戦国異伝
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第三十六話 話を聞きその十二
「東海は大きく変わります」
「といいますと一体」
「どうなると」
「おそらく今川殿はこの一戦で潰えます」
謙信はそこまで読んでいた。謙信は全てをその直感で読んでいた。
そのうえでだ。今二十五将に話すのである。
「その後の駿河にはです」
「武田ですか」
「あの家が入りますか」
「甲斐の虎、必ず動きます」
謙信はここでも直感に基づいて話す。
「主のいなくなった駿河に入るでしょう」
「そうなれば」
「武田はかなりの力を手に入れますな」
「只でさえ強大だというのに」
今の時点でも天下屈指の勢力を誇る、それが武田なのだ。
そしてそこに駿河まで手に入れるとどうなるか。話はそこにあった。
「駿河の富までとは」
「最早殿か北条でなければ」
「相手になりませんな」
「いえ、武田よりもです」
それよりもだとだ。謙信はここで言った。
「織田です」
「その勝利を収めたですか」
「織田がなのですか」
「そうです。織田は間違いなく天に昇ります」
謙信の頭の中に青い龍があった。それこそがである。
「そしてそのうえで、です」
「その武田にも匹敵する力を手に入れる」
「そうなりますか」
「間違いなく。蛟龍は東海に留まりません」
信長のいるだ。そこに終わらないというのである。
「さらに上を目指すでしょう」
「左様ですか」
「ではこの度の戦は」
「かなり大事ですな」
「その通りです」
謙信はここでもだ。断言してみせるのだった。
そうした話をしてだ。そのうえでだった。
家臣達にだ。あらためてこう話すのだった。
「そして我等はです」
「はい、上杉は」
「どうされますか」
「越中は手に入れるつもりはありませんでしたが」
謙信はそれはというのだった。
「ですが。手に入ったからにはです」
「万全に治める」
「そうされますね」
「そのうえで一向一揆との戦を続けます」
謙信の敵は武田や北条だけではない。彼等も敵なのだ。
一向一揆との戦も激しいものになっている。しかし彼等に対してもだ。謙信は勝ち続けている。やはり軍神の名は伊達ではない。
「そうします」
「そして能登ですが」
「あの国は」
「畠山とはですが」
「上杉に対して反感を持っています」
それが問題だというのである。
「こちらから戦は求めませんが」
「それでもですね」
「あちらから来るならば」
「降りかかる火の粉は払わなければなりません」
戦国の世ならば当然のことだった。そうしなければ生き残ることはできない、戦国の世というのはそうした過酷な世なのである。
だからだ。謙信もだ。それならば戦わなくてはならないのだった。
そうした話をしてだ。謙信もだ。
織田と今川の戦の成り行きを見ているのだった。織田が勝利を収める、そう確信しているのはだ。謙信もまた然りなのだった。
第三十六話 完
2011・4・9
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