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西部の娘

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第三幕その四


第三幕その四

 その手には拳銃がある。それをこちらに向けている。
「おい、どうする・・・・・・」
 ニックが一同に対して問うた。彼女がここに何をしに来たか誰もわかっていた。
「どうするって・・・・・・」
 どうしていいかわからなかった。咄嗟にランスが叫ぼうとした。
「いいから早く・・・・・・」
 その時だった。ミニーが拳銃を撃った。
 それは縄を撃った。縄は根本から落ちた。
 ミニーがやって来た。馬から飛び降りまだ煙を出している拳銃を構えながらこちらに来る。
「まさかここに来るとはな」
 ランスは彼女を見据えて言った。
「一体誰がこんなことを!?」
 彼女はジョンソンの方に歩み寄りながら問うた。だが誰も答えようとはしない。
「法の裁きだ」
 ランスは彼女から目を離さずに答えた。
「あんたが法ですって!」
 彼女はそれを聞いて激昂した。
「よくもそんなことを!」
「おい、俺が保安官だと知ってそんなことを言うのか!?」
 ランスはそれでも引き下がらない。ホルスターに手をかけようとする。
「抜いてごらんなさい、そうしたらあんたの心臓を撃ち抜いてやるから!」
 ミニーは狙いを定めて言った。半ば叫んでいた。
「クッ・・・・・・」
 これには流石にランスも動けなかった。ミニーはその間にジョンソンの前に来た。
「おい」
 ランスは周りの者に顔を向けて言った。
「ミニーを何処かへ連れて行け。女一人どうだというんだ」
 だが誰も動けなかった。力や数の問題ではなかった。
「やれるものならやってごらんなさい」
 彼女は彼等を睨んで言った。
「あたしがどうなろうとこの人には指一本触れさせないわ」
 彼女は振絞るようにして声を出した。
「さあ、最初に死にたい人は誰?」
 その声を聞いて動ける者はいなかった。誰一人として動けなかった。
 二人後ろから近付こうとする。だがミニーに睨まれ動けなくなった。
「やらせない」 
 ミニーはあくまでジョンソンを守ろうとする。それを見たソノーラが前に出て来た。
「皆、もういいじゃないか」
 そして彼はミニーとジョンソンを取り囲む仲間達に対して語りかけた。
「ミニーが我々にしてくれたことを思えば。それを考えると彼を見逃すこと位何でもないじゃないか」
「・・・・・・・・・」
 一同はその言葉を聞いて沈黙した。
「なあハリー、御前だってそう思うだろう?」
 彼は赤い髪の男に対して語りかけた。
「御前が鉱山で怪我をして死の淵を彷徨っていた時に彼女は御前を付きっきりで看病してくれた。そして妹さんが見えた時も彼女が案内してくれたよな」
「・・・・・・ああ」
 その赤い髪の男は顔を俯けながらも頷いた。
「トリン、手紙を書いた時のことは覚えているよな」
 今度はくすんだ金髪の若い男に対して言った。
「御前は字はあまり読めない。そんな御前に彼女は優しく教えてくれた。だからあの手紙が書けたんだったよな」
「そうだ・・・・・・」
 その男も頷いた。
「御前も、御前も」
 彼は周りにいる男達に顔を向けながら言った。
「皆ミニーに恩を受けている筈だ。当然この俺もその恩を今返さなくて何時返すというんだ?」
 誰も答えられなかった。ソノーラの言葉に誰もがその心を揺るがせていた。
「アッシュビー、あんたも俺と同じ意見だよな」
 彼はアッシュビーに対して話を振った。
「それは・・・・・・」
「あんたはいつも言っていた。西部の男は恩は決して忘れないと。だったら今その恩を返そうじゃないか」
「しかし・・・・・・」
 彼も容易には言えなかった。
「俺達は確かに荒くれ者だ。しかしそんな俺達だって人間だ。人間ならこういった時にはどうするべきかわかるだろう!?」
「・・・・・・・・・」
 ソノーラの言葉は熱を帯びてくる。だが皆まだ頷けない。
 
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