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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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EpilogueⅥマイスターだ~い好き❤byアギト&アイリ

†††Sideアギト†††

「はい、マイスター、お茶だよ。休憩しよ~」

「アイリはね、クッキーを持って来たよ~♪」

「ああ、ありがとうアギト、アイリ」

お医者さま兼服飾デザイナー(休業中)兼復興隊(疲労で倒れないか心配)として今日も働くマイスターに、休憩のためのお茶を用意。あたしの後ろを歩いて来たアイリはお菓子を。そんなあたしとアイリは、マイスターに命を救われた融合騎。名前も付けてもらったし、道具じゃなくて家族として迎え入れてくれたマイスターは、あたし達の大切なひと。
今日のマイスターのお仕事は、エリーゼの屋敷跡に建てた木造小屋でお医者さま。モニカとルファは休みだから居ない。同じお医者さまのシャマルは、アンナのお料理教室でお勉強中。そしてマイスターは今、シュトゥラの王子のクラウス殿下から送られて来た手紙を読んでる。

「マイスター、クッキーあ~ん❤・・・・ねえねえ、王子さまからの手紙、なんて書いてあったの~?」

アイリがクッキー1個を摘まんで、あ~んってマイスターの口に運んで食べさせようとした。ピク。あたしのこめかみがひくつくのが判る。あたしだってやった事ないのに。妹に先を越されたぁ、むぅ・・・。

「あーん・・・うん、美味い・・・。手紙の内容か? この前の人体実験施設の調査結果だよ」

「「あ・・・」」

2週間前、あたし達はある施設を調査して、他国から誘拐された子供たちを救出、故郷に送り返した。でも自分の故郷が判らない子や喋れない赤ん坊も居て、そんな子供たちは王都が預かってる。で、その施設を調査することで、その子供たちの故郷を見つけようとしていたんだけど。

「故郷が判明していなかった子供たちだが、調査の結果、全員の故郷が判明したって。今日より送り届けることになったそうだ。あとは、施設の内部調査の結果だが・・・」

マイスターはそこで怒りに顔を歪ませた。それだけで判る。きっと嫌な結果だったんだ。アイリだって「そっか」って話を続けようとしなかった。イリュリアの技術部生まれのあたしとアイリ。生まれ故郷がベルカ共通認識で最悪だとなんか落ち込む。

「ほら、2人とも。あーん、だ」

俯いていたあたしとアイリの口元に、マイスターがクッキーを差し出してくれた。アイリと一緒に「あ~ん」パクッと食べる。うん、アンナのお手製クッキー美味しい~。モグモグしてるところに、ポンって頭に手を置かれて撫でられた。撫でてくれてるのはマイスター。さっきまでの怒り顔はもう無くて、こっちも笑顔になれるような笑顔。

「2人はもう私の家族だ。だからイリュリアの事で気にしなくていい」

「「・・・うんっ」」

それからマイスターと一緒にお茶休憩をして、お仕事を再開。と言っても患者さんは居ないから、備品の確認とかカルテや書類の整理くらいだけど。でも、たったそれだけでも嬉しい。マイスターと一緒に居られる時間が。手伝えて助けになれることが。あたしは棚に収められた薬品や備品の在庫を確認していて、

「マイスター。ここ、殺菌消毒液(エタノール)のところ、何て書けばいいの?」

そしてアイリは机に座って、書類記載の手伝い中。書き方をマイスターに教わりながら書いてる。あたしも昔、モニカやルファと一緒にマイスターから教わった。ふふん、先輩だよ。

「ん? エタノールか。・・・アギト、エタノールの在庫、判るか?」

「あ、ちょっと待って。えっと・・・・」

胸に抱えてる在庫確認の書類をパラパラ捲って、「あまり無いよ、マイスター」在庫状況から見てそう答えておく。マイスターに「ありがとう、アギト」ってお礼を言われて、顔がふにゃあ❤ってなる。アイリはマイスターに言われるままに机に座って書類にカリカリ書いてく。そうやって在庫確認も終わって・・・

「やる事なくなっちゃったね、マイスター」

アイリは患者さん用の寝台の上にうつ伏せで寝転がって両足をパタパタ交互に上げ下げ。あたしはお姉ちゃんとして「アイリ。はしたない」スカートの裾から出る雪みたいに白い肌をした脚をペチッと叩く。

「きゃっ? 何するのアギトお姉ちゃん!」

「そんな足をパタパタさせてると、スカートの中がマイスターに見えるよ。いいの?」

マイスターをチラッと見ながらそう訊く。アイリだって女の子。恥ずかしさくらい持ち合わせてるはずだし。アイリは「う~ん」って唸りながら寝台の上で膝を抱えて座って、両膝の上に顎を乗せた。視線はマイスターに釘付け。そして「うん、いいよ。マイスター、見てみ――ぎゃんっ!?」お馬鹿な事を言いそうだったアイリにお仕置き。持っていた書類の束で頭をバシッと結構本気で一発叩く。

「いっったぁ~~い! マイスターっ、アギトお姉ちゃんがアイリを叩いた!」

「いや、さすがに仕方ないぞ。アイリ。女の子はそんなこと言ったらダメだ。そういうはしたない事を言ったりやったりする娘は嫌いだ」

ほら、マイスターだってそう言ってるし・・・って、「うわぁ~~ん、ごめんなさ~い! 嫌いにならないでぇ~~~!」アイリが大泣きし始めた。あたしとマイスターはビックリ。寝台の上でジタバタ暴れるアイリに、あたしは「アイリ!?」オロオロ。
マイスターも「ならない、ならない! 嫌いにならないから! 大好きだよ、アイリ!」って慌てながら、アイリをギュッと抱きしめた。あ、いいなぁ。マイスターに抱きしめられて泣き止んだアイリは「ホント?」って訊いて、

「本当だとも」

「よかったぁ・・・」

「むぅ。アイリだけずる~~い! あたしも!」

マイスターとアイリに向かって両腕を広げて突進、ピョンと飛び跳ねてマイスターに抱きついた。するとマイスターは「あはは、仕方ないなぁ」ってあたしも一緒に抱きしめてくれた。
それからだけど、アイリはずっとマイスターの服を摘まんで離さなくて、マイスターが移動するたびにちょこちょこついて回ってた。まぁ、あたしもアイリと同じようにしていたけど。だって1人だけ仲間外れってヤだもん。で、その日の夜。マイスターとあたしとアイリの3人部屋で、マイスターが居ない時を見計らって、

「ねえ、アイリ。ちょっといい?」

「なぁにぃ~? アギトお姉ちゃん」

大きくてフカフカな寝台の上に寝転がってるアイリに尋ねる。あの寝台で、あたしは毎晩マイスターやアイリと一緒に眠ってる。今お風呂に行ってるマイスターが戻って来たら、今日もまた一緒に寝るんだ♪

「あたし達って、いつもマイスターに何か貰ってばかりでさ・・・」

「・・・うん。だね。それで? アギトお姉ちゃんは何を言いたい・・って言うより――」

「何かをしてあげたい・・って思ってる。マイスターの事だから何も気にしてないって思うし、気にしないで良いよって言うと思うけど・・・」

マイスターは何かを貰うより与える方だ。アイリも「そうだよね。欲が無いって言うか」って同意してくれる。でも「お礼、みたいな事やりたい」そう強く思う。するとアイリは「じゃあやろう!」って寝台から飛び降りて、鏡台の椅子に座ってるあたしのところに来た。

「でも何をすればいいのかなぁ・・・?」

「そうだよね~・・・」

「「う~~ん・・・」」

マイスターが喜んでくれる事を、アイリと一緒に考える。でも何か答えが出る前に「アギト、アイリ、2人揃って何を唸っているんだ?」マイスターがお風呂から戻ってきた。いつもはサラサラで長い髪だけど今はお湯で濡れていて、マイスターは濡れた髪をタオルで拭いてた。

「アギトかアイリ。すまないけど、櫛を取ってくれ」

「あ、うん」

アイリより先に鏡台の上に在る櫛を手に取って、「はい、マイスター」マイスターに手渡す。あたしに「ありがとう」お礼を言ったマイスターは櫛で髪を梳かしながら、熱の魔導で髪を乾かす。先にお風呂から上がったあたしとアイリにもしてくれた。梳かしてもらっていると、気持ち良くてウトウトしちゃう。

『アイリ。また明日、話して決めよう』

『うん』

思念通話でアイリとそう決める。そういうわけで今日は、

「お休み。アギト、アイリ」

「「お休みなさ~い♪」」

寝台の上。マイスターが中央、あたしは右、アイリは左に並んで眠る。みんなが良い夢を観れますように。そして明日も良い日でありますように。

†††Sideアギト⇒アイリ†††

チュンチュンって小鳥の鳴き声で「んにゅ・・・?」目を覚ました。目元を手の甲で擦りながら「マイスター・・」いつものようにマイスターにしがみ付きながら眠ってた体を起こす。アイリの反対側にはアギトお姉ちゃんが眠ってて、アイリと同じようにマイスターにしがみ付いてる。

「マイスター? 眠ってるね。それじゃあ・・・」

マイスターより早く起きた時、アイリは内緒で「チュウ❤」マイスターの頬に口づけしてるんだよね。アイリ達プロトタイプ融合騎の三番騎、ドライお姉ちゃんが言っていた。大切な人(たぶんロードかマイスターの事だと思うんだよね)が出来たら、自分がしてほしい事をしてあげなさいって。頬に口づけすると、マイスターのまぶたがピクって動いたのをすぐに察知。目を開ける前に唇を離す。

「ん・・・アイリ・・・。おはよう。最近は本当に起きるのが早いな。早起きは良いことだ」

「あぅ・・・マイスター・・・アイリ・・? おはよう・・・」

「おはよう、マイスター、アギトお姉ちゃん」

起きちゃったね。でも気付かれてないみたい、よかった。朝起きて最初にするのは着替え。そしてすぐ後に「んにゅ♪」マイスターに髪を櫛で梳いてもらうこと。梳いてもらった後は、「よしっ。もういいぞ、アイリ」頭の上にリボンを結んでもらう。

「マイスター、マイスター。アイリ、可愛い?」

「ああ、可愛いとも。次はアギトだ。おいで」

「はぁ~い♪」

鏡台の椅子をアギトお姉ちゃんに譲る。あ、そうだ。良いことを思いついちゃった。マイスターに髪を梳かれてウットリしてるアギトお姉ちゃんに、『マイスターの髪、梳こうよ!』そう提案してみる。

『それ、すごく良い! じゃああたしが――』

『あ、やっぱりアイリがひとりでやる! アイリの提案だもん、譲れないよ!』

『う゛っ。・・・うん、判った』

このお礼だけは譲れないよ。アギトお姉ちゃんを梳き終わって髪を結ったマイスター。すかさず「マイスターの髪、アイリが梳かしてあげる!」って、自分の髪を梳こうとしてるマイスターに提案。

「え?・・・・それじゃあ、お願いしようかな」

マイスターから櫛を受け取って、椅子に座ってアイリに背中を向けたマイスターの髪に櫛を立てる。サッサッと髪に櫛を通す。枝毛も無くて、すっごくサラサラ。「ふんふふ~ん♪」鼻歌を口遊みながら梳いていると、

「やっぱりあたしもやりたいっ!」

「ちょっ・・・!?」

アギトお姉ちゃんが櫛を奪おうとしてきた。でも「ヤだ!」取られないようにアギトお姉ちゃんと取っ組み合う。

「こらこら。ケンカはダメだぞ、2人とも。仲良く2人ですればいいじゃないか」

「ヤーだ! アイリがマイスターの髪を梳いて、結うの!」

「ちょっとくらいあたしにもやらせてくれてもいいじゃん!」

櫛の取り合い。奪われないように必死に抵抗しながらマイスターの髪を梳かす。なのにアギトお姉ちゃんは「ちょっとだけでも!」諦めてくれないんだよね~。

「おーい。もう自分でやるから櫛を渡し――でっ!?」

「「あ」」

取っ組み合いを止めて、つい力み過ぎてマイスターの頭に刺しっちゃった櫛を眺める。マイスターは自分の頭に刺さった櫛を抜いて、「アギト。アイリ」そう低い声でアイリ達の名前を呼んだから、「はい・・・」ビクッとしながらアギトお姉ちゃんと一緒に応える。
俯いているところに、頭に手が伸ばされたことが判ってまたビクッてなる。叩かれる。怒られる。嫌だ。そんなのヤだ。マイスターに嫌われたくない。不安になっていると、「ありがとう」マイスターはお礼を言って、アイリとアギトお姉ちゃんの頭を叩かないで撫でてくれた。

「「マイスター・・・?」」

「でも、ケンカしないでくれ。2人がケンカすると悲しい」

「「・・・うんっ!」」

最初のお礼は失敗だった。それから一緒に顔を洗って歯を磨いて、朝ごはん。アイリの生きてる楽しみの1つだね。食堂に着いた時にはもうみんなが揃っていた。長方形の食卓で、長辺の右側の奥からシグナム、ヴィータ、シャマル、シュリエル、ザフィーラ。左側の奥からエリーゼ、アンナ。空いている席に、マイスター、アギトお姉ちゃん、アイリって順に座って、上座にこの屋敷の主ターニャ。

(ここでも何かお礼できないかなぁ・・?)

食卓に並べられた何枚もの皿に乗ってるおかずの数々を見る。とそこにアギトお姉ちゃんがマイスターの取り皿を取って、「マイスター、おかず何にする?」って訊いた。あ、やられた。アギトお姉ちゃんがアイリをチラって見てきた。むぅ、なんか腹立つね。

「アイリも取ったげるっ。マイスター、なに食べた――」

「アイリはいいよ。あたしがやるからさ♪ マイスター、どれ?」

「くぅ・・・」

さっきは取り合いでマイスターを悲しませちゃったから、ここは引き下がるしかないよね。仕方なく椅子に座り直す。と、『なあ。お前ら、なに張り合ってんだ?』向かいに座るヴィータから思念通話。

『アギトちゃんとアイリちゃん。ケンカはメッよ? オーディンさんが悲しんじゃうわ』

『今ではもう我らはセインテスト家の一員だ。家主たるオーディンを悲しませるのは良くない』

『判ってるよ』

結局、朝ごはんはアギトお姉ちゃんの独壇場だったね。アイリに一度も何もさせようとしなかったしね。でも、今からはそうはいかないよ。今日は一日お休みなマイスターとアイリ、そしてアギトお姉ちゃん。お休みの日でもマイスターは体を休ませずに何かしらやってる。その手伝いをしよう。

「さて。午前中は、屋敷の掃除だな」

「「手伝う!」」

アギトお姉ちゃんと一緒に挙手。視線に、絶対に負けない、って思いを籠める。なんか目的がおかしくなってる気がするけど、今はアギトお姉ちゃんよりマイスターの役に立ちたいんだよね。大理石の廊下に敷かれていた絨毯を丸めて退かしたマイスターはちょっと考えて、

「そうか。じゃあ窓拭きを頼もうか」

「「ヤヴォール!」」

マイスターから雑巾も一緒に受け取った瞬間、アイリとアギトお姉ちゃんは二手に分かれる。任された場所はターニャ邸の二階。そこはアイリ達グラオベン・オルデンが過ごしている部屋が在る階だね。長い廊下の端まで走って、その端の窓から順に「うりゃぁぁぁああ!」濡らした雑巾で拭いて行く。ターニャ邸の窓は全部両開き窓。窓1つに2枚のガラス。全部合わせれば22枚。それを中央に向かって拭いて行く。

「1枚でも多く、多く、多く!」

アギトお姉ちゃんも「おりゃおりゃおりゃーーー!」って少しずつ中央に向かって来てるね。

「アイリが勝つんだもんね!」

「勝つのはあたしだよっ!」

「おーい。ケンカはダメだって言ったぞ~」

モップで廊下を拭くマイスターにそう言われた。でもこれは・・・

「「これはケンカじゃなくて女の戦いなんだよ!」」

「どこでそんな台詞を覚えてくるんだ?」

残る窓は中央の1つ。ガラスは2枚。先に拭き始めた方が有利だよね。視線は窓にのみ。アギトお姉ちゃんもそう。だから2人して気付かなかった。

「「えっ――きゃん!?」」

アギトお姉ちゃんと一緒に床に置いてあったバケツに蹴躓いてすっ転んだ。

「「冷たっ!」」

倒れたバケツから零れちゃった水の真上に転んだから、「あぅ~」服がビショビショになっちゃった。後ろの方から「言わんこっちゃない」ってマイスターの呆れ果てた声が聞こえてきた。アギトお姉ちゃんと一緒に急いで立ち上がる。

「片づけと残りは私とアンナでやるから、2人はもう手伝いはいいから外で遊んでおいで」

「「え・・・はい・・・」」

「あと、風邪を引いたらいけないから着替えるように」

事実上のクビ宣告。言われたとおり自室に戻って着替えてから、ガックリと肩を落として屋敷の外に出る。口から出るのは「はぁ」大きな溜息だけだね。中庭に設けられている長椅子に座って、青空を見上げながら呆ける。お礼どころか邪魔ばっかりして。このままじゃダメなのに、何かをやろうって考えたらまた失敗するかもしれないって思えて怖い。

「やあやあアギトちゃん、アイリちゃん。2人してどうしたの?」

「「ターニャ」」

服飾店の店主の仕事に復帰した(最近知ったことだけどね)ターニャが声を掛けてきた。アイリ達はターニャに今までの事を話した。マイスターにお礼をしたいこと。でも上手くいかないことを。ずっと黙って話を真剣に聴いてくれたターニャは、マイスターのようにアイリとアギトお姉ちゃんの頭を撫でて「良い子だね2人とも」って褒めてくれた。

「ディレクトアは、一度か二度の失敗くらいで2人を嫌いになるわけないじゃないよ。でも、ちょっとダメなところもある。それが何か解るよね?と言うより、最初から解ってた・・・?」

「あたしとアイリが競い合った事・・・?」

「だよね、やっぱり・・・」

マイスターの手伝いをして、お礼をしたい。それだけで良かったのにね。だけど一番になりたくて。アギトお姉ちゃんより褒められたいって。マイスターの為だったのがアイリ達自身の為になってた。

「そもそもディレクトアは誰が一番とか選ばないし。長所で短所だな~。コホン。で、あの人にとっては誰もが一番大事で、大切で、大好きなんだよ。さ、仲良くお礼をしておいで。そう難しく考える事なく、どんな小さなことでも良い。きっとディレクトアは、そういう事だけで十分に嬉しいはずだから」

「「うんっ!」」

ターニャに言われたとおりアイリとアギトお姉ちゃんはただ、マイスターの喜ぶ顔をみたいために頑張ったよ。
アイリ達は掃除の手伝いを再開して、窓拭きだって廊下のモップ掛けだってやって、お昼ごはんや夜ごはんの時には、食卓にお皿を運んだり皿洗いとかの後片付け(3枚ほど割っちゃったけど)もしたし。そうしたらマイスターに、偉いぞ、ありがとう、さすがは私の家族だ、ってたくさん褒めてもらっちゃった・・えへへ❤
そして・・・・

「ねえ、アイリ。本当にやるの? あたし、恥ずかしいんだけど・・・」

「ターニャが言ってたよね。お風呂の時こそ、お礼の最大の機会だって」

アイリ達を助けてくれたターニャは言ってた。女の子に背中を流してもらうのが、男の夢だって。マイスターは男。だったら女の子のアイリ達に背中を流してもらったら絶対に喜ぶはずだよね。と言うわけで、ターニャ邸の浴場に来てるの。エリーゼの屋敷は男女別々の露天風呂だったって聞いたけど、ターニャ邸は男女一緒の木(高級木材らしい)の浴場。マイスターの入浴時間は午後10以降。それまでは女の子の時間だって決まりがある。

「はぁ。ターニャの言う事ってあんまし信用できないんだけど・・・」

「そう? アイリ、ターニャの話は面白いと思うんだけどね」

「エリーゼには、ターニャの話は信じないようにってよく言われたよ」

「ふ~ん。でもアイリはアイリがしたいようにするだけだよ」

同時に5人くらいが入れる脱衣場の壁に設けられた棚に在る籠の中に、「よいしょっと」脱いだエプロンドレスや髪から外したリボンをバサッと入れる。下着は女の子専用の洗濯籠の中にポイ。そして浴場と脱衣所を仕切っているガラス戸を開けようとした時、

「ちょっと待ってアイリ! タオル! タオルを体に巻いて!」

「ええー? なんで?」

アギトお姉ちゃんが体を隠すように広さのあるタオルを巻いてた。アイリは別に気にならないから「アイリ、要らな~い」無視して浴場に入ろうとしたら、

「忘れたの? マイスターは、はしたない子がキラ――」

「巻かせていただきます」

アギトお姉ちゃんからタオルを引っ手繰って体に巻く。そしてガラッとガラス戸を開けて、「マイスターっ!」って桶でお湯を掬って体に掛けてるマイスターに声を掛けた。

「うおっ!? アイリ!? それにアギトまで! 何をしている!?」

驚いたマイスターがアイリ達に背中を向けた。そんなマイスターの背中に向かって、えっと・・なんだったっけ・・・あ。思い出した。

「ご主人様~♪ お背中お流ししま~す❤」

「し、しま~す・・・。ぅく、恥ずかしい・・・」

しなを作って、ターニャに言われたとおりの台詞を言う。アギトお姉ちゃんは恥ずかしがってばかりで、タオルが落ちないように必死。怪訝そうなマイスターは腰にタオルを巻いて、「???・・・・あっ、ターニャの仕業だな」納得したように頷いた。

「本日最後のアイリ達のお手伝いなの。マイスター、アイリ達に背中を流させてね・・・?」

「アイリはともかく、アギト・・・耳まで真っ赤にして。なあ、アギト。ターニャの戯言に付き合わなくてもいいんだぞ」

「うぅ・・・ううん。ここまで来たらやるっ、やってやる!」

ようやくやる気を見せたアギトお姉ちゃん。あとはマイスターの許可だけだね。

「・・・今さらダメだと言っても引き下がらないって顔だなアイリ。判った。それじゃあ頼むよ」

「ヤヴォール♪」「ヤ、ヤヴォール・・・」

マイスターがそう言いながら長い後ろ髪を頭の上で結んで、鏡の前に置かれていた風呂椅子に座った。アイリとアギトお姉ちゃんはタオルと石鹸を擦り合せて泡立たせて、マイスターの背中をゴシゴシ洗う。

「んしょんしょ。マイスター、気持ちいい?」

「ああ、気持ちいいぞ。・・・誰かに背中を流してもらうなんて、いつ以来だろう・・・」

「アイリが家族になるまでは、エリーゼやシグナム達にしてもらってたんじゃないの?」

「あはは。さすがに彼女たちと一緒に風呂に入るのは勘弁だな。落ち着きたい風呂で落ち着けないのは酷だよ」

「そうなんだぁ・・・。アギトお姉ちゃん、桶にお湯を汲んできて」

「う、うん」

「マイスター。今度は前を洗――」

背中を洗ったから次は前を洗おうと思ったんだけど、「前は自分でやる」マイスターにきっぱり言われちゃった。もう一度「前を――」最後まで言うことが出来ないまま、「ダメだ」また断られたから、しょうがなしに諦める。

「ん。アイリ」

「ありがとー♪」

アギトお姉ちゃんが汲んで来たお湯で泡を洗い流した。えっと、次が・・・「髪の毛を洗うね」お湯に濡れてキラキラ輝く銀色の髪を見る。

「髪もか? じゃあ解かないとな」

「うん。っと、洗髪剤を手に取ってっと・・・」

「あ、髪はあたしが洗う。アイリはもういいよ。自分の体や髪を洗ってて」

いきなりアギトお姉ちゃんが洗髪剤を横取りしてきた。アイリ自身の髪や体を洗えって言われたけど、アイリ、自分の髪を洗えないんだよね。いつもはシャマルやシュリエル、エリーゼやアンナとかにも洗ってもらうんだけど、今日はもう洗ってくれる人が・・・あ。

「マイスター、アイリの髪の毛、洗ってくれる?」

「ん? はは、アイリの髪も結構長いからな。いいよ。それじゃあ先に体を洗っていてくれ」

「うんっ」

タオルを泡立てて右腕からゴシゴシ洗い始めたら、「アイリばっかりズルい」アギトお姉ちゃんが文句を言ってきた。するとマイスターは「アギトも自分で髪を洗えないのか? なら洗ってあげよう」って言った。確かアギトお姉ちゃんって自分で髪を洗えたはずだけどね。でもそれを言ったら後が怖そうだから、言わないでおこうっと。
それからマイスターに髪を洗ってもらって、アイリとアギトお姉ちゃんはとっても満足なのでした♪
今日、アギトお姉ちゃんと一緒に色々やってみて判ったことは、アイリはとっても幸せだってことだね。これからもこんな楽しい時間が送れると思うと、アイリはすっごく嬉しい♪

「マイスター」

「うん? どうしたアイリ?」

「アイリね、マイスターの事がだ~い好きっ❤」

「あ、あたしもマイスターのこと、大好きだからっ!」

「・・・・ありがとう、アギト、アイリ。私も2人が大好きだよ」

ドライお姉ちゃん。アイリとアギトお姉ちゃんは今とっても幸せだよ。

†††Sideアイリ⇒オーディン†††

「「すぅすぅ・・・」」

ベッドの上で静かに寝息を立てているアギトとアイリを眺める。今日は一日手伝いを頑張ってくれたからか、布団を被ってからそう時間が立たずに眠った。

「今日はお疲れ様」

眠っている2人に労いの言葉を掛けつつ、開け放たれた窓枠に腰掛けてホットミルクを飲む。今日は月が明るい。窓から吹き込む温かな風に靡く後ろ髪を押さえ、あとどれくらいこのままの生活を送れるかを思う。
イリュリア戦争が終結してから2ヵ月と少し。ベルカの反対側では今もなお戦争を続けている国が在ると聞く。イリュリア戦争の影響下にあって、なおかつシュトゥラの戦力(実質私たちグラオベン・オルデン)の反攻を恐れている国々は今、ほとんどが休戦状態。

「私が居なくなったら、また戦争が起こるんだろうな・・・・」

そう思うと、やっぱり残りたいという気持ちが僅かながら生まれる。だが、この先で起こるであろう聖王戦争には手が出せないため、結局は消えるべきだという結論に達する。私は消え、シグナム達は転生し、アギトとアイリはエリーゼ達に託す。アギトがルーテシアに逢えるかどうかには不安が残るが。問題はアイリだな。私の知る未来の次元世界にはこの子は居ない。別の戦争で、もしくはイリュリア戦争で死ぬ予定だったんだろうか・・・?

「少しずつだがベルカの歴史は変わってきている。きっとアイリだって生き残れるはずだ」

そう思う事しか出来ないのが腹立つ。しかし、それしか出来ないのが現実だ。ホットミルクを飲みほして、無理にでも乱れそうな精神を保たせる。

「なあ、神よ。どうして私にこのような人生を与えた?」

答えの無い問い。だから返答なども考えない。だが、


「それが、お前の運命だったからだ」


「っ!!??」

外から聞こえてきた、私がよく知る声。窓枠から外へと飛び出し、剣翼アンピエルを発動。夜天へと飛び立つ。先ほどの声の主はすぐに見つかった。ソイツは満月を背にし、ワインレッドのオールバックの髪を風に靡かせ、緋色の双眸で私を見下ろしていた。

「バンヘルド・・・!」

完全自立稼働人型魔道兵器・“戦天使ヴァルキリー”の第一世代ブリュンヒルデのシリアル03、炎暁(えんぎょう)の槌、バンヘルド・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア。
私が救うべき子供の1人が、背中より放射状に広がるクジャクの尾羽のような20枚の翼――エラトマ・エギエネスを月明かりに照らさせ、

「神器王。約束の時は来た」

そう短く宣戦布告をした。



 
 

 
後書き
グーテン・モルゲン、グーテン・ターク、グーテン・アーベント。
ようやくここまで来れました。第二次堕天使戦争の第二戦。
もう少しベルカで日常をやりたいなぁとは思いますが、今後のエピソードのネタを減らすわけにもいかず断念。
それとですね、もしかしたら一話追加するかも知れませんことを今のうちに宣言しておきます。
あくまで、もしかしたら、ですが。残り2話の文字数の結果如何ですね。
 
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