ソードアート・オンラインーツインズー
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SAO編-白百合の刃-
SAO4-赤い糸
「貴女、ギャルゲー好きで女好きの変態だったのね」
「!?」
それは唐突過ぎたことだった。
第七十四層の迷宮区へと続く森の小路を歩いていた途端に、ドウセツがいきなりぶっこんできた。それはもう、人の脇腹を刺すように。
「ナ、ナンノコトデショウカ?」
「言葉が片言になっているからにして、本当みたいね」
「ソ、ソンナコトナイ」
「直ってないわよ」
な、何故だ! ドウセツが何故そのことを知っている!? 出会ってから一言もそんな話題を出した覚えもなければ、仕草もしてない……はず! 第一、私がギャルゲー好きなんてわかるはずもないのになんで知っている。つか、どこで知って、どうやって知ったんだよ!
その疑問を訊ねることなく、ドウセツが教えてくれた。
「昨夜アスナから来ていたメールにはそう書かれていたわ」
「あぁー……なるほど、なるほど!?」
納得しかけたけど、それもおかしな話だ。なんでアスナがギャルゲーをやっていることを知っているんだ。それこそ、アスナにそのような話をすることなんてなかった。
そもそもの話、私の趣味を知る人なんて兄だけが知って……あ。
「……ねぇ、ドウセツ。メールの内容に、キリトの三文字入っていた?」
「入っていたわ」
なんでアスナが私の趣味であるギャルゲーを知ったのかが解明された。そうだ、この世には、私がギャルゲー好きなことを知っているのは兄しかいない。答えは簡単だ。兄が私のことをアスナに話して、アスナはドウセツにメールして教えたんだ。
後でたっぷりと仕返しをしよう。そうだ、アスナには兄の恥ずかしい過去を話そう。それくらいは問題ないし、アスナも兄のことを知りたいと思うからありがたいことだよね? それくらい言っても文句ないことなんだから、攻略が終わったらドウセツに頼んでメールで送ろう。
「それで、何で貴女はギャルゲー好きなのかしら? あれは現実逃避する男子がやるものでしょ?」
「そんなことないと思うよ?」
とりあえず私がギャルゲー好きなのを話すことにした。
「たまたまイラストの絵がめちゃめちゃ可愛いキャラに魅力されてさ、それがギャルゲーだったから試しに買ったんだ。そしたら見事にドハマりしちゃってさー、それからかな? 女の子可愛いは正義! なっちゃいました!」
「キモい、変態、末期」
「ちょっ、ちょっと! なんなのその三連続罵倒は! 別に女の子とイチャイチャすることって、同性同士の特権だと思わないの?」
「なら、女の子同士のイチャイチャの範囲は?」
「無制限!」
「近寄らないで、襲われたらたまったものじゃないわ」
「そんなモンスターみたいな扱いしないでよ!」
「違うわよ。貴女は犯罪者」
「まだ何もしてないじゃない!」
「まだってことは、いずれするのね。この未来犯罪者」
「言葉のあやだって! 本気で嫌がることなんてしないから!」
「信じられないわ」
私を避けるように、一人で勝手に行ってしまうので離れないように後を追いかける。変に誤解しているから、解こうと
「ドウセツ?」
こちらに寄るように発して、手で招く。
ドウセツは悟ってこちらに寄り、メイルメニューからマップを呼び出しては可視モードにしてドウセツにも見えるように設定した。
素敵可能範囲ぎりぎりにプレイヤーの反応があり後方に視線を集中すると、プレイヤーの存在を示す緑色のカーソルがいくつも連続的に点滅する。
ちなみに、後方にはキリトの反応もあったけど今はいいや。
「オレンジじゃないから犯罪者プレイヤーの集団じゃない……なら、集団の人数と並び方……」
「並び方には特徴する“あれ”しかないわよ」
「やっぱり“あれ”?」
マップの端近くをこちらに向かってかなりの速度で近づいてくるその光点の群れは、整然とした二列縦隊で行進してきた。
レベルも名前も表示されない、プレイヤーキルと言う殺人を防ぐデフォルト仕様なのはわかるけどそのせいか、直接確かめなければ正体はわからない。
たいしたモンスターのいないところで、きっちりした隊形をとるのとか、少ない情報でもわかるが……。
「念のため確認したいから、隠れてやり過ごさない?」
「そうね……あの茂み中で隠れましょう」
「うん」
「どさくさにまぎれてセクハラしたら追放するわよ」
「しないって」
マップを消し、ステータスウィンドウの装備フィギュアを操作、深緑色のロングマントと装着して道に外れた緑の茂み陰にうずくまった。
私の服装では目立ちすぎるから、茂みの色に合わせた深緑色のコートが役に立つ。隠蔽ボーナスが高く、隠蔽条件を満たせば、よほど高レベルの索敵スキルで走査しないかぎり発見することは難しい。ただし、このマントは耐久力もそれなりに高いのか、重くて移動しにくいため普段は着用しない。
ザッザッと規則正しい足音がかすかに届きはじめ、やがて大きくなる。
全員が剣士クラス。お揃いの黒鉄色の金属鎧に濃縁の戦闘服。全て実用的なデザインだが先に立つ六人の武装は片手剣。後衛六人は巨大な斧槍。計十二人がヘルメットのバイザーを深く降ろしているため、表情を見ることは出来ない。恐ろしいほど、そろった動きはシステムが動いているように思わせてしまうような行動。彼らは、基部フロアを本拠地とする超巨大ギルド――――『軍』
文字から読み取れるイメージ通りなのか、軍は決して一般プレイヤーに対して敵対的な存在ではない。犯罪行為の防止を最も熱心に推進している集団ではあるが……方法が過激で、オレンジ色のカーソルのプレイヤーを発見次第問答無用で攻撃し、投降した者を武装解除しては本拠である黒鉄宮の牢獄エリアに監禁していると言う話。投降せず、離脱にも失敗した者の処遇に対する恐ろしい噂も耳に入っている。あと、常に大人数のパーティーで行動し狩場を長時間独占してしまうこともあって、一般プレイヤーの間では『軍には極力近づくな 』と言う共通認識が生まれていた。
十二人の重武装戦士の軍は、ガシャガシャっと鎧の触れ合う金属音と重そうなブーツの足音を響かせながら整然と行進し、深い森の木々の中に消えていった。
「行った?」
「行った」
マップで軍が索敵範囲外に去ったことを確認し、茂み中なから出る。
「どうやら噂は本当みたいね」
「噂?」
「アスナから聞いた話だと軍が方針変更して上層エリアに出てくるらしいのよ。なんか元々は軍もクリアを目指す集団だったはすが、二十五層攻略の時、大きな被害が出てからクリアよりも組織強化って感じになって前線に来なくなった。それで最近内部に不満が出ているらしいみたいよ」
二十五層は嫌でも覚えているよ。二十四層までのボスよりも遥かに強くて、でかく、破壊力が凄まじく、多大な犠牲者が出たんだから……。
「それで、前みたいに大人数で迷宮に入って混乱するよりも、少数精鋭部隊を送って、その戦果でクリアの意思を示すって言う方針になった様子。その第一陣がそろそろ現れるだろうって報告よ」
「実質プロパガンダなのかな? でもさ、いきなり未踏破層に来て大丈夫なの?」
「ボス攻略狙っているじゃない? あの人達がどれだけ賢いのかバカじゃないのかは知らないけど」
各層の迷宮区には上層へと繋がる階段を守護するボスモンスターが必ず存在する。一度しか出現せず、恐ろしいほどの強さを誇るが、倒した時の話題性は抜群で宣伝になるとか……。
「だからあの人数……まさか、いきなりボス戦とかないよね?」
「賢いならね」
「いや、いきなりボスに挑むほど無謀じゃないんだと思うけど……」
一か八かで挑んでも倒せるようなボスじゃないはず。それに、ほとんどボスとの戦闘をいきなり挑んで精神的に大丈夫なのかな?
「とりあえず、私達は私達で進も」
もうすでに半日を迎えてきた。私はマントを外し、マップに気を配りつつ、可能な限りのスピードで進む。草原の向こうにそびえ立つ巨搭、赤褐色の砂石で組み上げられた円形の構造物。第七十四層の迷宮区の入り口を目指した。
●
「さっそく、出たわね」
七十四層の迷宮区の最上部近くで『デモニッシュ・サーバント』と言う、骸骨の剣士のモンスターと遭遇した。身長ニメートルを超える不気味な青い燐光をまとい、右手に長い直剣、左手に円形の金属盾を装備している。隙が多いが、骸骨のくせに恐ろしいほどの筋力を持っている。
「よし、ここはお久しぶりの『スイッチ』で……って、ドウセツ?」
『スイッチ』とは、パーティーの戦闘中、高度な連携が要求されるテクニック。例えば、私が突進系のスキルでモンスターはガードされてしまうが相手はわずかな隙を作ったことで、すぐに攻撃に転じることが出来ない。その間にドウセツが強い技で攻撃する。
つまり、わざと戦闘中にブレイク・ポイントを作り出し交代するのが『スイッチ』である。
ソロはそれができないので、二人以上のパーティーはそれが強みで、確実に生き残る方法の一つでもある。それをやろうと提案したのに、ドウセツは無視してゆっくり優雅に相手に近寄る。武器も構わないで、モンスターに背を見せ、後ろ歩きをしていた。
私のことをバカバカと連呼していたが、ドウセツの行動は人のこと言えない程のバカな行動であった。
「このっ……ドウセツ!」
さっきまで落ち着いた態度だと思った途端に、彼女らしくない行動。それはあまりにも予想外過ぎて何を考えているのかはわからない。いや、わかりたくもなかった。
私は地面を強く蹴りだし走り出す。だけど異様な雄叫びとともに、骸骨の剣が青い光を引きながら立て続けに打ち下ろされた。
四連続技『バーチカル・スクエア』がドウセツを襲う。
「ド」
飛び込んで助けようとして駆け寄るとしたが、私は踏み出した足を止めてしまった。
武器無しで余裕すぎた姿勢、そして後ろ向きでモンスターに近寄るに対してドウセツは“予測”であり、“自然”な動きで完璧に回避に成功したのだ。
驚くのはそこだけじゃなかった。その流水のようで“自然”に動く動作を私が一番知っているのだから。
四連続最大の大振りをかわされた『デモニッシュ・サーバント』がわずかに体制を崩した瞬間、先ほど余裕すぎた姿勢から一転。“居合い”のような構えをして疾風の如く、目に見えないほどの速さで二回振り、六つの剣閃を走らせる『爪刃』が見事に全弾ヒットし、ガイコツのHPバーが減少する。
おかしい。ドウセツがなんで“あれ”を使用できたのかに謎を持つが、目に見えないはすの数字が見えるのが不思議でたまらなかった。まるで“技を知っていたような感覚”。一体、何が起きているって言うの?
謎はあるけど、流石なところは相変わらずあった。二つ名の『漆黒』を呼ばれているのは、容赦とか『裏切り者』とか『閃光』のアスナに対するものだけではなく、エクストラスキルのカタナスキルを上位と言うべきか、極レアなスキルで一人専用のスキル、『ユニークスキル』の一つでもある『居合い』のスタイルが決定的だろう。もっと言えば抜刀と呼ばれる捌きは、神速とも呼ばれる速さで一回斬られたと思いきや、五回以上斬られたと悟られてしまう動作。その強さ、その速さは知れ渡れ、今や彼女を知らない人はいないだろう。
個人的な感想としては前より速くなっているような気がした。レベルの問題もあるけど、相手は全く歯が立たない状態でいた。ソロでも十分行けるのが、ドウセツを見てよくわかる。今のところは何も心配しなくてもいいってことかな。
「ん?」
あ、あれ?
何で、何で……何もしてないのに……勝手に……自分のHPが減っている?
「ねぇ、ちょっと」
原因不明のHP減少は、とりあえずまだ心配する必要ないので、戦闘しながら私のことを呼ぶドウセツに返事をした。
「ちょっと、他所見して大丈夫なの?」
「とりあえず私が隙を作るから、走ってなんかやりなさい」
「人の話聞いているの!?」
「いいから」
「わ、わかったわよ……」
一体何をしようとしているのかなんて、微塵もわからないがドウセツに考えがあって、それを実行するには私が必要なのね。絶好のチャンスだと思い、さっきの回避を警戒しつつ水平斬りを放つ。だがそれすらもドウセツはまた、先ほどと“同じ”ように“自然”に動き、横へと回避した。
『デモニッシュ・サーバント』に隙ができる。そこを見逃さず、大技で仕留めるために距離を縮めた。
嵐が吹き荒れるような効果音と琥珀の光輝と共に大きく振り下ろす、『豪嵐』で骸骨の頭部から腰あたりまで食い込み、糸が切れたように乾いた音を立てて崩れ落ちた。
「フゥ……」
いつものように刀を回して左腰の鞘に修める。
さてと、戦闘が終了したとこで、いろいろと話を聞かせてもらいましょうかね。
「ねぇ、ドウセツ。いくつか質問あるんだけどいいよね? 私に聞く権利あるんだし」
「そうね」
意外に彼女は答えてくれるそうだ。いや、私が勘づいているのを悟っているから、隠す必要がないんだと言うことでしょうね。
「何で相手の行動を見ずに“簡単”に回避出来たの?」
普通なら、背を向けてタイミング良く回避することなんてほぼ不可能。背中に目でもない限りタイミング良く回避できない。
でも、私はそれができる。ただし、それは一回しか使えないものであり、私の強みである。それこそ、特殊過ぎるスキルは『ユニークスキル』と呼ばれるもの。
「なるほどね。ただ単に回避が上手なだけではなかったのね。使わせてもらったわ。貴女の補助用ユニークスキル、『絶対回避』」
『絶対回避』これを使うと、脳に未来予知のシミュレーションが浮かび上がると同時に足が勝手に当たらない範囲まで動いてしまう。それがどんな体制でも、どんな攻撃でも絶対に回避が出来る。先ほどのように、ドウセツは背を向けていたとしても、『デモニッシュ・サーバント』に『絶対回避』を使用したから、簡単に回避することができた。更に言えば、目を閉じても『絶対回避』を使えば回避することはできるようになっている。
ただし、そのような回避が出来るのは対象となる相手が一人に対して一回だけしか使えない。複数相手なら複数分使えるが、一人に対して二回以上使えないのが欠点。だから私は、あえて隙を作って相手が大技で仕留めようとしてくる時に『絶対回避』で逆に隙を作り、大技で仕留めるカウンター方式で使用している。
「使ってみて思ったけど、貴女の持つ強み、下手に仕様したら逆にカウンターをくらう可能性があるから気をつけたほうがいいわね」
「やっぱりそう思う?」
「えぇ」
『絶対回避』はその技に対して、絶対に回避出来たら終了となる。隙のない技で誘い、そこに僅かな隙が出来て、そこを突けられたら終わりかもしれない。
おそらく、これからは使用する駆け引き気が難しくなる。肝に銘じるとして、次の疑問を訊ねることにした。
「それでさ。『絶対回避』は一人に対して、一回しか使えないの。何で一体の“『デモニッシュ・サーバント』に対して“二回”も使えたの?」
他所見していた時に明らかに『絶対回避』をもう一度使用していたのは経験からしてわかった。逆にびっくりしすぎて私はあんまり考えてはいなかったけど、翌々考えてみるとやっぱりおかしい。
私でも無理だった一人に対して二回使用できる方法を私は知りたい。ドウセツはどうやって使ったんだろう。
「左小指を見て、スキルウィンドウを開いたら?」
「左小指って、何これ!?」
左小指には赤い糸”が結ばれていて、糸の先にはドウセツの左小指に繋がっていた。
「これって、もしかして運命の赤い糸!? ってことは、ドウセツは私のこと」
「それは『赤い糸』貴女と同じ、『絶対回避』に入るユニークスキルよ」
あ、スルーする方向ですか、そうですか……って、ちょっと待った!
「ユニークスキル二つも持っているの!?」
十種類以上知られているエクストラスキル。これは『カタナ』も含まれていて、ある程度修行していれば使えるようになる。そして、エクストラスキルのほとんどは最低でも十人以上が習得に成功しているはずだ。
そのエクストラスキルの上にあるのが『ユニークスキル』というかなり珍しい極レアスキルが存在する。簡単に言えばオンリーワンのスキル。私場合は『絶対回避』。私だけしか使えない、私だけの専用スキル。
『ユニークスキル』のことは実際、それほど良くわからないが、少なくとも『絶対回避』、『居合い』スキルが他のプレイヤーが使っているところは見たことないし、聞いたこともない。それなのに、ドウセツは二つの『ユニークスキル』と私の『ユニークスキル』を使えている。
「そういう貴女だって、二つの『ユニークスキル』持っているじゃない。『白百合』のキリカとしてはどうなの?」
「いや、その通りなんだけどさ、『赤い糸』ってなんなの? ドウセツが『絶対回避』を使える理由になるの?」
「貴女のスキルを見たら? 全てわかるわよ」
ドウセツの言う通りに、スキルウィンドウを開いて見てみる。そこに表示されていたのは、習得していないスキルがいつのまにか習得されている。そこ中には、ドウセツの『ユニークスキル』である、『居合い』と『赤い糸』もあった。
ど、どういうこと? なんでドウセツは私のスキルを使えて、私はいつのまにかドウセツのスキルを習得していたの?
「理解した?」
「全然!」
「バカなの?」
「普通は誰だってすぐに理解できないわよ! つか、教えてくれないの!?」
「『赤い糸』は指名した相手に赤い糸を結び、スキルをコピーし共有させる能力。これによって『絶対回避』が『デモニッシュ・サーバント』に二回使えたのよ」
「え、えっと……」
「もっと言えば、二回目の『絶対回避』は貴女から使用したものよ。さっきの戦闘ではもう貴女は『絶対回避』は使用できないようになっているわ」
「そ、そうなの?」
「理解した?」
え、えっと……。習得していないスキルは、実はドウセツが習得していたスキルであって、そうなっているのはドウセツの『ユニークスキル』である『赤い糸』の効果によるものになっている。ドウセツは私からコピーした『絶対回避』と私の分の『絶対回避』を使用したから、『デモニッシュ・サーバント』に二回使えたのか。つまりこれは私も『居合い』スキルが使えることになるし、『赤い糸』も使えるってことになるのか!?
すごくない、このスキル!? 『赤い糸』をたくさんの人に結べば『絶対回避』が使い放題になるし、ドウセツの『居合い』スキルがみんな使えるってことにもできる。これはかなり強力な分類に入ると、わくわくしていた。
「ただし、『赤い糸』を結べるのは二人一組だけ。だからもう、私か貴女が誰かに結ぶことは出来ない」
「え? できないの!?」
「複数結べばかなり強力になると思っていたけど、生憎そんなバランスが崩れるようにはできていないようね」
良く考えればそれもそうか。『ユニークスキル』同士で『赤い糸』に結んだら、攻略組に『赤い糸』をたくさん結んじゃうと攻略もかなり楽になってしまうから、萱場晶彦としてはそれではつまんないからある程度は弱体しないとバランス崩れるわね。『絶対回避』も一回しか使えないから丁度良いんだろう。
「それと『赤い糸』のデメリットはHPも共有する。さらに言えば、赤い糸は戦闘が終わるまで赤い糸が切れることはない。解く方法は二つ。二人共相手に勝つか、二人共相手に負けるかよ」
あ、だから何もしてないのに、HPが減少した理由は、ドウセツが少し喰らったから共有して、私のHPが減少したのか。メリット、デメリットとしては仲間の力を共有することって……よく考えてみれば『赤い糸』って、『ユニークスキル』専用補助スキルなんかじゃないか? デメリットとしては片方がやられたらもう片方も死ぬ。有力なプレイヤーが同時に死ぬのは結構な痛手になるだろう。しかも、戦闘が終わるまで解除できないって言っている。何も考えずに使うと、結んだ相手をまきこむ形になるのか。これも使いどころ次第ね。
「さ、説明したところで行きましょう」
足を動き出し始めると、結んでいた赤い糸は消えていた。
赤い糸ね……。
まるで運命の相手と共に行く意味でも込められたのかな? なんて、そんな素敵なものじゃないか。
「待ってよ、ドウセツ。次モンスター現れたら結んでくれない? 私、居合い使いたい!」
「変態と結ぶなんで嫌」
「なら、なんでさっき結んだ!?」
●
六回ほどモンスターと遭遇したのだが、ほとんどダメージを負うことなく切り抜けられた。ドウセツは『赤い糸』と使用してくれはしなかったけど、使わなくても私達の久しぶりの連携攻撃は衰えることはなく、順調に倒して行けた。
しばらく歩いていくと、徐々にだけどオブジェクトが重くなってきている。マップデータの空白もあとわずか、そして歩いた先にたどり着いたのは、回廊のつきあたりの灰青色の巨大な二枚扉。立ち塞がる。
「……ドウセツ」
「ボス部屋よ」
「聞く前に答えるの早いって……まぁ、いいけど」
目の前の扉が、この層のボスだと確認した数秒後。
「やっと……やっと追いついた」
キリトとアスナが私達と合流してきた。あら、案外追いつくの早かったわね。いや、こちらがゆっくりしすぎただけかな。
「どうする……? 覗くだけ覗いてみる?」
アスナは強気な台詞とは裏腹に、声色は不安な様子。その証拠として、ギュッと兄のコートの袖を掴んでいる。さり気なく、そして小さくイチャつくな。
冗談抜きにして、アスナが不安になるのはわかる。もう七十四回目のボスと対面するとはいえ、完全に慣れているわけではない。ボスが違うっていうのもあるが、迫力に関しては慣れるものじゃないというか、普通、現実世界ではなかった体験をするのだから、不安はあるし何よりも怖い。
「……ボスモンスターはその守護する部屋から絶対に出ない。ドアを開けるだけなら多分……だ、大丈夫……じゃない……かな?」
「そこは言い切りなさいよ。と言うか男として威厳がないよ」
「と、とにかくだ。一応転移アイテム用意してくれ」
あ、話から逃げたな。深く追求する内容でもないから受け流すことにするよ。
兄も私も、もしものためにポケットから青いクリスタルを取り出す。
「開けるわよ」
「ま、待って! まだ心の」
「知らない」
知らないって、マイペースすぎるって。
アスナが言い終わらないうちにドウセツは扉に手を当て押すと、かなりのスピードで扉は開いた。内部は完全な暗闇、それは冷気で濃密な闇であった。二つの蒼い炎が灯り、部屋の中央まで真っ直ぐ灯される。そして最後に大きな火柱が吹き上がり、炎の道が作り終わった。
火柱の後ろから、見上げるような陰が出現する。全身縄の如く盛り上がった筋骨、体色は青くて、ねじれた太い角、瞳は青白、顔は山羊、数々のRPGでお馴染みの悪魔のような姿を陰から表へと出る。
『The Gleam eyes』
それがこの層のボスモンスター。名前に定冠詞がつくのはボスの証だ。
アスナが兄の右腕にしがみついているから、からかってやろうとは思ったけど、そんな余裕はボスが現れると余裕なんてこれっぽちも残されてはいなかった。
山羊の顔の悪魔は、轟くような雄叫びを上げ、右手に持った巨大な剣をかざす。そして、こっちに向かって、地響きを立てつつ猛烈なスピードで走り寄ってきた。
「うわあああああ!!」
「きゃあああああ!!」
「いやああああ!!」
兄、アスナ、そして私は同時に悲鳴を上げ、全力ダッシュでその場から離れた。それはもう疾風のごとくに駆け抜け安全エリアへと逃げて行った。
……冷静に考えれば、ボスは部屋から出ないことわかっていたんだけどね。逃げることしか考えていなかった。
後書き
SAOツインズ追加
絶対回避
キリカのユニークスキルの一つ。設定ではSAOではかなり特殊なスキルに入るため、ユニークスキルの分類とされている。小話になると作者がまだSAOのことをよくわかっていない時につけてしまったものなんで、普通はあり得ないけどちゃんとした理由あります。(最初の頃をカバーする後付けですが……)
赤い糸
ドウセツのユニークスキルの一つ。絶対回避と同様に特殊なスキルに入るため、ユニークスキルの分類とされている。何故、ユニークスキルが二つ持っているのもちゃんとした理由あります。(これも最初の頃をカバーする後付けですが……)
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