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故郷は青き星

作者:TKZ
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第二十一話

 時間は少し遡り、正式サービス開始一ヶ月と少し前にオープンβテストに参加した3万人──ダイブギアのモニター当選者たち──の初陣の結果報告がエルシャンから連盟本部へと送られてきた。
 初陣、しかも旧式のSF/A-104のみの一個航宙師団で、【敵性体】母艦種5~6体の部隊を迎撃戦で壊滅に追い込み自軍の損耗率は20%以下という地球人パイロット部隊の戦果に連盟議長兼連盟代表と閣僚達は、まるで狂ったかのように大声で叫び部屋中を走り踊りまくった。
「信じられない。この報告を聞いて更に信じられなくなった!」
「地球を、地球人を連盟に取り込むんだ。早く正式に加盟させろ。どんな譲歩をしてでも良い!」
「彼等が戦いに集中できるように、あらゆる面で支援をしよう」
「そうだ、地球の人口がもっと増えるように手も打とう」
「高パイロット適正種族に施した支援政策を更に推し進めたものを作らなければ」
「問題は地球が第三渦状枝腕(オリオン腕)にあることだな。あの様な辺境では彼等の能力は活かせない」
「最終的には移民という条件を彼等が飲めるような環境を用意するべきだな」
「通商における特権の付与や最新の技術の提供ですかな。地球人の自力の発展による銀河に新たな技術体系をもたらすと言う可能性の芽を摘むことになりますな」
「今は可能性の話をしている場合ではないぞ」
「問題は地球が1つの政体として統一されてない事です。150以上の国家に分裂しているせいで交渉が進まないと公使からの報告にもあります」
「代表。議会に法案を提出して、個別の国家と交渉できるよう法律を改正しましょう!」
「それは拙いだろ。幾らなんでも連盟の理念に反する」
「大体、この中国とは何なんだ? 一国で人口が20億と地球の総人口の1/4を占めながら内乱で5つの勢力に分かれてるなんて!」
「エルシャン公使もこの件には、頭を悩ませているそうだ」
「国際連合という国家連合の枠の中で大きな力を持つ国の1つがこの中国で、現状では中国の再統一が進まなければ国際連合との交渉にも影響があるそうだ」
「中華人民共和国と名乗る勢力が、国連へ代表を送り込んでいるらしいのだが分裂した五つの勢力の中では一番小さく、国際的影響力が少ないどころか非難の対象だとか」
 テンションが上がり切った閣僚会議は迷走の末に、エルシャンに予定外の方針変更を押し付ける。
「移民ね。まあ俺も必要だと思っていたけどさ。5年以内に各方面軍に億単位の地球人パイロット部隊を配備するための移民計画……無茶苦茶言うわ!」
 新たな方針指示を受けてエルシャンは叫んだ。
 同調装置を利用したの通信能力は天の川銀河全体を網羅するほどの性能を持つが、戦闘に用いる場合はラグタイムの影響で1万光年を限界とする。
 地球から1万光年と言う距離は、オリオン腕に隣接するサジタリウス腕とペルセウス腕。サジタリウス腕の更に向こう側にあるスクタム-センタウルス腕をギリギリ範囲に収める。
 そして現在、サジタリウス腕における連盟方面軍の防衛ラインが敷かれたオリオン腕との回廊宙域は地球からの1万光年以内の距離にあるが、それ以外の方面軍の防衛ラインに地球人パイロットを配備するためには地球人の他星系への移民が大前提であった。
「どうしよう?」
 彼が立てた計画は大幅な修正を余儀なくされたのだった。



「えっと、ウィングマン募集と、これでOKだな?」
 作戦開始前に受付カウンターで柴田は自信なさ気に僚機を募集する。
 普段なら山田と尾津と共に3人チームを組んでいる柴田だったが、先日彼等から一週間ほど忙しくログイン出来ないと言われたため、今日は野良チーム──フレンド同士やギルド単位でチームを結成するのに対して、その場限りの知らないもの同士チームを組む事。ちなみに日本のMMOで主流を占めるRPGの場合はパーティーと呼ばれるが、DSWO内ではチームと呼ばれ、多くの場合4人チームとなる──を組む事にした。
 運営からも妙に強くチームを組む事を推奨されているが、実際に独りで戦うよりも2機編隊や3機編隊を組んで戦う方が撃墜数も稼げて撃墜される危険も減る。
 はっきり言ってソロプレイは不利であり、敢えてソロプレイを行うのは余程のこだわりを持つ変人か、ちょっとコミュニケーション能力に難のある人たちで、ゲーム内で友達と言われる相手を作れない、もしくは作る気の無いプレイヤー達の多くは野良チームに参加する。
 実際、先程久しぶりにソロで作戦に参加したが結果は思うようにはスコアが伸びず。このゲームにおいてフォローしあえる存在の大きさを実感させられた。

「中々集まらないものだな」
 次第に作戦開始時間が迫るが柴田の僚機として参加するプレイヤーは現れず焦りを感じ始めていた。
 他のプレイヤー達も柴田がチームを募集している事には気付いていた。だが腕に自信の無い野良専プレイヤー達はトッププレイヤーの柴田の足を引っ張るのが嫌で遠慮──仲間内でまとまっていれば他のプレイヤーからの評判などは大して影響の無い普通のプレイヤーに対して、一回一回野良チームに参加しなければならないので評判が悪いと参加を断られてしまう──して、逆に多少腕に自信のある野良専プレイヤーは腕の差を見せ付けられるのが嫌で参加しようとは思わなかった。
 これは日本人は日本人だけで集まっているシステムの問題で、これが外国人がプレイヤー達なら参加したいと殺到しただろうが、日本人はやっぱりシャイだった。

 作戦開始時間の1分前になっても柴田の僚機となるプレイヤーは現れなかった。
「しゃあねえな。独りで飛ぶか」
 諦めて擬体との同調を開始を選択する。同調開始処理をイメージした良く分からない視覚効果──実際、同調開始処理に時間が掛かるわけではないのだが、エルシャンが強く主張して5秒間視覚効果のイメージ映像が挿入された──が始まると同時に目の前に『チームへの参加者が現れました』というウィンドウがポップする。
「ナイスタイミング!」
 効果処理が終わった後、SF/A-302──結局機種転換した──のコックピットの中から僚機への通信をつなぐと目の前のポップアップしたウィンドウの中に現れたのは、見慣れた白人美少女の顔。
「ネカマの梅ちゃん!」
 柴田は驚きのあまり指差して叫んだ。
『しつこいわね、私はネカマじゃないって言ってるでしょ!』
 そうやって一々むきになって反応するから、からかわれるのだが……根は素直な娘なのかも知れないと柴田は思った。しかし彼女をからかうのを止める気は一切無かった。
「ネカマは皆そうい──」
『それはもう聞いたわ。大体梅ちゃんって呼ばないでくれる? 馴れ馴れしいわ』
「安心してくれ。決して親愛の情から梅ちゃんと呼んでるわけじゃないから」
 人間としてどうなのかと疑問を感じるほどの毒舌を柴田は爽やかに披露した。
『じゃあ何よ!』
「……それで何でお前がいるんだ?」
『話を逸らさないでよ』
「言わぬが花。知らぬが仏と言うだろ……で何で?」
 どう考えても酷い話だった。
『くっ……アンタに私の実力を見せ付けてやるためよ!』
「へぇ~」
 梅本は気合を入れて宣言するが、柴田の反応は屍なみに薄かった。
『アンタみたいに仲間と馴れ合ってエース気取りの奴に、ソロプレイヤーの実力を見せてやるのよ!』
「はいはい。作戦開始だ頑張ってね」
 梅本とでは連携するのは無理だと諦めた柴田は、小型種の編隊に機首を向けると出力最大にして突撃を開始する。
『ちょっと待ちなさいよ!』
 慌てて梅本も柴田の機体を追って加速を始めた。

「ふ~ん、やるね梅ちゃん」
 自機の背後に張り付いた小型種を、柴田が振り切ろうと操縦桿を動かすより先に、すれ違い様にレーザーの一閃で撃ち落した梅本の技量と視界の広さ。そして判断力に賞賛を送る。
『当たり前でしょう! 私を誰だと思ってるのよ』
「知らんがな!」
 柴田は機体をひねって急ターンに入ると、梅本の機体を斜め上から待ち構えていた小型種5機を荷電粒子砲の斉射で蒸発させる。
『や、やるわね』
「梅ちゃんがやっかむ程度にはね」
『だ、誰がやっかむなんて』
 そう言いながらも、互いをフォローしあい確実にスコアを稼いでゆく。急造のペアにしてはかなり息の合った二人だった。

「貴方の事、認めてあげるわ」
 作戦終了後のブリーフィングで梅本が上から目線の発言を放つ。こういう性格が彼女をゲーム内ボッチにしているのだが本人には自覚が無いようだった。
「梅ちゃんに認めてもらってもなぁ~」
 残念そうにそう呟く。実際、自分の技量は戦果ポイントとして目に見える数字で表示される。腕が良い悪いよりも実際に戦ってポイントを稼げるかどうかがプレイヤーとしての強さだと柴田は考えていた。それに自分の技量は、信頼できる仲間として自分が認める山田と尾津に認めてもらえればそれで良かった。
「私の何が不足だという!」
「主に人格面?」
 言い方は悪いが、逆に技量に関しては認めているという事だった。もっとも柴田としては自分の方が上であると確信した上で『認めてる』と思ってるだけだった。
「じ、人格否定?」
 だが正面から人間として大切な部分を否定された梅本は唖然とする。既に読者の方はお気づきと思うが梅本雨音は柴田に対して…………ストーカー行為を行っている。
 ネット上限定とはいえ、ログの開示を求めて裁判に訴えれば柴田が勝訴するのではないかと言うくらいの付きまといで、柴田が梅本に対して「この女、良く絡んでくるな」と感じているのは氷山の一角に過ぎない。
 今回の柴田の募集に対してギリギリに同調開始のギリギリのタイミングで応じたのは、作戦が始まった後でのチーム解散は撃墜時と同じペナルティーが発生するので断られ難いと判断した上での行動だった。

 梅本雨音。本名梅木雨月(うめきうづき)はフランス人とハーフである父親とアメリカ人の母親を持つスリークォーター(3/4)だった。
 そのほとんど白人女性な容姿と名前のおかげで──彼女が産まれた時、大学で日本文学を専攻していた母アレクサが、自分の好きな雨月物語から名前を取って雨月(うげつ)としたが、父、隆が『うげつ』では余り女の子らしくないと余計な事を言ったため、読みを『うづき』と変更して出生届を出してしまった。その一ヶ月ほど後に、隆は愛娘を抱き上げて名前を呼びかけながら「梅木雨月……うめきうづき……呻き疼き。誰だこんなエロい名前つけたの?」と口にしてアレクサに死ぬほど殴られた──中学校からイジメに合い登校拒否。学力は十分に高かったため、中学卒業と同時に家族は地元を離れて、とある名門お嬢様学校に入学する。
 名門お嬢様学校だけに名前でイジメるという生徒はいなかったが、基本ビビリ──攻撃的な性格は小心の裏返し──な彼女は中学校時代のクラスメイトへの恐怖心から未だ立ち直って折らず、クラス内に友達を作る事は出来ず、趣味といえばネット関連で、ネットゲームにのめり込んだ結果にDSWOプレイヤーとなっていた。
 柴田同様にオープンβには参加しておらず、公式運営開始第一陣としてゲームを始め、最初のプレイで小型種に追い掛け回されて撃墜されそうになった時に、柴田に助けられて、それ以来彼の事が気になってストーカーへと成り下がっていたのだった。
 勿論、柴田は誰かを助けたという意識は無い。単にスコアを稼ぐために目に付いた敵を撃ち落していただけだった。

「まあとりあえず、山田と尾津が戻ってくるまではお前が相棒だしっかりやれよ」
 こんな喧嘩を売ってるとしか思えない台詞にも「分かった」と答えてしまうのがストーカー娘の悲しい性だった。
 言った柴田も何で噛み付いてこないのか不思議そうだったが、彼に相棒と呼ばれたことで梅本は有頂天になっていた。 
 

 
後書き
外国人プレイヤー……作者は高校の頃にユネスコ部に入っていたため外国人留学生との交流会に参加したり、大学の頃バイト先の客のアメリカ人達と互いに辞書を片手にD&D(テーブルトークロールプレイングゲーム)で遊んだりと外国人と直接接する機会があったが、日本にいて日本人を理解している外国人とオンラインゲームで出会う外国人は別物だと思う。そうとはいえバイト(スーパー)のアメリカ人客とも最初は中々分かり合えなかった。
アメリカさん「ハイ。バナナどこ」
バイト仲間「(青果コーナーへ案内)これです」
アメリカさん「違う、これじゃない」
バイト仲間「お客さんが探しているのはバナナですよね?」
アメリカさん「そうバナナ。これバナナじゃない」
バイト仲間集合して相談した結果「バニラじゃない?」と予想を立てる。
バイト仲間「(バニラエッセンスの小瓶を差し出し)お客さん。これでしょうか?」
アメリカさん「そうこれ……君達これを何て呼ぶ?」
バイト仲間全員「バ・ニ・ラ」
アメリカさん「……oh!」
アメリカさんは、そう一言漏らすとバニラエッセンスを持ってレジに向かったのであった。

>勿論、柴田は誰かを助けたという意識は無い。単にスコアを稼ぐために目に付いた敵を撃ち落していただけだった。
その証拠に第一話の段階で梅本のキャラ設定はあったにも関わらず、その場面に関する描写すら無いw
梅木雨月の名前は渡辺多恵子の『聖14グラフィティ』の高橋肛門科医院の息子高橋生月(うづき)より。
彼のお父さんが茂樹(しげき)で肛門科の医師であることから、肛門科の父が『しげき』で息子が『うづき』→変態だと断言するシーンをなぞった設定。 
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