対決!!天本博士対クラウン
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第四十五話
第四十五話 短い春
悪夢の帰還を何とかしてかわしたい日本政府。上から下まで大騒ぎであった。
「とにかくだ!」
首相官邸は最早非常態勢であった。地震が起こってもこうなるのか。
「今はあの博士を止めることを考えろ!」
「無論です!」
閣僚達が首相の決死の言葉に応える。皆命をかけるつもりだった。
「あの博士が帰ってきたら何をするかわからん!下手をすれば」
「下手をすれば」
「平気で日本全土を実験材料にする!竹島を忘れるな!」
「ええ!」
「では自衛隊を!」
「全軍デフコンエーだ!」
よりによってこれである。
「陸空海全てを動員して博士の帰還を許すな!」
「若し帰還した場合は!」
「北朝鮮に誘導しろ!」
さりげなく無責任なことを言う首相であった。
「毒を以って毒を制すだ!」
「毒ですか」
「では聞くがあの博士は何だ?」
見事なまでに答えが一つしかない質問であった。
「何に見える?」
「猛毒です」
防衛大臣が答えた。
「それ以外の何者でもありません」
「そうだな。あの博士はまさに猛毒だ。というよりは爆弾だ」
「全くです」
「それも核爆弾です」
「我が国は核兵器は持たない」
勝手に居座っている核兵器もこの際不要だというのだ。そもそも何の解決法もないのであるが今までいなくなってほっと一息ついていた頃だったのだ。
「そういうことだ。だからこそ」
「今ここで」
「何としても止めるんだ」
首相は念を押す。
「我が国の為にも」
「しかしですね」
ここで閣僚の一人が根本的な疑問を述べる。
「何だ?」
「何でまた戻って来たんでしょう、あの博士は」
「宇宙での暮らしに飽きたんだろう」
首相はぶしつけにそう答えた。
「南極の時と同じでな」
「それだけですか?」
「あの博士のやることに理由があるか?」
首相はまた問い返した。
「あるのかないのか」
「そんなことは考えたくもありません」
またしてもとんでもない返答だった。だがそれで充分なのだから物凄い。
「あの博士のことは」
「私も同感だ。そういうことだ」
「はあ」
「しかし」
首相はここであらためて溜息をつく。
「短い春だったな」
「残念です」
これはそこにいる全ての者に共通する考えだった。博士のいない日本の春は実に短い一時であった。
第四十五話 完
2007・9・19
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