魔王の友を持つ魔王
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§17 新たなる刺客達、もとい転校生&居候
「あれ? 僕の席……」
三馬鹿を連れて凱旋したのがついさっき。欠席よりは遅刻の方が良いだろうと三人を引きずって学校に向かった黎斗を待っていたのは、自分の席が消えているという事実。今まで黎斗が座っていた席には、クラスメイトが座っている。三人の暴挙を阻止できなかった罰かなんかなのだろうかこれは。理不尽極まりない。そう思って打ちひしがれればクラスメイトから声がかかる。
「あ、水羽君ひさしぶりー。新学期そうそう席替えがあったんだ。クラニチャールさんが転校してきたから」
「くらにちゃーるさん?」
どうやら罰云々は完全に被害妄想だったらしい。しかしクラニチャール。聞きなれない名前だ。語感は外国っぽい感じがする。ということはつまり外国の人だろう。はて、城楠学院はいつから国際色溢れる所になったのだろうか? 黎斗の記憶では学校で外国人が二人も同じクラスになることなどまずない。天文学的数値の筈だ。それとも関東の学校では常識だったりするのだろうか?
「男子か女子かはわからないけれど、随分急だな。今年に入ってから転校生三人目だぞ。エリカ様、黎斗、次がクラニチャー……」
徐々に尻すぼみになっていく名波。彼の視線は教室の前を捉えたまま動かない。
「どしたん? 一体何が……あれ?」
つられて振り向いた黎斗の視線に移るのは、護堂と親しげ(に見えるが若干硬い気がする)に話す銀の髪の美少女。どうやらあの少女がクラニチャールのようだ。しかし、どこかで見たような気がする。あんな美少女、一回見たら忘れそうにないものなのだが。
「……あー。あのじいさんと戦った時の娘か。っーことは護堂のフラグだろうな。ここまで追っかけてくるとはなんとまぁ」
たしか彼女の技量はエリカとほぼ同等。大騎士級だった筈。あの年齢では破格といえる。今から将来が楽しみだ、などと考えこれでは自分が年寄りのようだと苦笑する。あれだけの実力を得るのにどれだけ苦労したのかを考えると頭が下がる。
「護堂ハーレムは着々とでっかくなってるようで……」
「「「……非モテの敵め—!!」」」
ハーレム、という単語に反応し三人が護堂に襲いかかる。
「うお!? お前らどうした!?」
「どうした、と聞いてくる護堂もどうかと思うんだけどね」
「あはは……同感だわ」
嫉妬に駆られ突撃する三人をクラスメイトとともに見送って、黎斗は自分の新しい席を探す。気がかりは休んでいる間に授業がどこまで進んでいたかだが、苦手分野筆頭の物質量やらなんやらは一学期の話だ。授業も追いつけなくなる心配はないだろう。そう願う。
「まぁモテる代償だとして嫉妬の視線を浴び続ければいいさ」
席を見つけると、護堂達の喧騒をしり目にノートを開く。あの少女の様子からすると魔術結社本部からの要請か何かだろう。エリカも赤銅なんとかの魔術結社所属だった筈だし。それの対抗馬かなんかと予想できる。それを頭の隅に置いて観察すれば彼女と護堂の関係は主従関係に見えるし。だから、このフラグが恋愛フラグかどうかは微妙なラインではないだろうか。こんな微妙なフラグにまで噛み付いていたらこっちの精神が持たない。
「フラグが本物になったら噛み付けばいいや。護堂頑張れ〜」
「応援するなら助けてくれ!!」
自分には関係ないとばかりに気楽にエールを送る黎斗。護堂の訴えは右の耳から左の耳へ抜けて行った。
「…………」
「あ、れーとさん。やっほー」
「……………………」
放課後。護堂に”護衛”として連行された黎斗は、この学校にいない筈の人物と会ってしまった。
「……え゛?」
「あー、そういえば黎斗も”そっち側”なのよねぇ……」
「……なんでこんなことになってんの」
かろうじて、それだけを絞り出す。困惑した様子の護堂より、達観した様子のエリカに聞いた方が早そうだ。
「……黎斗が知らない、といことはこれは総意ではないのね」
「総意って何よ。っーかこれ何よ。どうなってんのか説明を求めるッ!!」
「うんとねー、恵那は祐理が草薙さんのお「恵那さん!?」……えー、別にいいじゃん」
慌てる祐理に口を塞がれた恵那は不満そうに口を閉じる。心底残念そうな顔だ。
「大体わかった。……僕はまーた、惚気に巻き込まれたワケね。いい加減滅びろハーレム男」
「なんで矛先が俺に来るんだよ!? 絶対おかしいだろ!!」
護堂の決死の訴えを脳内裁判所は満場一致で否決する。恵那がだいぶ前に言っていた友達の手伝いとはおそらくこれだろう。須佐之男命|(というか古老の面々)が恵那に手伝わせる用事なんてそんなに多くはない筈。数日で済むような簡単な用事なら長々と黎斗の家に宿泊させる必要など無い訳で。つまりめんどくさい又は長期戦を覚悟する必要があったということ。恵那が来た時期もおおよそ護堂の存在が公に明るみに出たころだ。時期も一致する。
「おかしくありませんー」
祐理をちらりとみやるが、顔を真っ赤に染めた彼女は恵那の方に注意を向けていてこちらに気付く様子はない。純真無垢とはやはりよいものだ、などと頭の隅でバレたら周囲の人間に侮蔑されそうな煩悩を全開にする黎斗。
「にしても、このお茶、おいしいねぇ。こうやってまったりお茶を飲むのは久しぶりだわ。いつも冷やした麦茶だったからね」
「だーかーら、恵那がお茶入れるよっていつも言ってるのに。お湯を沸かすところからやるのと麦茶のパックを入れ物に投げ込むのじゃ味に違いだって出るに決まってるじゃない。もっともれーとさんの場合アテナ様がいらっしゃった時以来飲んでなかったでしょ。久々に飲んだから尚更おいしいと感じているのかも」
「「「……!!?」」」
あ、と思った時にはもう遅い。周囲からの視線が凄まじいことになっているのが嫌でもわかる。「アテナってすごい名前だよねー。まるで神様みたい」などと呑気に会話してるそこの女子。”まるで”神様じゃない、”本当に”神様なんだよ。とツッコミたい。無遠慮な視線に晒されている今はそんな発言が出来そうにないけれど。
「あの、黎斗さんと恵那さんはどういう関係で?」
「うんとねー、家主と居候?」
驚いた。爆弾発言が投下され場が混乱するのがこんな時のお約束だとおもっていたのだが。冷静に考えれば恵那の「家主と居候」発言も十分爆弾発言なのだが、ラブコメやらラノベを読み漁ってきた黎斗にとってはまともな発言に聞こえてしまう。なんだかんだ言っているが一番驚いたのはアテナ云々が総スルーされたことだったりする。
「うん。恵那の親戚の方からちょいとワケありでね」
安全発言、というわけでもなく社会的に問題がありそうなので細かいところを補足する。周囲の雰囲気を鑑みるにアテナ云々はどうやら流されたらしい。こっちの方が重大な気はするのだけれど。古老云々はエリカ達なら勝手に察してくれるだろう。
「ふーん。ご家族の方もそれには納得なさっているのよね?」
「っーかじーさんから打診されたよ」
「……!?」
「エリカ、難しい顔してどうしたんだ?」
「なんでもないわ、護堂。……黎斗、あとで話があるのだけれど時間いい?」
「まずはお礼と謝罪を。ミラノではありがとう、助かったわ。あと貴方の正体を拡散してしまって悪かったわね。ついついらしくなく感情的になってしまったわ。今まで隠し通されたことに対しての悔しさから我を忘れて、つい」
(その「つい」でスサノオ達はエラく苦労したんだよなぁ……)
この件に関して今更エリカに文句を言ってもしょうがない。アンドレアと違って口止め忘れてたし。それに一応カテゴリ”人間”で洗脳してある。カンピオーネである、と万が一バレた時の混乱よりは格段に影響は少ない筈。須佐之男命に迷惑をかけるのは現世(こっち)に住む、と決めた時に覚悟していたことだ。あっちも覚悟してくれていただろう。多分。
(ま、バレるのがこんなに早いのは予想外だったんだけどねぇ。百年とは言わないけど数十年は騙しきれると思ったんだが)
「あぁ、うん。今度から気を付けてー?」
事なかれ主義を最大限に発揮してなあなあで済ませようとする黎斗にエリカが安心してくれればすぐに終わっただろう。だが若干の緊張を含ませた顔から呆れ顔に変わったエリカは口を再び開く。
「貴方ねぇ。張本人の私が言うのもおかしな話だけどちょっと投げやりすぎない? どうでも良いようにしか聞こえないわよ? バレたら困るでしょ。……私に言えるセリフでは決してないのだけれど。ま、それは置いておいて。本当にごめんなさい。さっきの場では言わなかったけれど祐理からお礼の手紙を預かっているわ。直接あの子に御礼参りさせると貴方の立場が大変なことになるかな、と思ってこうしたのだけれどよかったかしら?」
はい、と渡された手紙をカバンにしまう。年賀状以外で女子から手紙を貰ったのは初めてだ。
「ご慧眼御見それしました。マジで助かった、ありがと。護堂繋がりで昼ごはん一緒に食べてるとはいえあんま話さないからね。昼休みとかに話をすればいらない注目浴びるし」
その点エリカは裕理と違って同じクラスだ。機会さえあればそれなりに話す。下手をすればクラスメイトで女子で一番話すのは彼女ではなかろうか。それはつまりクラスの人間とはあまり話さないことを意味している。自分の交友関係の狭さに苦笑いしか出てこない。
「あと護堂には貴方の事何も言ってないわ。祐理とも話したのだけれど貴方のこと、護堂には話さないでおくから。仲の良い友達なんでしょ? 自分の口から言いなさい」
傍から聞けばいいセリフだな、と思う。だが。
「魔術結社に僕の正体バラした人間の台詞とは思えねぇなおい」
「だから、あれはついつい我を忘れてだったの!! そう言ってるでしょ!! 私だって、そんなつもり本当はなかったわよ!!」
我を忘れる、とは今のようなエリカではなかろうか。らしくなく叫ぶ彼女を唖然と見守っていると、我に返った彼女はわざとらしく咳払いを一つ。ほんのり顔が赤い。
「ッ〜!!」
流石元ツンデレ(だったと思われる)美少女、恨みがましくこちらを見てくる表情の破壊力が半端ない。なんかこっちが罪悪感を感じてしまう。これだから、美人は本当に得だ。
「護堂ってカンピオーネなんでしょ? これからもきちんと支えてやりな。スサノオと話していてよく聞くのは、カンピオーネってのは戦いを避けられないことだし」
最初は様をつけていたのだが、気付けば須佐之男命を呼び捨てだ。直す気力も起きないしこの分ならカンピオーネに敬意を払わなくても構わない筈。護堂くらいなら普段通りに接して大丈夫だろう。開き直って告げるは忠告。エリカの表情に罪悪感を感じてしまったのだ。たまにはこのくらいの気まぐれだっていいだろう。須佐之男命に聞いたなんてのは嘘っぱち。実体験とシルクロードを旅する間に聞いた話だ。嘘をつくときのコツはひと握りの嘘を真実で固めることらしいから須佐之男命の名前を借りておこうか。
「そんなこと、言われるまでもなくわかっているわ。私を誰だと思っているの?」
自信が溢れ出るいつもの顔だ。やっぱりエリカはこの顔が一番似合う気がする。夕日を背に微笑む彼女は、とても魅力的だった。
屋上にエリカと二人でいたことで、帰りに黎斗は三馬鹿の吊るし上げにあうことになる。
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