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久遠の神話

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第一話 水の少年その九


「それで罪を償え」
「元はといえば御前のせいだ」
 元教師は中田に竹刀を突きづけてきた。間合いはかなり離れているがそれでもだ。
「御前が俺を任せて通報したからな」
「犯罪者を通報するのは市民の義務なんだけれどな」
「だから俺は教師だ。あれは教育だ」
「まだ言うのかね。誰もそうは思わなかっただろ」
 どういった通報か。中田はそのことも話した。
「俺と一緒に部員も顧問の先生も全員通報したよな」
「うう・・・・・・」
「その悪い頭でもいい加減に理解しろよ」
 今度はこんなことを言う中田だった。
「あんたもう終わりなんだよ。終わりは奇麗にしろよ」
「くっ・・・・・・」
「わかったら消えろ」
 最後通告だった。
「それで二度と人前に出るな」
「まだ言うのか」
「もう言いたくないな。あんたの汚い顔は見たくないからな」
「俺をまだ侮辱するのか」
「侮辱じゃなく事実を言ってるんだよ」
 それだというのだ。
「わかったな。じゃあ消えろ」
「手前!」
 元教師は彼の言葉に激昂してだ。竹刀で襲い掛かった。それを見てだ。
 中田は両手に何かを出した。それで。
 一気に踏み込んでだ。一瞬のうちに無数の攻撃を打ち込んだ。
 それが終わり元教師の後ろに出てだ。言うのだった。
「馬鹿は死んでも治らないんだな」
「うっ、俺がまた」
「あのな、剣道ってのは暴力じゃないんだよ」
 その両手のものを何処かにしまってからだ。己の後ろにいる教師を横目で見て言った。
「剣を使うんだよ。そういうものなんだよ」
「まだ言うのか」
「あんた、両手両足の腱も靭帯も切っておいたからな」
 それでだというのだ。
「それも強くな。完治しても一生竹刀も握れないし生徒を殴ることも蹴ることもできないからな」
「糞っ、じゃあ俺は」
「もう何の力もない。只の下種豚だよ」
 そうした無様な存在に過ぎないというのだ。
「まあ。諦めて罪を償うんだな」
「くっ・・・・・・」
「今日のことも警察に通報するからな」
 中田はこのことを言うのも忘れない。
「精々罪を償ってくれよ」
「おのれ・・・・・・」
 こうしてだった。元教師は無様に崩れ落ちてだ。この話は終わった。
 上城はそこまで見てだ。中田に尋ねたのだった。
「あの」
「ああ、こいつはもう完全に終わりだからな」
その暴力教師じゃなくて」
 彼のことではなかった。もうそんなつまらない人間はどうでもいいというのだ。
 代わりに中田にだ。こう尋ねたのである。
「今さっきですけれど」
「さっき?」
「何使われたんですか?」
 戸惑う顔で中田に尋ねるのだった。
「両手に持たれていましたけれど」
「ああ、あれな」
「はい、何だったんですか?」
「これだよ」
 笑ってだ。出してきたのは。
 二振りの日本刀だった。どちらも同じ大きさだ。
 その赤く輝く刀を見せてだ。上城に話すのである。
「これな」
「何時の間に」
「背中に背負ってるんだよ」
 これは誤魔化しの言葉だ。しかしそれでも上城は今の言葉は信じた。話があまり急なので細かいところまで考えが及ばなかったのだ。 
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