ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode1 スピード&パワー2
キリトの剣が、最後の一体を斬り飛ばす。
……ん?最後の一体?
気がつくと、広間を埋め尽くさんばかりのゴブリン達が、すっかりしっかり全滅していた。っていうか、明らかに30以上はいたよな? まだ狩り始まって5分も経っていないと思うんだが、あの男、どんだけのペースで狩り続けてやがったんだ?
「第一波、終了か?」
「いや、違うな」
俺の呟きを、耳聡くキリトが捉えて反論する。なんだ、聞き耳スキルでもあげてんのか? そんなもん上げるくらいだったらもっといいスキルあるだろうに。
ちょっとからかってやろうと見たら、キリトの横顔は、マジだった。
目は、真っ直ぐに広間の天井を見つめている。
と、その天井が、砂埃を起こしながら揺れ始めた。地震でも起こったのかといいたくなる振動の中、天井の一部が、ゆっくりとこちらへと…いや、ありゃ、天井じゃない。
「上の階への、隠し階段じゃねえか! この塔、四階までじゃなかったのかよ!?」
「多分お前のやってるクエストがフラグなんだろう。ほら、クエストボスのお出ましだ」
くい、とキリトが顎をしゃくる。隠し階段が地面へと達し、小刻みな揺れが収まった…かと思ったら、今度はガツン、という大きな振動がフロアを揺らしだした。ドスンドスンというそれは、なにか大きなものの…足音。俺が受けた『盗まれた財宝』クエの情報では、「巨大な剣を持った、他とは比べ物にならない大きさのゴブリン」がそれを持っている、ことになっている。
つまり。
「うおお。でけえ」
階段を下って現れたのは、他のゴブリンに比べると一回りも二回りも大きな、褐色の巨人。識別スキルでみられた名称は、「Goblin General」、ゴブリンの将軍、か。軍隊でもないのになんで将軍なんだ、というのは野暮な突っ込みか。レベルは、そこらのMobより5も高い。
とりあえず、ボスであることを示す定冠詞こそ無いものの、それでも中ボスクラスであることは間違いない。装備も他のゴブリンとは比べ物にならないほど揃っていて、褐色の肌を頑丈そうな黒革の鎧で包み、手足には金属製の籠手と具足。そして。
「片手剣、だぞ。よかったな、キリト」
「まだ落とすと決まったわけじゃない。が、期待は出来そうだな」
キリトが、にやりと笑う。
ボスの武器は、右手に握られた巨大な直剣。普通のプレイヤー用のそれと比較するとはるかに長く重厚なそれは、恐らく威力も相当なものに違いない。
キリトがこのクエストに協力してくれた…というか、俺の頼みを聞いてくれたのは、このためだ。街でのクエスト依頼を受けた時に「巨大な剣を持った」という説明があったからには、そのドロップがあるのではないかと考えるのが常識だ。キリトの方は「両手剣だろどうせ」とあまり期待していなかったが、どうやら今回は俺の勘が正しかったらしい。
「周りのMobのポップはないみたいだな。俺も加勢するぜ」
「ああ。ソードスキルに巻き込まれないように気をつけてくれよ」
「もちろん。俺だって死にたかねえよ」
口の端だけで笑うキリトに、こっちも笑い返す。
この男の片手用直剣ソードスキルに巻き込まれれば、俺の紙装甲では一撃とは言わずとも一気にイエローゾーンくらいまではHPを削られるだろう。言われなくたって百も承知だし、向こうもソロとはいえそれくらいの配慮はしてくれるだろう。
戦闘開始の吠え声を上げるボスに、キリトが真正面から突進する。
俺は鍛え上げた敏捷値で一気に敵の背後に周り、そのまま回し蹴りの動作に入る。
赤いフラッシュが生じて、システムによるアシストで体が踊るように動く。
単発『体術』スキル、《ロール・スラッシュ》。
背後からの回し蹴りの一撃が、ゴブリンの鎧の間隙に突き刺さった。
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