戦国異伝
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第七十七話 播磨入りその五
「それが問題です」
「山賊か」
「はい、何しろ山ですから」
「ふん、奴等なぞわし等がおれば何ともないわ」
蜂須賀は秀長に胸を張って述べた。
「わしの忍術で来れば薙ぎ倒してやるわ」
「わしもいるんだぜ」
煉獄も笑って言う。
「飛騨の忍術ってのはちょっと違うんだよ」
「左様、まずは戦うことを念頭に置いている」
拳も煉獄に続いて述べる。
「隠れることよりもだ」
「それはまた変わった忍術だな」
信行はその彼等の話を聴いて述べた。
「戦よりもか」
「左様でござる。我等の忍術はまずは戦うもの」
拳は信行にもだ。真面目な言葉で述べた。
「そこが伊賀や甲賀とは違う」
「ふむ。わしは戦には今一つ疎いが」
さらに忍術や武芸にもだ。信行はそういったものは今一つ苦手なのだ。つまりあくまで政、そして文の者なのだ。だから戦についてもそうなのだ。
それでだ。今もこう言ったのである。
「それでも忍術が隠れるものなのは知っておる」
「けれどそれはあたし等にとっては違うんだよ」
風は明るい笑顔で信行に話した。
「戦いそのうえで生き残る忍術なんだよ」
「成程のう。だからこそ我等の護衛にもなったか」
言いながらだ。信行は自分と飛騨者以外に今回共にいる者を見た。
羽柴兄弟に蜂須賀だ。その彼等を見て話すのだった。
「戦えるのは蜂須賀だけじゃな」
「ではそれがし達は」
「御主はようやく馬に慣れたところではないか」
信行は少し憮然とした声で羽柴に返した。
「剣も槍も弓も不得手であろう」
「確かに。それは」
「御主達は自分の身を守ることだけで必死になるのじゃ」
信行はこう言ったがそれはその通りだった。この兄弟についてはだ。
元々百姓でありしかも身体の筋肉も貧弱だ。それならばだった。
「死ぬな。何としてもな」
「だか護衛として論外だと」
「そう仰いますか」
「そういうことじゃ」
真面目な顔でまた兄弟に告げる信行だった。
「死んでは元も子もなかろう」
「それはそうですが」
「しかし」
「それでじゃ。飛騨者以外に武芸で頼れるのは蜂須賀だけじゃ」
「だからこそ飛騨者ですな」
「おらねば乗り越えることもできませんか」
こう信行と話す二人だった。そうしてだ。
「これもまた殿の適材適所」
「まさに」
「そうなるな。やはり兄上は見事じゃ」
ここで一行は深い木々になった。するとだ。
周りが暗くなった。その木々の中に入りだ。
羽柴は顔を顰めさせた。そのうえで一行に言ったのであった。
「信行様も今は御気をつけ下さい」
「わしもか。では」
「ここには何がいてもおかしくありません」
それでだというのだ。
「ですから慎重に。しかし」
「しかし?」
「しかしというと」
「それは山賊よりも怖いものです」
「ああ、猛獣なら安心していいよ」
獣がだった。笑いながらだ。
「ぼくがいるからね」
「御主は猛獣を使えるのか」
「僕が見てもそれだけじゃ駄目なんだ」
その巨大な身体の上にあるだ。童顔を見てだ。
そのうえでだ。信行が彼に問うた。
「それだけやなくてね」
「ではそこに何が必要じゃ」
信行はその獣にいぶかしむ顔で問うた。
「他には」
「うん、これ」
その信行に応えつつだった。獣はだ。
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