ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode2 巨大ギルドと風来坊2
『ミスリル』。
現在は、と注釈がつきはするものの、間違いなく最強クラスの金属。その素材で作られた装備品は攻撃力、防御力は最前線でのレアドロップ品…いわゆる「魔剣」に匹敵するレベルの強さを誇る。しかも、それだけではない。この金属、異常に軽いのだ。剣はおろか戦槌でさえ、然程筋力パラメータを上げずとも装備可能である、という完全にチート性能のインゴット(しかしそれでも俺はせいぜい短剣止まり、直剣クラスは装備出来ない。相変わらずの貧弱アバターだ)。ドロップしたものを故買屋に売れば、最前線…恐らく『聖竜連合』あたりが目の色変えて飛びついてくることだろう。
しかし。
「まぁあんなん、狩りで手に入れようってなれば何週間単位かかる仕事だし、なぁ…」
『ミスリル』は特定の敵からのドロップ品でしか確認されておらず、その敵というのが。
「『ミスリルラット』。到底今の私達では数を狩るどころか一匹も倒せません」
「俺だって無理だよ。反則だよ、あの索敵範囲、反応速度と敏捷であんな硬さ。完全な運ゲーだぜ」
別のゲームで言うところの、メタルうんたらの扱いなのだ。そんな奴が落とすアイテムを大量にそろえるなど、考えるだけで発狂してしまいそうだ。一式揃わせるだけでも重労働だというのに、それを『軍』のメンバー分の数となれば一体何個必要か想像もつかない。
そんな激レア金属、当然なにか抜け道…たとえば、それが報酬となるクエストなどの存在を疑うのはゲーマーとして常套手段。だが。
「んー。申し訳ないが、今のところクエストで獲得したことはないな」
「そう、ですか…」
露骨にしょんぼりすんじゃねえよ、最高責任者。もうちょっと毅然としてろよな。
「だが、一個思い当たるクエストが、ないじゃあ、ない」
「本当ですか!?」
ウ・ソ!といいたい衝動に駆られるが、そんなことをしたら横の怖いお姉さんに鞭で打たれかねない。そんな特殊かつ特異な趣味は持ち合わせていない俺としては、それは遠慮したい。キリト?あいつはからかっていいんだよ。
「ああ。こないだ最前線、二十七層で一つのクエストフラグを見つけてよ。『炭鉱の通路開通』っていう恐らく未踏破のクエ。そこの炭鉱の壁の色から察するに、そこで取れる鉱石ってのがミスリルなんじゃないか、って俺は思ってる」
「二十七層、ですか……」
「厳しい、ですね……」
二人の顔が、険しくなる。そりゃそうだろう。二人はきっと、『軍』の精鋭の生き残りから何人かクエスト攻略のための人員を出してくれるつもりだったのだろう。もしかしたら、二人自ら手伝ってくれるつもりだったのかもしれない。
だが、それが最前線の、しかも未踏破クエとなれば、気安く人をよこせるものではない。はっきり言ってしまえば、死ぬかもしれない。ただでさえ恐怖心が内部に燻っているだろうに、危険かどうかすら分からない場所に部下を行かせるのはどう考えたって無理だろう。
「まあ、いいよ。俺一人で。ってぇか、何人もいると邪魔だし」
「……っ」
「そう、ですか。すみません。危険と分かっていながら…」
「いいさ。俺もレベル上がったし、そろそろやってみようと思ってたトコだ。んじゃあ、最終確認。俺が仕入れてくるのは、そのクエストの戦利品、及びクエストの攻略法。で報酬は、……まあ、持ってきたときになんかいいもんくれよな」
二人の顔が、申し訳なさそうに歪む。いや、そんな顔しないでも。そろそろ行くつもりだったのは本当だしな。いい機会だし、金属武器や防具なら俺には必要無い。手に入ったところで故買業者…というか商人クラスか職人クラスかに売るしかない。それなら、ここで『軍』に高く、ついでに恩も合わせて売ってやるのも、悪く無いかな。
(んー…。いくらか前金で貰った方がよかったのか?)
ついでに言えば、俺はこの世界での金銭に執着が疎いと自覚している。今まで……というか現実世界で結構切り詰めてぎりぎりの生活費で生きていたせいか、この世界でもどうしても「飯食ってゆっくり寝れる分の金があればいーや」と思ってしまうのだ。貧乏性、というのか?
そんなどうでもいいことを考えながら、俺はさっさと「黒鉄宮」を後にした。どうにも危機感が足りない俺は、最前線のダンジョンに挑むにしては暢気な足取りで、二十七層主街区、『ロンバール』へと帰り始めた。
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