アーチャー”が”憑依
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二十四話
「さて、中間試験も終わって一息つきたいところだろうが一つ連絡がある。今日からこのクラスに転入生が入ることになった。急な話だが、皆仲良くしてあげて欲しい」
中間テストが終わった翌日。ネギはHRでねぎらいの言葉をかけた後そう切り出した。クラス一の情報通である朝倉ですら知らなかった出来ごとに、クラスは一気に浮足立つ。
ネギはそんな面々をなだめ、新たな仲間となる少女を教室へと招き入れた。
「はじめまして。私はアルトリアといいます」
新しく3-Aに加わる少女。それは、つい先日、裏で謎の侵入者として麻帆良を騒がせていた。アルトリアだった。
「皆、彼女に色々聞きたいことがあるかもしれないがそれは少し待ってくれ。今日はまだやらなければいけないことがあるのでな」
我先にと質問をしようとしていた生徒たちだったがネギの先制によって出鼻をくじかれる。だが、次のネギの言葉を聞き、彼女達のテンションは一気に上昇していく。
「それでは、近く迫った麻帆良祭。我等3-Aが何をするのかを決めるとしよう」
上限など知らぬとばかりに上昇していく生徒たちのテンション。それを見てネギは、
(この一回で決まることは絶対にないだろうな)
と、諦めの体勢に早々に入るのだった。
「何故、こうなった?」
現在、ネギは姿を変えてカフェでとある少女と待ち合わせをしていた。ついさっきまでいつまでも決まらぬ学際のだしものについて頭を悩ませていたのに何故こんなことをしているのか。それは昨夜に遡る……
「明日菜、今年こそは高畑先生を学祭に誘うんやろ?」
「う、それは……その……」
修行の合間の休憩時間。三人の会話に上るのは近々行われる学祭についてだ。学祭と言えば一年の中でもトップクラスの大イベント。単純に楽しみだ、というのもあるが恋する乙女にとっては別の意味でもビッグイベントだ。その原因は麻帆良に伝わる一つの伝説、学祭最終日に世界樹の下で告白すれば非常に高い確率で成功するというもの。
「あ、明日菜さんは相手が相手ですから……」
「そうやえ、伝説にすがるくらい必死にならな」
現在話の中心とされている明日菜。彼女の想い人は元担任であるタカミチ・T・高畑その人である。年齢差は元より、教師と生徒と言うとてつもない壁が二人の間には聳え立っている。世界樹伝説はあらゆる障害、困難をも突破すると言われている。ならば、これを利用しない手は無いだろう。
「で、でも高畑先生の前に立つと緊張しちゃって……」
黒い縦線でも背負いそうな勢いで落ち込み始める明日菜。そんな明日菜を見ても、このかとのどかは苦笑いを浮かべるしかない。あれやこれやと口を出しているが、結局は二人も恋愛に関してはずぶの素人なのだ。
「なるほどな。それならいっそ、誰かとデートでもして練習してみりゃいいんじゃねえか?」
「「「!?」」」
突如ふってわいた声に三人が一斉に振り返る。そこに居たのは一つの白い小さな影。ネギの使い魔であるカモであった。
「で、デートの練習?」
「おうよ。意中の相手じゃねえが、やっとくのとやっとかないのじゃ大分違うと思うぜ」
「でも相手がなー」
彼女達が通うのは女子高。ただでさえ男子とのかかわりが少ないのに、デートの練習に協力してくれる様なタカミチと年齢の近い男など知り合いにいるわけがない。よって、練習しようにもしようがないのだ。
「それについては俺っちに任せな。こないだ、いいものが出たんだ」
「いい?」
「もの?」
のどかとこのかが首をかしげるもカモは詳細を話すことなく、明日の予定を開けておくようにつげて去っていくのだった。
そして、カモが用意した相手と言うのが今の姿を変えたネギというわけだ。身長は190に迫る長身。髪は白く後ろへと流されており、肌は髪とは打って変わって褐色だ。ネギにとっては見慣れた、かつての自分と全く同じ姿だ。
「来たか」
周囲を気にしながらゆっくりカフェへと向かってくる明日菜を見つけたネギは一つ息を吐くと重い腰を上げた。少女が、一つ前へと踏み出そうとしているのだ。出来る限りは協力しよう。例え、どんな結果になろうとも。
ネギはこの姿に驚かれるだろうことを予測しながら、明日菜へと歩み寄った。
「……誰?」
待ち合わせ場所へやってきた明日菜へ声をかけると、返ってきたのはそんな言葉だった。少々酷く感じるかもしれないが今のネギはかつての、エミヤだったころの姿なのだ。明日菜からすれば初対面の相手。突然声をかけられればそう返してしまうのも無理は無い。
「ネギだ」
ネギは簡潔にそう答える。明日菜はぽかんとした顔で数秒ほど固まると……
「はあああああ!? え、ちょっ! アンタがネギ!?」
混乱しているためか、口調が完全に素だ。
「魔法を使えば、これぐらいは容易良いということだ」
「あ、そっか。魔法ね」
魔法、の一言で明日菜は納得した。これぞ本当の魔法の言葉である。
「変装とかそういうための魔法?」
「いや、これはアーティファクトによるものだ」
「なるほどねー、って仮契約してたの!?」
アーティファクト。それは魔法使いが従者と行う仮契約を行うことで手に入れることが出来る魔法道具のことだ。出現アイテムは従者の性質にあったものが現れると言われているがマスターたる魔法使いとの相性も関係しているなどの説もあり、謎が多い。
そして、アーティファクトを手に入れるための仮契約の方法だが、昨今ではキスが一般的になっている。これは、昨今では魔法使いと従者の関係が恋人のそれと同視されている傾向からである。
明日菜も自分がネギと仮契約したときのことを思い出し、頬を朱に染める。
「ああ、ついこのあいだエヴァに言われてな」
一応師弟関係にある以上、命令には逆らえんさ。とネギは付け足す。
「そうなんだ。それにしても変装? が能力って、何だかしょぼいわね」
「自分たちのそれを基準に考えては困る。君達のそれはどれも間違いなく一級品だ。それに、これの本当の力は変装などでは無い」
「そうなの?」
「ああ。それより、そろそろ行くとしよう。時間は有限だからな」
自分のアーティファクトについて詳しく話すつもりは無いのか、ネギは早々に話しを切り上げる。明日菜もそれ以上追及することは無く、歩きだしたネギの隣に並び立った。
デートの練習とはいっても時間は限られており場所も学園内のみ。こう言われてはデートなど出来るのだろうか思うかもしれないがそこは心配いらない。マンモス学園である麻帆良は様々な店舗が存在しているし、今は学園祭に先駆けて出店を出している所もある。
明日菜とネギはそこここで食べ歩きをしながら射的等の出店を渡り歩いた。
「何でそんなに上手いのよ」
「昔取った杵柄という奴だ」
二人の手には射的でとった景品が抱えられているが、その数はネギの方が圧倒的に多い。明日菜も一般的に見れば相当なものなのだからネギの凄さが伺える。
「さて、そろそろいい時間だ。帰るとしようか」
「そうね。荷物もあることだし」
これが本当のデートなら夕食もこのまま取ったかもしれないが、あいにくとこれは練習。わざわざそこまですることはない。
二人は腕に射的の景品を抱えながら帰路へとつく。
「それで、タカミチに想いをつげることはできそうか?」
「うっ……ま、まあとりあえずは誘うことから始めないと」
「タカミチは忙しいからな。なるべく早くしておくことだ」
正直な所、ネギは明日菜の想いが成就するとは思っていない。それはタカミチの態度からくるもの。かつてはまるで妹の様に接しているかのようだと感じていたが、明日菜が魔法に関わってからというもの、その態度の中に何処か引け目の様なものを感じているようだった。
万が一、タカミチが明日菜の事を思っていたのだとしても、その引け目から断ることは想像に難くない。
「教師という立場からは応援できんが、個人としては応援しよう」
「うん。頑張ってみる」
だが、それでもネギは明日菜の背を押す。彼女が下した決断に水を差すのは無粋だし、何よりあたって砕けるというのも一つの成長だ。
「さて、今晩は久しぶりに料理を振おうか」
「本当!? このか達も喜ぶわよ~」
沈む夕日を背に、二人は歩を進める。波乱と激動の学園祭は、すぐそこまで迫っている。
後書き
どうも、約一ヶ月ぶりです。生存報告を兼ねての更新です。
当然ですが、まだ就職が決まるハズもなく更新はまだまだ休みということにさせていただきます。
ついでに、今回で完全に二次ふぁん時代に掲載していた分を移転し終わりました。
あと、リハビリになんか書こうかなーと言っていたものも一話分だけ書きました。多重世界トリップ?(いろいろな世界に転生だの憑依だのしてチート化していくタイプ)です。いつ掲載するのかは全くの未定です。
それと、長島と松井が国民栄誉賞を受賞するようですね。前者は私のような20代辺りの若い世代も巨人の監督として親しみがありましたし、後者に至ってはプロスポーツ選手に憧れを抱く年代の頃に活躍していた選手ということもあり非常に嬉しい限りです。特に松井は私にとっていつまでたっても不動の最強打者なので。
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