チートだと思ったら・・・・・・
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十一話
――I am the bone of my sword.
左手に弓を携え右手には四本の矢を構える。目はフェイトををとらえて離さず、隙あらば射ぬけるようにと準備をする。
「君達だけで、僕に勝てると思ってるのかい? そうなのだとしたら、呆れるほかないね」
「そんなの、やってみなくちゃわかんないでしょ!」
そんなはずはない。詳細は知らないが、明日菜は一度フェイトと対峙しているはずだ。実力の差を測れずともコイツの得体のしれなさは良く分かっているはずだ。ネギも同様に、だ。そして俺は知識だけだがコイツが最強クラスだということを知っている。だが……
「舐めんじゃねえよ」
速射。四つの矢を最速で放つ。明日菜とネギは完全に矢を捕えることは出来ていない。フェイトも、完全には出来ていないだろう。表情を変え、目を見開いているのがその証拠だ。ただ、威力が足りない。ただの矢でも岩盤を砕く威力はあるが、それはこの世界の者ならそう難しいことじゃない。こと何重もの障壁を展開しているフェイトには、通常の矢では通用しない。
「驚いた。君は弓に関しては別格のようだ」
「だが、通用しないんじゃ意味がない。ネギ! 明日菜! 俺が援護するから、前衛を頼む!」
「ま、任せて!」
「分かりました!」
疲労している二人には酷だろうが、俺が正面から対峙するわけにはいかない以上、頑張ってもらうしかない。重そうな体に鞭を撃って向かっていく二人が無事であるように祈りながら……
――Steel is my body,and fire is my blood.
詠唱を続けた。
一方、フェイトへと立ち向かうネギと明日菜には一筋の希望が見えていた。
(一分半……後一分半)
(持ちこたえれさえすれば……)
(エヴァンジェリンさんが……)
(エヴァちゃんが……)
((来てくれる!!))
元600万ドルの賞金首、最強の魔法使い。彼女さえきてくれればどうにかなる。そんな思いを胸に二人は心を奮わせフェイトに立ち向かう。だが、力の差はいかんともしがたく……
「甘いよ」
繰り出した拳をいなされ、時間差で攻撃を仕掛けようとしていた明日菜めがけて投げ飛ばされる。
「きゃっ!?」
吹っ飛んできたネギを思わず受け止めるが、それは致命的な隙を作り出してしまった。それを見逃すフェイトではなく……
「これで終わりだ」
「させるか!」
振り上げられた拳。両手がネギで塞がっている明日菜は無防備でくらうことを覚悟したが、彼女達は二人ではなかった。
「これは、剣!?」
この状態でフェイトに攻撃を行える者は一人。離れた場所で弓を構える健二のみ。だが、その弓を脅威足りえないと判断していたフェイトは健二を軽視していた。自ら別格と評した弓にそれ以上が無いと思いこんだ事によって。
だがどうだ。飛来した剣はフェイトの障壁を数枚だが破壊してみせた。先ほどまでとは明らかに異なる威力。これでフェイトは健二をも視野に入れねばならなくなった。
――I have a created over a thousand blades.
危なかった。一瞬目を離したと思ったらネギが投げ飛ばされていた。何とか改造黒鍵が間に合ったものの、心臓が止まるかと思った。固有結界を使うのは初めてだから出来るだけ集中しながら詠唱したかったが、そうもいかないかもしれない。
詠唱完了まで、後五節。
――Unknown to Death.
歯を噛みしめる。目の前ではネギと明日菜が一方的になじられていた。手に持つ弓には既に改造黒鍵をつがえている。だが、フェイトがそれを射させてくれなかった。つねにネギか明日菜のどちらかを射線上に置いている。
「くそっ! こうなったら……」
改造黒鍵をひとまず地に置き、通常の矢を四本投影する。これは非常に難しい技だ。実際はどうなのかは知らないが、俺は弓術だけでなく、心眼も持っているアーチャーだからこそ使えていたと思っている。だが、このまま黙って見ていることはできないし、改造黒鍵を無理やり射るよりはマシだ。
「重要なのはタイミングだ……」
そう呟きながら、俺は矢を上空高くに放った。
「……?」
フェイトは上空目掛け矢を放つ健二の意図を察することはできなかった。その理由の一つに、健二の弓以上に警戒せねばいけない存在が挙げられる。それは……
「やああああぁああ!!」
目の前の神楽坂明日菜と言う少女だ。アーティファクトである鋼鉄製のハリセンを振り上げる姿は素人そのもの。対捌きなどの技術的な面で言えば、千草の前鬼、後鬼の方が優れているぐらいだ。だが、近衛木乃香をさらった時に感じた違和感……その正体が知れた以上、軽視するわけにはいかなかった。
(魔法無効化能力か……まさかこんな所で会うとはね)
魔法無効化能力、その名の通り魔法……そして気をも無効化する。裏の者達にとって天敵と言える能力だ。勿論万全とは言わないが、放出系の技に関してはまず通用しない。
(黄昏の姫御子とスプリングフィールド……これは誰かのシナリオか、それとも運命、という奴なのか)
誰も気づくことは無かったが、先ほどまでとは違い今のフェイトはどこか人間臭さを匂わせていた。
――Nor known to Life.
後五秒……行動を起こすなら、今!
――投影、開始!
弓を破棄して新たな幻想を紡ぎだす。軌道が直線の矢がダメなら自在に操れる物を出せばいい! 俺が投影したのは……
「いけ! 釘剣!!」
ライダーことメドゥ―サの武器である釘剣だ。これを使って、明日菜とネギをフェイトから突き放す! そして、それと同時に俺の攻撃が奴に襲いかかる!
「トラップ・シュート」
「!?」
上空から降り注ぐ矢の雨。先ほど上空目掛けて放った矢が自由落下してきたのだ。元々そう広く無い場所で戦っていたのが幸いし、何とか成功した。最も、普通に射るよりも威力は劣るため気を引くことしか出来ないが……明日菜達を一端引き離せたんだ、これで十分だろう。
――Have withstood pain to create many weapons.
詠唱は後二節で完成する。これならなんとかなりそうだ。
「やれやれ、最初に君を静めていれば良かったね」
「な!?」
目の前には何時の間にかフェイトがいた。一瞬の油断、それがフェイトにここまでの接近を許してしまった。奴の拳に込められた魔力は濃密であり、障壁をはる程魔力に余裕が無く、同じ理由で戦いの歌を使っていなかった俺には、到底耐えられるものではない。
(終わり、か?)
迫りくる奴の拳がスローに見える。俺の体は全く動かない。思考だけが許される……そんな状態で、俺は確かに見た。明日菜が何かを叫んでいるのを……その口、俺の名を呼ぶために、動いているのを!
(避けるのは最早不可能……なら、耐えきってやろうじゃねぇか!!)
腹に力を込め、来るべき衝撃に備える。耐えてみせる、ただそれだけを考えて、おれは奴の拳を見据えた。
だが、フェイトの拳が俺に届くことは無かった。横から突如現れた手に、その腕を掴まれたからだ。俺はこの手の正体を知っている。何度か世話になった、最強の魔法使いの手だ!
――Yet, those hands will never hold anything.
「宮内、チャチャゼロに鍛えられておきながらその体たらくとはな。全くもって情けない。それと、邪魔だ小僧」
腕の一振りでフェイトの障壁が砕かれ、吹き飛んでいく。相変わらず、恐ろしい。あまり才能があるとは言えない俺では一生分鍛えても追いつかないのでは? と思ってしまう。
「耳が痛いな。エヴァンジェリン、今から俺と君、そしてスクナを一時的にある場所へ隔離する。そこでアレを倒してほしい。……できるだろ?」
「ふん! 私を誰だと思っている? 茶々丸、お前は坊や達を見ていろ」
「了解です、マスター」
フェイトは未だ姿を見せない。一応透視で周囲を確認したが、周囲には見当たらなかった。これで一応固有結界を見せずにすむ。だが、一時的に助っ人であるエヴァンジェリンをこの場から外すのだ。残される明日菜達に危険は残る。スクナに目をやれば、桜咲は近衛の救出に成功したようだ。ならば、スクナを速攻で倒すのみ!
――So as I pray, ”unlimited blade works”
俺は最後の詠唱を完了し、エヴァンジェリンとスクナを固有結界に取り込んで、一時的にその場から姿を消した。
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