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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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3話

ティオ・プラトーは家出してまでやってきた外国のクロスベル自治州で途方に暮れていた。
まだ学校に通う年の子供が一人で外国のクロスベル自治州まで家出してきたのには相応の理由があった。彼女は過去に誘拐された事が原因ですっかり性格が変わってしまっていたのだ。
それは今まで見えなかった空気や導力波の流れ、小さく聞こえなかったはずのものが見えたり聞こえるようになってしまう強い感受性を持ってしまっていたから。
それはただ日常を暮らすだけで子供が受け取る情報量を超えて疲れてしまう。
そしてもっとも大きな負担は人に限らず動物が相手であればどのような感情を抱いているのかがわかってしまうのだ。
ティオは誘拐された出来事が心に暗い影を落とし性格を暗くしていたが、それ以上に分かり過ぎるほど分かってしまう同世代の感情、好意や興味はまだしも悪意までが余さず理解出来てしまい、感情の起伏が少なくどうしても上手く対応出来ず同世代のいる学校では孤立してしまう。
それでも両親はそんなティオに愛情を注いでくれたが、どうしたら良いのかわからない戸惑いが空気を緊張させてしまい、それが続いて次第に両親が疲れていくのがわかってしまうのが辛くて嫌だった。
その息苦しさ、家族に迷惑を掛けるばかりの居場所のなさに帰って来るべきではなかったという自己嫌悪が日増しに強まっていた。そんな自分を支えていたのは、自分を保護し故郷まで送ってくれたクロスベルの刑事が贈ってくれたみっしぃというマスコットキャラクターだった。
その若い刑事の明るさと力強さ、何よりもその真っ直ぐに未来を信じる心に、助け出されたばかりの衰弱したティオは何度も励まされ勇気付けられた。

「安心しろ。お前は幸せになる。もし、そうならなかったらいつでも俺を呼んでくれ。お前を不幸にする原因を俺がぶっ飛ばしてやるからよ!」

故郷まで送ってもらい別れ際に言われたその力強い言葉がずっと心の支えだった。
だから、みっしぃを見て、ふっと何を思ったのかクロスベルまでの列車の切符を買って家出してしまったのだ。
会えればなんとかなる。あの人に会えれば自分がなぜあの事件で一人生き残ってしまったのか、なぜこんな力を得てしまったのか、生きる意味がわかるかも知れない。教えてくれるかも知れない。
根拠は何もなかった。ただ会えばなんとかなると思った。
だが、その若い刑事はその年、殉職していた。

「送り届けてもらって二年で、そんなこと」

警察の受付でその事を知り、能力で見て嘘は言っていないことはわかっていたのにどうしても信じられず、なぜ亡くなったのか聞こうにも撃たれて死んだ迷宮入り事件というだけで僅かに名前を知っている人は異動で捕まらず、遺族に会おうにもすでにクロスベルを去っており、図書館に所蔵されたクロスベルタイムズのバックナンバーから見つけた事件欄でわかる程度の事しか知ることは出来ず、墓地で墓石を確認してその事実を受け止めるしかなかった。
やはりそうなんだ。彼女がもっとも絶望したのは自分が会えば何かが変わると弾んでいた気持ちが恩人が亡くなっていると知った時には全く動じなかった事だ。確認するまではあんなに焦ったのに。
今はもう心に何も感じなくなっていた。
途方に暮れてクロスベルを彷徨っていたティオがみっしぃに目を留めたのはその直後だった。
導力工房の店先でみっしぃのぬいぐるみがエスプスタイン財団の宣伝講習の景品として出されていたのだ。
そういえばみっしぃがクロスベル市で売られているマスコットキャラクターだったことを知って、みっしぃをくれた時の気持ちを思い出してちょっと欲しくなった。
この宣伝は財団が導力器の構造を簡単に説明するためにやっているもので分解された導力器を組み立てるというものだった。

(この導力器(オーブメント)?)

組み立てる前にクオーツから出る導力波が不安定であることに気付いた。

「あの、これ、壊れてますけど」

ティオの指摘に研究員たちは最初は上手く出来ないから文句でも言ったのだろうという感じで見ていたのだが、壊れていないことを見せるために組み立ててみると本当に壊れているとわかると驚いていた。

「なんでわかったの?」

「(結晶回路(クオーツ))が壊れていましたから」

ティオの答えが合っていると知ると研究員たちは今度こそ目を剥いた。
何百回も解体と組み立てを繰り返して結晶回路が傷んでいた。それがわかった事がおかしなことなのだ。
彼らは広報として営業の傍ら市場調査などを行っているが本質的に研究者であり技術者だった。その場で簡単な実験を行い導力波が見えていることを掴むと財団に協力しないかと誘ってきた。
彼ら曰くティオの能力は一種の才能であり導力波が感じられるということは導力器の出力の安定を見極められて新製品の開発に非常に有用な財産であること、財団本部には優秀な子供を集めた学校があり受け入れ先はあると。
彼らの熱意にティオは自分の能力が何かの役に立てるものなのかと心が動き、彼らが本心からティオの力を欲しており嘘がなかったこと、何よりも今更実家に帰るのが嫌だったということもあり、家出している事情を話さすとすぐに対処すると言ってくれその話を受けることにした。
話はトントン拍子に進み、レミフェリア公国の実家には財団の担当者が出向いて両親に事情を説明して、両親も娘が人と違う才能があったとわかると距離を置きたかったのか財団の信用もありあっさり承諾してティオがエプスタイン財団で生活することが決まった。
財団の研究員と本部のあるレマン自治州へ向かう飛行船の中でティオは離れていくクロスベル自治州を見ていた。、

(自分にも生き残った意味が見つかるのでしょうか、あなたに会いに来たクロスベルでこの力を活かせるものに出会えたのも答えをくれたんでしょうか、ガイさん)

この時七耀暦1201年、ティオ・プラトー11歳の旅立ちである。
 
 

 
後書き
クロスベルからレミフェリアってガイの話から列車で2ヶ月掛かるらしくそれを思うと一人で列車に乗ってやってきたティオの家出の凄さがわかったり。
地理やらいろいろわからないので増えてしまったが、ティオの話は大人はロバーツ主任を出せば一発で解決した気もしないでもないけど、この時出会った研究員たちがティオの能力を見て止まっていた導力杖の開発に着手するので面白い出会い。計画自体は前からあったけど企画倒れ寸前で広報に飛ばされていたとか、具体的な話がないだけに作りやすいな。 
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