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戦国異伝

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第百十四話 幕臣への俸禄その二

 それで深刻な顔になり細川にこう述べた。
「あの肩は静かな方ではありませぬ」
「そうです、そして誇り高い方です」
 将軍家に生まれたことから元々そうだったがさらにだというのだ。
「ですから」
「どうしてもですな」
「はい、ご自身の今の状況に反感を持たれ」
 そしてだというのだ。
「非常に危険なことをされるかと」
「まさか武力を用いられる」
 和田はその危険なことは何かと考えまずはこれを挙げた。
「それでしょうか」
「それだと思われますか」
「はい、危険となりますと」
「そうですな」
 細川は和田のその危惧をまずは否定しなかった。そのうえでこう述べた。
「この場合は謀反人、いや増長している奸臣を討つということになりましょうか」
「織田殿が奸臣でありますか」
「この場合はそうではないかと」
「いえ、しかし織田殿は」
 信長は己が幕臣になった覚えはない。だが義昭は武家の者ならば誰もが将軍である己の家臣だと思っているのだ。
 ここに大きな齟齬があった。しかもだった。
「誰の家臣でもありませぬ」
「天下人は一の人にございます」
 このことは何があろうと変わらない。
「第一の方でございますから」
「後は帝だけですな」
 信長の上にあるとすれば朝廷だけだった。
「その他には最早」
「幕府に最早力はありませぬ」
 細川はこのことはよく把握していた、最早室町幕府には何の力も残されてはいないのだ。
 細川はこのことをよく認識している、だがだった。
「公方様はどうしてもおわかりになられませぬ」
「このことだけは」
「今の幕府は御輿です」
 それに過ぎないというのだ。
「御輿は担がれるだけのものです」
「担がれない御輿は意味がありませぬな」
「はい、何も」
 まさに何一つとしてだった。
「その様な御輿は」
「将軍家の力は嘉吉の変で大きく落ち」 
 六代将軍足利義教だ。あまりにも酷薄で暴虐であり天下万民に恐れられた。そして粛清されることを恐れた赤松氏に殺されたのだ。 
 このことで幕府の権威は大きく揺らいだ。、そしてそれに加えてだったのだ。
「応仁の乱で治める国は山城だけになりました」
「しかしその山城も」
「はい」
「あの松永と三人衆により、でしたな」
「殺されております」
 その松永が織田家にいることに奇妙な縁があった。
「そしてあのことで」
「最早幕府は」
「山城一国も治められないまでになりました」
 普通の大名なぞよりもさらに弱くなったというのだ。
「最早その幕府は」
「まことに御輿でしかありませんな」
「その幕府が織田殿とことを構える」
 それこそはだった。
「死ぬ様なものでございます」
「織田殿には十九万の兵がありますな」
「石高は七百六十万石です」
「やはり天下第一の方になられていますな」
「その織田殿とことを構えるとなると」
 細川は飲みながら和田に話す。
「それはできませぬ」
「今の幕府では」
「織田殿は公方様に危害は加えられませぬ」
 これはもう細川も確信している。
「決して」
「そうですな。織田殿は落ちおりお気持ちを強く出されますが」
「それでもです」
「それで終わりですな」
「そうそう武力を用いられぬ方です」
「それでも、でございますか」
「公方様は蜂起されるやも知れませぬ」
 まだにそうなるやもだというのだ。細川も述べる。
「ですがそれは」
「確実に敗れますな」
「事前に何があるのか見ることです」
「そうですな」
 和田も細川のその言葉に頷く。
「公方様のお動きを」
「武よりも文ではないでしょうか」 
 細川は危険について蜂起やそうしたものだけではないのではないかと考えた、そしてこう和田に対して言ったのだ。
「それでは」
「文が危ういと」
「はい、文字の力はかなりです」
 そうだというのだ。 
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