ノルマ
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第一幕その七
第一幕その七
「誰に対してなの、それは」
「それは」
「答えなさい。この不実な男」
「ノルマ、これは」
「私は貴女を責めはしない」
それは言うのだった。
「けれどこの男は。子供達の為に」
「子供達!?まさか」
今アダルジーザも全てがわかった。彼女とポリオーネのことを。
「貴女もまた」
「私だけではなく今度はアダルジーザまで毒牙にかける」
ポリオーネを見据えたままでの言葉だった。彼と正面から向かい合っている。
「その悪徳、決して許しはしない」
「多くは言わない」
ポリオーネも怯えながらもノルマに対する。顔を彼女に必死に向けている。蒼ざめてはいるがそれでもノルマに対していたのだ。
「だがアダルジーザだけは」
「何という恐ろしいこと」
アダルジーザも二人、いやノルマの怒りの激しさの前にまたその顔を蒼ざめさせてしまっていた。
「真実はわかったけれど。何という恐ろしい真実」
「裏切り者よ」
ノルマはまたポリオーネを責めた。
「早くこの場を」
「去ろう。しかし」
アダルジーザの方を見る。だがその前にはノルマが立ちはだかるのであった。
「彼女だけは」
「行かせはしない」
しかしそれを許すノルマではなかった。
「何があろうとも」
「だが彼女は僕の」
それでもポリオーネは諦めない。一歩前に出た。
「彼女を」
「嫌っ」
しかしそれはそのアダルジーザによって拒まれた。彼女が首を振ったのだ。
「もうそれだけは」
「どうしてだ、それは」
「私は行くことができない」
それがアダルジーザの言葉だった。
「ですから。もう」
「さあ早く行くのです」
ここでまたノルマも言う。
「このまま一人で」
「くっ」
「不実な男にはそれに相応しい運命が待っている」
まるで剣の様に鋭い光をその両目から放ちながらの言葉であった。美しい顔が戦と復讐の女神のそれに完全になってしまっていた。
「それにおののきながら去るのです」
そしてアダルジーザにもその顔を向けるのであった。
「貴女も」
「私も・・・・・・」
「全ては変わりました」
ノルマは告げる。
「だからこそです」
「けれど私は」
「行くのです!」
ノルマの声がさらに激しくなった。
「さもなければ」
「さもなければ」
「ノルマ!」
ポリオーネも叫んだ。
「僕は悪い。けれど」
「けれど!?」
「彼女には罪はないんだ」
ポリオーネはそれだけは保障しようとする。
「それだけはわかってくれ」
「わかったわ。けれど」
しかしノルマの怒りは収まらない。それどころかより激しさを増すばかりであった。
「愚か者よ!」
ポリオーネに対して言い放った。
「すぐにここから立ち去るのです」
「覚悟のうえだ」
「何もかも忘れて。誇りも誓いも。そうして」
ここからが。ノルマの真の怒りであった。
「子供達でさえも!」
「くっ・・・・・・」
子供という言葉を出されてはさしものポリオーネも怯んだ。しかしノルマはさらに言うのであった。彼女の怒りはさらに増す。
「私の怒りに呪われ貴方の罪深い愛には幸福は決して訪れはしない」
「そんな・・・・・・」
「ローマにいようがエジプトにいようが私の憎しみがつきまとう。夜も昼もそれが襲うだろう」
「そうしたのは憎んでくれ」
ポリオーネはそれを受けるしかなかった。彼は逃げなかった。
「御前の幻が僕を永遠に苦しめるのならば。それでいい」
「開き直ったというの?」
「違う。今僕を占めている愛はそこまで大きいのだ」
「今何と」
「聞くのだノルマ」
ポリオーネも引かない。
「僕達の愛よりも大きい。どんな神だってここまで苦しめはしない」
「そこまで言うというの」
「そうだ。僕は呪う」
今度は彼が呪いという言葉を口にしてみせた。
「御前に巡り会ったことを。僕は呪おう」
「そこまで言うのならいいわ」
ノルマもそれを受けて立つ。ポリオーネにその右腕を突き付けて宣言する。まるで怒りの女神がそれを叩き付けるかのように。
「この私の怒りを。受けなさい!」
「ああ、ノルマ」
アダルジーザはノルマのその怒りを見て嘆く。
「私はどうすれば」
彼女にはどうしていいかわからない。最早彼女ではどうすることもできなかった。ノルマは激しい怒りをポリオーネに突きつけポリオーネもそれを正面から受ける。夜空は激しく荒れようとしており月は荒雲の中にその姿を消してしまっていた。
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