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木の葉詰め合わせ

作者:半月
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本編番外編
とある兄弟シリーズ
  とある妹の危惧

 
前書き
本編・若葉時代の中頃、ですかね。時間軸的に言えば。 

 
 碌に知りもしない、ましてや顔を見合わせた事のない相手に対してこの様な言葉を使うのは相応しくないと思うが、うずまきミトは出会う前からあの男が大嫌いだった。



「柱間様。着替えの服をお持ちしましたわ」
「んー、ありがと。部屋の外に置いていて」

 戦から帰って来たばかりの姉の部屋の前で声をかければ、ややくぐもった声が返って来る。
 お茶を濁す様な物言いに不審を抱いて、ミトは周囲に誰もいない事を確認してから閉め切られていた襖をそっと引く。

 そうして薄暗い室内に一人佇んでいるその人の姿に、ミトは思わず目を剥いた。

「は、柱間様!? なんなのです、そのお怪我は!!」
「し、しーっ! ミト、声が大きい」

 絶句したミトの前で、その人はやや焦った様に立てた人差し指を口元に当てている。
 沈黙を求める仕草に慌ててミトは引き攣った声を上げそうになる口を押さえた。

「は、柱間様……!? これは、一体……?」
「戦傷って奴だよ。見て気持ちいい物じゃないし、悪かったね、こんな物を見せてしまって」
「そ、そうじゃなくて……!」

 剥き出しになった白い裸体のあちこちに刻み付けられた、無数の裂傷や火傷の痕。
 暗い室内の中で弱い光を放つ腹部の至る所に浮かんでいる青や紫色の大小様々な痣。
 流れる血こそ止まってはいるものの肉が見える程に抉られた肩の傷や、細い左腕には肌が爛れる程の火傷を負っている。 
 おまけに中性的で涼やかな面には斜めに刀傷が走っており、それが何とも痛々しい。

「今回は結構戦が長引いてね。オレなんかまだマシな方で、一族の者達の何名かはもっと酷いよ」
「け、けど!」

 顔色を青ざめさせた妹をどう思ったのか、心配させない様にとにこやかに微笑む姉の姿にミトは小さく息を飲む。

「負傷者の治癒を優先させたから、チャクラ切れを起こさない様に必要最低限の怪我だけ先に治しただけ。この傷だって、直ぐに自動治癒を再開させるから大丈夫だ」

 その言葉通り、白い肌の上に刻まれていた無数の裂傷や火傷は、抉られていた肉を隆起させ、爛れていた肌を修復させていく。
 声も出ないミトの前で、その人は僅かに苦笑した。

「いや、最近よく顔を合わせる様になった忍びがいてね。そいつが強いのなんの。段々と私に追いついて来ているから怖い怖い」
「柱間様に……?」

 嘘だ、とミトは言い切りたかった。
 戦場に放り出されたばかりの幼い頃であるならば兎も角、頭領として最強の忍びとして一目置かれる様になったこの人が怪我をして帰って来る事はもう殆どなくなっていた。

 それだけ他の忍びとこの人の間には厳然たる差が存在していると、戦場に出た事の無いミトでさえ薄々勘付いていた。

 ――なのに。

「やっぱり須佐能乎みたいな鎧が無い分、肉弾戦じゃあ私が不利だなぁ……。かといってあまりにも距離を開きすぎると木遁の制御が危うくなるし……。次に会う時までにそれの対処法を考えておかないと」

 ミトが見守る中、斜めに付けられた顔の刀傷が塞がっていく。
 特にその事を気にする素振りを見せる事も無く、その人はぶつぶつと小さく呟きながら次に敵対する時を想像している。
その姿は、ミトが今までに見たことは無い程――愉しそうで。

「そうだ! 土遁で大穴開けて、地面に落とした所で樹界降誕を食らわせるっているのはどうだろうか……? でもそれは前に試したから向こうも警戒しているだろうし……、となると」
「柱間様」
「ん? どうしたの、ミト?」

 にっこりと振り向いたその人の笑顔は常と変わらない……その筈なのに、ミトはどうしてか寒気がした。

「柱間様。一体、どのような輩に手傷を負わせられたのです? ここ最近はこのような事は無かったのに」
「――ああ、ミトには話していなかったけ。うちはの頭領だよ。万華鏡とかいう目を開眼したうちは一族の天才だ」
「うちは……?」

 その名をミトは覚えている。
 どこか疲れた様にしながらも戦国の世の習いに従っていたこの人が、現状を打破しようと誓ったあの日の切欠となった事件を起こした一族だった。

「普通の写輪眼の時でも強かったんだけど、万華鏡になってからますます強くなっちゃってさ。他の忍びに使用していた様な手は使えないし、もう困るよ」

 言葉だけを聞いていれば、辟易している様なのだが。
 決してその言葉が本心ではないと言う事は、その表情と僅かに弾んだ声で分かる。

 この人は……、とミトは思い当たって背筋がぞっとした。
 ミトの最愛の姉は……戦争を愉しみ始めているのではないだろうか。

「柱間様……。その……」
「ミト?」
「いえ……。なんでもありません」

 不思議そうに首を傾げるその人に、ミトは敢えて微笑みで返してみせた。
 向かい合ったその人の体には最早傷跡など欠片もなかった。



「扉間、あなたはここ最近の柱間様についてどう思う?」
「――――そうか、お前まで……」
「……扉間? それってどういう……」

 黙って武具の手入れをしていた扉間の隣に腰を下ろす。二人のいる和室の開かれた障子の先には広い中庭が見えて、そこでは彼らの大事な姉が子供達と戯れているのが分かる。
 子供達に稽古をつけているその姿は、今までと変わらない様に見える。

「一族の中でも、極僅かにだがそういった声が上がっている。頭領は何を考えているのか、とな」
「戦を楽しんでおられる様に見えるわ……正直な所」
「半分外れだ。確かに姉者は戦が始まるのを愉しみ始めている……が、正確にはある相手と戦う事を楽しみ出していると言った方が正しいな」
「うちはの、若頭領の事?」
「知っていたか」

 やっぱり、とミトは口の端を噛む。同時に今までに感じた事がない程の焦燥感が全身を浸していく。
 このまま放っておく訳にはいかない――そして気付いてしまった以上、見て見ぬ振りなど出来なかった。

「……このまま、あの方が道を踏み外すのを見ていられないわ……扉間、貴方だってそうでしょう?」
「ミト、お前……」

 放っておく訳にはいかない。――そう、その通りだ。
 あの人の夢は、あの雨の日に誓われた私達の願いから端を発している。
 
 毎日の様に人々を苦しめ、忍び達を翻弄しているこの戦国の世を終わらせる事。

 それを成就するためにあの人は長い長い時間をかけて、何度も諦めかけてそれでも諦め切れずに頑張って、そうしてここまで辿り着いたのに。

「――……それの、邪魔立てなんかさせないわ」

 小さく、本当に小さく、それこそ隣にいる扉間にさえ気付かれない様に、彼女は呟いた。 
 

 
後書き
なんかミトさん怖い。別名シリアス三題、な兄弟シリーズでした。 
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