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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第17話 猫神様と黒い魔法使い(1)

 
前書き
4月7日16時、アリサのセリフの一部改変。アトラスネタを追加しました。 

 
「おじゃまします」

 前のジュエルシード騒動があってから1週間後の休日、アリサは月村邸を訪れていた。
今日は他になのはも呼んで、最近のジュエルシード集めの慰労を兼ねてのお茶会である。

「いらっしゃい、アリサちゃん」

「アリサ。らっしゃーせー」

 アリサの挨拶に至って普通に返したすずかと、いつものように眠たそうな顔をして、威勢のよい挨拶をする純吾。

「らっしゃーせーって……。純吾君、ここ、居酒屋さんじゃないんだから。
っと、いらっしゃいませ、アリサお嬢様。本日はようこそおいでくださいました」

 彼女たちの後ろに控えていたファリンが2人に遅れてアリサに丁寧なお辞儀をする。お辞儀の前にやや呆れ顔で呈した苦情に、アリサがくすりと笑った。

「ええ、ファリンさんも今日はよろしくお願いします。それにしても、どこで見ても純吾ってマイペースね、何だか安心したわ」

 何故アリサが笑い始めたか分からず、コテンと首をかしげる純吾。その様子に、アリサにつられてファリンもくすくす笑い始めた。
 どんな時でも調子が崩れない、けれどどこかずれてる純吾の様子に、笑いをこらえる事が出来なかったようだ。


 ひとしきり笑い終わると、ふとアリサは純吾の隣のすずかが浮かない顔をしている事に気が付いた。

「……すずか、ちょっとすずか」

「っえ? ど、どうしたのアリサちゃん」

 心ここに非ず、といった様子だったすずかが、アリサの声にビクッと肩を震わす。

「どうしたも何も、いきなりぼぅっとして」

 大丈夫かと顔を覗き込む親友に、すずかは大丈夫、とパタパタ手を振りながら答えた。

 すずかがぼんやりとしていた理由、それは彼女だけが知っている、決して人には見せない、見せようとしなかった純吾の危うい一面、それを考えていたからだった。

 あの日以来純吾はいつも通りに学校に行き、何の問題もなく生活している。
 だからこそすずかは逆に、「どんな時でもマイペース」という彼の様子にどうしても不安を覚えてしまっていたのだ。
 彼は今、どんな気持ちで過ごしているのだろうか、本当は辛いなんて事はないだろうか、と。

「…まぁ、すずかがそう言うなら大丈夫ね。ほら、ずっと立ち話もなんですし早く移動しましょ」

 しかしその事は親友には上手く隠す事ができたようだ。
 じっとすずかの目を見ていたアリサは、すずかの様子に一つ頷くとさっさと歩きだしていった。
 その背中をまた見るともなしに視線を向けていたすずかはほっと一息つき、気持ちを切り替えるために軽く頭を振った。

 しかしその後も、どうしてもアリサに続く純吾を見てしまう。

 やはりいつものように少し眠たそうにしているその横顔からは、すずかは何もうかがい知る事は出来なかった。





 場所は客間に移る。
 客間は壁の一面をガラス張りにして、照明が無くとも、太陽の光によって部屋の隅々まで明るさを保っている。
 またガラスの向こうには屋敷裏の森が見え、部屋の中にもガラスに沿うようにして観葉植物を置くなど、自然を間近に感じる事の出来る部屋である。

「それにしても、相っ変わらずすずかの家は猫屋敷ね」

 そんな部屋の真ん中に一つ置かれたテーブルに両手で頬杖をつき、アリサは目の前をのんびりと通り過ぎる猫を見やった。

 今3人が座っているテーブルの周りには、10匹は超えるだろう猫がくつろいだり、歩き回ったりしている。これでも普通の家なら多すぎるくらいだが、他の部屋に行けばさらに多くの猫がいる。
 彼女の言うとおり、猫屋敷と言うのがふさわしい月村邸である。

「ふふっ、アリサちゃんのお家と一緒だよ。知り合いの人から貰ったりしてたら、いつの間にかこうなっちゃった」

「確かに、うちもそんな感じだわ。……最近も一匹新しく来たしね」

 ちらりと純吾の方に目をやる。その視線に気が付くも、何が言いたいのか分からず不思議そうな顔をする純吾。

「あぁもうっ! パスカルよパスカル! あいつあんたの事も御主人だって思ってるから、すっごい淋しがってるの! だから暇があったら家に来て、顔くらいみせてやんなさい!!」

 顔を赤くしてまくし立てる様なアリサの説明に、純吾が「あぁ」と、ポンと手を打って納得がいった様子を見せた。
 そこで更にアリサが続けようとするが、チリンという軽やかな音と共に中断されてしまった。

「シャムス」

 純吾がそう呼ぶと、橙色に近い毛並みに青い眼をした小さい雌猫がたたっと駆けより、軽やかな跳躍で純吾の胸に飛び込んで行った。それを純吾は片手に抱き、かりかりと喉をくすぐり始めた。

「あぁこら返事くらいしなさいよ……って、へぇ。すごいなつき具合ね」

 みゃ〜、と純吾の腕の中で気持ちよさげな鳴き声をあげる猫――シャムスを見て、アリサが毒気を抜かれた様子になる。

「うん、シャムスは最近家に来たばかりの子なんだけど、純吾君が家にいるときはいっつも傍にいたがるんだ」

 アリサの様変わりぶりにおかしさを感じたすずかは、くすくすと小さく笑いながらそう説明をする。
 そして何の気なしに、橙と純吾に視線を移した。


 かりかりかり、ごろごろにゃ〜ん。
彼女たちの前で純吾はひとしきり橙を撫で終わると、シャムスを床に下ろした。
 そして唐突にポケットから茶碗蒸しを取り出し、シャムスの目の前に置く。そして自分も椅子から離れてしゃがみこみんで、彼女と目を合わせた。

「……今日こそは」

 そう呟く純吾の目には、期待のこもった光が宿っている。「今日こそは」と言っているあたり、会えば必ずこんな事をしているのかもしれない。

「ぅな〜ん……、にゃん!」

 しかしシャムスは困ったような鳴き声をあげると、茶碗蒸しに背を向け、ダッ! と走り去ってしまった。

「…………」

 シャムスの出て行った扉を恨めしく見やりつつ、彼女の食べてくれなかった茶碗蒸しを前にしてしゃがみ込んだままの純吾。
 たっぷり何秒間か停まった後、がっくしと肩を落として首を項垂る。小さく「また…失敗」というかぼそい声が2人の耳に届いた。

「……ぷっ、ふふふっ。ねぇ、純吾っていつもあんな事してるの?」

 まるで恋人に振られたかのような純吾の姿に、アリサはこらえきれずに吹き出してしまう。

「ははは…、純吾君があれをする時だけは、どうしてかシャムスも逃げちゃうんだよねぇ」

 苦笑いをしながらも、すずかがそれに答える。

 純吾からしたら、仲の良いシャムスに自分の作った料理を食べてもらいたいだけだが、彼女にしてみれば何か大きく戸惑う事があるのだろう、毎回こんな調子で逃げられている。

 別に猫に悪い食材は何一つ入ってないんだから、食べてあげればいいのに。すずかはやり取りを見るたびそう思うが、気まぐれな猫の気持ちなど分からないからどうしようもない。

 と、項垂れていた純吾が不意に顔をあげた。その顔は己の失策を悔いるかのようであり、先ほどよりも大きな声で、何か重大な過ちに気がついたかのように言った。

「……猫舌か!」

「違うわよ!」





「おじゃましま〜す」

「あ、なのは」「いらっしゃい、なのはちゃん」

 純吾シャムスのやり取りからしばらくして、なのはが部屋に入ってきた。少し遅れて、ユーノもひょこっとドアから顔をのぞかせる。
 扉の後ろにはなのはをここまで案内していたのだろうか、ノエルに忍、そして恭也がいる。

「忍さん、お久しぶりです」

 今日来てから挨拶をしていなかった事をアリサは思い出し、立ち上がって忍に挨拶をする。

「あらアリサちゃん、いらっしゃい。それにお久しぶり。」

 忍もにこやかに挨拶を返す。

「じゃあ、忍」

 タイミングを見計らって、恭也が忍に声をかける。忍は笑顔で振り向きつつそれに答え、また小学生組へと顔を向けた。

「えぇ。それじゃあ私たちは私たちで過ごすから、あなたたちもゆっくりしていってね」

「それと純吾に言っといてくれないか? 今日は稽古は無し、たまにはゆっくり羽を伸ばせ、ってな」

 ついで恭也も伝言をなのはたちに頼み、エスコートするかのように忍の手をとって微笑みかける。
 そんな良い雰囲気で見つめ合ったまま、2人はノエルを連れて足早に部屋を出て行った。

「…今日はリリーさんに遭わなくて済みそうだ……」

「あら…きょうや…そんなに期……してたの?」

「ち、ちがっ! 忍だって分かって……」

 足早に去って行ったのは、どうやらここ最近の恭也の天敵たるリリーから、2人だけで過ごせる時間を守るためだったようだ。


「……っと、そういえば純吾がいないんだけど、どうしたの?」

 恭也と忍が出て行ってもひとしきり同情の視線を送っていたユーノが、そう声をあげた。

「純吾君なら、作った料理もってくるってなのはちゃんが来る前に出て行ったよ」

「そうなんだ。けど、お疲れ様でこうやって集まったのに、何だか申し訳なくなっちゃうね。純吾君、いっつも一番前で頑張ってくれてるのに」

 答えてくれたすずかの方を見やりつつ、困ったようになのはが言う。
 なのは自身も封印の為に魔法を使っているが、それを当てられるように毎度囮を買って出ているのは純吾とその仲魔達だ。

 一番多く動き、一番危険が大きい役割を担ってくれている彼に休日まで動いてもらうのは、どうしても気が引ける。

「いいじゃない。なのははこうやってだらけて気が休まって、純吾は料理を作ると気が休まる。それがあいつの息抜きなんだから、私たちは期待して待ってればいいのよ」

 アリサがそうなのはの憂鬱を紛らわせるようにきっぱりと言い放つ。
 それを聞いて気持ちを切り替えたらしいなのはだが、今度は違う事で不満を漏らし始めて頬を膨らます。

「むぅ、アリサちゃん。それだと私がなまけものみたいなの」

「あら、そうじゃなかったの?」

「もぅ!」

 そんな風にしばらくの間、肩ひじ張らなくていいゆったりした雰囲気でお喋りはコンコン、と扉をノックする音が聞こえてくるまで続いた。

「は〜い、どうぞ」

 間延びした声で、すずかが扉に向かって声をかける。扉があいて

「……なのは、ユーノ。らっしゃーせー」

 料理の準備が終わったのか、色とりどりのお菓子を乗せたトレイを持った純吾が入ってきた。すずかの声に、こちらも間延びした声で挨拶を返す。

「にゃはは。こんにちは、純吾君」

「うん、こんにちは純吾。でも、らっしゃーせーって、聞いたことない挨拶だね」

「あんなの使ってるの居酒屋か、どこぞのさびれた田舎のガソリンスタンドだけよ。それと純吾、後ろにまだ人がいるんじゃないの?」

 こちらの世界についてうといユーノの言葉に、アリサがやれやれと首を振りながらそう答えた。本人には全く悪気はないが、この世界の事をあまり知らないユーノに妙チクリンな常識を教え込みそうで、ちょっと心配だとアリサは思っていた。

 ひそかに“妙チクリンな常識”を持っている事と認定されてしまっていた純吾は、あぁ、と今気がついたという様に扉から一歩横に避け、次の人が入ってくるのを待った。

 「失礼します」という涼やかな声と共に入ってきたのは、この屋敷に相応しい、瀟洒なメイドだった。
 ホワイトブリムを乗せ、流れるように艶やかな黒髪は後ろでひとくくりにまとめられていた。
 首の前に結わえられた大きくて赤いリボンに、やや紫がかっている落ち着いた色合いのワンピースを着ており、その上に着ているふわふわのフリルのついたエプロンは、腰のあたりで動かない様に帯をしっかりと結わえ、ほっそりとした腰をより強調していた。

 足音すらたてず静かに部屋の中に入り一礼をする彼女。
 優美な笑顔を顔に浮かべ丁寧にお辞儀をする様は、主とその客人をもてなすために家事をこなす者として一流の風格を醸し出していた。

 そんな洗練されたメイドの様子に、純吾を除く全員が彼女を直視して固まるが

「……って、リリーさんじゃないですか! 何やってるんですかそんな恰好して」

 一足先に我に返ったアリサがそのメイド——リリーに驚きの声をあげた。
 その声にゆっくりとあげはじめた顔には、先程の気品あふれるものとは全く違ういたずらを成功させた子供の様な笑みを浮かべていた。

「あら、忍やすずかにメイドが居るのよ? だったら、ジュンゴにだって居たっていいじゃない♪ それに、今日は気分転換の日だっていうし。驚いてもらえたかしら?」

 アリサの声にドッキリが成功したと思い、まだ呆気にとられていた面々に向かって楽しそうにリリーは答えた。

「ん…。リリム、似合ってる」

「ふふっ。ありがとね、ジュンゴ♡」

 そうやってリリムは例の如く純吾を抱きかかえる。
 もうさっきまでの洗練された雰囲気は霧散させて、いつものバカップル(一方的なものだが)オーラをばらまき始めていた。

「ふぇぇん、リリーさ〜ん。挨拶終わられたのなら、早くのいてくださいよぉ〜。」

 と、リリー達の後ろから情けない声が聞こえてきた。
 その後、少しよたよたしながらめいっぱいお菓子やら飲み物の紅茶やらを乗せた大きいトレイを持ってファリンが入ってきた。

「あら、御苦労さまファリン♪」

「御苦労さまじゃないですよぅ。いきなり私に全部持たせてさっさと行っちゃうんだもん、腕が限界ですよ〜」

 純吾を抱きかかえたまま、首のみファリンに向けねぎらいの言葉をリリーが送るが、それにファリンは涙目で返した。
 今いる客間から調理場までは結構な距離があり、普段では持ちなれない重さに腕はふるふる震えて限界寸前だったのだ。

「……あっ、なのはお嬢様、それにユーノ君も。本日はようこそって、きゃあ!」

 しかしそれでもテーブルに座っていたなのはとユーノを見かけたファリンが、律儀にもトレイを持ったまま挨拶をしようとしたが、トレイの奥側に置いてあったお湯の入ったポットに頭突きをしてしまう。ただでさえトレイが重たかった事もあり、グラリと重心を崩すファリン。

「あ、危ない!」

 すずかが腰を浮かして叫ぶ。
 しかしその声に意味は無く、あわやファリンごとトレイに乗っていたものが床にぶちまけられ……

「ふ〜」

「やっぱりこのお姉ちゃん」

「「「ぼく達がいないとダメダメだよねぇ〜」」」

……てしまう直前に、何故かふよふよと宙に浮かび、トレイに載せられていた物たちはその場に止まっていた。

 ファリンの失敗をカバーし嘆息をつくのは、3人の青白く小さい、のぺっとした小人たち。そう嘆息すると同時に手を振って、お菓子たちを触れずにトレイの上へと持って行った。

「ん…。ありがとう、ポルターガイスト」

 純吾がお礼を言って、彼らが集めてくれたお菓子を何事もなかったかのようにテーブルへと持っていく。
 その光景にテーブルのなのは達は、ビックリして声もでないといった感じだ。

「まったく、このメイドさんには毎回ヒヤヒヤさせられるわね」

 ファリンも自分の失敗が大事に至らなかった事に気が緩んだか、どこからともなく聞えてきたその声に首を何度も縦に振ったが、ふと、自分が何故か羽交い絞めされていた事に気がつく。

「あ、あのリリーさん? 純吾君が無事お菓子を持って行ってくれた事ですし、これはずしてくれたら嬉しいなぁ〜、なんて」

「ええ。確かに純吾は、ちゃんとお菓子を持って行けたわよね?」

 振り返ってみたリリーの顔は笑っていたが、声は全く笑いが含まれていない。

「今まで大目に見ていたけど、ついにジュンゴのお菓子を落としそうになるなんて……
 あなた、そろそろ年貢の納め時だと思うのよ、わたし」

「「「ぼく達が何度フォローに入った事やら」」」

「えっ? えっ?」

 突然のリリーとポルターガイストの言葉にきょろきょろと挙動不審になるファリン。
 正直、突然の事に彼女の頭は働いていなかったが、それでも一つだけ彼女にも分かった事があった。


――このままいくと、絶対碌な事にはならない


「だ・か・ら」

 しかしそんなファリンの胸中を知ってか知らずか。にこっ、と再びリリはファリンへ笑いかける。
 しかし笑いかけられた方は、その笑顔が死刑宣告のように感じてしまう。ファリンの顔がサッと青ざめる。

「今から、私たちと一緒に特訓しましょっか♪」

「い、いやぁ〜〜〜」

 ずりずりずり、と羽交い絞めされたまま扉へと移動させられるファリン。助けを求めるようにすずか達へ伸ばした手もむなしく、扉はバタンと締められてしまった。

「「「ふっふっふ。どんな事して楽しも、いやいや訓練をしようかなぁ〜」」」「あ、悪魔がいるぅ〜」「あら、最初の自己紹介でそう言ったでしょ?」そんなやり取りをしながら遠ざかっていく声。

 後に残されたのは、ぽかんとその様子を見ていたなのは達テーブルに座っていた組に、扉を背にしてせっせとテーブルのセットをしていた純吾。

 目の前の友人達が呆然としているのを尻目に、テーブルのセットを終えた彼は、首をかしげながら言うのだった。

「じゃあ、お茶会、しよ?」
 
 

 
後書き
〜仲魔紹介〜

【幽鬼】ポルターガイスト(Lv2)
力:4 魔:5 体:4 速:4
魔耐性 電気・衝撃弱点

ドイツ語で「騒音」と言われる存在。食器など家具を飛ばしたり、不快な音を出したりする。
 
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