戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六十七話 将軍の最期その八
強張った顔でだ。それぞれこう言うのだった。
「左様か。まことにか」
「公方様を殺めたか」
「遂にそうしたか」
「左様です」
平気どいった笑みでだ。応える松永だった。
そしてだ。彼はこうも言うのだった。
「全ては無事に終わりました」
「無事と言っていいのか」
「公方様を殺めて無事か」
「そう言えるのか」
「何か不都合があるでしょうか」
相変わらずの口調だった。
「公方様は我等にとって敵でした。それならです」
「殺めてもよい」
「そういうことになるのか」
「この場合は」
「そういうことです」
こう応える松永にだ。ふとだった。
三人衆はその彼を見つつだ。こう言うのだった。
「待て、お無私先程は闇の色ではなかった」
「闇の服ではなかった?」
「それに具足や陣羽織も」
「何故変えたのじゃ」
「最初からこの服でしが」
「そうじゃったか?」
三人衆はそう言われてもだった。首を捻りだ。
その彼等にだ。これまた大勢の足軽達がついてだった。
彼等もだ。こう言うのだった。
「そういえば松永様の足軽達も」
「ふむ、闇の服ではなかったか?」
「具足もな何もかもな」
「しかし急にどうして闇でなくなった?」
「何時の間に」
「わからぬのう」
彼等も首を捻るのだった。しかしだ。
その彼等にだ。松永はまた述べた。
「それも気のせいじゃ」
「左様でござるか」
「気のせいでしたか」
「闇ではなかったですか」
「闇の服なぞ普通の者が着ることはないぞ」
このことを話す松永だった。
「まともな者はな」
「黒はありますが」
「上杉様ですな」
「あの軍は黒ですな」
「しかし闇はないであろう」
あくまで自分のことを隠してだ。松永は話していく。
「そういうことじゃ」
「ですな。では気のせいですな」
「さすればですな」
「とりあえずは」
「うむ、帰るとしよう」
こう普通の足軽達に話してだった。
松永は自分達の領地に引き挙げていく。そうしてだった。
松永はすぐにだ。三人衆との戦に入るのだった。まさに昨日の友は今日の敵だった。そしてその中でだ。松永はまた罪を犯したのだった。
その話を岐阜で聞いてだ。信長はだ。
難しい顔になってだ。こう家臣達に話した。
「公方様を殺めるだけではないとはな」
「はい、東大寺の大仏もです」
「それも燃やしてしまいました」
「尚且つです」
さらになのだった。
「その燃やした理由は戦において邪魔になるからと」
「三人衆の軍勢が楯にしていたその軍をです」
「まことに燃やしてしまいました」
そうしたというのだった。それを聞いてだ。
信長はだ。また言うのだった。
ページ上へ戻る