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戦国異伝

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第二話 群星集まるその三


「川を見るのじゃ」
「川、ですか」
「この尾張は川が多い」
 それはこの通りだった。尾張はとかく川の多い国であるのだ。
「そして美濃もまた然りだな」
「といいますと」
「まさか」
「そのまさかよ。尾張の川を制しそのうえで他の織田家の者に睨みを利かす」
 そこから先は言うまでもなかった。睨みを利かすだけではだ。
「そしてだ」
「そして、ですか」
「さらになのですね」
「美濃じゃ」
 そこも見ていた。
「美濃を制するのにも川は必要になってくる。だからこそじゃ」
「ふむ。見事ですな」
 林はそれを聞いてまずは頷いてみせた。
「川は考えませんでした。それはよいことかと」
「そして堤もじゃ」
 吉法師はさらに言った。
「川の堤を築くのに水を知る者がいては好都合ではないか」
「言われてみれば確かに」
「その通りです」
 林だけでなく森も答えた。
「ではそれも兼ねてですか」
「政もですか」
「堤をしかとせずして田は成り立たぬ」
 それについても言ってみせた吉法師だった。
「はい、それでは」
「是非」
「ふむ。確かによいですな」
 政秀も主のその考えは認めた。
「しかしですな」
「何だ、爺」
 吉法師は政秀のその言葉を受けて顔を向けた。
「言いたいことがあるのか」
「はい、思いつきでそれをされたのならばまことではありません」
 こう厳しい顔で言うのである。
「しかと基礎を固めたうえでなくては何でもありません」
「やれやれ、厳しいのう」
 吉法師は傍らに控える彼の言葉に苦笑いで返した。
「わしとしてはいい考えだと思うのだがな」
「いいお考えではあります」
 政秀もそれは認めた。しかしそれで褒める彼ではなかった。
「ですが。この後どうされるおつもりですか?」
「知れたこと、少し馬に乗って来る」
 それをするというのである。
「今からな」
「それがいけませぬ。そのお姿にしても」
 見れば吉法師の姿は相変わらずだった。髷は茶筅髷で紐は紅だ。しかも豹のそれを思わせる柄の上着に半袴である。相変わらずの格好である。
「それが一国の主のお姿ですか」
「そうだが何かあるか」
「あり申す。それで主とは」
「いいではないか。とにかく政の話はこれで終わりだ」
 吉法師は言い切ってみせた。
「馬に乗って来るぞ」
「いけません、まずは学問を」
「学問なぞ何時でもできる」
 これを聞いて林達は内心頷いた。しかし政秀は違っていた。
 その主にだ。さらに言うのである。
「それがいけません」
「やれやれ、厳しいのう」
「厳しくともです。殿はまだまだ学問が」
「ああ、わかったわかった」
 右手を横に振っての言葉だった。
「ではもういいではないか」
「またその様に仰って」
「では行って来るぞ。それではな」
 吉法師は話を強引に切ってだった。そのうえで今は席を立ちそのうえで馬に乗りに行くのだった。政秀はただ一人苦々しい顔をするだけだった。
 滝川はここでだ。その九鬼嘉隆の所に行っていた。精悍な顔に荒々しい薄い髭を生やした男であった。
 滝川は吉法師が話していたことを全て彼に話した。すると九鬼はすぐにその精悍な顔をにやりとさせてそのうえで言ったのである。 
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