
リンディの顔からは悔しさが滲み出ていた。艦長にとって自分の艦を失うことは屈辱にも等しい。だが、その悔しさをバネにしていかねばならないのだ。
急ぎ艦内に残っていた局員達がブリッジにある転送装置で次々と転送されていく。その間にもシルバーブルーメが徐々に艦内に管を伸ばしていく。
既にブリッジ以外では溶解液で満たされている。此処ブリッジも何時それが入ってくるか分からない状況であったのだ。
「これで全員ね」
「はい、後は私と艦長だけです!」
既にほぼ全員の転送が終わり、今艦内に残っていたのはエイミィとリンディの二人であった。
「急ぎましょう。これ以上は此処も長くは……」
突如、二人の頭上から瓦礫が降って来た。咄嗟にリンディは側に居たエイミィを転送装置に突き飛ばす。その直後、自分の向かい瓦礫が落下する。
「艦長!」
エイミィの眼の前には瓦礫により下半身が挟まれたリンディが倒れている。これでは転送装置まで行く事は出来ない。
「行きなさい! 私の事は良いから!」
「ですが、艦長!」
「早く!」
リンディの激が飛ぶ。本来ならすぐに助けに行きたい。だが、彼女の上に乗っている瓦礫はとても彼女一人では持ち上げられる重さじゃない。それに、此処で二人揃って死ねばそれこそ彼女は無駄死にになる。悔しいがどうする事も出来ないのだ。
「すみません……すみません、艦長!」
「良いのよ……さぁ、行きなさい」
「は、はい!」
涙を強引に拭い、エイミィは最後に転送装置で転送した。その直後、装置は破壊された。とうとうブリッジにまでシルバーブルーメの管が進出してきた。入り込んで来た管がブリッジを我が物顔で暴れ回り破壊していく。恐らく獲物を手探りで探しているのだ。
(これも管理局に勤めたお陰かしらね……まさか、貴方と同じように艦の中で死ぬなんてね……)
艦内に一人残されたリンディは微かな笑みを浮かべつつそっと目を瞑る。暗闇の中現れたのは大切な息子と愛しいあの人。
(御免なさいクロノ……私まであっちに行ってしまうことを、許してね……クライド……今、貴方の元へ……行くわ)
***
オーロラのような海の広がる次元空間の中、円盤生物シルバーブルーメの襲撃を受け、時空管理局の所有する時空航行船アースラが、今……時空の海の中閃光となって散った。
白熱の閃光を放ち、その残骸を微塵も残さない程にそれは粉々に散り、後に残ったのは何もなかったと言う。
人類は今、一つの節目を迎えようとしている。それは、敗北、滅亡、そして死であった。
巨大な悪の前にか弱き正義の炎は掻き消されようとしている。人々の胸に宿るは絶望、そして恐怖であった。
だが、忘れないで欲しい。例え僅かでも正義の火がある限り、悪に抗う若き火は再び炎となる事を。
だから、これを見ている貴方達も決して諦めないで欲しい。心の敗北こそが、本当の敗北なのだから。
つづく
後書き
次回予告
守護騎士を失い、己自身となった少女に迫るはゴルゴムの刺客達。
絶望的状況の中、今奇跡が起こる!
次回「太陽の子、その名はRX」おたのしみに
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