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戦国異伝

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第百十話 切支丹その二


「わかったな。このことは」
「承知しております」
「それがしもでございます」
 小寺だけでなく小西も頭を深々と下げ誓う。
「そうしたことは今までしたことがありませんし」
「これからもです」
「ならよいが何かあれば許さぬ」
 やはり信長の口調は変わらない。
「その際はな」
「ご安心下さい、それがしもです」
 小西もはっきりとした声で答える。
「そうしたことをするつもりはありませぬ」
「決してじゃな」
「そうしたことをしても何もなりませぬ」
 他の宗派を幾ら攻めても無意味だというのだ。
「全く以て無益です」
「わかっておればよいがな」
「はい」
「寺社、罪のない者達を攻めて何になる」
 信長は腐った僧侶は好きではない、だが徳のある僧侶、罪のある僧侶に対しては一切何もしないのである。
 だからこそ今小寺と小西にもこう言うのだ。
「何にもならぬわ」
「ですな。確かに」
「大友殿は明らかにおかしいかと」
「大友家については調べておかねばな」 
 何故そうした行いをするかということをだ。
「耶蘇のおかしな坊主がおるやも知れぬ」
「殿、そのことですが」
 小寺はこれまで以上に神妙な態度になって信長に言ってきた。
「一つお話したいことがあります」
「そのおかしな坊主のことか」
「フロイス殿や最初に本朝に来たフランシスコ=ザビエル殿は非常に徳のある方ですが」
「延暦寺の坊主みたいなのがおるのか」
「噂ではありますが」
 小寺も少し信じられないといった顔である。
 そしてその顔でこう信長に言うのである。
「比叡山なぞ比べ物にならぬまでに」
「何っ、あの山よりも遥かにか」
「はい、堕落した坊主達も多いとか」
「あれよりもか」
「にわかには信じられませぬか」
「とてもな」
 流石にこれは信長の想像を超えていた。それで信じられぬといった顔でこう小寺に対して問うたのだった。
「そこまで腐れるというのか」
「あくまで伝え聞いた話ですが」
「それでも話してくれるか」
 信長は真剣な顔で小寺に言う。
「向こうの坊主がどういったものかを」
「それでは」
 小寺は信長の言葉に頷きそのうえでキリスト教の僧侶達の腐敗の有様、彼が伝え聞いたことを全て話した。
 その全てを聞いて信長も小西も唖然となっていた。
 信長はその顔でこう小寺に言った。
「信じられぬ」
「それがしも最初聞いて言葉をなくしました」
「人はそこまで腐れるというのか」
「はい、その様です」
「異端だから多くの者まで巻き添えにして皆殺しにするなぞ有り得ぬ」
「全く以て」
「戦になれば確かに人は死ぬ」
 殺さねばならない、それは避けられないにしてもだ。
「徹底的に殺すにしても関係のない者まではじゃ」
「殺すまでもありませんな」
「そうじゃ」
 やるとなれば躊躇しない信長ですらそれはできなかった。
「殺せ、神が全てを見分けられるとな」
「それは幾ら何でも」
「やってはならぬことじゃ」 
 信長もこう言う程だった。 
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