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真・恋姫†無双    これはひとりの仙人無双

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人の子は上位に手を出すべからず

「何か嫌な感じがする」
彼は後輩と別れた分岐点からしばらくしたところで先ほど感じた胸騒ぎについて考えていた。
やっぱり、というよりも風に違和感を感じる。
なんなのかはわからないが、変な感じしかしない。
「とりあえず家に帰るか・・・・」
主武装である弓矢や、ナイフは家に帰らないとないからな。
彼は気がついたときには家に向かって駆け出していた。




弓は・・・、これだ。
彼は朝持っていたものとは違った弓を手に取り、普段扱うナイフではなく、箱の中に大事そうにしまってあったものを取り出していた。
嫌な予感がする、だから手を抜けない。という自分の思った理論のもと、準備をしていく。いそいだほうがいいのは分かっているが、下手に焦って大事なものを忘れたり壊したりしまっては余計に悪化するだけだ。
「最後は・・・・、これだな」
あまり持ちすぎても行動を阻害することになってしまうのであまりたくさんのものは持っていけない。
そして、最後に彼が持っていくと決めたものは一本の棒のようなものだった。
種類は打神鞭、警棒のようなものだと思えばいい。
古代中国の仙人が持っていた武器といわれるものだ。


嫌な胸騒ぎは先ほどよりも悪化していた。






「あれ?なんだろ?」
先ほど彼と別れた少女は、自分の家の近くの藪の中に輝いているものがいるように見えた。
生き物なのだろうか?
ワサワサと小さく動いており、それにあわせて周囲の木々も揺れ動く。わずかに吹いている風とは違った向きに動いているから風のせいで動いているということはないのだろう、と判断した彼女は好奇心を駆り立てられた。
動物なのであれば輝いているようにも見える毛並みだなんてどんな姿なのだろうか?
機械の類なのであればそれはどのようなものなのだろうか?
ゆっくりと、少しずつ、弓道場で矢を居るときと同じように心を落ち着かせてそれに向かって歩いていく。
だからこそ、それに近くまで接近することができた。
だからこそ、それに近づくことができてしまったのであった。
彼女の目に映ったのは銀色に見える体毛を持った巨大な狼。
日本どころか、世界のどこを探したところでこんな生き物は今の時代にはいないだろう。そんな生き物だった。
その姿に圧倒された彼女は、思わず食い入るようにしてみてしまった。
そして、見てしまった。その狼の口元が、鋭い爪が赤く染まっていることを・・・・・。
もはや原型を留めていなく、かろうじて見えた白いものによって人だとわかる肉片を・・・。
「えっ!?・・・・」
思わず声を上げてしまった彼女の姿を、銀色の狼の鋭い目が捉える。
無防備で、自分から近づいてきた弱いエモノ。彼女をそう解釈した狼は、鋭く尖った爪をあらわにした前足を振り上げた。





あ、死んだかな?
目の前の狼。なんで気がつかなかったんだろ。日本にこんな大きな生き物がいるのはおかしいってことに。
ずっと前に先輩に言われたことがあったなぁ・・・・・、しっかりと考えてから行動しろって。
あの時はさらっと流しちゃったけど、今となっては忠告をしっかりと聞いておくべきだったなぁって思える。不思議な気分だね。これから目の前の生き物に殺されるっていうのに落ち着いていられる。殺されるともなればもっとパニックになってもおかしくないだろうに。
あはは、感覚が麻痺しちゃったのかな?
恐怖で感覚が麻痺してしまいました。笑えないね、こんなの。もうちょっとだけでも、長く生きたかったな。
さようなら・・・・、先輩、お母さん、お父さん。
そして、仲良くなってくれたみんな・・・・・。
彼女は全てを受け入れたかのように目を閉じ、体に訪れるであろう衝撃を待った。




あれ?
おかしいな?
あまりにも強すぎて何かを感じる前に死んじゃってもう三途の川とか?
じゃあ、サボり魔で赤髪の死神さんに会えたりするのかな?
ちょっとだけ、周囲を見てみよ。

彼女が目を開けた世界は、先ほどまでとは何も変わらず、銀色の狼が前足を振り上げたままとなっていた。
いいや、振り上げているのではなかった。
一本の矢によって前足が近くの木に縫い付けられているのであった。
「へ?」
「グルルルル」
狼は矢を放った人物がいる方向に目を向ける。
それに釣られるかのように彼女もそちらに向けると、先ほど別の方向へと帰っていった筈の人物が立っていた。
「先輩っ!?」




胸騒ぎがあたってもいい気分はしないな。
とりあえず、間に合ったようだからあいつを逃すか。
あの縫い付けた矢もそう長くは持たないようだし、厄介なもんだな。あれは本当に生き物なのか?
気配とか言うと厨二くさいとかいわれるが、まさにそれだ。ほかの普通の動物から感じられるものとあれから感じられるものは違う。
嫌な感じしかしない。
「ここから逃げろ、殺されるぞ」
「せ、先輩だって」
「慣れてる人間と、慣れてない人間は違う。さっさと逃げろ」
「これを一人で背負い込む気ですかっ!?」
一人でせおいこむ。まさにそれだが、巻き込むわけにはいかないしな。
「手伝えますよ」
・・・・・、この生き物が何なのかはわからないが戦いに巻き込むべきじゃないのは分かる。
だから仕方がないか・・・。
「邪魔だ、足でまといになるから消えろ」
泣こうが喚こうが、事実でもあるんだけどな。
嫌われようが関係ない。
とりあえずこいつを殺す。
被害が拡大する前に殺す。目先すべきことはそれだ。


パキンッ

矢がついに折られ、銀色の狼が青年に向かって駆け出す。
その速度は車の速度よりも早いのではないかというほどのものであった。
青年はその程度は予測していた、とでも言わんばかりに、矢をつがえながら左にスッと移動する。
耳に熱いものを感じた。
何かが少しずつ下に向かって垂れている。完全に躱したつもりだったが、わずかながら耳を切られたらしい
だが、そんなものは関係ない。自分の一瞬前までいた場所を駆け抜けた狼を射貫こうと弓を向けたがその行動が間違いだったということを悟った。
なぜならあれほどの速度を出していた狼が、先ほど射抜かれたはずの右前足を軸に半回転して再び自分に向かって駆け出していたからだ。
「チッ」
舌打ちを思わずしてしまっていた。
ここまで速い生き物と殺りあったことなど一度もなかった。
ただただ厄介なことには間違いがない。
勝てる要素も全くと言ってないだろう。足でまといだといったはずなのに、まだ彼女がいる。
あちらを狙われては守りきれないし、これだけ速い生き物が相手だと誤射の可能性があるのでそちらに弓を向けられない。
彼は弓矢を左に向かって投げると、腰に帯びていた打神鞭を抜き、右手でそれをかけてくる狼に向けて構えた。




だめだ、本当に先輩の足でまといになってる。
手助けするなんて考えていた自分が馬鹿みたい。
先輩やあの生き物の速度を私は捉えられない、最初はただただ心に深く突き刺さっただけだったけど、この光景を見ていると自分がどれだけ邪魔かっていうのがわかる。
「先輩、ご武運を・・・・」
私はそこから逃げ出すようにして駆けていた。





あいつは行ったか、打神鞭でなんとか先ほどの狼の突進をそらしたものの、手がしびれた。
あとどれだけ戦えるかは分からないが、最悪でもこいつを道連れにする。
「本気で行こうか」
彼は再び腰に打神鞭を帯びると、投げた弓矢を拾った。



つがえて、放つ。
先ほどまでとは違い一度放つと何本もの矢が飛んでいく。
誰にも言ったことはないが、もともと俺の体は弱かった。だから、それを隠すためにも短期決戦や策略、技術を磨き上げた。だからこそいろいろなことができるようになった。
「喰らいな」
いっぺんに何本も矢を放てば雨のようになる。
少しずつでも削って倒してやる。
100本以上は矢があるんだ。なんとかなるだろ。
彼は先ほど放った矢が狼との距離の半分もいかない間から、第二射目の攻撃を行なった。
もちろん、いっぺんにたくさんの矢をつがえさせているのだが・・・。
躱すのか?
それともあえて受けて突っ込んでくるのか・・・・。
どちらにせよ、雨はしばらく止まないけどな。







数十分後、すでにお互いが満身創痍だった。
狼にとって誤算だったのは矢の威力の高さだろう。
最初の時にあえて受けながら突っ込む戦法をとったのだったが、その時に受けた矢の数が多すぎたのか、血が大量に失われており、途中からは動きにキレがなくなっていった。
そして、ふらついたところを狙われて、左目を矢に穿たれてしまった。
対する青年の方も、ボロボロである。
突っ込まれるたびに引っ掛けられ、アスファルトに叩きつけられたり、腕を切られたりしていた。
まだ戦えるとは言っても、体に鞭を打って動かしているようなものである。
ナイフも既に10本持ってきたうちの9本が砕け散っている。
「そろそろ終幕か・・・・」
矢も全て使い切ってしまった。
あと残っているのは腰の打神鞭と、袖の中のナイフ、そして摩耗した弓。
勝つためには・・・・・・、策はある。
失敗すれば最悪だが、うまくやればなんとかなるか・・・・。
「ラスト一本、終結と行くか」
彼が少しぶれつつある視界で狼を捉えたとき、それは彼に向かって駆け出していた。
右袖の中のナイフを口でくわえて、腰の打神鞭を右手に。左手には摩耗した愛弓を構えた。
完全にあの攻撃を回避することなど既に不可能。いくらキレがないといっても未だに速さは健在。
だから一撃で仕留めるためには・・・・・。
狼はその口を大きく開き、青年に向けて飛びかかる。
それに対し、彼は一抹の恐怖を感じることもなく右手を突き出すようにしながら左にずれる。
が、突き出していた右腕はその牙を回避することができずにただただ口の中へと吸い込まれていった。
狼の牙は鋭く、一撃で彼の右腕を食いちぎる。
頭の中は激痛で真っ白になりかけるが、この隙を逃したらもはや彼に勝ち目はなかった。
一瞬とはいえ、右腕を食いちぎるときに青年の体重も引っ張ったために狼の速度は落ちていた。右腕を食いちぎられた彼は、拘束がなくフリーである。
力を振り絞り、目の前の駆け抜けようとする狼の横腹に蹴りを叩き込んだ。
狼とて、既に満身創痍だった。
突然の横からの衝撃によって横に吹き飛ばされるように転がっていく。
アスファルトに叩きつけられることとなり、体が多少麻痺してしまっていた。
青年は、先のない右肩から流れる血の多さのせいか、顔を青くしながらもゆっくりと狼の方へと歩いていく。
そして、たどり着いた時に狼の頭の上に弓を置いた。そして、左足でそれを押さえると、今度は左手で口に持っていたナイフを矢のように弓の弦につがえていた。
「これで、終わりだ・・・・・」
ドスッ
鈍い音と共に、ナイフは狼の脳天に突き刺さり、脳髄を貫いた。
血が水たまりのように周囲に広がり、少しずつ、脳の一部のようなものも垂れていた。
「俺も、みたいだけどな・・・・」
青年はありえない幻想的な狼の上に力尽きて倒れた。

 
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