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八条学園怪異譚

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第六話 海軍軍人その三


「短剣も。そして」
「そして?」
「これもだ」
 言いながら出してきたものがあった。それは日本刀だった。
 その刀を出してだ。日下部は二人にこうも言った。
「これは武人の命、おいそれと抜くものではない」
「その刀使えますよね」
「やっぱり切れますよね」
「切れぬものはない」
 そこまで切れるというのだ。
「霊となったこの刀はな」
「けれどなんですか」
「抜かれることはないですか」
「校内によからぬ目的で入って来た不埒者はわしの姿を見ればそれで逃げ出す」
 幽霊をその目で見てだというのだ。しかも帝国海軍というあからさまに何かがありそうな幽霊を見てはだ。
「若しくは仲間達の姿を見ればな」
「えっ、仲間!?」
「仲間っていいますと」
「この学園にいる霊やあやかしはわしだけではないのだ」
 話は妖怪変化の話にもなった。
「その友人達がだ」
「驚かしてですか」
「追い出してるんですね」
「小者はそれで終わる。とにかくわしのことはわかったな」
「ええ、いい幽霊ですね」
「そうなんですね」
 二人も納得した。そのことを。
「誤解していました、すいません」
「日下部さんはいい人だったんですね」
「謝る必要はない」
 日下部は頭を下げる二人にこう返した。
「人はみだりに謝るものではない」
「そうなんですか」
「謝罪というものは重いものだ」
 日下部の今の言葉には確かな重みがあった。
「だからだ」
「簡単に謝ったら駄目なんですか」
「そういうことですか」
「そうだ」
 だからだというのだ。
「人はみだりに謝るものではない」
「人は悪いことしたらすぐに謝るものでもですか」
「そう簡単にはですか」
「そうだ。海軍がそうだったがな」
 ここでも帝国海軍だった。
「将校は簡単に頭を下げてはならない」
「それはどうしてなんですか?」
「簡単に謝ってはいけなかったのは」
「将校は兵を率いる」
 それが将校である。必ず部下がいるものだ。
「それならば簡単に頭を下げてはだ」
「どうして駄目なんですか?それで」
「兵士に対して示しがつかない」 
 その将校だったからこそ言える言葉だった。わかることだった。
「それにだ。殺気も言ったが」
「謝罪は重いものなんですか」
「謝罪する時は心からしなくてはならない」 
 日下部は言う。
「そうしなくてはならないのだ」
「心からですか」
「そうだ。心からだ」
 また言うのだった。
「誠意がなくてはならない」
「ううん、厳しいですね」
「しかし言っていることは間違っているか」
「厳しいですし理解できないですけれど」
「私もです」
 愛実だけでなく聖花もだった。日下部の今の話にはどうしても首を捻るのだった。だがそれでもこうは言える二人だった。 
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