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戦国異伝

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第一話 うつけ生まれるその五


「またな」
「またとは」
「しかしその前に織田家は」
「むしろあれは織田家を恐ろしい場所に高めるぞ」
 信秀は今度は不敵な笑みを浮かべて述べた。
 そうしてだ。信秀は二人もこうも言った。
「その方等勘十郎の方がいいと思うておるな」
「いえ、それは」
「その様なことは」
「よい。わかっておる」
 二人は本音を必死に隠そうとした。しかしそれは既に見抜かれていた。だが信秀は今はそれを咎めずにだ。また言ってきたのだった。
「それはな」
「・・・・・・・・・」
 二人は沈黙してしまった。だがここで信秀はその吉法師以外の子のことも話した。
「あれは出来物だが主の器ではないのだ」
「主の器ではない」
「左様ですか」
「宰相の器だ」
 それだというのである。
「主ではない」
「そうなのですか」
「勘十郎様は」
「そうだ、しかし吉法師は主の器」
 また吉法師について話した。
「それもやがてわかる」
「だといいのですが」
「それも」
「やがてあれの周りには人が集まって来る」
 信秀は笑っていた。不敵なまでの笑みを浮かべている。
「そして天下を制するであろう。少なくとも甲斐の武田や越後の長尾を超えるな」
「あの二人をですか」
「虎に龍を」
 二人も武田晴信、そして先の長尾影虎のことはよく聞いていた。今急激に勢力を伸ばし戦に勝ち続けている。その者達を超えると言われたのだ。
 しかもそれがあのうつけと言われる吉法師だ。驚くのも無理はなかった。
「超えますか」
「まことに」
「駿河の今川や美濃の斉藤なぞものともせぬだろう」
 今信秀が実際に干戈を交えている相手だ。どちらも厄介な相手だ。
「必ずそうなる」
「ではそれを見よと」
「我等に」
「そうだ、見る」
 信秀はまた言った。
「それは言っておこう」
「ではその言葉しかと受けました」
「それでは」
 柴田も林もだった。遂に主の言葉に頷いた。
 そうしてだった。また言った。
「是非見させてもらいます」
「吉法師様を」
「うむ、癇の強い者だがそれも見るのだ」
 既に信長の癇の強さも知られていた。気の短さにおいてもよく知られるようになっていたのである。その極端な性格もである。
「わかったな」
「では我等は今より」
「吉法師様の家老となりましょう」
 こうして二人は吉法師の家老となったのだった。
 だが吉法師の格好も行いも全く変わらない。相変わらず無作法極まりない仕草で町を練り歩き乱暴に馬を乗り水練を行う。その中でだ。
 まずは柴田が気付いたのだった。それを老練な、深い皺の顔の男に言うのだった。佐久間信盛である。
「吉法師様だが」
「うむ、どうなのだ?」
「どの様な馬でも乗られ水練も見事だ」 
 まずはこの二つを話すのだった。
「どちらも速くしかも上手い」
「乱暴であってもか」
「確かに戦場ではそうそう穏やかにやっていられぬ」
 柴田はこれまで多くの戦いを経てきた。それでそうしたことはすぐにわかるようになっていたのだ。 
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