戦国異伝
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第八十九話 矢銭その一
第八十九話 矢銭
信長自ら率いる織田家の軍勢は摂津から和泉に入った。その途中にだ。
三好から織田家に鞍替えする国人達が相次いだ。元から三好に反感を持つ国人達はさらに早く馳せ参じる。織田家は殆ど戦わずに和泉を手中に収めていっていた。
だがそれでも彼等は緊張の中にあった。何故なら。
先陣を進む蒲生にだ。共にいる堀と原田が言ってきた。
「いよいよじゃな」
「あの地じゃな」
「左様ですな」
蒲生もだ緊張している顔で二人に応える。
「石山です」
「あの男は本願寺は仕掛けてこぬというが」
「信じられぬわ」
「むしろです」
蒲生もだ。ここでこう言うのだった。
「そうではないと思う方が妥当でしょう」
「松永弾正じゃからな」
「本願寺とつながっていても不思議ではないぞ」
「いや、実際につながっておるのではないか?」
「その危険もあるのう」
堀と原田も松永を信頼していなかった。むしろだ。
危険だとみなしていた。彼等も他の織田家の面々と同じ考えだった。
「やはり。除くべきか」
「そうした方がよいであろうな」
「それがしもです」
蒲生がまた言ってきた。
「同じ考えですが」
「殿がああ申されるとな」
「こちらもしにくいわ」
「殿のお考えですが」
見れば蒲生の顔は難しいものになっている。その顔での言葉だった。
「松永という者のことはおわかりかと」
「殿が見抜かれぬ筈がない」
このことについてはだ。堀は確信を以て答えることができた。
「殿はまた特別な方じゃ」
「人を見抜く目も凄いぞ」
堀だけでなく原田も言ってくる。
「だからこそじゃ」
「松永のことはとうの昔にご存知じゃ」
「そのうえで用いられているならば」
その場合はどうかとだ。蒲生は言った。
「殿はかなりの肝の持ち主ですな」
「蠍じゃからな、あ奴は」
「その蠍をあえて傍に置かれるとなるとじゃ」
「やはり。相当なものじゃ」
「おいそれとはできぬわ」
それはだとだ。二人も言う。こうした話をしながらだ。
織田軍はその石山の傍に来た。その彼等の右手にだ。
深い水堀と空堀が二重三重にありしかも高い城壁に石垣を供えた巨大な寺が見える。いや、それは最早寺と呼べるものではなかった。
まさに城だった。その巨大な城を見てだ。蒲生は唸る様に言った。
「あの寺、いや城を攻めるとなると」
「十万は必要かのう」
「それだけはいるな」
堀も原田もだ。その巨城を右手に見て言う。織田軍はその城を今右に見ているのだ。だがその巨大さの前にだ。織田の青い大軍も色褪せていた。
彼等はまさに米粒だった。巨城の前には。その彼等が言うのだった。
「岐阜や観音寺ですら話にならぬわ」
「小田原位ではないのか、あの城より凄いのは」
「うむ、とてつもない大きさじゃ」
「洒落にならぬわ」
こう言うのであった。そしてだ。
蒲生はその石山寺を見ながらだ。こんなことを言った。
「兵の数も多いですな」
「僧兵だけではないな」
「他にも大勢おるな」
見ればその通りだった。侍もいれば槍を持った百姓達もいる。その彼等の持っている武器も身に着けている具足もいい。しかもだ。
その数もかなりのものだ。尚且つ鉄砲も多い。蒲生はそれを見て言うのだった。
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