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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  全てが始まり、終わった場所

『始まりの街』に降り立ったのはほとんど一年ぶりのことだった。

レンは複雑な感慨を覚えながら、転移ゲートを出たところで立ち止まり、広大な広場とその向こうに広がる街並みをぐるりと見渡した。

もちろんここはアインクラッド最大の都市であり、冒険に必要な機能はほかのどの街よりも充実している。物価も安く、宿屋の類も大量に存在し、効率だけを考えるならここをベースタウンにするのがもっとも適している。

だが、レンの知り合いに関して言えば、ハイレベルのプレイヤーで未だに『始まりの街』に留まっている者はいない。

『軍』の専横も理由のひとつだろうが、何よりこの巨大な時計塔広場に立って上空を見上げると、どうしてもあの時のことを思い出さざるを得ないからだ、とレンは思う。

全てが始まり、そして終わったあの瞬間を。










ごくごく普通の一般家庭にレン──小日向 蓮は生まれたらしい。

らしい、と言うのはレンの記憶の中に両親の姿形がないからだ。

両親は、レンの物心がつく前に他界。親戚もいなかったレンの肉親は、兄──小日向 相馬ただ一人となっていた。

当然ながら、当時中学生だった兄と幼稚園児だった蓮がのうのうと生きられるほど、現実は甘くなかった。

まだ払っていなかった家のローン、養育費、食費………。上げたら、キリがない。一応、生活保護も受けていたが、当然そんなもので世の中は渡れない。

兄は、バイトを始めた。

僅かな収入だったが、それでも少し余裕ができた。

兄は高校には行かず、働くと言い出した。これまで大人しく兄のやっていることを諦観していた蓮は、これだけは猛反対した。

結局、兄は折れて高校に進学し、蓮は地元の小学校に言った。

そんな時だった。兄の隠された才能が目覚めたのは。

思えば、兆候はあったと思う。気付いていても、気付いていないふりをしていただけ。兄は幼い頃から、テレビのクイズのバラエティ番組で出される問題を全てこともなげに解き、マジックの種もいとも簡単そうに解いた。

あれはちょうど、蓮が小学校に上がった頃だったと思う。

兄は化学系の雑誌に、なんとなく考え付いた、と言う理論を書いて送ったのだそうだ。なぜそんなことをしたのか、後に訊いてみたら、報酬金額が高かったんだと答えた。

その理論は恐ろしく小難しく、蓮には一文字も解からなかったが、いわく学会をひっくり返すような物だったらしい。

翌々日くらいに、学校の先生みたいな大人が当時住んでいた一軒家に押し寄せてきたことは覚えている。

兄は天才だった。《鬼才》と言っても、差し支えないくらい。

兄は幾つものノーベル賞を取った。授賞式に向かう兄は、精一杯の一張羅を着込みながら、散々言ったものだ。あーメンドクセー、と。本物のノーベルさんが聞いたら怒りそうな言葉だ。

だが、蓮は普通の人間だった。凡才だった。

誰かと話をしようとしても第一声は、ああ、あの《鬼才》の弟か、だった。先生さえも、蓮を一人の人間として見てくれない。

それどころか、蓮の成績が少しでも悪くなると、お前《鬼才》の弟なんだろ?お兄ちゃんに負けずに頑張れよ、だった。

ノーベル賞ばんばん取るような人に、どうやって勝つんだよ。

そう思いながら、蓮は自分と言う人間がどんどん小さくなっていくのを感じていた。兄を恨むつもりはない。兄はただ、持って生まれたものを有効利用しただけだ。

だから、蓮は努力した。何者にも負けないくらい、努力した。

だが、及ばなかった。

凡人は、所詮は凡人。天才の存在する世界のことなど、解るはずもない。

挫折した。堕落した。全てがどうでもよくなった。

それでも周囲は言ってくる。あれがあの《鬼才》の弟だ、と。どこへ行っても、肩書きのように、背後霊のようについて回る。

だから、かもしれない。蓮が、小日向蓮がインターネット世界にどっぷりハマったのは。

誰も、自分のことを知らない世界。

それはまさに、蓮にとっての楽園(ユートピア)だった。自分が小日向相馬の弟ではなく、小日向蓮として存在できる場所。

それはとても心が安らぐ場であった。

だからなのだろうか。兄が買うことになった、このSAOという名の史上初のVRMMORPGに異常な興味をもったのは。

そして、全てが変わってしまった。

あの日、蓮からレンホウへと姿を変え、見知らぬ街、見知らぬ人々の間に降り立ったときの興奮は今でも覚えている。

だがその直後、頭上に降臨した半透明の神によってこの世界の真実の姿が脱出不可能のデスワールドであることを告げられたとき、全てが終わった。

そして、全てが始まった。










感傷を振り払うように頭を一振りすると、レンは手を繋いで横を歩くマイの顔を覗き込んだ。

「マイちゃん、見覚えのある建物とか、ある?」

「うー……」

マイは難しい顔で、広場の周囲に連なる石造りの建築物を眺めていたが、やがて首を振った。

「わかんない……」

「まあ、始まりの街はおそろしく広いからねー」

レンはマイの頭を撫でる。

「あちこち歩いてればそのうち何か思い出すかもね。とりあえず、中央マーケットに行ってみようか」

レンのその結論で、二人は南に見える大通りに向かって歩き始めた。

それにしても──。歩きながら、レンは少々いぶかしい気持ちで改めて広場を見渡した。意外なほど、人が少ない。

始まりの街のゲート広場は、二年前のサーバーオープン時に全プレイヤー約一万人を収容しただけあってとてつもなく広い。

完全な円形の、石畳が敷き詰められた空間の中央には巨大な時計塔がそびえ、その下部に転移ゲートが青く発光している。

塔を取り囲むように、同心円状に細長い花壇が伸び、それに並んで瀟洒な白いベンチがいくつも設置されている。こんな天気のいい午後には一時の憩いを求めるプレイヤーで賑わってもおかしくないのに、見える人影は皆ゲートか広場の出口に向かって移動していくばかりで、立ち止まったりベンチに腰掛けたりしている者はほとんどいない。

上層にある大規模な街では、ゲート広場は常に無数のプレイヤーでごった返している。世間話に花を咲かせたり、パーティーを募集したり、簡単な露店を開いたりと、たむろする人々のせいでまっすぐ歩けないほどなのだが──。

──マーケットのほうに集まってるのかな?

そんなことをぼんやりと予測してみるが、しかし広場から大通りに入り、NPCショップと屋台が建ち並ぶ市場エリアにさしかかっても、相変わらず街は閑散としていた。

やたらと元気のいいNPC商人の呼び込み声が、通りを空しく響き渡っていく。

それでもどうにか、通りの中央に立つ大きな木の下に座り込んだ

男を見つけ、レンは近寄って声をかけてみた。

「ねえ、おじさん」

 妙に真剣な顔で高い梢を見上げている男は、顔を動かさないまま面倒くさそうに口を開いた。

「なんだよ」

「この近くで、尋ね人の窓口になってるような場所、ない?」

その言葉を聞いて、男はようやく視線をレンに向けてきた。遠慮のない目つきでレンの顔をじろじろと眺めまわす。その眼ははっきりとこう言っていた。

ガキがこんなとこで何やってんだ、と。

「なんだ、お前ェよそ者か」

「うん。ちょっと訳あって、この子の保護者を探してるんだけど……」

知らない男が怖かったのだろうか、レンの背後に回り、コートの裾を掴んでいるマイを指し示す。

クラスを察しにくい簡素な布服姿の男は、ちらりとマイを見やると多少目を丸くしたが、すぐにまた視線を頭上の梢へと移した。

「……迷子かよ、珍しいな。……東七区の川べりの教会に、ガキのプレイヤーが一杯集まって住んでるから、行ってみな」

「うん、ありがとう。おじさん」

思いがけず有望そうな情報を得ることができて、レンはぺこりと頭を下げた。物はついでと、更に質問してみることにする。

「ねえ、おじさん知ってる?ここって何でこんなに人がいないの?」

男は渋面を作りながらも、まんざらでもなさそうな口調で答えた。

説明好きなのだろうか?

「人がいない理由? 別にいない訳じゃないぜ。みんな宿屋の部屋に閉じこもってるのさ。昼間は軍の徴税部隊に出くわすかもしれないからな」

「ちょ、ちょうぜい……。それって一体何なの?」

「体のいいカツアゲさ。気をつけろよ、奴等よそ者だからって容赦しないぜ。おっ、一個落ちそうだ……話はこれで終わりだ」

男はそう言って、顔を厳しくする。男の視線を追うと、赤金色に色づいた葉をびっしりと付けている街路樹の葉陰に、深紅の楕円形をした実が成っているのが見て取れた。

おそらくこの男は、あの実が落ちてくるのを待っているのだろう。なんとも暇人な………

それよりも、東七区だったか?そこにとりあえず行ってみるしかないのだろう。










数十分後───

「迷った………」

レンは絶賛迷子中になっていた。当然のことながら、一緒に歩いていたマイも含めて。

「……ねぇレン。これって迷子ってゆーのかもなんだよ」

「……言われなくても解かってます、ハイ」

心が折れそうだった、いろんな意味で。

「うぅ。ホントにここ、どこだよぉ~」

えぇえぇ、自分でも情けないってのは分かってますよ。でも仕方ないじゃん!久々に来たんだし。土地勘ゼロに等しいし。

現在地点が東五区辺りだとは解かっているのだが、そこから目的地である東七区までの道のりが全くと言って言いほど解からない。

人に訊こうと思っても、その人がいない。さっきから探す対象が場所ではなく、人になっているのだが、悲しいくらいに出会うのがNPCだけだった。

「うぅ~………」

きょろきょろ見回していると、天の助けか目の前にプレイヤーの一団が現れた。

先頭には女性。暗青色のショートヘア、黒ぶちの大きなメガネをかけ、簡素な濃紺のプレーンドレスを身にまとい、腰には鞘に収められた小さな短剣。

何やら表情を厳しくして走るその女性の後ろには───

見慣れた男プレイヤーと、女性プレイヤーの姿。

「あっ!おーいキリトにーちゃん、アスナねーちゃあぁぁ──………ってあれ?」

無視された、しっかりと。しかもキリト達の後ろにはぞろぞろとレンと同い年くらいだろうか、少年少女が付いていく。

しかも彼らの表情は皆一様に、穏やかとはお世辞にも言えなかった。

「…………………」

「レン………」

心配そうに見上げてくるマイの頭をひと撫でし、レンはにっこりと笑う。

「マイちゃん、ちょっと我慢してね」

「……うん!」

元気よく頷くマイに、レンはもう答えずマイの小柄な身体をおんぶする。やはり少し重いが、跳べないことはない。

もはや聞き慣れた風を切る音が、耳の中で響いた。 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「今回でようやく僕の過去が明かされたって訳だ」
なべさん「いえす。そんでもすべてじゃないんだけどねー」
レン「はい、そんじゃ、お便り紹介行こっか」
なべさん「はいよ 」
レン「けいすけ.comさんからです。ましろが好きなのかってさ 」
なべさん「いいじゃん」
レン「いいのか 」
なべさん「…………次」
レン「月影さんからのお便りです。なんかヒロインへのフラグの立ち方がぱないって」
なべさん「れ」
レン「れ?」
なべさん「恋愛物なんてわかんねぇんだよおおぉぉおおぉおー!!」
レン「(無視)はい、自作キャラ、感想を送ってきてください」
──To be continued── 
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