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戦国異伝

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第五十二話 青と黄その八


「その黒もまた」
「そうじゃな。水の黒は五行の黒でありよい黒じゃ」
 信長もそれはわかっていた。それでだった。
 この場でだ。そのことを確かに言うのだった。
「しかし闇の黒はじゃ」
「何もかも飲み込み消し去ってしまうものです」
 雪斎はこう指摘した。
「剣呑な黒であります」
「だからこそじゃな」
「闇の黒は忌むべきものでございます。しかしお話を聞く限りは」
 どうかというのだ。その津々木はというと。
「その闇を好んで着ております。つまりそれは」
「油断なりませぬな」
 生駒が言った。
「あの者は」
「わしも迂闊だった」
 彼に操られていた信行が暗い顔で言った。
「あの様な者にいいように使われるとは」
「いや、あれはじゃ」
 無念の顔を見せた弟に信長が兄として言う。
「御主の落ち度ではない」
「しかし実際に」
「御主が操られたのじゃ」
 信行の力量を知って、そのうえでの言葉だった。信行とて伊達に一門衆の筆頭で信長の傍にいる訳ではないのだ。その力量は信長も補佐役として認めるものだった。
 だがその彼が操られた。信長が言うのはそこだった。
「しかも御主は会い忽ちじゃな」
「はい、何時の間にかでした」
「あ奴に操られていた。どう考えても尋常な話ではない」
「妖術ですな」
 ここで雪斎がそれだと言った。
「それはおそらく」
「そうじゃな。わしは目に見たものしか信じぬが」
 信長そうした者だ。しかし信行が実際にその術中に陥ったということかだらだ。
 彼とてもだ。こう言うのだった。
「信じるしかあるまい」
「左様ですか。妖術を」
「あ奴はそれを使った」
 信長は津々木についてまた言った。
「そして勘十郎を操ったのじゃ」
「闇の衣を着た者が」
「まさかとは思うがのう」
 津々木の話をしてからだ。あらためてだった。
 松永について考えだ。そして言うのであった。
「松永もそうであるのかのう」
「若しそうした者ならばです」
「最早です」
「躊躇してはなりません」
 ここでまた家臣達がそれぞれ言う。
「若し躊躇すれば今度は殿がです」
「殿が操られてしまいます」
「ですから」
「その時はそうする」
 信長もだ。それは決めていた。
 そのうえでだ。こうはっきりと言い切ったのだった。
「わしは人を操ることは嫌いだが」
「そしてなのですな」
「さらに」
「操られることはさらに嫌いじゃ」
 信長のだ。その考えを述べるのだった。
「何よりもじゃ」
「だからですな」
「あの津々木の様な者なら」
「その時こそは」
「斬る。そうする」
 今度は何をするのかはっきりと言った信長だった。 
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