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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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夏の終わり

 8月17日。
 今日も今日とて朝からパッケージの説明と言うお仕事が私を待っています。今は15階の開発局のフロアから40階へのエレベーターホールでエレベーターが上がってくるのを待っています。

「とと……」

 両手にギリギリ抱えられる量の資料が崩れそうになったので慌ててバランスを取ります。
 何でも情報漏洩対策とかでこういう関係の資料は全部紙媒体だとか……効率悪いです。回線繋いでないパソコン一つあればそれで済む気がするんですけどねえ。

 えと、今日は昨日と同じ40階でアジア勢の人たちへの説明っと……
 その時エレベーターの扉が開きました。

「あら、カルラじゃない。久しぶりね」

「あ、鈴さん。お久しぶりです」

 エレベーターに乗った時に既に乗っていたのはいつも通りのツインテールに中国の代表候補生用の白い服に身を包んだ鈴さんでした。そういえば鈴さんもアジア勢として参加してたんですよね。

「アタシたちって結局来た意味あったのかしらねえ」

「んー、どうでしょう?」

 エレベーターの扉が閉まると鈴さんが私の後ろで呟いたので私も同じくらいの声で呟きます。実際にウィンザー様の交渉で物事はスムーズに進みましたけど……

「下手をすれば私たちも出番あったんじゃないですか?」

「あー、アメリカ用の切り札ってことね。」

 アメリカの大統領があの時点で認めていなかった場合、私たちが証人としてあの場に呼ばれたのでしょう。何せ自分達のやったことを全部認めるってことになりますから、そうなっていた場合はぞっとしませんね。

「そういえば中国は鈴さんだけなんですか? 他の代表や候補生は……」

「ああ、アタシと同期が一人と国家代表が一人来てるわ。なんか公務とかで色々忙しそうにしてたしアタシが先に来ちゃっただけよ。面倒だったし」

 鈴さんはそう言うと軽く笑って見せましたけど、それ後で怒られませんかね?
 中国は台湾情勢とか内部反対派閥とか世界的に有名なものもいくつかありますしね。正式な25日向けの演習に向けても台湾は独自に軍事演習を行うっていう情報もありますし、その情報収集も兼ねてと言うことなのでしょう。
 40階に到着して二人で会議室に向かいます。

 昨日と同じ会議室に入るとまだ誰も来ていません。まあ30分も前に来ればそうですよね。私は準備のために来たんですけど……

「鈴さんは何でこんな早くに?」

「んー? 他の二人をロビーで待ってても暇だし、だったらここで待ってたほうが誰かと会えるかも知れないじゃない」

「あ、なるほど」

「実際カルラと会えたし、やっぱり正解だったわね」 

 そこからは軽い雑談を2人で20分ほどして、10分前になったので私はお茶の準備を開始します。おっと、その前に鈴さんにお茶を出すのを忘れずにっと。
 時間ぴったり5分前に会議室のドアが開くと、記録で見た3人が入ってきました。

「おや、もういたんですか。時間を間違えたかな?」

「いえ、5分前です。私が準備のため早く来ていただけですから」

 そう言ってきたのは日本航空自衛隊所属の国家代表、榛名 舞子2尉。左側にはショートカットの男性とも見違える格好よさを持った江本 響候補生、右側には黒髪の長髪小柄なのに出るところは出ている……失礼しました。上杉 千歳候補生がいます。

「そうか。中国の凰候補生も来ているしな。間違えたかと思ってしまったよ」

 鈴さんが立ち上がって敬礼で3人に挨拶します。

「初めまして、榛名2尉。中国の代表候補生、凰 鈴音です」

「ああ、よろしく。後ろの2人は知っているか? 左が江本 響、右が上杉 千歳だ」

「よろしくな」

「どうも」

「はあ……とにかく、後は残りの中国の代表だけだな。時間まであと少しあるし待たせてもらおう」

 榛名2尉が2人の挨拶にため息をつきつつ席に座りました。私はとりあえず来ている人の分だけお茶の用意をします。
 5分後、時間ピッタリに会議室の扉が開いて二人の女性が入ってきました。一人は茶色いショートカット、痩せ型でタレ目の女性、もう一人は横髪だけがストレートに胸のあたりまで伸びて後ろは肩にかかるか短いという黒髪のボブショートを持った切れ目の女性。
 どちらも中国人民解放軍空軍の青い軍服を纏っています。

「時間にはピッタリですよね~、ワタクシ中華人民共和国国家代表を務めています(ファ) 曼玉(マンユー)と申します~。よろしくお願いします~」

 前にいたタレ目の女性、華代表がそう言って敬礼しましたが……なんでしょう、のほほんさんと同じような雰囲気を感じるこののんびりした空気は……

「同国代表候補生、() 紅花(ホンファ)と申します。」

 後ろにいる切れ目の女性の方が候補生なのですか。てっきり逆かと思っていました。

「で、ではそちらにお座りください」

「では失礼致しますね~。あら、榛名さんではありませんか。演習ではお見事でしたわ~」

「恐縮です。華国家代表」

 華代表が榛名代表にやんわりと挨拶をします。そういえばどちらも先の演習に参加したんでしたね。近隣諸国ですし国家代表同士はある程度面識もあるようです。

「えと、では始めさせて頂きます」

さて、ここからは私の出番ですね。
と言っても昨日より国家代表は少ないので緊張は昨日よりはしませんね。あまりどもらないし、噛みません。
 質問も大体自分の国で使えるか、とか改造するならいくらかかる、とかですし昨日の段階で準備できるものはしてきたのでスムーズに答えていけます。鈴さんは元々緊張するような間柄でもありませんし無問題です。

「ふむ。実に分かりやすいな。時にカスト候補生。少しいいかな?」

 無事に『スカイ・ルーラー』と『ディープ・ブルー』の説明を終えたときに榛名2尉が話を変えるように口を開きました。

「なんでしょうか榛名2尉。何か疑問点でも?」

「いや、少し聞きたいのだが……『キム・クイ』について」

「ああ~、それはワタクシも聞きたいですね~」

「う………」

 『キム・クイ』
 グエン・ティ・ホア少尉の専用機で元ベトナム所属の第3世代ISです。そして現在は赤道連合ジャクソン社所属のIS。
 その特筆するのは『水中専用IS』ということです。私たちが使っているのは水中戦特化パッケージ。IS自体を水中専用にしたものではありません。しかしホア少尉の『キム・クイ』はPICを外向きに備えたF.P.C、正式名称『Fluid Pressure Canceller』を搭載し水圧を相殺することで、理論上は無限の潜航を可能としています。
 島国の日本としては国防の要、隣国の中国としても備えとして是非とも欲しい情報でしょう。
 しかしベトナムは現在赤道連合に加盟を宣言はしましたがまだ仮の段階で、ジャクソン社への所属も現在国と同じく仮の状態です。
 そのせいで私たちの方にもまだ情報が伝わりきっていないと言うか……正直に言ってしまえば全容は分かっていないんですよね
 でも両国から見ればホア少尉は赤道連合の『ハーバーブリッジ』に所属していますし、出撃も同艦からでした。

「そ、それについてはですね……えーっと……」

 私もそんなこと聞かれるとは思ってもいなかったものですからモチロン資料なんて準備もしていません。知識もありません。こういう時は下手に誤魔化すと悪化しますし素直に頭を下げましょう。

「すいません。私は専門外なので開発局の方でお願いします……」

「うん? そうなのか。なら仕方ないな」

「自分の勢力のISも知らないのか?」

「う……申し訳ありません」

 江本候補生の言葉に私は謝るしかありません。

「響、ベトナムは参加表明しただけ」

「あ、そうか」

「まだ正式に参加したわけじゃない」

「ゴメンゴメン、すっかり忘れてたよ。すまな痛ったい!」

「あ……」

 江本候補生の頭にいつの間に回りこんだのか後ろにいた榛名2尉の拳骨が落とされました。
 正面にいた私ですらいつ移動したのかわかりませんでした。流石国家代表……

「この馬鹿どもがすまないな。言葉遣いを何とかせんか!」

「す、すいませんでした」

「ごめんなさい」

「い、いえ。こちらとしても堅苦しいと緊張しますので……」

「そう言ってもらえると助かる。では続きを……」

 クキュルルルル~……

 え、何? 今の可愛い音。

「………」

「上杉……お前……」 

「ごめんなさ」

 キュルルルルル~……

 も、もしかしてお腹の音だったり?

「あれ、上杉ってさっきも何か食べてなかったっけ?」

「大丈夫」

 そう言って上杉候補生はポケットに手を入れると拳大の何かの包みを取り出して開け始めました。あれ、あの包みって前にクロエが持ってきた。

「屋台で売ってた」

 包みを空けた中身はやっぱりミートパイでした。え、ずっとポケットに入れてったんですか? その大きさを?
 そして上杉候補生はそのミートパイを両手に持って口に……

「止めんか馬鹿が!」

「ぐふ……」

 これまたいつの間に回りこんだのか榛名2尉が上杉候補生の後ろから拳骨を落としました。それでもミートパイを落とさないところを見ると物凄い執念です。

「終わってからにしろ!」

「な、何かカオスね……」

 鈴さんの呟きが聞こえます。全く持ってその通りです。EU勢の方は国家代表がすごくて、アジア勢は候補生がすごいです。両方とも普通って言うのはないんですか……あ、もちろん鈴さんはここまで濃くはありませんけど。
 そんな3人を見ていると上杉さんが私の視線に気付いたのか……何故かミートパイを半分に割って差し出してきました。

「食べる?」

「没収!」

「あー……うー……」

 その差し出されたミートパイごと榛名2尉が取り上げました。やっぱり速い。上杉候補生は手をバタバタさせながらも無駄と分かったのか諦めて大人しくなりましたが……

 クギュルルルルル~……

 お腹の方はやっぱり大人しくなりませんよね。

「連れて来ないほうが良かった……」

 榛名2尉が眉間に皺を寄せて右手で頭が痛そうにこめかみを押さえます。

「あらあら、面白いわね日本の代表と候補生は。ワタクシたちも同じことをしましょうか鈴ちゃ~ん」

「や、やめてください華代表!」

 そういう声の方を向くと華代表が鈴さんにべったりと抱きついていました。
 え、なにこの状況……

「んー、スベスベ~! やっぱり鈴ちゃんはワタクシのものですね!」

「ちょ、とにかく一回離れてくださいってば!」

「華代表、それくらいにしてください」

 私がどうしたらいいかオロオロしていると見かねたのか李候補生が二人の間に割って入りました。
 ブレーキ役みたいな感じなのでしょうか? 何にしてもこれで進められそう……

「あらあら、紅ちゃんも混ざる―? 紅ちゃん寂しがりだもんね~」

「な……そんなことはありません!」

「無理しないでもいいのよ~、ほら、ぎゅー」

「むう!」

 華代表が今度は李候補生を抱きしめました。鈴さんは今の内とばかりに距離を取ります。李候補生はしばらく苦しそうに華代表の肩辺りを押していましたが、その内本気で離れる気がなくなったのか成されるがままになっていました。

……えーと、これ続きに入っても良いんでしょうか?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どうぞ、こちらです」

「は、はい……ありがとうございます」

 アジア勢への説明が終わって予定日から5日後の8月22日、私は米国の空母『ジョージ・ワシントンⅡ』へ乗艦を許されました。
 何でもアメリカ勢は全員が空母から離れられない状況だそうで……国家代表はイーリス・コーリング中佐のみしか来ていないこともあり場を離れられないそうです。ようやく時間が取れた時には今日だったと、そういうことです。
 まあそんなことで私は説明のためにこの空母へと案内されたわけです。今回は付き添いで黒スーツを着た金髪の優男、アーネスト・スミスさん……IS学園に行く時に一緒にいてくれた政府IS関連の第1人者さんが付いて来てくれています。

「そんな緊張しなくても大丈夫。場所が違うだけさ」

「はい……頑張ります。でもスミスさん? 貴方が説明した方が……」

「はは、IS操縦者は全員女性だろ? 男のボクの言葉じゃ通じないこともあるのさ」

 スミスさんが苦笑いをしながら私を励ますように肩をポンポンと叩いてくれます。
 前を歩く軍人さんがブリーフィングルームに案内してくれました。

「基本的にボクは見てることしか出来ない。何か分からないことがあったらボクに振ってくれ。その時だけ答える。いいね?」

「はい、大丈夫です」

「うん、流石ゼヴィアさんの子供だ……おっと、これは失礼。強いのは君自身だったね」

「いえ、私も父さんの娘として恥じないよう行動します」

 スミスさんにそう答えて私はブリーフィングルームの扉に一歩、足を踏み出します。圧縮空気の抜ける音と共に扉が開いて中に入ると、薄暗い部屋の中には1人の女性と1人の少女がいました。
 えと、データだと正面に座ってるのは……国家代表のイーリス・コーリング中佐で、もう一人の金髪の女の子は……確かソフィア・エクレス代表候補生ですね。演習で暴れていたエリス・ジャクソン候補生とリーゼ・ノーム候補生はいないようです。

「どうぞ、お座りください」

「ありがとうございます」

 エクレス候補生に促されて近くにあった椅子に座ります。スミスさんは……私の後ろの壁際に移動して立ちます。エクレス候補生がスミスさんにも椅子を勧めましたが丁重に断りました。

「時間がもったいない。さっさと始めてくれ」

「は、はい! ではまずこちらの資料をどうぞ!」

 コーリング中佐の声は明らかに苛立っています。な、何でなんでしょう? 別に時間に遅れてないよねえ。
 ちらっと時間を確認するけどうん、5分前だし挨拶もミスしてないよね。じゃあ何でこんな不機嫌?
 そんなことを気にしながらも私は説明を続ける。

 トントントン……

 ん? なにこの音?

 タンタンタン……

 何か叩くような音?なんかコーリング中佐辺りから聞こえる。

 タンタタントトタンタン……

 コーリング中佐……足でリズム刻んでらっしゃるー!?
 え、ちょ、結構というよりかなり真面目な話してるんですけど! え、え!? こんなの想定してないよ! 私の話つまらないかなあ! でもこんなの興味ない人にはつまらない話しだし……え!? コーリング中佐IS関連の話でつまらないってことですか!?

「ふあ……」

 あ、欠伸ー!?
 も、もう私続ける自信なくなってきた……結構終盤で後は結論だけだけど

「コーリング中佐」

「んー? 何だソフィア。話を中断するほどの話か?」

 そう思った時エクレス候補生がコーリング中佐に話かけました。

「既に話は終盤……ですよね?」

「え、あ……はい。そうです」

 エクレス候補生の言葉に私は頷いて答えます。

「らしいのでまとめは私が聞いておきます。中佐は部隊の指揮の方へお願いします」

「上官に意見するとは良い身分だな。え? ソフィア・エクレス少尉」

「申し訳ありません。しかしこの程度なら中佐のお手を煩わせることもないかと」

「……なら任せる。そういうわけだカルラ・カスト代表候補生。こちらも忙しいのでな。後はこっちのソフィア少尉に伝えてくれないか」

「え、ええ。分かりました」

 コーリング中佐は私に軽く頭を下げるとそのまま部屋を出て行きました。
 えーっと……うーんと……

「申し訳ありません。コーリング中佐は気分屋なところがありまして…」

「は、はあ」

 エクレス候補生は私とスミスさんに深々と頭を下げてきました。あの、えと……

「とりあえず再開しても?」

「はい、よろしくお願いします」

 その後はエクレス候補生に残りの資料の説明と質問事項を答えて終了となりました。
 エクレス候補生も終わった途端に艦内放送で呼ばれてしまいましたし、忙しいことこの上ありません。

「はは、随分個性的な国家代表だったね」

「良くも悪くも他の国もとても個性的な人たちでしたよ。何かこの何日かものすごい疲れました」

「まあこれで終わりさ。お疲れ様。カスト候補生殿」

 私とスミスさんは『ジョージ・ワシントンⅡ』の甲板で迎えを待っているところです。時間まで後5分。
 甲板にはIS以外にもオーストラリアでも配備されている最新鋭艦上機F-35CやF/A-18の他に米軍の第2世代IS『アラクネ』が発進準備をしています。ケーブルや周りにコンテナも置いてあって色々試しているみたいですね。うん? 専用機じゃない?

「装備変更に何時まで掛かってんだ! 船ごと沈める気かてめえ!」

 その『アラクネ』の向こう側からコーリング中佐が怒鳴り声と共に現れました。

「ふむ、忙しいと言うのは本当だったみたいだね」

「アメリカの国家代表はコーリング中佐のみという話ですし……」

「さっさと出ろおら! それか私が叩き落すぞ!」

「うーん、恐い恐い」

「あ、あはははは……」

 コーリング中佐はISのお尻の部分を文字通り蹴っ飛ばして発進を促しています。なんという男勝りな……
 蹴飛ばされたISを纏った少女は焦りながらも装備を変更して大空へと飛び出しました。

「来たようですよ。カスト候補生」 

 それを待っていたかのように私とスミスさんの上に影が出来、大きなヘリコプター特有のローター音が響き渡る。でも分類はヘリでなくティルトローター機。ティルトローター方式の垂直離着陸機、V-22。通称『オスプレイ』。

 少し前はその操縦性の難しさから慣れない操縦で事故が多発していましたが、その後かなりの割合で普及したため豪州でも採用された機体です。
 左右に大型のプロペラのついた『オスプレイ』が徐々に高度を下げ、アングル度フライトデッキに降り立ちます。
 『オスプレイ』の後部ハッチが開くとスミスさんが中にいた人に手を引っ張られて先に乗り……

「さ、どうぞお姫様」

「あ、ありがとうございます」

 その後に手を出してくれたので私はその手をとって乗り込みます。中にはそれぞれ小銃で武装した5人の軍人さん。どうやら何かあったときの護衛みたいです。何かあったらこの人数じゃどうしようもないですけどね。
 少しの振動と共に甲板から『オスプレイ』が飛び立ち空へと上昇していきます。窓からそとの様子を見ると……流石世界最大級の空母。大きいですね。

「うん?」

「え、どうかしましたか?」

「ああ、いや。電話だよ」

 スミスさんが胸ポケットから振動している携帯電話を取り出してインカムを繋いで話し始めます。ヘリの中って案外うるさいですからね。

「はい……ええ……ええ……こちらは無事に……え? は、はあ。はい!?」

 スミスさんの声が急に荒立ちました。そのまま何度か頷くと深刻な表情で電話を切りました。
 い、一体何があったんでしょう。でもこういう時は機密ってこともありますしあまり聞けないんですよね……

「カスト候補生」

「はい?」

「イギリスのヴィクトリア・ウィンザー第1王女が急遽帰国を決めたそうだ」

「はい!?」

「理由は不明だが、何か嫌な予感がするから君に知らせてくれと、ゼヴィアさんからだ」

 た、確かにこういう急な何かがある時は私も嫌な予感がしますが……
 でもウィンザー様が帰国って、余程のことがない限り最後まで物事には付き合う人だと思ってましたけど、一体何が……そこまで重要な何かがイギリスで起こったんでしょうか?

 夏の終わりまで後一週間だと言うのに、空は暗雲とそれを分けるように綺麗な日差しが降り注いでいて海に暗い部分と明るい部分を作り出しています。変な空、ですね。


――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――


8月22日、英国カーニングスビー空軍基地。
 国内でもタイフーン戦闘機を運用する第3、第11飛行隊や、 第121遠征航空団の本拠地であり、ISが実戦配備されてからもISと共同で防空任務を務めている現役の空軍基地だ。
 当然詰めているのはIS操縦者も含めて防空と言う任務の特性上精鋭が配備されている。

 その基地が大きなサイレンで緊急事態を伝えていた。

 極秘に極秘を重ね作られた地下のIS開発工房。防空任務ということで多くの人を自然に増員できるここは正に絶好の隠れ蓑……だったはずだった。それが今、襲撃を受けていた。

「おい……」

「…………」

 それも………

「おいっつってんだろM(エム)!」

「うるさい、オータム」

 たった一機のISと小さな少女によって……
 短い短髪に黒い瞳、誰が見てもアジア人のM(エム)と呼ばれた少女がIS『アラクネ』を纏った鮮やかな黒い長髪の女性、オータムにぶっきらぼうに答える。
 彼女達がいるのはIS開発室の最下層。そこにあるのは英国第3世代最新鋭IS……

「そいつが今回のターゲットか?」

「見れば分かるだろ」

 オータムの言葉に答えるのも鬱陶しそうに言葉を発したMがISに触れるとISが光を発する。

「ちっ、生意気なガキが。スコールの頼みじゃなきゃ誰がお前なんかのお守りするかよ」

「こっちも頼んでない」

 Mが待機状態となったISを左手に握りこんだ。

「さっさと脱出するぜ。もう用はねえんだ」

「ふん」

「ぐ……あ……」

 その時、2人の足元で苦痛の声が漏れた。警備に当たっていた屈強な男が今は血まみれになって床に転がっている。それも一人ではない。十数名以上だ。しかし誰も死んではいない。部屋のどこからも苦痛の声が響いている。
 そんな中、意識のあった一人が声を発する

「貴様ら……一体………ぐあああああああ!」

 その男の台詞も途中で悲鳴に変わった。男の左腕には『アラクネ』の装甲脚の先端が突きたてられていた。

「はっ! 気持ちよすぎて死んじまいそうってか? 男は挿すことはあっても刺される事はまずねえもんなあ?」

「殺すなよ。そういう命令だ」

「テメエに言われるまでもねえんだよ!」

 オータムは忌々しそうに装甲脚を男から引き抜く。新しい鮮血が装甲脚を彩り、男は痛みで声さえも出ない。
 そんな男を気にすることもなく2人は出口へと向かう。そしてその場に立つものはいなくなり、10分後基地そのものに静寂が戻った。今までの蹂躙劇が幻影(ファントム)だったかのように……
 
 

 
後書き
今回登場したオリジナルキャラクター

中国
(ファ) 曼玉(マンユー)【無間様】
() 紅花(ホンファ)【竜華零様】


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