戦国異伝
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第九十三話 朝廷への参内その六
「それが天下を統一しそれがしが為さんと思っていることです」
「天下泰平の為の天下統一か」
「左様でございます」
「して民を」
「はい、民を安んじさせます」
天下泰平の中には当然民も入っている。それを忘れる信長ではなかった。むしろそのことを念頭に置いてそのうえで動いているのが彼なのだ。
それ故にだ。彼は言うのだった。
「泰平の世を楽しまさせます」
「民達を楽しまさせるか」
「そう考えていますが」
「ふむ」
信長の話をここまで聞いてだ。帝は。
少し考えられた。そのうえでまた信長に仰ったのである。
「ただ野心があるだけではそれは何にもなりはしない」
「帝もそう思われるのですな」
「無論。今朕は残念だがここにこうしているだけしかできぬ」
朝廷に力をないことをだ。帝ご自身が最もよく御存知だった。
「無念なこと。だが」
「それがしにですか」
「そなたが天下泰平を為すことを望む」
だからこそだった。こう信長に告げられたのである。
「それを頼んでよいか」
「それがしに。天下泰平を」
「民達の苦しみは見ていていいものではない」
帝はこうも仰った。
「だからこそ。そなたに頼みたいのだ」
「それがしが天下を統一し」
「天下を泰平にすることじゃ。よいか」
「有り難きお言葉」
信長は帝のそのお言葉に頭を垂れた。そのうえで。
顔を戻してからだ。帝に述べたのだった。
「それでは。それがしもまた」
「朕の願いを受けてくれるか」
「そうさせて頂きます」
これが信長の返事だった。
「是非共天下を一つにし」
「そうしてか」
「はい、民達に泰平を楽しんでもらいます」
「そうしてくれるか。それでは」
帝は信長の返事にそのお顔を綻ばさせられた。そうしてからだった。
近衛に顔を向けられてこう述べられたのだった。
「あれを」
「あれをですか」
「うむ。信長にあれを授けたい」
「しかしあれは」
「よい。朕が持つよりも信長が持つ方がよい」
だからだと仰るのだ。
「それ故だ。出すのじゃ」
「左様ですか。それでは」
近衛は帝のお言葉を受けた。それからだった。
彼は信長に顔を向けそのうえでこう言うのだった。
「織田信長殿」
「はい」
「帝より下賜があります」
「といいますと」
「暫しお待ち下さい」
近衛が言うとだ。不意に女官の一人があるものを持って来た。それはというと。
衣だった。青い衣だった。
その衣を見てだ。信長は帝に尋ねた。
「帝、これは」
「朕が持っている衣の一つ。しかし朕は青い衣が似合わぬ」
それでだというのだ。
「織田家の色は青だな。だからこそだな」
「はい、こうして礼装も青にしております」
青はまさに織田家の色だ。具足も旗も鞍も槍も柄も何もかも青だ。
そして今の礼装もだ。その青だというのだ。
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