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八条学園怪異譚

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プレリュードその二


「有り難う。本当に来てくれたのね」
「うん、来たよ」
 聖花が愛実に笑顔で応える。
「約束だったからね」
「約束守ってくれたの」
「お母さんにいつも言われてるの」
 聖花は自分の後ろにいる自分をそのまま成長させた様な顔の大人の女性を見た。母である。
「約束は絶対に守りなさいって。特にね」
「特にって?」
「お友達との約束はね」
 それはだというのだ。
「何があっても守りなさいって言われてるの」
「そうなの」
「そう。だから絶対にって思って」
 にこりとしている。だが、だった。
 聖花のその言葉は自覚のないままにしっかりとしたものだった。そのうえでだった。
 愛実にだ。こう言ったのである。
「来たの。皆で」
「有り難う。じゃあね」
「トンカツよね」
「トンカツ定食注文してくれるの?」
「お母さん、それでいい?」
 聖花はまた母の方を見た。そのうえで尋ねた。
「トンカツ定食でいい?」
「いいわよ。じゃあね」
 母は娘に微笑んでそうしてだった。
 自分の夫に中学生の男の子二人、そして小学生の女の子、そして愛実の四人の娘達を見てそれからだ。こうお店の人、愛実の両親である割烹着の夫婦に言った。
「トンカツ定食六つお願いします」
「私のも入るの?」
「聖花ちゃんはまだ一人前は食べられないけれどね」
 子供だからだ。だがそれでもだというのだ。
「残ってもお兄ちゃん達やお姉ちゃんが食べてくれるからね」
「頼んでくれるの」
「ええ、そうするわ」
 母は笑みを浮べてこう聖花に話した。
「安心して食べてね」
「うん、それじゃあね」
 聖花は母のそうした言葉に笑顔で応えた。しかし。
 割烹着の夫婦、愛実の両親は少し笑ってだ。聖花の母にこう言ってきた。
「あの、うちのお店は量が多いですよ」
「一人前といっても二人前ありますけれど」
「トンカツもかなり大きいですよ」
「それでもいいですか?」
「あっ、うちの子達も主人も皆よく食べますので」
 聖花の母は明るい笑顔で愛実の両親に答えた。
「安心して下さい」
「そうですか。それじゃあですね」
「六人前ですね」
「それでお願いします」
 こう言うのだった。母がそうしたやり取りをしている間にだ。
 聖花は幼い顔で店の中を見回した。全体的に和風の薄い黄色の木の店の中には。
 やはり和風のテーブルと椅子があった。お品書きもある。そこにある字はまだよく読めない。
 だが店の中はよく掃除されていて清潔だった。特に。
 銀色の厨房は特に奇麗だった。その厨房も見て言うのだった。
「凄く奇麗ね」
「お店が?」
「うん。ぴかぴかしてゴミもなくて」
「お父さんとお母さんいつもお掃除してるの」
 にこりとしてだ。愛実は聖花に答えた。
「それで私もなの」
「愛実ちゃんも?」
「そうなの。お父さんとお母さんにいつも言われてるの」
 ここでもにこにことしてだ。愛実は聖花に答える。
「お部屋の他の場所もいつもお掃除しなさいって」
「そう言われてるの」
「お店やってるからね」
 だからだというのだ。
「いつも掃除しなさいって言われてるの」
「愛実ちゃん奇麗好きなの?」
「うん。そうなの」
 母に言われてからだがだ。そうなったというのだ。 
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