万華鏡
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第十四話 成果その十
「それでもなの?」
「白い御飯でも身体にいいのよ」
「澱粉しかないんじゃ」
「それが違うのよ。麦と比べてもね」
比較対象はこれだった。
「身体にいいのよ。それに美味しくて腹もちもいいでしょ」
「うん、確かに」
「パンやオートミールと比べて多くの種類のおかずとも合うし」
「確かに煮魚とパンって合わないわね」
和風に醤油で味付けをした煮魚である。オリーブならともかく醤油はどうしてもパンとは合わないものである。
「言われてみたら」
「でしょ?昔先進国は皆パンだからパンを食べろって言った大学教授がいてね」
母はこの話は少し貌を顰めさせて里香に話した。
「パンを食べると頭がよくなるとか言ってたけれど」
「実際はどうだったの?」
「その教授はお金を貰っていたわ」
黒い関係がそこにあったというのだ。
「日本に麦を売りたかったアメリカからね」
「えっ、それって」
「そう。お金を貰って言う人は信じたら駄目よ」
それは絶対にだというのだ。
「その人が他の分野でどれだけ素晴らしいことを言っててもね」
「何を言うかわからない人だから」
「お金で言葉を売る人も信じたらいけないの」
母は娘にこのことも言うのだった。
「だからパンについてもね」
「御飯の方がいいのね」
「主食としてはね。お母さんはそちらを推すわ」
医師としての言葉でもあった。
「ただ。白い御飯ばかり食べるのはね」
「それはよくないのね」
「おかずもバランスよくたっぷりと」
この二つのことは忘れずにだというのだ。
「さもないと身体によくないからね」
「そうなのね」
「脚気には気をつけてね」
この病気の名前も出た。
「今更っていう病気だけれどね」
「脚気もなのね」
「そう。気をつけてね」
娘にこう話しながらおかずにその白い御飯を出す、里香はその白い御飯を欧風のおかずで美味しく食べた。
その次の日琴乃は現国の授業で先生にこう言われた。授業は森鴎外の舞姫だった。
舞姫と鴎外について話している時に先生は言ったのだ。
「森鴎外は医者でもあったんだよ」
「えっ、そうだったの」
「初耳だよな」
話を聞いた生徒達がお互いに話す。
「何か厳しそうな顔してるけれどな」
「この顔で医者かよ」
「侍かと思ったけれどな」
「医者だったの」
「プロフィールで書いてあるね。東大医学部を出てそのうえでドイツに留学したんだよ」
当時でエリート中のエリートコースであることは言うまでもない。
「舞姫はその時の話なんだよ」
「へえ、そうだったんだ」
「この舞姫ってその時の話だったんだ」
「って現地の女の人と遊んで捨てるって」
「酷い奴じゃないの?森鴎外って」
「そうだ、森鴎外はとんでもない奴だったんだよ」
先生もこう言う始末だった。
「夏目漱石も被害妄想でヒステリー持ちでお世辞にも褒められた人物じゃなかったけれどね」
「って漱石も酷くね?」
「作家って性格やばいの多いのかね」
「そうじゃないの?」
「いや、鴎外は日清日露の戦争で陸軍のお医者さんだったがね」
ひそひそと眉を顰めさせて話す生徒達にさらに話される。尚森鴎外の本名は森林太郎といい陸軍軍医総監、中将待遇で宮中に入られるまでに栄達している。
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