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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO2-黒と白

 アスナが言っていたセリムブルグは、六十一層にある美しい城塞(じょうさい)都市。華奢(きゃしゃ)尖塔(せんとう)を備える古城を中心とした市街は白亜の……かこうがんだっけ、か? それが精緻に造り込まれ、ふんだんに配された緑と見事なコントラストを(かも)し出している。さらに面積はほとんどが湖で占められており、その中心に浮かぶ小島に存在するので外周部から差し込む太陽、または月の光が水面をきらめかせる様を絵画のごとく鑑賞することができる。市場には店もそれなりに豊富で、ここをホームタウンにと願うプレイヤーは多いが、お嬢様の花園よろしく、といったセリムブルグは驚愕するほどお金がかかる。だから、セリムブルグに住むプレイヤーは、余程ハイレベルに達さないかぎり入手するのは不可能に近い。
 アルゲードと空気の味が違うような気がするのか、キリトは思わず両手を伸ばしながら深呼吸をした。

「うーん、広いし人は少ないし、解放感があるなぁ」
「なんとなくキリトの発言は否定したいところだけど、同感ね」
「なんでだよ」
 
 キリトにつっこまれても気にせず回りを見渡すと、すっかり陽も暮れかかった最後の残照が街並みを深い紫色に染め上げていた。
 ここは……眩しすぎるなぁ。うん、私には似合わないな。
 後ろで街の感想を呟いていたのを聞いていたアスナはこんな提案をしてきた。

「なら君達も引っ越せば?」
「「金が圧倒的に足りません」」
「二人とも仲かいいのね」
「「そんなことない」」

 これが双子故の宿命か……くそっ。
 実は、圧倒的に足りたいわけではない。住むこともできるはできるが、そうしたら金が底なしになる。そうなるなら、今の家で我慢して攻略や生活に必要な物を買った方が良い。そもそも、この街は私には合わないわ。
 アスナに強制連行されている、同じソロプレイヤーのドウセツがアスナに遠慮なしに訊ねてきた。

「ところで、アスナ。まだ無駄な護衛廃止してないの?」

 アスナはくるりと後ろを向くと、うつむいてブーツのかかとで地面をトントンと鳴らし、口にした。

「わたしも、護衛なんて行き過ぎだと思っている。いらないってなんども言っているけど……ギルドの方針だからって、参謀職達に押しきれちゃって……」
「面倒ね。やめればいいのに、いっそのこと、もうやめたら?」
「そう言うわけにはいかないの」

 やや沈んだ声で続ける。

「昔は団長と“副団長”の二人ずつ声をかけて作った小規模ギルドだったのはドウセツも知っているでしょ」
「そうね」
「でも人数がどんどん増えて、メンバーが入れ替わったりして……最強ギルドなんて言われ始めた頃から、なんだかおかしくなっちゃって……あと、ドウセツ抜けちゃったし……」

 言葉を切って、アスナは体半分振り向いた。数秒間沈黙が続いたが、場の空気を切り替えるように歯切れのいい声を出してきた。

「まあ、たいしたことじゃないから気にしなくてよし! 早く行かないと日が暮れちゃうわ」

 先に立ったアスナに続いて、キリト、私、ドウセツの順に、街路を歩き始めた。



 アスナの住む部屋は、目抜き通りから東に折れてすぐのところにある小型ではあるが、美しい造りのメゾネットの三階だった。
 凄いな……思わず口が開いてしまう。間抜け面になってないよね?

「しかし……いいのか? その……」

 建物の入り口で躊躇(ちゅうちょ)しているキリト。今更なによ……ウジウジしていると嫌われるわよ?

「だったら、帰れば? 肉だけ置いて」
「あまりにも冷たすぎだろ? キリカは同性だから遠慮なしに入れるが、アスナの家に異性の俺が入っていいのか?」
「だったら、アスナと私以外の家で、他に料理出来る場所ある?」
「ど、ドウセツの家とかは?」
「何で貴方が私の家に来なければいけないのかしら? 来ても金を置いて行けば考えてあげてもいいわよ。ついでに毒スープ飲ましてあげるから」
「ついでに言えば、私の部屋は客をもてなすような部屋ではないから却下。それでドウセツは途中参加だから、アスナの家が一番なの」
「うぐっ」

 キリトは選択肢がなくなったので覚悟を決めて階段を登った。

「でも、ドウセツの家でも良かったんじゃない?」
「嫌」
「さいですか」

 ドウセツは素っ気なく長髪を払い私を抜かし、階段を登った。
 私も後に続いてドアをくぐったら、思わず口が開いてしまい言葉を失ってしまった。
 広いリビング兼ダイニングと、隣接したキッチンには明るい色の木製家具がしつらえられ、統一感のあるモスグリーンのクロス類で飾られている。前にキリトのねぐらに行ったけど、雲泥の差だわ。やっぱり招待する候補として論外だったと実感する。
 
「……口開いていて、気持ち悪いわ」
「え? あ、あぁー……あ、アスナ! これ、いくらかかっているの?」

 ドウセツの指摘に私は恥ずかしさを隠すように慌てて訊ねてしまった。

「んー、部屋と内装を合わせると四千kくらい。着替えてくるからキリト君達はそのへん適当に座ってて」

 kが千をあらわす短縮語だから……四千Kは四百万コルか。高いけど……。

「一応、買える値段か……」
「思ったより低かったわね」
「お、お前ら……この部屋と内装、全部買えるのか?」
「だって、最前線に籠ればそれくらいの金額は稼げるじゃん……あぁ、そうだった。無駄使いしているからないのか」

 きっと、気に入った剣や怪しい装備品とか買っているから無駄使いしているでしょね。そんな気がする。

「い、いいんだよ。俺はあの街が気に入っているから」
「いかにもお金がなくて計画性のない、無駄使いの言い訳ね」
「うっ……」

 グサッとドウセツの毒舌を食らってキリトは言葉が詰まった。

「じゃあ、私達も着替えよ?」
「別に私はこのままでいいわ」
「いいから来る!」
「馴れ馴れしく掴まないでくれる?」
「こうでもしないと、ずっと拒むでしょ?」

 とりあえずドウセツの冷淡な声音に負けずに、キリトの視線が映らない場所へ移動した。
 着替えって言っても、ドウセツは武装を解除しただけで、私は戦闘用のコートと武装を解除しただけだけどね。
 着替えは実際に脱いだり着たりの動作があるわけではなくて、ステータスウィンドウの装備フィギュアを操作するだけなのだが、着衣変更の数秒間は下着姿の表情になってしまう。兄妹だからと言って、キリトには見せたくないものだ。
 私達の肉体は3Dオブジェクトのデータにすぎないと言ってもね。体は体よ。二年も過ごしてしまうとそんな認識は薄れかけているけど、私はちゃんと認識しているつもりだ。恥じらいも女の子には必要だ。
 着替えて、ラフな格好になったところで、テーブルに『ラグー・ラビットの肉』をオブジェクトとして実体化させ、置かせる。後はアスナにまかせよう。

「これが伝説のS級食材かー……で、どんな料理にする? はい、キリト君」
「シェ、シェフお任せコースで頼む」
「ドウセツは?」
「ちゃんとしたものなら何でもいい」
「キリカちゃんは?」
「愛がいっぱいのラブリー料理」
「え、えっと……じゃあ、ラグーだから煮込み系か……シチューにしましょう」

 私の時だけ顔引き吊ったよね? 確かにまともな答えじゃないが、二人と比べてわかりやすいでしょうよ。
 苦笑い気味になっていたアスナは隣の部屋に向かって調理開始した。
 ソードアート・オンラインの料理は簡略化されていて、たったの五分でラグー・ラビットのシチューが完成する。それは、やっぱり料理スキルをコンプリートしたアスナの腕でもあって、てきぱきした無駄のない動き回りに、無数にストックしてあるらしい食材アイテムを次々とオブジェクト化しては、淀みない作業で付け合わせを作っていく。現実とくらべては省略しすぎて料理を作るよりかは、料理ゲームをしている感じに近い。アスナの場合、作業とメニュー操作を一回もミスも無くこなしていく、その動きこそが美味しさに繋がるんじゃないかと食べる前から勝手に想像してしまう。妻としては完璧だけど、キリトの恋人候補にもったいないと本音を漏らしそうになる。

「「いただきます」」

 意外にもドウセツは食材に挨拶して、キリトとアスナはいただきますを言わず、スプーンを取って、最上級の食べ物をあんぐりと頬張った。気持ちはわからなくないけどね。私も早く食べたい。
 キリト、アスナに続いて、私達も『ラグー・ラビットの肉』が入ったシチューを口の中に入れ、味を確かめる。

「……こ、これはっ!?」

 思わず、スプーンを落としそうになった。
 
「めちゃ、めちゃめちゃ……美味しい!!」

 柔らかい肉に歯を立てて、溢れるように肉汁がほとばしる。『味覚再生エンジン』とか様々な物を食う感覚を脳に送り込むとか、システムが脳の感覚野を盛大に刺激しているだけにすぎないとか、そんなシステムなんか、どうでもいいんだよ! 今食べているシチューは、過去最高の美味なんだ。機械がどうとか、ゲーム内だろうが、食べているだけで感動して涙が溢れそうなのよ。これくそ三大欲求の一つ、食欲。

「これ、めちゃめちゃ美味しいよね!」
「「「…………」」」
「み、みんなもそう思うよね!」

 ……あれ?
 何で無視する? 食べることに集中しているの?

「あ、ドウセツはお上品に食べるのね。美味しい?」
「黙って」
「いや、人数もそれなりにいるのだしさ、お喋りしながら食べるのも……」
「黙って」
「え、えと」
「黙って」
「……はい」

 その後、私達は一言も発することなく食べることに集中して黙々と美味を味わった。



「ああ……今まで頑張って生き残っててよかった……」
 じゃあ、私はこれで……」

 食べ終えたアスナの感想を余所に、お上品に食べ終わったドウセツは立ち上がって去ろうとする。そんな彼女を私は彼女の腕を掴んで引き止める。

「え~待ってよー、もう少しいてよー」
「好きでついてきたわけじゃないんだし、もう用がなくなったわ」
「だからって、私達仲間でしょー? つれないこと言わないで、まだ一緒にいようよー」

 ほら、よく言うでしょ。同じ屋根の下で美味を口にしたら仲間って、さ。

「それ、なんか間違っているだろ」
「うっさいなー。“兄”もお茶をすすりながら発言してないで、一緒に楽しもうよ」

 この時、私は余計なことを、声を大にして漏らしてしまった

「「兄?」」
 
 ……家の雰囲気のせい……かな? 隠そうとしてきた呼び方を、アスナとドウセツの前で、普段の呼び方をしてしまった。
 ごめん……兄。

「あ、兄貴分だよ。そ、そうだよな、キリカ?」

 諦めていた私は、なんとか誤魔化そうとしたので、私は諦めずにそれに乗ることにした。

「う、うん! そうだよ。兄貴分の兄だから、兄なんだよ! ねぇ、兄」
「おう、キリカ」

 慣れない、誤魔化しかたにアスナは納得したようだけど、ドウセツは私達の心を透視するように淡々した口調で言った。

「さっきまで互いに名前呼びなのに、今さら“兄”呼ばわりするのは変ね」
「「うっ」」
「必死に誤魔化そうとしているのが顔に書いてあるわ。しかもわかりやすく太字で」
「「そんなにわかりやすくないだろ!!」」
「わかりやすいわよ。それに、誤魔化したことを肯定したわね」
「「あ……」」
「そう言えば、よく見ると似ているよね……特に眼が」

 まずい、納得したはずのアスナが疑い始めた。

「思い出したんだけど、貴方達双子の兄妹とか言ってなかったっけ?」
「あ、そうそう。前にキリト君、双子の妹がいるとか言っていた」

 そうだった。あの時は特に兄妹関係が世間に知られてもいいから、普通に呼んでいた時代にドウセツは聞いていたんだった。あとアスナもキリトから聞いているっぽいし、これは完全に私達が兄妹だってことを、それ誤魔化していることをバレてしまっている。

「もう誤魔化しは聞かないようですよ、キリトの兄さん」
「仕方ないか……。我が妹よ」

 もはや避けられないことなので、私達双子の兄妹はアスナとドウセツに改めて関係性を話すことに決めた。

「キリカは俺の双子の妹なんだ」
「やっぱり……でも、珍しいね。双子なのにキリト君とキリカちゃん、ほとんど似てないね」
「ちょっと稀にある一卵双生児の双子なんだよね。だから、アスナの言うとおりあんまり似てない。それと今まで兄妹関係を黙っていたのは、私達、あんまり目立ちたくないから、あくまでも友達に似たような関係として接したの」
「あ、だからキリト君は常に黒ばっかり着ていて、キリカちゃんは白ばっかり着ているのね!」

 関係あるのかわからないけど、一応は間違ってはいない。というか、常に兄が黒ばっかり着ているから

「目立ちたくないって言うけど、貴方達十分目立っているじゃない。ソロプレイヤーで最強の一人、『黒の剣士』キリト。そのキリトに対して同じ最強の一人と呼ばれている『白の剣士』キリカ。よくもわからない二つ名がついている時点で目立っているわ」
「「それはっ……」」

 さっきからどんどんと覗き込みますね……。それもスキルなんかじゃないかと疑ってしまう。
 キリトは話題を変えろと言わんばかりに必死な目でアスナに視線を送る。それを悟ったアスナは別の話題をふった。

「そ、そう言えば、最近、結婚を申し込まれたわ」

 あ、アスナさん。その話題はあまりにも変化球過ぎて、おかしなことになるから! つか、何でその話題なの!?

「なっ……」

 そして何で、アスナに目で問いかけた兄が口をぱくぱくしているのよ? 一人で真剣に取り込まないでよ!
 流石にドウセツも呆れた表情をして嘆息する。話題の変化を指摘した。

「もっとちゃんとした話題変えたほうがいいわよ。それじゃギャグにしかならないわ」
「えっ、駄目かな?」
「まぁ……ある意味話題を変えたけど。求めた兄が間抜けな表情しているから、テイクツーで話題を変えたらどう?」
「が、頑張る……」

 テイクツー、どうぞ。

「キリト君」
「あ、はい」

 声を裏がっている兄に、アスナはおかしくてニマって笑った。

「その様子じゃ、他の仲のいい子とかいないでしょ?」
「わ、悪かったな……いいんだよ、ソロなんだから」
「ドウセツと同じこと言っている……」
「一緒にしないで欲しいわね」

 一緒って、その性格で友達が多そうなアスナよりも上だったら、若干引くよ。

「アスナ。見た目で騙されているが、キリカも俺と同等で少ないはずだぞ」
「え、そうなの!?」

 そ、そんなことないよ! ひぃ、ふぅ、みぃ……少ないわね。
 何故か私は友達が多いイメージを持っている。だから、アスナみたいに意外されるのはよくあることだ。事実、多くのプレイヤーに教えたら驚いていた。
 つか、見た目と違って少なくて、わるうござんした。

「せっかくMMORPGやっているんだから、もっと友達作ればいいのに……」
「そうやってアスナは私押しつけても、無意味よ。形ばかりの友達しかいなくならないわよ」
「そう屁理屈言ってないで、ドウセツはもっと友達作りなさいよ!」
「いらないわよ。だいたい友達って言うのはね、自らを可愛くさせるためのアクセサリーみたいな物。お互いが利用される集団の中にいるのは御免だわ」
「だから、そういう屁理屈をどうにかしなさい!」
「無理」
「無理じゃない!

 アスナはまるでお母さんあるいは先生のような口調で問いかけるも、少女は自ら望む孤独を好む一匹狼でかなりの問題児、おまけに牙には猛毒がついている。そんな狼はアスナのことなど素直に聞くはずもなく、屁理屈と毒舌で断っていた。

「とりあえずドウセツは後回して、キリト君とキリカちゃんはギルドに入る気はないの?」
「「えっ?」」

 あ。諦めてこちらに訊ねてきた。

「ベータ出身者が集団に馴染まないのは解っている」
「あの、アスナさん。兄と違って、ベータ出身者じゃ、ないんですけど……」
「あ、そうそう。私もベータ出身者なのよ?」
「揚げ足とらないの! ドウセツは知っているから、言わなくてもわかるわよ!」

 でも、知識はあるからベーターモトギっていうのかな、私の場合。
 揚げ足を取られたアスナは気を取り直して、真剣な表情と話し続けた。

「七十層を超えたあたりから、モンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきているような気がするの」

 それは私も……いや、攻略組、ソロプレイヤーなら誰もが感じていただろう。CPUの戦術が読みにくくなってきたのは当初から設計なのかは知らないが もしも、システム自体の学習の結果なら今後どんどん厄介なことになりそうだ。私達の癖なんか研究されてしまえば、おしまいかもしれない。あんまり想像はつきたくない。
 それでも、私は“あれ”を使えば……なんとかできるかもしれない。あんまり使いたくはないけど。

「ソロだと、想定外の事態に対処出来ないことがあるわ。いつでも緊急脱出出来るわけじゃないのよ。パーティーを組んでいれば安全性がずいぶん違う」
「安全マージンは十分取っているよ。忠告は有り難く頂いておくよ」

 アスナの言葉、兄はやんわりと断った。そんな兄にドウセツは身も蓋もないことを薦めてきた。

「何言っているの? ギルドは楽しいところよ? 仲良くチームプレイと自然と仲良くなれるわ」
「説得力ねぇな……」

 うん。むしろ嫌味に聞こえるよね……。ならドウセツは、何でギルドを脱退したんだって言う話だよ

「じゃあ、キリカちゃんはどうなの?」
「わ、私!?」

 私に向けてきた。ど、どうしよう……。とりあえず、断る姿勢で……。

「わ、私もギルドはちょっと……ひ、人見知りだからね、私」
「貴女の方が説得力ないわね」
「そ、そんなこと」
「ないわけないよね」

 私が人見知りじゃないこと、一匹狼なドウセツにもバレバレか……。私も見え見えの嘘だから、バレるのも当然か。
 とりあえず私達双子はギルドに入ることを断った姿勢を見せるも、アスナは納得せず、こんな提案をし始めた。

「そうだ、しばらくわたしとパーティー組みなさい。ボス攻略パーティーの編成責任者として、キリト君は頼りになるし、キリカちゃんも強いし、人当たりも良いから問題ないわ。そしてドウセツは放っておけないから、わたしと一緒にいたほうが安全だかし、あと今週のラッキーカラー黒だし」
「な、なんだそりゃ!」
「私、白だけど!」
「一人でいいって、あれほど言ったのに……理不尽すぎるわ」
 
 そうだそうだ。あまりの理不尽な言い様に思わずのけ反りそうになったのよ。しかも私、白だからラッキーカラーに含まれないじゃない。

「んな……こと言ったってお前、ギルドはどうするんだよ」

 兄の反撃。

「うちは別にレベル上げノルマとかないし」

 あえなく撃沈。

「護衛のABCは?」

 私の反撃。

「ABC? 護衛の三人は置いてくるわ」

 続いて撃沈。

「うざい」

 それはただの悪口だって、ドウセツ。

「うざくても結構です」

 それでもめげないアスナであった。
 あぁ、この流れはもうアスナによって握られている。パーティーになれと言わんばかりの空気。断ったらなにされるかわからない。実際、ドウセツもため息をついている。
 パーティー組むか組まないかは置いとくとして、『黒の剣士』と呼ばれている、トップソロプレイヤーである、実の兄に、血聖騎士団の副団長、『閃光』のアスナに、元血聖騎士団で、アスナと同格とも呼ばれていた、『漆黒』のドウセツ。この三人が一緒だと大分楽になるのは確か。安心感が異常なほど上がるだろう。ソロでは限界も限られてくる。誰かと一緒にやらなければ、攻略は難しくなっていくくらい自覚しているつもりでいる。
 でも、だからこそ……私は“怖い”。集団行動を取るという考えが恐怖と感じる。そこには居心地良いと感じるはずが、その輪に入ることを私は恐れ、拒み続ける。
 仲間は良いものだ。そして仲間といる時間は心地よい場所じゃないかと思う半分、恐れてしまう場所でもあると思ってしまう。安心するはずなのに、恐怖心が高まる。
 そうやって、今まで避けて進んでいた。そんな恐怖を味わいたくないから、私はアスナの提案は否定するべきだ。
 だけど……私は一歩、半歩、踏み出さなければ前に進めない気がする。恐れるためだけに仲間と一緒行動することはせず、だからこそ仲間と一緒に行動することを、私は復習しなけ

「あ、アスナ」

 口に出すのはまだ怖い。
 一歩踏み出すのに勇気がいる。けど半歩だけ……

「四人でパーティーよりも……」

 私の半歩だけ……

「……二人ずつにしない?」

 聞いてくれないかな?
 兄は意外そうな表情するのが視界に入る。兄も私の過去も癒せぬ“深い傷跡”が残っているから意外なんだろうか?
 でも、兄……。そろそろ、私達も……仲間が必要になって来るから。恐くても避けずに、いろんなものを引きずって、前へ進もうよ。

「……俺もキリカに賛成だな。いずれはボス攻略で一緒になるんだし、分かれた方が効率いい。キリカの実力なら俺が保証する」

 兄は私の思いを察したのか、私の半歩の案に賛成してくれた。 
 アスナは私の案に賛成するか否か悩ませて、考えた結果を言った。

「なら、わたしとキリト君で組んで、キリカちゃんとドウセツで組みましょう」
「だから、何で私が……」

 どうあってもドウセツは賛同しない。それとも勝手に決められるのが嫌なのだろうか?

「だって、私と組んでも他の人と仲良くなれないでしょ?」
「別にいいわよ。仲良くなんか……」
「それにドウセツとキリカちゃんはきっといいペアになると思わない?」
「思います!」
「思わない」
「何でキリカが答えるんだよ……」

 だって、ドウセツってさ。見た目、めちゃめちゃ好みなんだもん。クールで猛毒舌だけど嫌いじゃないわ! と言ったら怒られるので自重。
 ちょいと前にドウセツと組んだことあるから、いろいろと助けられるし安心する。ドウセツとなら、なんとかやっていけるかもしれない。

「と言うわけでよろしくね、ドウセツ」
「勝手に決めないでほしいんだけど」

 握手を求めるも、プイッと顔を反らして手を払い発言する。
 そう言っているけど……。ドウセツって、クールで毒舌に接しているけど、完全に人を拒絶する人じゃないことわかっている。

「勘違いしているでしょうね?」

 悟られても問題はない。

「だって、馴れ合いが好まないんだったら強制連行されたとはいえ、隙をついて逃げればいいのに、帰るとか言いながらちゃんといてくれるし、それに無視せず返してくれる。私ね、ドウセツって優」

 ちかっ、と目の前を銀色の閃光がよぎった。いつの間にか、右目の視界はナイフが映っていて、ピタリと私の目先に据えられていた。

「速いな……」

 兄も思わず口に出す速さ。武器だったら間違いなくやられていた。
 凄まじいスピード、軌道なんてまったく見えなかった。

「それ以上言ったら……わかっているわよね?」

 引き吊った笑いとともに、私は両手を軽く上げて降参のポーズを取った。
 そして、ドウセツはナイフを戻してため息。

「わかったわよ……仕方なく組んであげるわ」
「ほ、本当!?」
「好きにして」

 ドウセツらしいくやけくそになり、晴れて私とドウセツのパーティーが出来上がった。

「じゃあ決まりね。キリト君とわたしは明日の朝九時、七十四層のゲート集合ね」
「やっぱり強制的なのか? 俺にも……わ、わかったから、戻せ!」

 アスナの右手のナイフが持ち上がり、強いライトエフェクトを帯び始めるのを見て、兄は慌ててこくこく頷いた。反撃なんて最初からなかったのよ。

「私達はどうする?」
「九時頃、五十ニ層『フリーダムズ』に来て」
「そこって……何もないところじゃないの?」
「だったら来る? 自分の目で確かめたら?」

 こ、これは……まさかの。
 お持ち帰り!?

「そ、そんな、まだ早いって~!」
「何勘違いしているか知らないけど、貴女が思っていることとはまったく違うから、自らの無意味な妄想に失望しなさい」

 ちょっと、もうちょっと期待に膨らませて、希望を抱いていても……。

「何もしませんので、お泊まりさせてください!」
「何かするつもりだったのね……早くも解散しましょうか?」
「そ、そこは勘弁して! なんなら望み通りに罵られ役、ペットプレイ、SMプレイでも構わないから!」
「そんな性癖はないから変態」
「じょ、冗談だって」
「戯言でしょ?」

 戯言とは失礼な。いや、冗談だからあんまり上手く言えないのよね。言ったらなんか誤解されていきなり解散させられるから、沈黙を通そう。
 こんなくだらない会話でも、明日になれば文字通り命がけで攻略か……。
 なんだか、急に冷めちゃたな。急に不安になっちゃったのかしらね。
 デスゲームが開始されてから二年近く経過した今も、救出はおろか外部からの連絡すらもたされていない。私達はただひたすら日々を生きのび、一歩ずつ上に向かって進んでいくことが生きがいに感じる。それが遥かに遠い道のりでも、あまりにも細い希望でも、登るしかない。
 茅場晶彦。
 この世界を作り、私達を閉じ込めて生活されることが目的とかチュートリアルで言っていたけど。
 それって、この世界での終わりも望んでいるのかな?
 二年間経っていても、茅場晶彦の真実と理想の想いなどわからない。
 茅場晶彦の考えとか、彼の思惑なんて、彼しか知らないんだから。
 私達は、ただ進もう。その方が楽だ。 
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