| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

星河の覇皇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部第二章 銀河の群星その三


「閣下は日本の軍務大臣なのですよ」
「そう、連合の中でもかなりの重要人物なのです」
「そう言われると何か妙な気分になるな。私は総理に大臣に任命されただけなのだし」
 三百国ある連合の中でも日本は主導的な国の一つである。アメリカ、中国、ロシア、ブラジル等と並ぶ大国であるが米中露が大昔より変わらぬ覇権主義的思考で何かと自国の利益を優先させようとし中央政府にも従わないことが多いのに対して日本は連合設立当初より中央政府に対して友好的であり忠実であった。その為他の大国に比べて他の国々からの支持も高く中央政府からも頼りにされている。
 中央政府がその権限拡大についても日本を頼りにするのは当然であった。その資金の多くも日本から得ている。そして何よりも地球の位置は日本の勢力圏の側なのである。
「つまり我等の立場は魯かな。中国の大昔の歴史の」
 若者は少し微笑んで言った。
「またえらく昔の話ですな」
 秘書の一人が苦笑して言った。
「うん。学生時代に習ったことをふと思い出したんだ」
 彼は軍務大臣であるが士官学校を出ていない。日本のとある大学を出た後軍に入り将校となった。この時代でも大学を出ている者は軍では将校となった。これは最早伝統であった。
 そして政治家であった父の後を継ぎ若干二十五歳にして日本の衆議院議員になった。多くの政策、特に軍事関係においてそれを立案しそれが所属していた保守系の政党の総裁の目に留まった。そしてその総裁が総理になるとその能力に注目した彼に軍務大臣に抜擢された。それから二年経つ。今二十八歳、政治家としてはまだまだ若いがその才とカリスマ性から将来を渇望されている。
「そういえば閣下は歴史学を専攻されていたそうですね」
「うん、やはり面白いし何かと勉強になるからな。歴史から学ぶことは実に多い」
「成程、では今から行なわれる会談についても歴史から学んだことを活かして下さいね」
 秘書の一人が少し意地悪そうな声で言った。
「大統領は中々人が悪いですから」
 別の一人がいささか冗談をまじえて言った。今の大統領は小国の一開拓民から大統領になった人物である。軍人となり宇宙海賊討伐で軍功を挙げそこから出世した。そして遂には連合の大統領となった立志伝の様な人物である。
「おい、それは失礼だぞ」
 若者は周りにいる者達を窘めた。
「連合の元首である方だ。その様に言ってはならぬ」
「ハッ、これは失礼しました」
 周りの者達はその言葉に畏まった。
「言葉は慎むべきだ。口は禍の元となる」
「そうでした」
 彼等は若者の言葉に恐縮した。
「わかってくれればいい。さて、とそろそろ閣下がおられる部屋だな」
「はい」
 一向は赤い絨毯が敷かれた廊下を進んで行く。そしてある扉の前に来た。
「お待ちしておりました」
 その前にいた黒い軍服の衛兵達が敬礼をする。見れば若者が着ている制服と同じだ。
(どういうことだ。服を変えたとは聞いていないが)
 彼はそれを見て内心そう思った。だが口には出さなかった。
「閣下はおられますか」
 彼はそれを置いておいて衛兵に尋ねた。
「中におられます」
 衛兵は答えた。そして扉を開けた。
「閣下、日本の八条義統軍務大臣が来られました」
 そして部屋の中にいる人物に対して言った。
「はい、ご苦労さん」
 部屋の中にいる人物はいささか大統領に相応しくないのではないかというようなざっくばらんな言葉で答えた。連合の言語は多くの国家から成るが一つに統一されている。英語や中国語、スペイン語、アラビア語、日本語等多くの言語が混在した結果出来たもので『連合語』と言われている。若しくは『銀河語』ともいう。アルファベットと漢字その他の文字が混在しているがわかりやすい文法と発音のしやすさ、応用力の高さで知られている。多くの国家から成る連合にとって実によくあった言語だと言われている。尚エウロパはラテン語から発生した欧州各国の言語を再び統一させた新ラテン語と言うべき『エウロパ語』を、サハラは昔ながらのアラビア語を使っている。
 銀河語はフランクな表現が多いことでも知られている。だがこの人物の言葉は特にそれが凄い。元々開拓民の出身のせいもあるが彼は飾ったことを好まなかったのだ。
 彼の名はラゴス=キロモト。前述のとおり連合の大統領である。
 ケニアの開拓民に生まれた。彼の家は開拓された広い農場を持っておりそこの九人兄弟の七番目として生まれた。彼の住む開拓星は宇宙海賊もおらず平和な状況であった。彼はこのままいけばごく普通の農民として一生を過ごしたであろう。だが子供の頃にホノグラフィテレビで見た軍人の姿を見たことが彼の一生を変えた。
 彼は早速両親に軍人になりたいと言った。両親はそんな彼に対しなりたいならまずは身体を鍛えよく勉強し正しい心を身に着けろと言った。
 彼はそれに従った。学生時代は地元の学校でスポーツに、勉学に励んだ。後輩の面倒見もよく慕われていた。
 高校卒業後彼は軍隊に入隊した。士官学校を受けたが落ちたので下士官候補生となった。これは将校への道も約束された軍では地位の高いコースであった。
 彼はそこで頭角を現わした。それを見た上官達は彼に士官学校を再度受けるよう薦めたが彼は断った。彼はまず下士官で軍を知ることを望んだのだ。
 彼は陸戦部隊となった。そこで宇宙海賊達を相手に戦勲を挙げ士官に抜擢された。そして今度は陸戦部隊の指揮官となった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧