至誠一貫
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第二部
第三章 ~群雄割拠~
百六 ~白蓮の決断~
前書き
何か降りてきまして、気づいたらこんな内容に。
たぶんギリギリR-15に収まっている筈ですが……。
2017/8/20 改訂、感想欄でご指摘いただいた箇所も見直しました。
戦が終わり、早一ヶ月が過ぎた。
私と月のみならず、白蓮と雪蓮も未だ洛陽に留まっている。
戦後処理が終わらぬというよりも、担うべき者がおらぬ事が原因だ。
まず、陛下は退位を決意され、杜若(劉協)が新たな皇帝の座についた。
本来ならば、これも古来からの仕来りに則って式典を執り行う必要があるらしい。
だが、今の朝廷はほぼ無人状態だった。
十常侍とそれに与した者らが処分された事もあるが、混乱の最中に洛陽を逃げ出した者も少なくない。
「何故、彼らは戻らぬのじゃ?」
新たな陛下に、何度溜息混じりで問われたかわからぬ。
御自ら復帰を促す文を近隣に回したが、効果は芳しくない。
無論、残っている者や復帰に応じた者が皆無ではないのだが……。
「政務を行うには人手が足りなさすぎますね」
「それに、末端の者ばかりではどうにもなりません」
「予想以上に深刻ね」
朱里や禀、詠と選りすぐりの軍師らが知恵を絞ってみても妙案が出ぬらしい。
「でもお兄さん。愛里(徐庶)ちゃんからは早めのご帰還をと言ってきてますねー」
「うむ。桜花(士燮)や山吹(糜竺)らが奮闘してはいるが」
黄巾党と偽勅令の一件で、漢王朝の権威失墜が天下に遍く露呈してしまった。
新たな陛下がいくら建て直しを図ろうとも、もう諸侯はその指示に従おうとはすまい。
いや、諸侯だけではない。
こうして官吏や兵ですら、朝廷を見限ったとばかりの態度を隠そうともしない。
冀州やエン州に逃げた庶人らもまた然りで、司隷一帯は完全に活気を失っている。
そして、その事は異民族をも刺激してしまっていた。
北方では匈奴が侵入し、国境付近を荒らし回っている。
白蓮が此所に残ったままなのも、それが原因だ。
本拠地である北平も攻撃を受け、守備を任されていた者は既に冀州へと逃れたらしい。
「自分が情けないよ。帰るところがなくなっちゃうんだからな」
白蓮が、自嘲気味にそう知らせてきた。
奪還に向かうのかを尋ねたが、白蓮はただ頭を振るばかり。
「所詮、私は州牧として相応しくないって事だ。例え幽州を奪還したとしても、庶人には受け入れて貰えないさ」
「…………」
「州牧の地位は返上する。幽州は、麗羽に委ねようと思うんだ」
悩んだ末なのであろう、憔悴しきった様子があった。
「お前がそう言うのならば、私がとやかく言う筋合いはない。だが、これからどうするのだ?」
「……歳三さえ良ければ、今後も同行させて欲しい。いや、お前の指揮で動く事で結構だ」
「紅葉(程普)と菫(韓当)にも相談したのだろうな?」
「ああ。二人とも、私の判断を尊重してくれるらしい。……宜しく頼む、歳三」
「……わかった。そこまで申すのなら受け入れよう」
こうして、白蓮らは我が軍に吸収という格好となった。
が、白蓮の事は決して他人事ではない。
「桜花(士燮)から火急の知らせ、ですか」
「うむ。山越が蠢動しているようだ、それも大規模に」
「漢王朝の混乱を見て取ったんでしょうねー。桜花ちゃんや山吹ちゃん達だけでは厳しいと思うのですよ」
「ええ。早急に帰らないといけませんね」
禀と風が口を揃える。
「でも、この洛陽はどうするんですか? 何進さんがあんな事になってしまいましたし」」
「今私達が離れれば、無人同然ですね」
朱里と雛里の表情も晴れない。
何進だが、シ水関での戦いの最中に急死していた。
暗殺などではなく、病によるものらしい。
私や月に要らぬ気遣いをさせぬように、との遺言でその死は暫く伏せられていた。
その事を知ったのは、私が長安から帰還した後の事だ。
意外と肚の据わった御仁だったが、人の死とは真に呆気ないものだと思わされた。
だが、これで中央で軍を束ねる人物が不在となったのも事実。
陛下は私がその役目を担う事をご所望のようだが、その為に交州を見捨てる訳にはいかぬ。
問題は月だが……情けからまた損な役目を引き受けねば良いのだが。
「兎に角、行動するより他にあるまい。各々、準備にかかるよう」
「御意」
次から次へと難題ばかりが続くものだ。
何とかこの事態を打開せねば。
その夜。
「歳三。いいか?」
白蓮が、私の部屋を訪れた。
微かに、酒の香りがする。
「呑んでいるな?」
「ああ。邪魔じゃなかったか?」
「いや。急ぎではない」
手元の書簡を巻き取り、机の隅に置いた。
「兎に角座るが良い。立ったままでは話も出来まい」
「あ、そ、そうだな」
顔を赤らめながら、白蓮は手近な椅子に腰掛けた。
どうやら、かなりの量を過ごしたようだな。
「実は今日、陛下に拝謁を願ったのさ」
「ふむ」
「勿論、州牧返上を奏上したんだ。一度決めた以上、行動は早い方がいいからな」
「それで?」
「返上自体はお認めいただいたよ。今の私じゃ、どう足掻いても務まる筈がないからな」
だが、白蓮は苦い表情だ。
「その様子では、話がそれで終わらなかったようだな」
「そうなんだ。幽州牧の任を解く代わりに、司隷校尉を務めるようにとの仰せだった」
なるほど、白蓮に眼を付けたか。
州牧もあくまで返上であって更迭ではない。
当人はあまり自信がないようだが、実績と才覚からすれば決して不相応ではあるまい。
それに、人材が払底している中で新参者ではなく天下に名前も知れている。
麗羽や袁術のように、一族のしがらみに縛られる事もない。
これが平時ならば、素直に出世と喜ぶべきであろう。
「それで、どう答えたのだ?」
「私を買っていただけるのは光栄至極、でもそんな資格も実力もないと辞退申し上げたよ」
「……だが、陛下は譲ろうとなさらなかったのだな?」
「その通りさ。私以外に任せられる者がいない、これはたっての勅命だってな」
「陛下も、必死のようだな」
「それはわかるさ。けど、どうして私なんだ? もう私は歳三についていくって決めた矢先だぞ?」
恐らく、陛下はその事を知るまい。
……いや、知っていたとしても同じ命を下したやも知れぬな。
月は全ての職を返上し、私の娘として生きたいと既に言上していた。
陛下も月とは昵懇の間柄、それを無碍に出来なかったようだ。
「交州行きの事は申し上げたのか?」
「当然さ。でも、お許しいただけなかったのさ」
「……なるほどな。それで、酒か」
「ああ、そうさ。けど、いくら呑んでも酔えないんだ……」
項垂れる白蓮。
「私はどうしたらいいんだ? 勅命に逆らうなんて出来やしないし、かと言って歳三に従う事を皆に宣言してしまったんだぞ?」
「…………」
「歳三、頼む。お前からも陛下に申し上げてくれ」
「いや……。私の口添えなど無意味であろう」
「何故だよ! 月だって許されたじゃないか」
「お前と月では事情が異なる。それに、月は予てより陛下に願い出ていたのだ」
「……じゃあ、歳三は私に残れって言うのか?」
恨みがましい眼で私を見る白蓮。
「白蓮。お前とその軍が我らに加わる事は大いに意味がある、それは確かだ」
「じゃあ、連れて行ってくれよ!」
「まぁ待て。何も今更その話を白紙に戻すつもりはない」
「……どういう事だよ」
「お前は約束通り受け入れる。だが、洛陽には留まって貰う」
「私を置いていくという事か?」
「そうだ。だが、期限付きでな」
「…………」
ジッと私の話に聞き入る白蓮。
その顔からはいつしか、苦渋が消えていた。
「つまり、陛下の命を拒むのではない。司隷校尉の話も受ければ良い」
「けど……。そうすると、私は歳三よりも上官になってしまうぞ?」
「ふっ、それがどうした? 白蓮、お前はそのような上下関係を以て私に接するつもりか?」
「馬鹿を言うな! 私がそんな薄っぺらい奴だと思うのか!」
「そうであろう? ならばそのような形式に拘る事はない。貰えるものは貰っておけば良い」
私の言葉に、白蓮は盛大に溜息をつく。
「全く。歳三の物怖じしなさには驚く以前に呆れるな」
「それが私だ。今更改めるつもりもない」
「……で。期限付きで、と言ったな?」
「ああ。例えば二年、その間に立て直せればそれで良し。さもなくば」
「問答無用で職を辞して、歳三の下に行く。そうお約束いただくんだな?」
「そうだ。それとて不遜の極みではあるが、後はお前の熱意次第であろう」
「……よし」
バシッと、白蓮は己の頬を叩いた。
そして、立ち上がると私の前までやって来た。
「如何した?」
「歳三。……私に、勇気をくれ」
「勇気だと?」
「ああ。身も心も、歳三のものにして欲しいんだ」
「…………」
「そりゃ私は愛紗や紫苑みたいに色気はないし、彩(張コウ)達みたいに取り柄もない女さ。だから、歳三からすれば魅力に乏しいかも知れない。けど」
「待て。お前の気持ちは以前にも受けている」
「わかっているさ。でも、あの時とは状況が違う。今度は、正真正銘歳三に愛して貰いたいんだ」
「白蓮……」
決して戯れではない事はわかる。
酒の勢いも多少はあろうが、発する言葉は真摯なものだ。
「駄目か?」
「……一つ、条件がある」
「……これの事か?」
そう言って、白蓮が懐から取り出した物。
何かの書簡のようだが……。
「見てくれ」
「わかった」
手渡されたそれを、広げてみた。
連判状……いや、違うな。
記された名は、愛紗、禀、風、星、疾風(徐晃)、彩、紫苑、霞。
「皆に、許しを得たのだな?」
「それが決まりなんだろう? だから、全員に頼んで廻ったんだ。私も、歳三に愛される一人に加えて欲しいと」
そこまで腹を括るとは。
……拒む理由など、最早あるまい。
「お前の決意、確かに受け取った。また明日、参るが良い」
「いや。今宵、この場で抱いてくれ」
「……何故、そう急ぐ?」
「折角の決意、少しでも鈍らせたくないんだ。確かに酔いは残っているが、身は清めてきたんだ」
「……うむ。ならばもう何も申さぬ」
「ありがとう、歳三」
やっと、白蓮の顔に笑みが浮かんだ。
「い、いいぞ」
一糸纏わぬ姿の白蓮が、寝台に横たわっている。
「あ、あのさ」
「何だ?」
「……灯り、消してくれないか? その、恥ずかしいからさ」
「だが、それではお前の顔が見えぬ」
「駄目か?」
「ああ、駄目だ」
腕で胸と下腹部を隠しながら、白蓮は私を睨み付ける。
「意地悪なのだな、歳三は」
「そうではない。女子はただ抱けば良いというのではない、その美しさも目に焼き付けたいだけだ」
途端に、白蓮の顔が真っ赤に染まる。
「バ、馬鹿! 第一、私の身体はそんなに……」
「自信がないか?」
「そりゃ……。歳三の女は、殆どが胸も大きいし、均整の取れた身体付きじゃないか。例外は風ぐらいだろ?」
「それは偶さかの事。それに、お前も十分均整が取れているではないか」
「そ、そうか?」
「嘘は申さぬ」
その言葉を証明する為ではないが、私は白蓮の唇を奪う。
「うむっ? ん~っ、ん~っ!」
何か申したいようだが、構わず歯をこじ開け舌をねじ込む。
存分に白蓮の口中を味わい、唾液を送り込んだ。
白蓮は驚いたようだが、吐き出す事なくそれを飲み込む。
「ぷはっ!」
息苦しくなったのか、白蓮の方から私を突き放す。
「こ、こんな事を他の女にもしているのか?」
「当然だ。誰かを特別扱いするつもりなどない」
「そ、そうなのか。な、何だか頭がくらくらするな」
漸く、硬さが取れた感じだな。
「では、次に参るぞ」
「え?」
形の良い胸に手を伸ばす。
「ひゃうん!」
小さな悲鳴を上げるが、構わずそれを弄ぶ。
「な、なんかさ」
「痛いか?」
「そ、そうじゃない。変な気分なんだ」
喘ぎ始めたようだな。
そのまま胸への愛撫を続けながら、片方の手を下腹部に伸ばす。
茂みの向こうは、軽く湿っていた。
「と、歳三。そこは……っ!」
「存分に濡らしておかねば後が辛いだけだ。暫し耐えよ」
「わ、わかった。なるべく、優しくしてくれるとありがたいな」
「善処しよう」
上気した白蓮は、ひどく色っぽい。
当人は色気のなさを気にしていたが、まさに杞憂に過ぎぬな。
……尤も、この表情を見る事が叶うのは私だけでもあろうが。
「どうかしたのか?」
「む?」
「いや、私の顔をジッと見たりして。な、何かおかしかったか?」
「……それはない。ただ、美しいとは思ったがな」
「バ、馬鹿! こうなってまで私を口説く気か?」
本心を述べているだけなのだが……まぁ、良かろう。
ふむ、そろそろ頃合いか。
「白蓮。では……良いな?」
「え?……あ、ああ」
小さく頷く白蓮。
私は身体をずらし、狙いを定める。
そして、少しずつ白蓮の中へと入っていく。
「グッ……」
「痛いか?」
「だ、大丈夫だ……。続けてくれ」
「……そうか。無理はするな」
狭いそこを、少しずつ押し広げる。
半分ほどで、トンと何かに突き当たった。
「では、参るぞ?」
「……わかった」
更に腰を押し進めると、白蓮は苦悶の表情を浮かべた。
そのまま、一気に押し込んだ。
「い、痛っ!」
「少し耐えよ」
「わ、わかってる……けど、想像していたよりもき、きついな」
そんな白蓮の気を紛らわしてやろうと、軽く口づけを交わす。
「ん……」
白蓮も、ぎこちなく舌を絡めてくる。
まだ苦しげではあるが、少しずつそれは薄れているようだ。
「歳三」
「何だ?」
「凄いのだな……。何もかもが、想像以上だ」
「そうか」
詳しくは問うのは野暮というもの。
行為の最中に、あれこれ思案を巡らす必要もあるまい。
そして、私も次第に限界を感じてきた。
「白蓮。そろそろだ」
「……な、何がだ?」
「このまま最後まで繋がっていたいが、構わぬか?」
「最後……。あ」
どうやら、理解したらしい。
「そうしてくれ。私も、お前なら受け入れたい」
「……うむ」
「あっ! は、激しい!」
「もう少しだ」
「わ、私も何か……ああっ!」
白蓮の中が、キュッと狭くなる。
「クッ!」
少しばかり耐えた後、私は自身を白蓮の中に解放した。
「あ、あつい……。こ、これが……」
そのまま、気を失ってしまったようだ。
些か、激し過ぎたか。
翌朝。
目覚めると、白蓮はまだ私の腕の中で眠っていた。
今少し、寝かせておくべきか。
「……あ。お、おはよう」
と、僅かに身じろぎした弾みで起こしてしまったようだ。
「おはよう。まだ早い、眠っていても構わぬぞ?」
「……いや、いいさ。しかし、まだお前と繋がっているような気がする」
「今日一日は辛いやも知れぬな」
「そ、そっか。……でも、やっと念願叶ったんだな」
そして、身体を私に押しつけてきた。
「暖かいな」
「お前もな。それに、綺麗な肌をしている」
「……ハァ。これじゃ、他の連中が歳三をほっとかない訳だ」
白蓮は、大きく溜息を一つ。
「な、なぁ……一つ、頼みがあるんだ」
「申してみよ」
「交州に行く前に……また、こうしてくれるか?」
上目遣いに私を見る白蓮。
「お前が望むならばな。だが、抜け駆けはお前の為にならぬぞ?」
「わかってる。へへ、いいな……こういうのってさ」
そう言うと、白蓮はまた眼を閉じる。
起床の時分だが……たまには良かろう。
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