マクベス
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第二幕その三
第二幕その三
「ではまずは我が妻が」
マクベスは妻の方に顔を向けて述べた。
「玉座に就きそこで乾杯の音頭を取りますので」
「おお、王妃様が」
「はい、まずは妃を」
妻を立てて言うのだった。それは彼女こそが王家の血を引いているからであった。
「さあさあ皆様」
夫人は夫の言葉に従い玉座についてそこから乾杯の音頭を取りはじめた。
「あらゆる怒りや哀しみ、憎しみを消して」
自ら杯を取る。そうして言う。
「悦びと愛、陽気に身をゆだねてしまいましょう。さあ」
「是非共」
客達もそれに応える。めいめい杯を掲げる。
「陛下」
そこに誰かが来た。それは刺客の一人であった。
「どうした」
マクベスはそれを見てこっそりと部屋の隅にも向かった。そこで話をはじめた。
「やったのか」
「はい」
刺客はマクベスの言葉に頷いた。
「見事」
「そうか。その血が証拠だな」
「如何にも」
刺客の顔には返り血があった。その服にも。
「これが何よりの証拠です」
「でかした。どちらもか」
「申し訳ありませんがフリーランス殿は」
ここで刺客の顔が曇った。
「討ち漏らしてしまいました」
「だがバンクォーは死んだのだな」
「左様です」
その言葉に頷く。これは真実であった。
「申し訳ありませんが」
「いや、いい」
マクベスは今のところはバンクォーだけでよしとしたのだった。
「まずは一人だ」
「左様ですか」
「そうだ。では後で褒美を取らせよう。下がれ」
「はっ」
刺客は下がった。マクベスはそれを見届けて戻ろうとするがそこで夫人が言うのであった。
「陛下」
「うむ」
マクベスは彼女に顔を向けて応える。
「そうだったな、済まぬ」
「ここにお戻り下さい。それにしても」
夫人はここで芝居をすることにした。
「ここに勇者がいないのは」
「まことに残念なことだ」
マクベスもその芝居に乗った。
「バンクォーがな。一体どうしたのか」
「全くです。ですが仕方がありません」
夫人は目の奥だけで笑っていた。
「ですからここは」
「座って待つとしよう」
マクベスは玉座に向かった。だがそこには。
「なっ」
玉座を見て身体を凍らせてしまったのだった。
「何故貴様がここに」
「どうされたのですか?」
「見えないのか?そなたの横に」
夫人に対して言った。
「いるのが。あの男が」
「私には何も」
これは芝居ではなかった。彼女には本当に見えなかった。
「見えませんが」
「馬鹿な、どうしてだ」
マクベスにはそれが信じられなかった。
「見えないのか。そこに血塗れになった姿で座っているのが」
「ですから何を」
夫人は話を聞きながら周囲を見ていた。見れば客達が不穏なものを感じ取っていた。
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