その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)
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第2話 異界の住人
前書き
不定期に更新させていただきますが、30話位まではもう移転させるだけですので、早く投稿できるかと思います。
では、どうぞ。
「あ、悪魔・・・。」
目の前の少女、いや、悪魔の言葉に、忍はいよいよ警戒を強くし、呟く。
彼女が伊達や酔狂でそんな事を言っているわけではないのは、今対峙している忍達が一番理解できている。自分たちとは根本的な所から違う、何をしでかすか分からない、まさに悪魔的な雰囲気を少女は身に纏っているのだから。
思い返すのは、初めてアプリを見た時の事。
【悪魔召喚アプリ】と名付けられたアプリケーションを見たときは、一体何の冗談かと思った。未来から来たかのような技術で作られたかのような携帯電話とおぼしき機械にインストールされている、穏やかではない名前のアプリ。
想像してた未来って大分暗いみたいねぇ。と苦笑しながら過去の自分が、如何に愚かだったか、忍は今になって事態を軽く考えていた自分の事を後悔していた。
「そう、悪魔。超古代から現代に至るまで、古今東西に伝えられている神話、伝説、伝承から噂話まで。その中で語られている神も天使も、勿論人間に害を及ぼす悪魔も、みんなひっくるめた超常の存在。それが私であり、私たち“悪魔”。」
忍の呟きが聞えたのか、そういうと悪魔—――リリムは口角を釣り上げ、妖艶な笑みを浮かべる。美しい薔薇には棘があるとはよく言ったものだ。何も知らなければ同性であろうと魅了していただろう大輪の花のような笑みも、相手の素性を知った今では警戒すべきものにしか見えない。
「お、おねぇちゃん」
忍の隣にいたすずかが姉の服の裾を握り、不安に揺れた声をあげる。
幼いとはいえ、感覚の鋭い“夜の一族”である妹でも、この悪魔から発せられる雰囲気から彼女が人外の者だと言うことが分かったのだろう。
だから自分たちよりも圧倒的な力を持つ強者のみが纏える雰囲気に妹はあてられたのだと忍は考える。まだ幼く、気立てが優しい妹にはとてもではないがこの空気には耐えられるものではないはずだ。
「ね、ねぇ。この【悪魔召喚プログラム】って何? どうして、あなたはそれに従っているの? まさか、あなたのいた所はこんなものが必要な世界だっていうんじゃ……」
忍は会話を試みるため、まずは彼女に質問をしてみた。どの道自分たちが力で彼女に勝てるとは到底思えないし、目の前の脅威に対処するには端からこれしかなかった。
それに、今は相手の雰囲気に圧倒されているが、会話が通じる相手であればすずかも幾分か安心するかもしれない。
だかしかし、
「ねぇ、ニンゲン」
バチッ、と退屈そうな声と共に彼女の人差し指から電気が生じた。
たったの一言と、その行為だけで忍は質問をやめせられた。改めて強者は彼女で、自分は弱者だと認めざるを得なかった。一瞬で、会話の主導権が変わる。
「さっきから私ばっかり質問いっぱいされてるんですけど〜。それってずるいと思わない? むしろ、私にとってとても大事な事があるからそれをまずは聞きたいんだけど」
「…………大事な事って、何かしら」
「2つあるわ。1つ、あなたがその携帯をどうして持っているのかしら?2つ、その携帯の持ち主はどこにいるの?」
「か、……彼なら、妹が見つけて別室にいるわ。ひどい怪我を負っていたから、応急処置をして安静にしてもらっているわよ。」
目を細め、威圧感を強めて質問を発する彼女。
嘘をつくことを許さない、そんな雰囲気にのまれ、忍はつい本当の事を答えてしまった。
「あっ、そうなの。妹って、そっちにいるニンゲンの事よね? ありがとうね〜、私の“ご主人様”を助けてくれて。」
「い、いえ……。」
「じゃあさじゃあさ、私が行ってもいいでしょ。ご主人様のことはちゃんと自分の目で確かめないとね〜〜」
「私って忠義者よねぇ~」忍達の目の前で軽いノリでそう言う彼女。忍は、彼女の言葉に一抹の不安を覚え始めた。
その不安を確かめるために、また彼女を不機嫌にさせないよう、恐る恐る慎重に尋ねてみる。
「どうして、彼に会いたいの?」
「さっきも言ったじゃない、自分の目で確かめたいって。契約切れてないから死んでないのは分かるけど、どんな状態かは自分の目で見るまで分からないから心配なのよ」
ゾワリ、とその返答に姉妹は腹の中から嫌なものがこみ上げてくるような感じを受けた。
彼女と彼は契約を交わした関係。なら、少年が死んだら契約から解放されるのではないか?自由になった彼女は、自分たちを襲ってくるのではないだろうか? いくつもの疑念が首をもたげ、その度に忍達を不安に陥れる。
そうなれば、今は眠っていて何も抵抗ができない(もっとも、動けても彼女に勝てるのかははなはだ疑問だが)少年に彼女を会わすのは絶対に避けねばならない。
それに彼を犠牲にするのは、人として避けたいところだ。妹が助けたということもあるし、何より身代わりによって自分だけ助かるという行為に、こんな状況ではおかしいが嫌悪を感じてしまう。
「か、彼はやっと治療が終わったところで、絶対安静が必要なの。だから、彼のためにも会うのはもう少し先にしてもらえない?」
忍が言ったことは全て本当だ。目の前の悪魔を名乗る少女にどれほど情があるかは分からないが、話が通じないわけではないし、少年が目を覚ますまでの時間を稼ぐための必死の説得を試みる。
「あら、じゃあ尚更会いに行かないと。待っててねぇ〜ジュンゴ。今、愛しのリリムちゃんが会いに行きますよ〜♡」
…………悪魔に人としての情を求めた自分が馬鹿だった。まさか、彼が回復する時間を稼ごうとしたら、まさか彼に会いに行くことに乗り気になってくるとは。
———本当に、今日は自分の甘さ加減にうんざりするわ。
これまで事態を甘く見ていたことや、今の発言の招いた事態への後悔から、忍は自分の唇を強くかみしめる。だが、意識の無い時を狙うという事は、この悪魔は彼を恐れているという証拠だ。
何としても、時間稼ぎを続けなければならない。
「だ、だからさっきも言ったでしょう! 彼は今絶対安静なの、誰かと会えるほどの余裕なんてないし、下手に動かされでもしたら、本当に命に……。」
「はぁ〜〜〜〜。ねぇ、あなたすっごく面倒。せっかく自分の意思があるうちに案内してほしかったのに。あんまり駄々こねると、ちょっと自分から喜んで案内してもらうようにしちゃうわよ♡」
可愛く言ったつもりだろうが、その実脅しでしかない。
自分から喜んで、と彼女は言った。つまり目の前のこの悪魔には、人の意思を自由に操れる能力がある。だがそれでも敢えて忍たちが自ら少年の所に案内するように促している、という事が分かる。
正に悪魔の所業。無防備な少年のもとにこの悪魔を近付けさせたくない、という自分たちがしたくないと思う事を的確に見抜き、無理矢理でもそれを行わせようとする。
しかも悪辣な事に、もうどうやっても彼のいる部屋に案内することは回避できない。断れば意思を奪われた状態で案内をさせられる事は、彼女の発言から火を見るより明らかだ。
彼は最後の希望だ、ここまで終始悪魔のペースに乗ってしまったが、何としても守り抜かなければならない!!
「……分かったわ。じゃあ、私が案内するからついてきてもらえるかしら。」
「お、おねぇちゃん!?」
驚くすずかに、すぐさま部屋を出てノエルとファリンを呼んでくるようアイコンタクトを送る。悪魔が少年のもとに行くことが避けられない今、悪魔の気が少年に向いている一瞬の隙をついて少年を逃がすなり、悪魔に抵抗をするなりしなければならない。そのためには、戦力は多い方がいい。
「そうそう、物分かりがいい子っておねぇさん好きよ。まぁ、一番好きなのはジュンゴだけど、キャッ♡」
「…………とにかくこっちよ。ついてきて」
———何がキャッ♡、よ。この悪魔め。
忍は心の中で悪態をつく。これから少年のもとへこの悪魔を案内し、かつ少年に危害が及ばないようにする、という矛盾した無理難題をこなさなければならない。それを行う事の難しさや、無事 少年の安全を確保したとしても、悪魔に対抗する事ができるのだろうか。忍の心に、様々な不安が浮かんでは消えていく。
そんな事を考えながらでも、悪魔の契約者である少年のいる部屋についてしまった。
ここからが少年を、家族を守れるかがかかった正念場だ。忍はより一層気合いを入れる。
「ここにいるわ。じゃあ、先に入って」
「分かったわ。それじゃあ、おっ邪魔っしま〜〜す♪」
契約者に止めをさせる嬉しさからか、どこか楽しげな口調と共に部屋に入る悪魔。その後ろでどうやってこの悪魔の隙をつくか、忍は必死で算段を立てる。
少年が眠る部屋は、客室の一室を臨時に少年の治療室としたため、クローゼットや少人数が座る事を想定した机、イスなど最低限の調度品と簡素なベッドしかない。今はそのベットに問題の少年が横たわっていた。
そして、やはりと言うべきか彼は目覚めていなかった。ニット帽が外されたため、幼いながらもどこか鋭く、野性的な印象を受ける顔があらわになっている。治療を受けた後のためか呼吸は安定しており、規則正しく胸が上下しているのが見えた。
そんな少年を部屋に一歩踏み入り、その視界に収めた途端、忍の一歩前にいる悪魔が突然震え始めた。マグマの噴火の様な、何か我慢していたものがあふれ出る直前の様子に、忍は思わず手を伸ばし動きを止めようとする。
あと少しで手が届く、その瞬間に悪魔から声が漏れるのを忍は聞いた。
「き…………」
「き?」
「きゃぁぁぁぁぁぁ! ジュンゴったらこんなに可愛くなっちゃって! 前々から可愛い可愛いって思ってたけど、ついに体までこんなに可愛らしくなっちゃったのね!!
はっ、これはご褒美ね! いつも頑張ってる私にジュンゴからのサプライズプレゼントね! それなら遠慮しないわ! おねぇさん思いっきり抱きついちゃうわよ~~~♡」
悪魔…いいや、リリムが黄色い悲鳴上げながら彼に突進した。そのせいで、忍はバランスを崩し、手を伸ばした状態のまま盛大にずっこけた。
もろに打ちつけた鼻柱を押さえながら、何が起こったのかをよくよく考えてみた。
まず彼女の発言を思い出してみる。『愛しの』、『心配』などなど彼女の発言を思い返してみれば、確かに彼に敵意が向けられるという事はなかった。
自分たちが、彼女のいかにもなしぐさや強者の雰囲気にあてられて、必要以上に警戒をしてしまっただけだったのだと、ようやく理解できた。
これほどまでに弱者が強者の前に立つと、強者の思いを勝手に推測し、勘違いしてしまうものなのか。
———これが、“夜の一族“を見た人間の気持なのかもしれないわね。
少し自分たちをみる他者の気持ちが分かったような、そんな事を考えながら、忍は絶対安静だと言っていたのに、少年に抱きつき頬擦りするリリムを止めるために歩を進めていった。
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