仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜
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雪原の花
「そうか、トカゲロイドも敗れたか」
ある基地の一室で暗闇大使は戦闘員からの報告を聞いていた。
「ハッ、遺体は既に回収された模様です」
報告をした戦闘員が敬礼をし言った。
「そうか。ならば良い。それではまだ被害は最小限で済んでる」
暗闇大使は報告を聞きながら言った。
「だが長崎、桜島、そして石垣島と三つの作戦がライダー達に阻止されるとはな。ダブルライダーの力衰えずといったところか」
「いえ、むしろ強くなっているようです」
「何っ!?」
戦闘員の言葉に顔を向けた。
「彼等の戦いの結果を分析しますとスピード、破壊力共に以前とは比較にならない程上がっています。これは何かしらの強化手術を受けた結果だと思われます」
「そうか、奴等めゼクロスとの戦いで」
暗闇大使は上のモニターを見ながら言った。そこにはゼクロスとライダー達の戦いが映し出されていた。
「カメレオロイド達とダブルライダーの戦いの資料はあるか」
「ハッ、ここに」
別の戦闘員が資料を出してきた。分厚い紙のファイルだった。
「ふむ」
暗闇大使はそれを手に取った。そして中を読みはじめた。
暫く中を読んでいた。そしてそれを閉じ戦闘員に返した。
「成程な。全体に渡ってかなりの強化改造を受けているな」
「やはり」
戦闘員がそのファイルを脇に収めて言った。
「だがそれだけではないな」
暗闇大使は右手で左手の鉤爪を握りながら言った。
「と、いいますと?」
戦闘員の一人が尋ねた。
「特別な訓練も相当受けている。さもなければあれだけの短期間で強化改造の力をここまで引き出す事は出来ん」
「成程」
戦闘員達は頷いた。
「おそらく立花藤兵衛達の指導によるものだろう。あの者達の育成能力は聞いている」
「ハッ・・・・・・」
バダンにおいても歴代ライダー達を育ててきた彼の名は知られていた。そしてかなりマークしていた。
「今は泳がせているがな。だがいずれあの者達も始末せねばならん。我等が野望の為にもな」
「ハッ」
戦闘員達はその言葉に姿勢を正した。
「ところでダブルライダーは今どうしている」
「ハッ、沖縄より東京に戻りました。今は本郷が東京、一文字が横浜にいる模様です」
「そうか。ならばあの者達は暫く放っておくか。こちらも奴等に振り向けることのできる改造人間はおらん」
「ハッ」
「あの二人はいい。他のライダー共はどうしている?」
暗闇大使は再び戦闘員達のほうへ顔を向けて問うた。
「ハッ、只今全てのライダーが日本各地に散って我等の行動をさぐっております。どの者も油断は出来ません」
「だろうな。ところで北海道には誰がいる」
「北海道ですか?バラロイドですが」
「いや、違う。戦闘員ではない」
暗闇大使は戦闘員の言葉に頭を振った。
「ライダーの方だ。誰があの地に向かってきている?」
「ライダーですか?ええっと・・・・・・」
戦闘員の一人がモニターに北海道を映した。
北海道の函館の地域に赤い光が照った。戦闘員はそこを拡大させた。
そこに小樽の街が浮かび上がる。厚い雲と白い雪に覆われた港町だ。
「確かこの辺りに・・・・・・」
小樽港の辺りを集中的に映す。そして遂に一人の男を見つけた。
「あ、いました。この男です」
「この男がか・・・・・・」
暗闇大使はモニターに映る男の姿を見上げて呟いた。そこには風見志郎がいた。
レストランでの食事を終えた伊藤博士と村雨良は店を後にした。そして再び道路に出た。
「雨も止んだな」
博士は晴れ渡り厚い雲の間から顔を覗かせる雲を見上げながら言った。
「ああ。視界が良くなった」
村雨が運転をしている。表情を変えることなくただ前を見てる。
「なあ、村雨君」
博士はそんな彼に声をかけた。
「何だ?」
村雨は少し疑問の問い掛けを込めた言葉を発した。
「この空を見てどう思う?」
「この空を・・・・・・・・・」
彼は博士に言われるまま空を見上げた。手はハンドルから離さない。その運転は正確である。
「・・・・・・・・・」
厚い雲はもう遠くへ去り白く綿の様な雲が空に浮かんでいる。その空は何処までも続くかのように青く澄んでいる。
そしてその中央には太陽がある。その下にある全てのものを輝かしい黄金色の光で照らしている。
「雲・・・・・・空・・・・・・太陽・・・・・・」
村雨はその三つを見上げて呟いた。
「そうだ。それを見てどう思う?」
博士は微笑を浮かべながら問うた。まるで親が子に何かを教えるような優しい笑みである。
「白・・・・・・青・・・・・・金・・・・・・」
村雨はその三つのものの色を呟いた。その三色が彼の目に鮮やかに入って来る。
「・・・・・・・・・」
村雨は沈黙した。そして上を見上げたまま運転を続ける。
「おっと、そのままじゃ危ないな。そうだ、少し道を離れよう」
博士は彼に道を離れるよう言った。彼はそれに従った。
二人は車を高速道路のしたの普通の公道の脇に停めた。そこは隣に森を控える草原だった。
「よし、ここならいいな。さあ村雨君、空を思う存分見るんだ」
「・・・・・・ああ」
村雨は博士に言われるまま空を見上げた。白い雲も青い空も黄金色の太陽もその全てが彼の目に入って焼きつく。
「・・・・・・・・・」
村雨は一言も発しない。ただ空を見上げている。
「どうだ、何か感じるものはないかい?」
博士は問うた。だが村雨はその問いに対し何も発しない。
「・・・・・・・・・」
どれだけ上を見上げ続けたであろうか。彼の心に何か特別な感情が宿った。
「・・・・・・・・・なんだ、この感情は」
彼は上を見上げながら呟いた。
「喜びや優しさとも違う。それとは別な、今俺の目に入って来るこの雲と空と太陽を目に焼きつけたい、心に留めておきたい、そして大切にしたいという思いだ」
博士はその言葉を聞いて優しく微笑んだ。
「博士、この感情は一体何というのだ」
彼は顔を下ろし博士のほうを向いて問い掛けた。
「君は今美しさを知ったんだ」
博士は言った。
「美しさ!?」
村雨は少し困惑したような声で言葉を出した。
「そうだ。目に入ったものを心で感じ、それを心に留め大切にしたい気持ち。それが美しさを知るということなのだ」
「この雲が、空が、太陽が・・・・・・。そうか、これが美しいものか」
その時彼はふと前に見た夜の空を思い出した。濃い紫の帳に散りばめられた星達と月。それ等に対しても彼は今見た雲や空、太陽と同じ感情を思い浮かべた。
「・・・・・・美しい、こういったものを見てそう思うのだな」
「それはその人それぞれで微妙に違うがね。まあそう思ってくれて構わないよ」
博士は彼に問い聞かせるように言った。
「村雨君、この美しいものを守りたくはないかね」
博士の顔が急に引き締まる。それまでの微笑みは消え目の光が強くなった。
「ム・・・・・・・・・」
村雨は即答しなかった。否、出来なかった。博士の方を見てただ口を閉ざし目だけを向けていた。
だがやがてその口を開いた。少しずつ、だが確実に。
「・・・・・・・・・ああ」
彼は言った。そしてそこには強い意志が見られた。
「よく言った。それでこそ本当の意味での人間だ」
博士は彼に微笑んで言った。
「・・・・・・そうなのか?」
村雨はその顔に僅かな困惑の色をう浮かべて聞いた。
「そうだ。勿論まだまだ君に必要な感情はあるがね。しかし美しさを知るというのは人間にとって重要なことなんだ」
「・・・・・・そうなのか」
村雨は顔を少し俯けて言った。
「それもすぐにわかる。そしてそれがどれだけ素晴らしい事
なのかも」
「これが・・・・・・素晴らしい事・・・・・・・・・」
村雨は博士の言葉の意味がまだ完全に理解出来なかった。
「それは君がバダンと戦う時にわかるだろう。そしてそれが君と彼等を分かつものになる」
「俺と奴等を分かつもの・・・・・・・・・」
村雨はその言葉を噛む様に繰り返した。
「その事はよく考えてくれ。決して無駄ではない」
「そうか、そうしよう」
村雨はその言葉に頷いた。
「それではそろそろ出発するか。それとももう少し見ていか?」
「・・・・・・・・・」
村雨は少し考えた。そして顔を上へ向けた。
「もう少し見ていたい」
「そうか、じゃあ付き合おう。君が満足するまで見てくれ」
「有り難う」
村雨はそれから空を見上げ続けた。夕刻になり空が赤くなり夜の帳が降りても空を見上げ続けた。
風見志郎は小樽の街中にいた。雪の積もった道を歩いている。
この小樽は北海道の中でも有名な都市である。札幌、函館等と並ぶ北海道有数の都市である。
北海道の開拓よりこの街の歴史は始まった。運河が通された西洋風の独特の街並で知られている。
特に銀行が多いので有名である。色内町を中心に重厚な石造りの銀行が立ち並んでおり『北のウォール街』とすら呼ばれている。
その西洋風の街中を彼は歩いていた。深い雪を踏みしめ前へ進んでいく。
「さてと、この前だったな」
日本銀行小樽支店の前に来た。煉瓦の美しい建物である。今は雪化粧をしておりその美しさが一層際立っている。今は銀行としての役目を終え博物館となっている。小ドームがトレードマークとなっている。
風見はその正門の前に立った。誰かを待っているようだった。程なくしてその人物がやって来た。
「お待たせしました、先輩」
やって来たのは佐久間健だった。雪に注意しながらこちらに来る。
「いや、俺も今来たばかりだ。この雪に足を取られてな」
靴に付いた雪を指差しながら苦笑して言った。
「そうですか、けれど先輩はモスクワにいたこともあるんですよね」
「ああ。まああそこは特別だ」
風見は笑って言った。
「息を吹いたら凍るようなところだぞ。ここは流石にそこまではいかないだろう」
「ええ」
「まあ話はいい。立ったままじゃ寒い。とりあえず何か食べに行こう。何がいい?」
「小樽といえば寿司でしょう。早速行きましょうよ」
二人はタクシーを呼びそれに乗り込んだ。そして商店街へ向かった。
港町小樽はニシン漁で有名であるが寿司が美味いことでも知られている。何しろ寿司屋通りまである位なのだから。
二人はその中の一店に入った。そして寿司を心ゆくまで堪能した。
「いやあ、美味かったですね」
佐久間は店を出て風見に言った。実に満足気な笑みを浮かべている。
「ああ。観光地だからあまり期待はしていなかったんだがな。ネタも新鮮で良かった」
「函館もいいですけれどね。ここの寿司も最高ですよね」
「んっ、御前函館にも行った事があるのか?」
風見はその言葉にふと顔を向けた。
「ええ。前にも北海道sで仕事をした事がありますんで。先輩と会う前の話ですけれどね」
「そうか。実は俺もここへ来る時に通った」
風見は笑いながら言った。
「蟹がいいですよね。イクラもたっぷりと食えるし」
「おいおい、食べ物ばかりじゃないか。あそこは景色もいいぞ」
「あれっ、そうでしたっけ」
「百万ドルの夜景というだろ。俺はあれが楽しみだったんだ」
「それでどうでした?」
「ああ、最高だった。香港やニューヨークの夜景も見てきたが噂だけのことはあったよ」
風見は目を輝かせながら言った。
「それは良かったですね。じゃあ今度俺も見に行こうかな」
「今度は食うのは程々にしろよ」
「解かってますよ」
二人はそう言いながら寿司屋通りを後にした。
小樽公園に来た。市民達の憩いの場ともなっている緑豊かな公園である。
だが生憎の銀世界だ。二人はその中を歩いていた。
「これはこれでいいですね」
佐久間が言った。
「ああ。確かにな」
風見も同意した。雪を踏みしめながら公園の中を進んでいく。
「しかしこんな所に本当にバダンがいるんですかね」
佐久間は首を傾げながら呟くように言った。
「北海道なら札幌とか函館とかあるでしょうに。テロをやるにしても基地を作るにしても」
「そうだな。この街は確かに大きい街だが」
風見は佐久間の言葉に目を光らせた。
「札幌でテロを行なったならば相当の被害が出る。函館を押さえれば地理的にかなり有利になる。シンガポールや沖縄に基地を作ろうとした連中だ。奴等がこの北海道に基地を作るならば函館が一番だろう」
「けれど何で小樽にいるんですかね」
「それだ。テロでも基地建設でもないとしたら・・・・・・」
風見の顔が険しくなった。
「奴等は何かおぞましい事を考えている。俺にはそう思えてならない」
「そのおぞましい事って・・・・・・」
風見の顔が険しくなったのを見て佐久間も表情を暗くさせた。
「そこまではまだ解からない。だがここは慎重に捜査していこう」
「はい」
二人は公園の中を歩いていく。足跡が雪の上に残った。
小樽にはホテルも多い。中でも小樽の少し外れにあるとあるホテルは有名である。
そのすぐ側にとある俳優のアトラクションがあることでも有名だがその中も豪華である。欧州の一流ホテルを思わせる趣である。側のアトラクションや設備、サービス等で人気の高いホテルである。
そのホテルのスゥイートルームの扉を誰かがノックした。中からどうぞ、という声がした。
声に従い中に入る。豪奢な部屋の中に一人の女がいた。
黒い髪に瞳を持つ美しい女である。その肌は少し黒く赤いドレスを身に纏っている。小柄であるが均整の取れた身体をしている。見たところラテン系のようだ。
「モンセラート=バレアレス様、お伝えしたい事があります」
見たところホテルのボーイのようだ。しかしそれにしては目付きが悪く気配も剣呑である。
「バラロイドでいいわ。どうせこの部屋には我々以外いないのだし」
モンセラート、いやバラロイドと呼ばれたその女は微笑んで言った。不気味な程妖艶な笑みである。
「ハッ、了解しました」
その言葉と共に部屋の隅々から多くの影が現われた。バダンの戦闘員達である。
「貴方も変身を解きなさい。それだと窮屈でしょう」
バラロイドは目の前のボーイらしき男に言った。
「はい」
男はその言葉に従い変身を解いた。見れば彼もバダンの戦闘員である。
「そして私に報告したい事とは」
バラロイドは椅子に座りながらその戦闘員に尋ねた。
「やはり仮面ライダーの事?」
「はい」
その質問に戦闘員は率直に答えた。
「仮面ライダーⅤ3、風見志郎がこの小樽に姿を現わしたそうです。先程暗闇大使の方からご連絡がありました」
「そう、暗闇大使から」
バラロイドの黒い瞳が光った。赤い光であった。
「おそらく我等がこの地にいる事を知っていると思われます。インターポールの捜査官佐久間健と合流し早速街の中を捜査して回っているようです」
「流石に動きが早いわね」
バラロイドはその報告を聞いてその整った顔を顰めた。
「はい。奴等は今小樽市内を捜査中です。しかしこのホテルにもすぐにやって来ると思われます」
「そう、このホテルにも」
それを聞いたバラロイドの顔が笑った。何か企んでいる笑みだった。
「そうだとしたらこちらにも考えがあるわ」
「それは何でしょうか?」
配下の戦闘員達が一斉に顔を向けた。
「興味があるようね」
バラロイドはそれを見て微笑んだ。
「はい。ライダーを陥れる策ですか?」
「そうね。そうとも言えるわ。じゃあ今から話すわね」
戦闘員達は耳を傾けた。
「まずは・・・・・・・・・」
バラロイドは話し始めた。それが終わった時戦闘員達は一斉に敬礼をして答えた。
「これでよし。仮面ライダーⅤ3、華麗に殺してあげるわ」
バラロイドは笑った。今度は殺意に満ちた笑いだった。
風見と佐久間は市内の捜索を続けていた。そしてホテルに戻り休息を取った。
「これといった手懸かりはありませんね」
佐久間が応接間のソファーに座って言った。
「ああ。しかし連中はここで何をしているんだ?」
風見も首を傾げて言った。
「気になるといえば行方不明者が四人ですか。怪しいといえばこれですね」
「誘拐か?それにしては数が少ないし」
「ですね。奴等のやり方だと百人位は平気でさらいますからね」
「ああ。それにしても夜一人でいる時に消えたのか。奴等のしそうな事だが」
風見は眉を顰めた。
「他にもやりそうな事は多いですけれどね。やっぱり一番気になるのはこれですね」
「そうだな。消息を絶った場所を詳しく調べていくか」
「はい」
その時だった。扉をノックする。音が聞こえた。
「どうぞ」
二人は身構えながら言った。バダンの急襲を警戒していた。
入ってきたのはホテルのボーイだった。にこやかな笑顔を見せている。
「何ですか?」
どうやら危険な相手ではないらしい。二人は警戒を解きボーイに近付いた。
「郵便です」
「郵便!?」
ボーイは一通の手紙を差し出した。風見はそれを手に取り封を切る。それは招待状だった。
「招待状・・・・・・」
「あのホテルに!?」
それはあのアトラクションが側にあるホテルへの招待状だった。二人もそのホテルの名は知っていた。
「あの、もうよろしいでしょうか」
ボーイが二人に声をかけた。二人はうっかりと忘れていた。
「あ、どうぞ」
風見は彼を帰らせた。扉が静かに閉められた。
「バイキングへの招待か」
「ええ。それに催し物があるとか」
佐久間が招待状を見ながら言った。
「フラメンコか・・・・・・」
風見は左手を口に当てて呟いた。眉間に皺が寄る。
「俺は好きですけれどね、フラメンコ。それにしても何で俺達に招待状なんか」
「誘き出そうとしているのかもな」
風見は佐久間へ顔を向けて言った。
「バダンが・・・・・・・・・」
佐久間もその顔を険しくした。
「その可能性は極めて高い。だが俺はこの誘いに乗るつもりだ」
「何故ですか?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ。折角連中が俺達の前に姿を出してくれるんだ。行かない手は無いだろう」
「成程、そうですね」
佐久間は風見の言葉に頷いた。同時に風見らしい、と思った。
「早速行くか。バダンの奴等がてぐすねひいて待っているぞ」
「ええ。行って奴等の鼻っ柱へし折ってやりましょう」
二人はホテルを後にした。そしてマシンでそのホテルへ向かった。
ホテルに入る。ボーイが二人を丁寧に出迎えた。
「風見志郎様と佐久間健様ですね」
「はい」
二人は素直に答えた。このボーイに不自然なところは無い。
「こちらです」
上の広いホールに案内される。バイキングが行なわれている。
「どうぞ。心ゆくまでお楽しみ下さい」
ボーイはそう言ってその場を後にした。二人は用意されていた席に着く。
料理は美味かった。パスタも中華料理もかなり味付けが良かった。
二人は暫く料理を堪能していた。すると催し物が始まるとのアナウンスが入った。
「おっ、いよいよか」
楽器を持った一団が入って来た。その中に赤いドレスで着飾った女がいる。
「あれがダンサーだな」
風見はその女を見た。整っているが妙な気を感じた。
女は音楽に乗り踊り始める。脚を激しく踏み鳴らして踊る。
「・・・・・・・・・」
風見はその美しさに見惚れるわけでもなくただその女を見ていた。食事も止め席に座して見ている。
何時しか他の客は何処かへ去っていた。コックやウェイトレスも消えていた。
踊りはそれでも続く。不意に女が口に咥えていた薔薇を手に取った。黒い薔薇である。
女はそれを投げた。それは一直線に風見へ飛んで来た。
風見はそれをナイフで撃ち落とした。それと同時に楽器を演奏していた者達が楽器を放り投げた。
男達は変身した。やはりバダンの戦闘員達だった。
「やはりな」
風見はそれを見て冷静に呟いた。そして席を立った。
佐久間もだ。二人はテーブルを飛び越えてこちらに来る戦闘員達に向かって行った。
戦いが始まった。戦闘員達は椅子や皿を投げ風見達に攻撃を
加える。
風見達はそれに対し懐からナイフを放った。それは一発も外す事なく戦闘員達の喉を貫いた。
「ウフフフフフフ、噂通り腕前ね」
女はそれを見て微笑みながら言った。
「言ってくれるな、バダンの魔人共が」
風見は接近してきた戦闘員を肘で倒しながら言った。
「あら、何故怒るの。褒めてあげたのに」
「貴様等に褒められても嬉しくはない。俺は貴様等を倒す事が全てなのだからな」
風見は女を見据えて言った。
「あら、言ってくれるわね。折角食事と催しに招待してあげたのに」
「それは俺を倒す為にだろう。違わないか」
「ウフフフフフ、その通りよ」
女は目を赤く光らせて言った。
「私はバダンの改造人間の一人バラロイド。この地の作戦の責任者よ」
「バラロイドか。憶えておこう。言え、この小樽で何をしている」
「聞きたいかしら」
「無論だ。一体何が目的だ。この小樽をどうするつもりだ」
「ちょっと実験をしているの」
バラロイドは妖艶に微笑んで言った。
「実験?」
「そうよ。新たなる毒ガスのね」
「毒ガス・・・・・・」
その言葉に風見の顔色が変わった。毒ガスの恐ろしさは彼も良く知っている。
「サリンなぞ比較にならない程の素晴らしい力を持った毒ガス。それを今開発して試しているのよ」
「そうか、行方不明者は貴様等の仕業だったのか」
「そうよ。骨まで溶かしてしまう素晴らしい力なのよ」
バラロイドの顔が自信と殺意に満ちたものになった。その整った顔が地獄の魔物の様に歪んで見えた。
「このガスが完成した時我がバダンの野望はさらに前進するわ。そして愚かな人間共を全て溶かしてやるの」
「愚かか。その言葉そのまま貴様等に返してやろう」
「何ですって!?」
バラロイドはその言葉に反応した。顔がキッと歪む。
「かっては人でありながら人を見下し愚弄するその姿。愚かと言わずして何と言う」
風見はあえて余裕に満ちた笑みを浮かべて言った。
「それが貴様等に解かるとは思わんが。せめてこの俺の手で貴様等を葬ってやる」
風見はそう言うと間合いをジリジリと詰めてきた。
「・・・・・・・・・」
バラロイドもそれに一歩も引かない。身じろぎもせず風見を睨みつけている。
左腕を振り上げた。薔薇の花を投げ付けて来た。
「ムッ」
風見はそれを横にかわした。薔薇はテーブルに当たった。
するとテーブルは白い煙を発して溶けていった。どうやら薔薇には恐ろしい毒か何かがあるらしい。
「よく今のをかわしたわね。当たっていればそれでお終いだったのに」
「ほざけ。これしきの事で俺が死ぬとでも言うのか」
「それはすぐに解かるわ。嫌でもね」
バラロイドはそう言うとニヤリ、と笑った。
「この場は退いてあげるわ。けれど憶えておくことね。貴方はこの薔薇に溶かされ死んでいくのだと」
バラロイドの周りを無数の花びらが取り囲んだ。
「待てっ!」
追いすがろうとする。だがバラロイドはそれより速く姿を消した。後には黒い薔薇の花びらだけが残った。
「消えたか」
風見はその花びらを見ながら言った。後ろから佐久間が来た。
「先輩、その花は」
彼はしゃがみ込みそれを手に取ろうとする。だが風見はそれを制止した。
「待て、これはかなり危険だ」
「えっ!?」
佐久間はその声に思わず指を止めた。
「さっきあの女が投げた薔薇はテーブルを溶かした。恐らく強力な毒があるのだろう」
「毒、この花に・・・・・・」
佐久間は退いた。
「その証拠に・・・・・・見ろ」
花びらが落ちた場所を指差す。そこでは床やテーブルがドス黒く変色していた。
「そんな、花びらが・・・・・・」
「植物の改造人間には毒を持った者も多い。奴はそのうちの一人だ」
「毒を持った改造人間・・・・・・」
佐久間は戦慄を覚えた。そうした改造人間ともこれまで幾度と無く戦ってきた。何れも厄介な相手であった。
「奴等はこの小樽で毒ガスの実験をしていると言っていた。もしそれが本当ならば完成した時大変な事になる。それだけは断じて許さん」
「ええ、勿論ですよ」
二人は意を決した顔で言った。そしてそのホールを後にした。
バラロイドはこのホテルにダンサーというふれこみで滞在していたらしい。本場スペインから来た本格的なフラメンコのダンサーだったという。
「それが何故バダンに・・・・・・」
「経歴を偽造したのだろう。奴等ならばたやすい事だ」
風見は佐久間に対し言った。
ホテルに確かめたところダンサー達は何処かへ去ったという。滞在費とホールの弁償代を銀行に振り込んだ後で。
「変なところで義理堅い奴等だな」
「それが奴の流儀なのだろう。ところで銀行の振込先は何処だと言っていた?」
「それが。一切不明だそうです」
「そうか・・・・・・。足は見せないつもりか」
風見と佐久間はホテルの出入り口を潜りながら話していた。
「このホテルには手懸かりは何一つとして残されてはいなかったな。部屋にも何も無かった」
「元々改造人間ですからね。指紋も髪の毛も何一つ残っていませんでしたね」
「ああ。こうした時には便利だな。そういう事を他に使う気には到底ならないようだが」
風見はバラロイドがいたというホテルのスゥイートルームの窓を見上げながら言った。
「さてと、これからどうするか、ですね」
佐久間が窓から視線を外し顔を前に戻した風見に言った。
「ああ。まずは犠牲者の出た場所を調べてみるか。ひょっとしたらそこに手懸かりがあるかも知れん」
「そうですね、それが一番いいですね」
風見の言葉に佐久間も頷いた。二人はマシンに乗りその場を離れた。
モニターに映し出されたホテルでの風見とバラロイドの戦いを暗い部屋で見る一つの影があった。
「うむ、人間の姿だとあまりわからぬな」
影は暗闇大使であった。壁の上のほうに置かれたモニターを眉を顰めながら見ている。
「バラロイドからの報告はあったか」
後ろの戦闘員の一人に尋ねる。
「ハッ、先程小樽の新しい隠れ家より報告がありました」
彼は敬礼をして答えた。
「そうか。何と言っている」
「技のキレ、速さ共以前のデータに比べ上昇しているのは確かです。しかし決定的な差は確認出来ないと」
「そうか。それでは今奴と戦うのは危険か」
暗闇大使は腕を組みながら考えた。
「いや、一つ方法があるか」
ふと閃いたような顔をした。
「奴の弱みを衝こう」
「弱み、ですか?」
戦闘員達はその言葉にキョトンとした。
「そうだ。弱みだ。バラロイドに伝えよ、わしが策を授けるとな」
「ハッ!」
戦闘員達は敬礼をした。そしてモニターを切り通信を合わせはじめた。
「これでよし・・・・・・といきたいところだが」
暗闇大使は笑いかけたところで口元を締めた。
「もしかしたら奴の改造は・・・・・・・・・」
一号と二号の改造は全体的な強化だった。そしてその力を格段に伸ばしていた。
Ⅴ3もそれは充分考えられる。しかし果たしてそれで全ての改造なのであろうか。
「もしもの時には・・・・・・わしも考えておくか」
暗闇大使は考える目をした。そしてモニターに現われたバラロイドに顔を向けた。
風見と佐久間は夜の小樽の運河沿いにいた。ここで一人消息を絶っているのだ。
岸沿いに倉庫が立ち並ぶ小樽の運河は観光地として有名である。昼には土産屋が立ち並び夜は霧に包まれる。雪と霧に覆われた白い運河を二人は歩いていた。
「足下に気をつけろよ」
「はい。しかしかなり冷えますね」
佐久間はコートの上から身体を少し震わせながら言った。
「ああ。確かに冷えるな」
風見は息を吐いた。その息は白かった。すぐに霧の中に消える。
「だがそうも言ってはいられまい。ここに奴等の手懸かりがあるのかもしれないのだからな」
「ええ。寒いなんて言ってはいられませんね」
「そういう事だ」
二人は運河沿いを歩いていった。そしてある場所で立ち止まった。
「丁度この辺りだったな。人が消えたというのは」
「ええ、ここで間違いないですね」
佐久間は懐から一枚の地図を取り出して街灯を頼りにそれを見た。レトロな大正期を思わせる作りの街灯である。
「そうか。まずはアスファルトを調べるか」
「ええ」
二人は雪を払いその下のアスファルトを調べようとした。そこへ不意に何かが襲って来た。
「危ないっ!」
それは鞭だった。二人はそれを跳んでかわす。
「バダンか!」
二人は身構えた。それに答えるかの様に戦闘員達が姿を現わした。
「ギッ、ギッ」
戦闘員達は鞭や網を手に二人に迫ってきた。二人はそれに対し身構える。
その二人を戦闘員達は遠巻きに囲む。時々ナイフを投げて来るだけで積極的に攻撃してこようとはしない。
「どういうつもりだ」
網を持つ戦闘員がそれを風見に向けて投げ付けて来た。風見は咄嗟の事だったのでかわしきれず網の中に捉われた。
「しまった!」
戦闘員達はそこに体当たりを喰らわせた。風見はそれに耐え切れず運河に落とされた。
「先輩っ!」
佐久間が叫ぶ。風見は改造人間だ。普通の者なら瞬時に心臓麻痺で死にかねない極北の河の中でも耐えられる。しかしこのままでは沈んでしまいかねない。
佐久間は助けに飛び込もうとする。だがそれは戦闘員達が許さない。彼を素早く取り囲んだ。
「クッ・・・・・・」
歯噛みする佐久間。だがその後ろから何者かが運河から跳び出て来た。
「Ⅴ3!」
佐久間はその姿を見て喜びの声をあげた。風見は運河の中でⅤ3に変身していたのだ。
「行くぞっ、バダンの手先共!」
Ⅴ3は身体に残った網を剥ぎ取り戦闘員達に向かって行く。戦闘員達はそれに対しやはり積極的に向かおうとはせず間合いを取りナイフを投げるだけである。
「・・・・・・どういうつもりだ」
Ⅴ3はそれを不審に感じた。そこに戦闘員達が一斉に鞭を放ってきた。
「ウォッ!」
それはⅤ3の全身を絡め撮った。かなり強い。しかも身体の重要な箇所に全て撒き付いている為身体を容易に動かす事すら出来ない。
「クッ、まずったか・・・・・・」
佐久間も他の戦闘員達に防がれ助けに向かえない。Ⅴ3は意を決した。
「これしかない!」
腰のダブルタイフーンが激しく逆回転する。そしてそこから暴風を発した。
暴風が戦闘員達を撃った。それにより彼等は吹き飛ばされていく。
そして鞭も薙ぎ払う。彼の身体に纏わり付いていた鞭は全て外れた。
戦闘員達は皆倒れていた。佐久間も彼に向かってきた戦闘員を全て倒していた。
「夜襲を仕掛けて来るとはな」
Ⅴ3は戦闘員達を見ながら言った。そして変身をゆっくりと解いていく。
「奴等も油断出来ませんね。しかも手が込んでいる」
「ああ。鞭や網を使ってくるとはな」
風見は変身を戦闘員達を見下ろしている。
「だがこれで邪魔はいなくなった。ここを調べてみるか」
「ええ」
二人はアスファルトを調べだした。そしてその変色した部分を用心深く削り取り持ち去った。
二人は夜の運河沿いを戻っていた。その前にまたもや影が現われた。
「また出て来たか」
二人は身構えた。それはやはりバダンの戦闘員達だった。
二人は戦闘員達との戦いをはじめた。戦闘員達は雪道の上とはいえ素早く安定した足取りである。
しかし二人も怯まない。その戦闘員達をも凌駕する動きで戦闘員達を倒していく。
特に風見の動きは流石であった。戦闘員達を次々に的確に倒していく。
そこへ鞭が飛んで来た。いや、それは薔薇の蔦だった。
風見はそれを跳躍でかわした。そして堤の上に飛び乗った。
「バラロイドか」
「フフフ、そうよ。察しがいいわね、やっぱり」
暗闇からあの女が姿を現わした。相変わらず口許に妖艶な笑みを浮かべている。口にはあの黒薔薇がある。
「風見志郎、ここが貴方の墓場になるわ」
バラロイドはその妖艶な笑みのまま言った。
「言ってくれるな、では倒してみろ」
風見は怪人を睨みつけながら言った。
「ええ。それじゃあそうさせてもらうわ」
バラロイドは言った。そして口の薔薇をフゥッ、と吹き飛ばした。
薔薇が散った。そしてその全身を黒い花びらが舞い散りながら覆う。
その中で彼女の身体は変化していった。顔は人のものから黒薔薇のそれになり服は緑のドレスになっていく。
特に腕が変わっていく。右腕は黒い手袋だがその左腕は緑の五本の蔦であった。
その身体の至る所に黒薔薇が配されている。その眼は紅く夜の中に光っている。
「さあ風見志郎、お望み通り殺してあげるわ」
怪人はそう言うと左手を振るった。そうすると蔦が伸びた。
蔦は棘のある鞭となった。そして風見を襲う。
風見はそれを上に跳んでかわした。そして雪の道に着地した。
怪人の攻撃はそれで終わりではなかった。身体の薔薇を手に取るとそれを投げ付けて来る。
風見は横に横転しながらかわす。そして間合いを狭めようとする。
「ウフフフフフ、無駄なことを」
バラロイドはそれをせせら笑った。そしてまた薔薇を投げた。
風見は再び跳んだ。そして堤防の上に移った。
「中々やるな」
バラロイドを見下ろしながら言った。
「言ってくれるわね、私を誰だと思っているの」
怪人はその赤い眼を細めて言った。
「私は誇り高きバダンの改造人間の一人、甘く見てもらっては困るわね」
「確かにな。貴様の力はよくわかった」
「人間の貴方を倒すのは訳もないこと。さあ覚悟するのね」
「人間の俺を?」
風見はその言葉に右の眉を上げ口の右端だけで笑った。
「仮面ライダーⅤ3、貴方の事を我々が知らないとでも思っているのかしら」
バラロイドは不敵に言った。
「逆ダブルハリケーンを使用した後は三時間の間変身不可能、まさか知らないとは言わせないわ」
「確かにな、そんなこともあった」
風見は怪人の言葉に対して言った。今度は彼が不敵に笑った。
「何っ、どういう事」
怪人はその余裕に満ちた態度に眉を顰めた。
「ライダーを侮ってもらっては困る。我々は常に弱点を克服しより強くなっていくのだ。貴様等のようなこの世を乱す悪を倒す為にな」
「す、すると・・・・・・」
バラロイドは愕然となった。ここにきてようやく彼の余裕の意味が解かったのだ。
「そうだ、良く見ておけ。この新しく生まれ変わった仮面ライダーⅤ3をな」
風見はそう言うとコートを脱ぎ捨てた。そして腰からベルトが出て来た。
変っ
両手を肩の辺りで左から右へゆっくりともってくる。そして右手は右肩の高さで横に水平にし左手はそれに平行に持って来る。
身体を緑のバトルボディが覆う。手袋とブーツは白になっていく。
身
両手を右から上、そして左に旋回させる。そして左斜め上で止める。
胸が白と赤になる。首を白く大きな襟と二枚の白いマフラーが覆う。
ブイ・・・・・スリャアアアーーーーーッ!
右手を素早く脇に入れる。そしてすぐさま再び元の場所へ突き出す。それと同時に左手は脇に入れる。
顔の右半分を赤い仮面が覆う。その眼は緑である。そしてそれは左半分も覆っていく。
ダブルタイフーンから光が発せられる。そしてⅤ3の全身を包んだ。
「行くぞっ!」
バラロイドの前に降り立った。怪人は彼を前にして顔を口惜しそうに歪めた。
「そうか、強化改造で弱点を・・・・・・」
口惜しさに満ちた声で言った。
「そうだ、だが強化改造だけではないぞ!」
Ⅴ3はそう言うと間合いを一気につめてきた。そして拳を繰り出す。
「ガハァッ!」
怪人はその拳を胸に受けた。思わず緑の血を吹き出す。
続けて手刀を浴びせて来る。それはバラロイドの左肩を直撃した。
「くっ、やるね・・・・・・」
怪人は肩を押さえて呻いた。咄嗟に間合いを離した。
「どうだ、だがこれで終わりではないぞ」
再び間合いを詰めようとする。だが怪人はそれより素早く間合いを離した。
「そうでなければ面白くないわね」
怪人は蔦を振るった。だがⅤ3はそれを後ろに跳びかわす。
この時Ⅴ3は構えを一瞬だけ解いた。そしてその機を逃すバラロイドではなかった。
薔薇を投げる。だがそれはⅤ3に向かって飛ばず爆発するように散った。
「ムッ!?」
するとそこから緑の煙が生じた。それはⅤ3を覆わんとする。
「ウォッ!」
それは毒ガスだった。Ⅴ3は思わず苦悶の声をあげる。
「フフフ、どう?薔薇の毒の味は」
バラロイドは苦悶するⅤ3を見て笑いながら言った。
「あらゆるものを溶かすこの毒ガス、我がバダンが開発した最高の毒ガスよ」
「そうか、貴様等はこのガスの実験をこの小樽で行なっていたのか」
ガスから離れ体勢を崩しながらも必死に立ち上がっている。
「そう、そしてそのガスの開発及び保持者がこの私、バラロイドなの」
バラロイドは自信に満ちた声でⅤ3に言った。
「綺麗な薔薇には毒もある。それを教えてあげるわ」
バラロイドはそう言うと薔薇を次々と投げ付けてきた。そしてそのガスはⅤ3を次々と覆っていく。
「ググ・・・・・・」
Ⅴ3は苦悶の声をあげる。ガスの毒がその全身を蝕まんとする。
「フフフ、如何に改造人間といえどこれは耐えられないでしょう」
バラロイドはその姿を見て笑う。
その通りだった。ガスはⅤ3の身体を徐々に浸食していた。それに耐えられる限界に近付いていた。
「まずい、このままでは・・・・・・」
Ⅴ3は危機感を覚えた。このままでは敗れる、そう直感した。
「ここは・・・・・・これだ!」
Ⅴ3は咄嗟に閃いた。そして動いた。
「Ⅴ3バリヤーーーッ!」
身体中から何やら特殊な絶縁膜を出した。そして毒ガスを防いだ。
「なっ・・・・・・!?」
今度はバラロイドが驚いた。そしてたじろいだ。
それを見逃すⅤ3ではなかった。突進し体当たりを仕掛ける。
体勢が崩れた。それを見て大きく跳躍した。
「Ⅴ3スクリューーーーキィーーーーック!」
身体渦巻状に回転させた。そしてそれにより加速をつけ蹴りを入れた。
蹴りは怪人の腹を直撃した。バラロイドはその脚を掴んだ。
「グググ・・・・・・・・・」
呻き声を漏らす。蹴りはバラロイドの腹を貫いてた。
Ⅴ3が脚を抜いた。そして後ろに跳んで戻った。
腹から鮮血がほとぼしり出る。怪人はガクリ、と右膝を着いた。
「ま、まさかバリヤーを張って毒ガスのそれ以上の浸透を防ぐとは・・・・・・」
「この仮面ライダーⅤ3には逆ダブルタイフーンだけでなく多くの能力がある。それを忘れていたな」
「た、確かに・・・・・・・・・」
バラロイドは苦しい声で言った。
「毒ガスを受けた時に咄嗟に閃いたが。おかげで命拾いした」
「くっ、ぬかったわ・・・・・・」
バラロイドは人間の姿に戻った。腹からは緑の血を流し続けている。
「私の負けよ、仮面ライダーⅤ3.だけどこれだけは覚えておくのね」
最後の力を振り絞り声を発する。
「最後に笑うのはバダン。これは覆る事は無いわ」
そう言うとニヤリ、と笑った。
「また会う時を楽しみにしているわ。その時は貴方が死ぬ時だけれどね」
そして左手に一輪の黒薔薇を出した。
「それではその時までさようなら」
薔薇が散った。そこから無数の花びらが生じる。バラロイドはその中に消えていった。
「また会う時だと・・・・・・・・・」
Ⅴ3は呟いた。闘いに勝利しても心は晴れなかった。
「・・・・・・・・・バラロイドも敗れたか」
暗闇大使はモニターを見上げつつ呟いた。
「ハッ、立派な最後でした」
戦闘員の一人が敬礼をして言った。
「うむ。死体は回収したのであろうな」
「はい。カメレオロイド、ジゴクロイド、トカゲロイドと同じく地下の改造室に保管してあります」
「そうか、ならば良い」
暗闇大使は安堵の色を込めて言った。
「またあの者達には働いてもらわねばならん。まだ死んでもらっては困るのだ」
「ハッ」
戦闘員はその言葉に対し敬礼した。
「ライダー達よ、見ておれ。いずれ我がバダンの無敵の戦士達と究極の兵器が貴様等の前に立ちはだかる。その時貴様等は苦悶と絶望の中息絶えるのだ。バダンが世界を征服するのを見ながらな」
そう言うとニヤリ、と笑った。邪な笑いがその場を支配した。
「小樽ともお別れだな」
風見は佐久間に対し駅のホームで列車を待ちながら言った。
「ええ、寒いですけれどいい街でしたね。景色も綺麗だったし」
「おっ、食べ物の事は何も言わないのか」
風見は悪戯っぽく笑って問い掛けた。
「そ、そりゃあ食べ物も良かったですよ。寿司もホテルの食べ物も美味しかったし」
佐久間は照れ臭そうに笑って答えた。
「ははは、健はそうじゃなくちゃな」
風見は笑って言った。
「からかわないで下さいよ、もう」
佐久間は困ったような顔をして言葉を返した。
「悪い悪い、しかしこれで小樽でのバダンの活動は失敗に終わったな」
風見は表情を引き締めて言った。
「ええ。まだまだ奴等の暗躍は行なわれるでしょうけど」
佐久間も顔を真摯なものにした。
「おそらくこの日本でも暗躍している奴が大勢いる筈だ。これは他のライダー達に任せるしかないが」
「やってくれますよ、皆。だってライダーですから」
「おい、それは少し楽天的だぞ。それにそんな事言ってみろ。敬介や洋みたいな真面目な奴ならともかく茂だったらすぐ頭に乗るぞ」
「ハハハ、それはちょっと心配し過ぎなんじゃないですか」
「まあな、あいつはあれで頭が切れるところがあるしな。しかし・・・・・・」
その時風見の脳裏にバラロイドの最後の言葉が浮かんだ。
(あの言葉・・・・・・一体どういう意味だ)
風見の表情が暗いものになった。
(また会う時か・・・・・・。まさかまだ死んではいないというのか。あれだけのダメージを受けて)
「?」
佐久間はその表情の変化に気が付いた。
(いや、もしかすると再生してくるというのか。それなら充分有り得るが・・・・・・)
「先輩、どうしたんですか」
佐久間が声をかけた。風見はそれに対しハッと気が付いた。
「あ、いや何でもない」
風見は慌てて佐久間の方を振り向いて言った。
「まあここでの戦いは終わったしとりあえずはホッとしときましょうよ。どうせすぐあの連中との戦いがあるんだし」
「そうだな、とりあえず今は羽根を休めるか」
「そうですよ。ほら、列車も来たし。たまには汽車の旅を楽しみましょう」
「ああ、そうするか」
風見は佐久間の言葉に従い頷いた。
二人は列車に乗った。そして列車は二人を乗せ小樽の駅を出発した。
雪原の花 完
2003・12・27
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