万華鏡
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第十八話 プールその十四
「ナイフとか持ってることも考えられるし」
「危険なのは確かだろ」
「言われてみれば」
「だから。女の子一人で海に行くのは危ないのよ」
「あたしも一人だと行かないさ」
これが二人の返答だった。
「それ琴乃ちゃんも注意してね
「そもそも女の子一人で出るのは危ないんだよ」
「それはわかってるつもりだけれど」
あらためて認識した琴乃だった。
「海は特になのね」
「だから水着は下着と同じよ」
景子は琴乃にもこのことを話した。
「それで出てたらわかるでしょ」
「そう言われるとね」
「そういうこと、だから水着を着るのはいいけれど」
「一人では絶対になのね」
「出ないことよ」
本当にそうしないと危険だというのだ。
「気をつけてね」
「そうね。じゃあ五人で」
「二人よりも三人で」
彩夏も言う。
「三人よりも四人、そして」
「五人一緒だと尚いいからさ」
笑って言う美優だった。
「それでいこうな」
「うん、そういえば最近町で変な事件も起こってるし」
琴乃は眉を曇らせて暗い口調で述べた。
「ヤクザ屋さんの事務所が次々と襲撃受けてるわよね」
「ああ、あの話だよな」
美優も眉を顰めさせて応える。
「何か凄い殺し方らしいな」
「異端審問みたいっていうけれど」
キリスト教の歴史に残る悪名高きそれの様だというのだ。
「もう殺すのを楽しんでるみたいな無茶苦茶な殺し方だって」
「首刎ねるとかいうレベルじゃないっていうよな」
「あれよね。お腹切ってそこから内臓取り出したり」
これは巷で噂になっている、その暴力団関係者を相手にした謎の猟奇連続殺人事件のことは警察が緘口令を敷いていても出て来ているのだ。
「手足を砕いたり切ったり」
「目をくり抜いたり耳を削いだりだろ」
「皮も剥ぐっていうけれど」
「人間なのかよ」
美優はその行いについてこうまで言った。
「人間がやったのかね、それって」
「わからないわよね」
「化け物か?」
美優は腕を組み真剣に考えだした。
「それがやったのかよ」
「少なくとも人間的じゃないよね」
「ああ、人間だとしてもな」
どうかと、美優は言った。
「いかれてるよな」
「サイコ殺人っていうのよ」
里香はコーラをスローで飲んでいる。
「そうした殺人ってね」
「サイコ?」
「酒鬼薔薇っていたじゃない」
五人がいる神戸に出たあの猟奇雑人の犯人である少年だ。
「あれとかね」
「ああ、あいつね」
「あのおかしなのでしょ」
四人もすぐに顔を顰めさせて応える。
「あれは確かに酷いわね」
「まだ生きてるみたいだし」
「生きてるわよ」
実際にそうだと答える里香だった。
「それで世に出ているから」
「確かあれだよな」
美優は深刻な顔でこの事件のことも話した。
「あの埼玉の」
「あのコンクリートの?」
「それ?」
「あの犯人連中もまだ生きてるんだよな、確か」
「普通に全員出所したわよ」
里香はこのことも知っていた。
「そうしてね」
「世の中にいるんだよな」
「そうよ、実名も住所もわかってるから」
ネットで出る、このことは幸いであろう。
「気をつけてね、全員全く反省していないみたいだから」
「それっておかしくない?」
彩夏は顔を曇らせて深刻な顔で言った。
「あの事件のことも酒鬼薔薇のことも聞いたけれど」
「死刑だっていうのね」
「普通はそうなるでしょ」
彩夏はこう里香に言った。
「あくまで普通は、だけれど」
「私もそう思うけれど」
里香もそれはだと返す。
「そんなことをした人達は普通に死刑にならないと」
「世の中に出てたら怖いわよ」
また何をするかわからないというのだ。尚そうしたおぞましい事件を犯す輩は繰り返すことが多いのも事実だ。
「本当にね」
「そうよね。まあそんなのは流石にね」
「そうそういないわよね」
「ええ、殆どね」
里香は安心させる、自分も含めてそうさせる為か穏やかな顔で彩夏達に言った。
「いないから」
「だといいけれどね」
「安心していいと思うわ。それで海はね」
「五人でいつも一緒にね」
琴乃は今は真剣に、安全を考えて言った。
「いようね」
「そうしようね」
こう話すのだった、そしてだった。
琴乃は最後に四人にこう言ったのだった。
「じゃあ今度の日曜ね」
「ええ、水着とかを持って」
「それで行こうな」
里香と彩夏が応える、景子と彩夏も頷く。
そうしてそのうえで日曜のことを約束した、季節はまだ梅雨だがそれでもその日のことを約束したのだた。
第十八話 完
2012・12・21
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