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戦国異伝

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第八十八話 割れた面頬その八


「臆することなくな」
「そうされますか」
「そうする。しかしじゃ」
 だが、だ。それでもだということもだ。信長は忘れてはいなかった。
「警戒は続ける」
「それはそうすべきかと」
「顕如か。どうやらじゃ」
 彼はどうかとだ。信長はここで言った。
「武田、上杉と同じくじゃ」
「あの二家と同じく」
「といいますと」
「かなりの相手になりそうじゃな」
 既に先を見ている様にだ。信長は言ったのである。
「若し戦になればじゃ」
「かなりどころでは済みませぬな」
 竹中はすぐにだ。信長のその話に言ってきた。
 見ればその顔は何時になく深刻な顔である。その顔での言葉だった。
「一向宗が相手となるのですか」
「そうなるか、やはり」
「武田、上杉は精々五万の兵が相手です」
 竹田にしてもその位だ。今の織田家の動員できる兵力と比べると違いが出てきているのだ。確かに織田の兵は弱兵であるがだ。
 だが一向宗、彼等はどうかというのだ。
「一向宗は十万では済みませぬ」
「門徒全員が兵になるからのう」
「老若男女全てが向かってきます」
 一揆は元々そうしたものだが一向一揆は特にだというのだ。
「それぞれが鍬や鎌、竹槍を持って襲い掛かってきます」
「その竹槍がのう」
 安藤がだ。ここで竹中に言ってきた。見れば彼も苦い顔になっている。
「存外厄介なのじゃ」
「うむ、その通りじゃ」
「鎌も鍬も嫌なものじゃ」
「全くじゃ」
 これは稲葉、氏家、不破の他の四人集の面々も同じ意見だった。そうした百姓の道具も武器になる、そして武器として使われればだというのだ。
「妙に強いからのう」
「農具はそれ自体が武器じゃ」
「充分戦えるものじゃ」
「しかもです」
 竹中は四人衆に応えながら信長にさらに話していく。
「一向宗には雑賀の者達等がおります故」
「むっ、紀伊のあの者達じゃな」
「はい、あの者達は鉄砲を巧みに使いまする」
 織田家も多く持っているだ。それをだというのだ。
「一向宗全体でも鉄砲の数は我等のその数を凌駕しております」
「むう、我等よりもか」
「それは恐ろしいのう」
 森に池田もだ。それを聞いて強張った顔になる。
「それだけの鉄砲で襲われてはな」
「たまったものではないぞ」
「何千丁あるかわからぬ位です」
 そこまでだ。本願寺の鉄砲の数は多いというのだ。
「ましてや雑賀衆はどの者も鉄砲の手だれです」
「我等はあれじゃ」
 羽柴は織田家の鉄砲について話す。
「千丁あるがどれも数を撃つだけじゃ」
「下手な鉄砲というからのう」
 鉄砲を扱うことに慣れている滝川はこう言った。
「数を撃ってその音でも驚かせてじゃ」
「そうして戦うことは間違いではありません」
 竹中も滝川のその考えは悪くないとする。
「むしろ。千丁の鉄砲にしてもこの国の大名の誰も持っていません」
「我が家は群を抜いておるな」
「それは確かです。しかしです」
 だがそれでもだというのだ。本願寺は。
「本願寺はまた特別です」
「何千丁あるかわからぬ」
「そこまで覆いとなると」
 織田家の誰もが唸る。流石の彼等もそこまでは持っていないからだ。
 それでだ。蒲生がこう言ったのだった。
「若しそこに突っ込めば。その軍勢は」
「蜂の巣じゃな」
 生駒が苦い顔で蒲生に応える。
「即座に」
「そうなりますな」
「そんな相手とは戦えぬ」
 生駒にしてもだ。それではだった。 
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