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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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プロローグ


 二人の子供が対峙していた。

「ノジコ! またカロヤンのことたたいたらしいな!」
「なによ! そもそもあいつがナミのことをかわいくないっていったのがげんいんでしょ!」

 一人の子供は短い茶髪と黒い瞳が特徴的な、まだまだ幼い男の子。
 それに対するは先ほど男の子からノジコと呼ばれた女の子。ウェーブがかった青い髪が特徴的で、これまた幼い。

 3歳程度だろうか、大人からすれば苦笑して見守ってしまいたくなるほどに可愛らしい二人だが、本人たちは至って真剣。流れる空気だけは険悪そのもの。
 二人の仲は至って悪く、こういった喧嘩は日常茶飯事のため周囲の子供たちはどっちか勝つのかワクワク楽しそうにみている。
 これまでの戦績は5分と5分。

「きょうでけっちゃくをつけてやる!」

 男の子が走り出した。ノジコはどこか大人びた笑みを浮かべて「なにがおかしっ……!?」男の子の姿が突如、声と共に全員の視界から消えた。

「え!? お、おい! ハント!?」
「ど、どこいったんだ!?」

 消えていなくなってしまった男の子の名前を呼ぶ周囲の子供たちに、ノジコは勝ち誇ったように笑う。

「これでまたあたしのかちね!」

 胸を張っていうノジコだが、子供たちにとって今はそれどころじゃないらしい。

「そんなのどうでもいいからハントをどこにやったんだよ!」
「ふふ、どこだとおもう?」

 詰め寄ってきた男の子たちに、ノジコはまだ3歳とは思えないほどに大人びた、もといあくどい笑みを浮かべた。その様子がまだまだ子供の男の子たちにとっては恐怖でしかなくて「ひ」とあとずさる。

「あんたたちもけしてあげようかぁ~?」

 ずずいと近づいてくるその姿に、彼らは悲鳴をあげて逃げ出していた。

「ふふん、これですこしはヤロウどももおとなしなるわね!」

 満足そうに振り返った視線の先に、彼女を見守っていたはずの女の子たちはもういなかった。先ほどのノジコの脅しがそれほどにこわかったのだろう。

「……ちとやりすぎたかしら?」

 全くもって反省した様子すらもなく、ノジコは頭をぽりぽりとかいて、自分の目の前にある落とし穴の底に声をかけた。

「おーい、ハント。だいじょうぶ~?」
「……ど、どうにか」
「おてて、かそうか?」
「いや、これぐらいなら……なんとか」

 ハントがよじ登って落とし穴から脱出する。

「えらいめにあった」

 自分が落ちた落とし穴を見つめながらハントが呟き、それを聞いたノジコは笑う。

「これでまたわたしのかちね!」
「……ちぇっ」

 悔しそうにソッポを向く。文句を言い出さないということはハント自身負けを認めているということだろう。

「まったく、おとしあなにひっかかるなんて……ハントのお父さんがきいたらないちゃうんじゃない?」

 ハントの父はこの近辺では一番の狩人として名高い。様々な獲物を様々な手法で毎日のように持ち帰る。ハントもそういう父をもって誇らしい気持ちがあるらしく、ほんの少しだけ恥ずかしそうにするが、すぐに元気に言い返す。

「うるさいな、かりはお父さんにいつかならうから、それまでのことだい!」
「じゃああたしはもっとずるいことをかんがないと」
「ふん、つぎはおれがかつけどな!」
「ハイハイ……それよりもナミのとこ行こうよ」
「お、行く行く!」
「こないだあたしの手にぎってくれたんだから!」
「え、うそ、おれまだだ!」
「へへーん」
「むうう」

 楽しそうに駆けるノジコの後姿を、ハントが追う。
 まるで先ほどまでの喧嘩の姿は二人の仮の姿ではないかと思えるほどに仲の良い姿だ。大人たちはこれを知っているからこそ二人の喧嘩を止めないのかもしれない。 

 ――これが、ずっと続くと思ってた。




 未だに思い出す。
 楽しかった俺の記憶だ。
 そう、俺が唯一覚えているあの頃の楽しかった記憶だった。

 のどかな場所だった。
 どう、と聞かれてもよくわからない、というかあまり覚えていない。
 そう思うにはまだは子供過ぎたから。

 でも、あれは確かにのどかった。
 青い空、白い雲、心地よく吹き抜ける潮風。
 生い茂る木々、咲き誇る花々、一面に広がる緑畑。
 面白い父さん、優しい母さんと毎日を過ごし、近所の友人たちと日が暮れるまで遊ぶ。

 のどかで、何よりも幸せだった。
 いつものようにおぼろげに父さんを見送って、いつものように昼ごはんを食べて、いつものようにウトウトして。
 いつしか俺も父さんのように森とか海に行って自然の幸とかを取れるようになるんだろうかとか漠然と思いながら。
 ノジコに負けないようになりたいなとか、ナミってそういえば性別どっちなんだろうかとか思いながら
 だけど、ある日、それは突然瓦解した。

 地が震えるほどの爆音。
 耳をつんざく誰かの悲鳴。
 母さんに手を握られて外を出る。突如、母さんが倒れた。胸から血が溢れている。ピクリとも動かない。
 父さんが泡を喰ったように帰ってきた。俺を抱きしめて、また父さんも動かなくなった。背中から血が漏れていた。

「え?」

 訳がわからなくてぼけっとしていると今度は家が燃え出した。
 熱い。
 熱かった。
 早くこの場所から出て行きたかったけど、父さんと母さんが動いてくれなかったから、俺も動けずにいた。
 放っておけば父さんと母さんまでも燃えてしまうんじゃないだろうかって、考えたんだろう。

「おとうさん、おかあさんも。はやくここから動かないと!」

 二人を引っ張るけど、動いてはくれない。
 いや、父さんが動いた。

「逃げ……まも……生き」

 なにをいったのかほとんどわからない……だけどそれっきり父さんはまた動かなくなってしまった。
 何が起こったのかわからない、だけど恐かった。
 何が起こっているのかわからない、だから泣けなかった。
 黒い煙に覆われてしまった空を見上げて、もう、そこから先は覚えていない。
 多分、煙にやられたんだろう。

「……あれ?」

 気付けば地面で寝ていた自分に首を傾げて、立ち上がったときには本当に全てが終わっていた。
 流れる赤い川。立ち上る黒煙。すすけた廃墟。動かない父さんに母さん。
 なんだろう、これは、夢だろうか。
 頬をつねってみた。

「……いたい」

 夢じゃない?

「おとうさん? おかあさん?」

 返事がない。
 なにもない。
 誰もいない。

「え……え?」

 訳がわからなくて、意味がわからなくて人を探す。
 頬を流れそうになる雫をどうにか拭いながら、走る。
 なんだよ、これ。
 なんなんだよ、これ。
 さっきまで笑っていた母さんはどこだろう。
 いつものように面白い父さんはどこにいるんだろう。
 考えれば考えるほどに、なにかがこみ上げてくる。

「そういえば、ノジコは? ……ナミは? それにみんなは?」

 走ろうとして「キャハハハ」
 聞えた。
 これは多分ナミの笑い声だ。
 無邪気で暖かい笑い声。
 ホッとして、つられるように笑い出しそうになって声のした方へと顔を出した。
 そこにはナミとそれを抱えるノジコ、それにボロボロの海兵さんがいた。 

「妹?」
「ううん」
「笑ってる、人の気も知らないでさ」
「キャハハ」
「えはは」

 海兵さんノジコも笑いながら泣いている。
 ナミの笑い声が響いて、俺の耳にも届いて。なぜだろう、俺も笑っていた。

「ハハハ」


 こぼれる雫が止まらない。海兵さんたちが驚いたように俺のほうに目を送ったけど、人の目なんかを気にしていられなかった。
 ただ、ナミの笑い声が胸に響いて。

「ハハハっ」

 涙を止められそうになかった。




「あんたたち、私と一緒にきなさい」

 それがベルメールさんと俺たちの出会い。

 
 

 
後書き
冒頭にもあるようにオリ主×ロビンものを読んだ影響で書いてみたくなった作品。
確たる理由もないので短いです。

どうでもいい補足

カロヤン:超脇キャラ。本名こそカロヤンなのだが、誰もそれを本名とは思っておらずあだ名として呼んでいる。本人も自分の本名をたまに聞いて自分で驚くぐらい。

 
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