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ノルマ

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第三幕その六


第三幕その六

(それはならない。やはり)
「それではそれは誰なのか」
「お答え下さい!」
「私だけだ!」
 ポリオーネは何とかアダルジーザを救おうと叫んだ。
「私以外にはいない!」
「黙れ!信じられるものか!」
「ローマ人の言葉なぞ!」
「うう・・・・・・」
 結局ポリオーネの言葉は退けられる。そのうえでまたノルマに対して問うのであった。
「それは一体」
「誰なのか!」
「それはこの私なのだ!」
「えっ!?」
「今何と」
「私がその裏切り者なのだ。私の火刑台を早く作るのです!」
 ノルマの叫びを聞いても誰も信じられない。あまりの言葉に呆然とさえしていた。
「嘘だ、そんな」
「そんな筈がない」
「まさか、ノルマ」
 だがポリオーネにはそれが真実だとわかっていた。だからこそここで言うのだった。
「それも嘘だ!」
 彼は叫ぶ。
「ノルマは嘘をついている!それは!」
「そうだ、そんな筈がない」
「ノルマが我々を裏切るなぞと」
「ノルマの言葉に嘘はない!」
 しかしであった。ノルマはここでまた叫ぶのであった。峻厳なまでの言葉で。
「だからだ。早く火刑の用意を!」
「何と恐ろしいこと!」
「ノルマが!」
「全てはこれで終わるのよ」
 ノルマは言うのだった。
「これで全てが」
「どういうことだ、ノルマ」
 ポリオーネはノルマに対して聞かざるを得なかった。
「どうしてこんなことを」
「本当の罪人を裁くだけ」
 それがノルマの返答であった。
「それだけです」
「それが君の心なのか」
「そうよ」
 こうまで言い切るのだった。
「全てを終わらせる。私の死で」
「わかった」
 ポリオーネも遂に彼女の言葉を受け入れるのであった。
「ならば僕も」
「貴方も」
「今はこれ以上は言わない」
 だが。決意した顔であった。
「それだけだ」
「そう」
 ノルマも彼の心がわかった。しかし彼女もあえてそれを言わないのであった。言わないがそれでも。心はようやくつながったのであった。
「しかし嘘だ」
「そうだ、そうに決まっている」
 まだガリア人達はノルマの言うことを信じようとしていなかった。
「こんな筈がない」
「ノルマが」
「そうですよね?」
 恐れる声でノルマに対してまた問う。
「嘘であると」
「そんなはずがないと」
「ほら、御覧下さい」
 誰かが空を指差した。
「穏やかになっているではありませんか」
「そうです」
 見ればノルマの怒りそのままに荒れていた空が穏やかになっていた。荒れ狂う稲妻が消え去り黄金色の月が穏やかな光を放っているだけであった。
「ですからノルマ!」
「お答え下さい!」
「人にはどうすることもできない力に動かされた」
 だが。ノルマの答えは変わらなかった。
「だからこそ」
「何ということだ」
 オロヴェーゾも言葉もなかった。
「こんなことが。ノルマが」
「父上」
「何だ?」
 ノルマの声にまだ我を失いながらも応える。
 
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