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八条学園怪異譚

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第六話 海軍軍人その六


「しかしイギリス料理はだ」
「けれどそのイギリスから教えてもらったのがカレーですか」
「そうだ。尚イギリスのカレーは口にすると後悔する」
 カレーもそうであるイギリスだった。
「食べることは勧めない」
「じゃあ食べないです」
 愛実はあっさりと答えた。
「まずいものを食べる趣味ないですから」
「そうするといい。とにかくだ」
「カレーは、ですか」
「海軍から広まった」
 日下部はイギリスではなく海軍であることを強調した。
「そのことは覚えておく様にな」
「成程、食べ物の歴史ですね」
「わしも生前はよく食べた」
「カレーお好きだったんですね」
「その通りだ。懐かしい話だな」
 死んで三年経った今はそうだというのだ。その話をしてからだ。
 今度は聖花が日下部に尋ねた。その尋ねたこととは。
「それで日下部さんはどうしてこの校舎におられるのでしょうか」
「幽霊となりここに住んでいる理由か」
「はい、大往生ですよね」
「悔いはない」
 その生涯には全く、だというのだ。
「何一つとしてな」
「それでどうしてこの校舎に」
「家にいる時もあるがだ」
 だがそれでもだというのだ。
「この校舎はわしの青春の日々を過ごした場所だ。愛着がある」
「だからおられるんですね」
「そうだ」
 日下部はその通りだと愛実に答える。
「そういうことだ」
「青春ですか」
「ここには友人達もいた」 
 語る日下部の目は遠い、懐かしいものを見る目になっていた。
「様々なことがあった。あの日もここで過ごした」
「敗戦の日ですか」
「八月十五日もな。あの日は泣いた」
 悲しみもだ。日下部の目に宿った。
「そうしたこともあったがだ」
「ここには日下部さんの青春があるんですね」
「その青春の日々をここで過ごしたからだ」
「お亡くなりになられた今も」
「こうしてここにいるのだ」
「ううん、そうだったんですね」
「わしは今もここにいる」
 その青春の日々があるからだ。ここにいるというのだ。
「そうしているのだ」
「そうだったんですか」
「ここにいて日々を楽しんでいる。仲間もいるしな」
「仲間!?」
「仲間っていいますと」
 聖花だけでなく愛実も日下部の今の言葉に問い返した。
「この学校に日下部さん以外にもですか」
「誰かおられるんですか」」
「軍人は私だけだが」
「それでもですか」
「色々といる」
「色々と?」
「そうだ、色々だ」
 日下部はこう愛実と聖花に話す。
「色々いるのだ、この学園には」
「ひょっとしてこの学校って」
「そうよね」
 愛実と聖花も気付いた。この学園のことに。
「七不思議って言うけれど」
「この学校もだったのね」
「七不思議どころではないだろう」
 これが日下部の返答だった。
「実際のところはな」
「普通七不思議じゃないんですか?」
「この学園は違う」
 日下部は腕を組んでしっかりとした顔で言い切る。
「何しろ幼等部から大学院まであるのだ」
「保育園もありますね」
 学園には入っていないがそうした施設も存在している。
「じゃあその等部ごとに」
「あるのだ。特に高等部や大学はだ」
 八条学園の中でもとりわけ学生や教師が多い部である。 
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