戦国異伝
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第五十九話 一夜城その三
「よいな」
「はい、それでは」
こう話してだった。柴田と木下のやり取りは終わった。そうしてだった。
墨俣に城を築くのは木下の仕事になった。その彼にだ。
会議の後でだ。前田が彼のところに来てだ。怪訝な顔で尋ねてきた。
「猿、よいな」
「何でござろう、又左殿」
「その墨俣のことじゃ」
それに他ならないとだ。彼は言うのだ。
「出来るのか?まことに」
「ははは、確かにあの地に城を築くのは」
どうかとだ。木下は笑って前田に答えた。
「難しいでござるな」
「そうじゃ。それでもか」
「はい、お任せ下され」
前田に対してもこう言う木下だった。
「あの場所には必ずです」
「築けるか」
「左様です。まあ見ていて下され」
「御主は確かに突拍子もないことを言うが」
それでもだ。前田は木下という人間を踏まえて話した。
「しかしこうした場で嘘は言わぬな」
「敵にはそれに応じますが」
「調略じゃからな」
それはいいというのだ。前田はそれは割り切っている。
そのうえでだ。また言う彼だった。
「じゃがここでそう言うとじゃ」
「必ずせねばならない」
「そうじゃ。やるのじゃな」
「必ずです」
「では見せてもらおう」
「さすれば」
「あの地に城を築けば美濃は手に入ったも同じじゃ」
前田もこのことは踏まえている。もうそれはわかっていた。
そのうえでだ。どうかともいうのだ。
「後は稲葉山を抑えそうしてじゃな」
「そこからいよいよですな」
「上洛か」
それをだ。今言うのだ。
「いよいよ迫っておるな」
「左様ですな。美濃を押さえれば」
「夢の様じゃな。ついこの前までは尾張の半分程しかなかったというのに」
「それが今や尾張どころか」
「伊勢に志摩も押さえてじゃ」
それでさらにというのだ。
「美濃まで手中に収めようとしている」
「まさに飛ぶ鳥を落とすですな」
「信じられん話じゃ」
まさにだ。夢を見ている様な顔でだ。前田は語る。
そんなことを言いつつだ。木下に問うた。
「猿、御主もじゃ」
「それがしもですか」
「足軽からじゃな」
「ですな。こうして家臣団にも顔を出せるようになっております」
「瞬く間にな」
「女房もできましたし」
ねねの話になるとだ。これまで以上にだ。
木下はにこやかな、これまでとはまた違う笑顔になりだ。こう話すのだった。
「いや、いいこと尽くめですな」
「わしもまつができたしのう」
「お互いにですな」
「まつはわしの自慢の女房じゃ」
そうしてだというのだ。
「あれだけの女房はおらんぞ」
「いや、わしのねねの方が」
「上じゃというのか」
「ねねは天下一の女房です」
そうだと力説するのである。
「まつ殿も確かに見事ですが」
「二番目じゃというのか、天下で」
「ははは、どうでしょうか」
「ふん、それは譲らんわ」
こうした話をしながらだった。彼等はまた親睦を深めていた。
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