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西部の娘

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第二幕その七


第二幕その七

「そう、それならいわ」
 取り出した何かをサッと靴下の中に入れた。
「御免なさいね。少し慌ててしまって。何しろ人一人の命がかかっているんですもの」
「・・・・・・そうだな」
 ランスは顔を強張らせて言った。
「では用意はいいか?」
「はい」
 ミニーは席に着いた。
「何回勝負!?」
「三回だ」
 ランスは言った。
「わかったわ。じゃあはじめましょう」
「よし」
 二人はカードを挟んで睨み合った。そして勝負がはじまった。
「何枚だ!?」
 ランスは問うた。
「二枚」
 ミニーは答えた。カードが手元に投げられる。ランスは三枚取った。
「ツーペアだ。そっちは?」
「ファイブカード」
 ミニーは答えた。
「そうか。まずはあんたの勝ちだな」
 ランスはそう言うと再びカードを切った。
「だが次はこうはいかない」
 そしてミニーと自分に五枚ずつ投げた。
 二人はそれをそれぞれ手に取った。そしてカードを見る。
「何枚だ?」
 ランスは問うた。
「二枚」
 ミニーは二枚のカードを交換した。
「俺は一枚だ」
 ランスは一枚交換した。
「エースのワンペアだ」
「あたしは何もないわ」
 ミニーは表情は変えなかったが険しい声で言った。
「これで五分と五分だな」
 ランスは彼女を睨んで言った。そこには欲望はなかった。ただ勝負に燃える賭博師の顔があった。
(どうやらこれが俺の本性らしいな)
 ランスはふと思った。それを何故か楽しく思った。
(勝ちたい)
 ランスはその考えを抑えられなくなった。
(カードと銃だけは誰にも負けん)
 彼の心の中にある血が騒いでいた。そこにはジョンソンやミニーへの感情とは別のものがあった。
「これが最後ね」
 ふとミニーが言った。ランスはその言葉にハッとした。
「そうだ」
 彼は低い声で言った。
「ぞっとするわね、これで決まるかと思うと」
 ミニーは険しい声のまま言った。
「そうか。俺は一つのことしか考えていないがな」
 ランスは表情を変えずに言った。
「この勝負に勝つことだけだ」
 毅然とした声で言った。そして切ったカードを投げる。
「そう」
 ミニーはそれを聞いて答えた。カードを受け取った。手に取り見る。その時だった。
「一つお願いがあるのだけれど」
 ミニーの青い目が一瞬光った。しかしランスはそれはカードに注ぐ光だと思った。
「何だ!?」
 ランスは尋ねた。
「お水を取って頂戴。喉が渇いたわ」
「そんなことか」
 ランスは少し拍子抜けしたがそれを顔には出さなかった。
 彼は席を立った。そして瓶とコップを手に取った。
 コップに瓶の中の水を注ぐ。その時彼はミニーから目を離した。
 それは一瞬であった。だが彼女はその一瞬の時を逃さなかった。
 手にするカードを自分の服の胸のところに隠した。そして靴下から五枚のカードを取り出したのだ。
「ほら」
 彼はその水をミニーに差し出した。
「有り難う」
 ミニーはそれを受け取った。そして口に含んだ。
「怖いのか」
 彼はそれを見て問うた。
「どうして?」
 ミニーは逆に尋ねた。
「俺に負けるのが」
「いいえ」
 ミニーはそれを否定した。
「喜びのあまり喉が渇いたのよ」
 そう言うとニヤリ、と笑った。
「どういう意味だ!?」
 ランスはそれに対して問うた。
「カードは変えないの?」
「ああ」
「じゃああたしも」
「そうか」
 彼はミニーの顔に何かを感じたが口には出さなかった。
(あの自信、かなりのカードか)
 そう思った。しかし顔には出さない。
「貴方のカードは?」 
 ミニーは再び尋ねてきた。
「スリーカードだ」
 彼はカードを見せて答えた。
「あたしの勝ちね」
 ミニーは再びニヤリと笑って言った。
「あんたのカードは!?」
「エースのフルハウス」
 そう言ってカードを見せた。その通りだった。
「そうか」
 ランスはそれを見て言った。顔にも声にも出さなかったが落胆した。
「邪魔したな」
 彼は席を立った。そして扉を出て小屋を後にする。
 ミニーはすぐに席を立ち小屋の扉に錠を下ろした。遠くから馬の鳴き声が聞こえる。それはすぐに遠くへ消えていった。
「終わったわ・・・・・・」
 ミニーはそれを聞いてホッと胸を撫で下ろした。
「あたしは勝ったのね」
 屋根裏からジョンソンを出す。彼は気を失っている。
「貴方は助かったのよ・・・・・・」
 そしてジョンソンを抱く。
「成功してよかった・・・・・・」
 彼女はイカサマが成功したのを心から喜んだ。
「こんなこと神様はお許しにならないでしょうけれど」
 泣いていた。ジョンソンを救った喜びと神に許されることをした悔恨から泣いていた。
「それでもあたしは貴方を救いたかった・・・・・・」
 そして救った。彼女はジョンソンにしがみついて泣いていた。
 
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