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八条学園怪異譚

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第六話 海軍軍人その一


                  第六話  海軍軍人
「わしの名は日下部健一郎という」
「日下部さんですか」
「うむ、生まれは舞鶴だ」
 京都の北の街だ。軍港として明治から栄えている。
「生まれた頃から軍艦を見て育った」
「それで海軍に憧れてなんですね」
「海軍を目指そうと猛勉強をして且つ身体を鍛え品行を正していた」
 つまり海軍に入る為にあらゆる努力をしてきたというのだ。
「中学校に入ってからは特に学業に励んだ」
「受験勉強ですね」
「今で言うとそうだな」
「軍人さんになるにも受験勉強が必要だったんですか」
「だから兵学校も経理学校も東大より難しかった」
 またこの話になる。
「岸さんもな」
「岸さん?」
「岸信介さんのことよ」
 首を捻った愛実に横から聖花が言う。
「総理大臣だった人よ」
「その人も海軍だったの?」
「いえ、東大法学部を出て通産省に入ったのよ」
 岸信介が進んだ道はそちらだった。
「養子に出てね」
「そういう人だったの」
「航行の授業でも名前出るから覚えておいてね」
「ええ、わかったわ」
 愛実は聖花の言葉に素直な顔で頷いた。
「そうした人なのね」
「そうなの」
「それでだ」
 二人の話が終わったところでまた言う軍人、日下部だった。
「その岸さんは東大法学部を首席で卒業し官僚になりやがては総理大臣にまでなったのだが」
「凄くないですか?それって」
「しかし当時は海軍に入られなかったと結構言われたらしい」
「それだけ海軍って凄かったんですか」
「うむ。凄まじい難関だった」
 それこそ東大法学部が霞むまでの。
「学業だけでも東大以上だった。もっとも学校の成績だけで全てが決まる訳でもないがな」
「まあそれで決まったら世の中苦労しませんからね」
 愛実にとってはトンカツを焼く技術の方が上だった。聖花も弁護士志望だがやはりまずはパンを焼く技術だ。
「それで全部だったら」
「そうだ。勿論海軍もそれは同じだった」
 話をする場が変わっていた。廊下から傍にあった教室の一室に入ってそこで三人向かい合って座り話をしていた。窓の向こうには海があるが今は夜の暗がりの中にあり青も銀もなく波音だけがただ聞こえてくる。
 その波音をBGMにしてだ。日下部は二人に話すのだった。
「尚わしは兵学校も受けたがな」
「そっちはどうなったんですか?」
「残念ながら落ちた」
 そうなったというのだ。
「江田島には行けなかった」
「あっ、兵学校は江田島にありましたからね」
 聖花がすぐに答える。
「だからですね」
「自衛隊で教官として江田島には入ったがな」
「それでもですね」
「そうだ。兵学校には入っていない」
 受験に失敗したからだ。
「しかし経理学校には合格した」
「それで経理将校になられたんですか」
「うむ、そうだ」
 その通りだとだ。日下部は聖花に答えると共に愛実にも話した。
「それで海軍に入った」
「それで将校になられたんですね」
「経理学校から」
「そうだ。兵学校の訓練の厳しさは有名だったが」
 先輩からの教育、鉄建制裁が常識のそれもまた厳しかった。難関を潜り抜けた先にはまさに地獄の様な訓練と教育が待っていたのだ。それで海軍将校を育てていっていたのだ。
「経理学校も中々厳しかった」
「そうだったんですか」
「うむ、かなりな」
 こう二人に話していく。 
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