仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜
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地底からの魔手
本郷猛が長崎においてカメレオロイドと死闘を繰り広げていた頃一文字隼人は鹿児島にいた。この地において怪人らしき者を見たという報告があったからだ。
「ここに来るのも久し振りだな」
一文字はフェリーから市内へ降り立って一言感慨深げに呟いた。彼は日本にいた頃この九州でショッカーと戦った経験があるのだ。
「あれが本郷との初めての共同戦線だったな」
彼はそう言って目を細めた。この地において彼等は死神博士の開発した強力な改造人間を力を合わせて撃破したのである。それが伝説とまで謳われたダブルライダーのはじまりであった。
港には一人の男が立っていた。黒いジャケットを着ている。こちらに背を向け煙草を吸っている。
「よお、待ったか」
一文字は男に声をかける。
「いや、丁度今来たところだ」
男は振り返り煙草を消した。男は滝和也だった。
「じゃあまずは腹ごしらえといくか」
「ああ。何処かいい店でも知っているのか」
「ああ。ストロンガーが鹿児島にはやけに詳しくてな。色々と教えてもらった」
「ストロンガーが?意外だな」
「ブラックサタンと戦っていた頃はおやっさん達と一緒に日本
全国を回っていたらしいからな。その時にここにも立ち寄ったらしいな」
「成程ね。じゃあ早速食いに行こうか」
「ああ。何がいい?」
「そうだな。黒豚のカツでも食うか」
「よし、それにしよう」
二人は頷き合いバイクに乗った。そして市内へ入っていく。
村雨はレストランを出て再び博士と共に東京へ向かっていた。夜になった。二人は邪魔にならない所にトラックを停めて休息を取っていた。
博士は身体に白衣を被せ車内で眠っている。村雨は外で一人立っていた。
もうバダンの制服は着ていない。あまりにも目立つからという理由で博士が服を買ったのだ。
緑のジャケットと白いシャツ、シャツと同じ色のスラックスを身に着けている。白いシューズを履き黒いグローブを嵌めている。その筋肉質で大きい身体が服の上からでもわかる。
組織を脱出して数日。彼は幾つかの感情を知った。
「喜び・・・・・・恐れ・・・・・・」
それは人として必要なものだという。だがそれが何故必要なのか彼にはまだよくわからない。戦うにあたって不要だから彼から削除されたのだと博士は言った。
「だがそれは間違いだ」
その時博士は彼に言った。そして博士は仮面ライダーという
バダンと戦う戦士達について語った。
「あの男達か」
彼と戦い手傷を負わせたあの男達。思えば彼等との戦いがあったからこそ今バダンから脱出したのだ。
博士は言った。彼等は自分と同じ改造人間だと。しかし心は失っていない。人を、世界を愛し正義と温もりを知る心を。だからこそ彼等は戦えるのだと。愛と正義を知る人の心を持つからこそ彼等は戦えるのだと。
「それでは俺は戦えないのか。その正義の下には」
彼は言った。その言葉を博士は首を横に振って否定した。
「違う。君も心を、感情を取り戻したならば正義の下に彼等と共に戦えるのだ」
博士は力強い声で彼に言った。その口調は有無を言わせぬ強いものだった。
「俺も・・・・・・正義の下に・・・・・・」
彼はその時の言葉を思い出していた。何故かその言葉が妙に心に残った。そして何か不思議な感触を味わった。
「・・・・・・これも感情の一つか」
彼は思った。そして博士に教えてもらった感情の一つを呟いた。
「喜びというのか。何かと見たり感じたりして心が浮き上がる」
彼は自分の胸を見た。
「楽しみにも似た感情だ。正義の下に戦えると思っただけでこうした感情を抱けるとは」
上を見上げた。限り無く黒に近い紫の空が広がっている。
そこには無数の星々が瞬いている。赤い星、青い星、白い星。様々な星がある。
「どこの空も同じだな。昼には青い空に白い雲と金色の太陽があり夜には紫の空と様々な色の星達と黄色い月がある」
村雨は呟いた。そして数歩歩いた。
そこへ何かが駆けて来た。彼は咄嗟に身構えた。
「バダンか・・・?」
だがそれはバダンの者ではなかった。小さい影だった。
それは子犬だった。白い巻き毛の可愛らしい犬だった。
「あ、捕まえてくださ~~~い」
その後ろから女の子の声がする。彼はその言葉に従い子犬を捕まえた。
「ワン」
子犬は一鳴きして彼の腕の中に入った。どうやらかなり人に慣れた犬らしい。
「あ、有り難うございます」
さっき声をかけてきた女の子が出て来た。黒い髪の可愛い女の子だ。高校生位か。
「おい美由紀、駄目だろペスから目を離したら」
その後ろからもう一人駆けて来た。二十位の若い男だ。
「御免なさい、お兄ちゃん。ちょっと目を離したらすぎに走っていっちゃうんだもの」
「だから手綱を強く握ってろって。ただでさえ御前は力が弱いんだからな」
「御免なさい・・・・・・」
美由紀と呼ばれたその娘は申し訳無さそうに頭を垂れた。
「わかればいいよ。あ、ペスを捕まえて頂き有り難うございます」
若い男は村雨に頭を垂れて礼を言った。
「ペスというのか、この子犬は」
村雨は腕の中の子犬を見下ろしながら言った。表情は変わらない。
「はい。可愛いでしょ」
「可愛い・・・・・・・・・」
彼はその顔を見た。村雨を見て人なつっこそうに笑っている。
「俺を見て笑ってくれるのか」
それを見て彼の口元が綻んだ。
「俺は笑っているな。そうか。俺は今楽しんでいるのか。いな、この感じは少し違うな。喜んでいるのか」
村雨は言った。それは今までの抑揚の無い無表情な声ではなかった。僅かではあるが嬉しさのこもった声であった。
「ワン」
子犬は吠えた。そして飼い主達の方へ顔を向けた。
「ん」
村雨もそれに気付いた。どうやら飼い主達の方へ帰りたがっているようだ。
「そうか」
村雨はそれを察して二人に子犬を返した。子犬は嬉しそうに二人の胸へ飛び込んで行った。
「御前も嬉しいのか。飼い主達のところへ戻ることが出来て」
村雨はそれを見て呟いた。飼い主達は村雨に礼を言ってその場を去って行った。
「よかったな、美由紀。優しい人に拾ってもらって」
「うん。これからは気をつけるわ」
遠くから二人の声が聞こえてくる。それを聞きながら彼は思った。
「優しい・・・・・・優しさのことか」
彼は博士に教えてもらった感情の一つについて考えた。
「人に何かとする。いや、させてもらう事。それはその人について色々と考える事から生ずる・・・・・・・・・」
彼は博士の言葉を心の中で反芻していた。
「そしてそれは人が人である為になくてはならないものだと・・・・・・・・・」
子犬が来た方を見た。彼の改造された目をもってしてももう彼等は見えない。だが彼は別のものを見ようとしていた。
「俺の知らなければいけない事はまだまだあるな」
彼はそう言うと車の中に入った。そして博士の横で休息を取った。
一文字と滝は食事を済ませ市内を回っていた。そして雑誌記者とカメラマンという滝は偽りの、一文字は本当の経歴を知って情報を収集していた。
「なんか思ったより情報の入りがいいな」
市内のホテルの一室で滝は一文字に言った。
「そうか?俺はそうは思わないが」
一文字はフィルムを見ながら不満そうに言った。どうも彼はいい写真があまりなくて不満らしい。
「まあそう言うなって。どうやら桜島の辺りに目撃例が多いし。それだけでも重要な手懸かりだぜ」
「確かにな。どうやら桜島に何かするつもりらしいな」
「おおかた大噴火でも起こさせるつもりなんだろう。連中がよくやる事だ」
滝が言った。彼もショッカー、ゲルショッカーと幾多の死闘を展開しているだけあって彼等のやり口には詳しい。
「だろうな。ゾル大佐がやろうとした事もあったしな」
一文字もそれに同意した。話しながらかっての宿敵との戦いを脳裏に思い出す。
「あの時は確か核爆弾を使おうとしていたな。今回はどんなやり方で来るかな」
「まあどんなやり方で来るかはまだ判らんが絶対に奴等の作戦を防がなくちゃな。さもないと九州南部が火の海だ」
桜島は大型の火山である。これが爆発した時の被害が甚大である事は容易に想像がつく。
「ああ、勿論だ。何としても奴等の作戦を阻止するぞ」
「よし」
二人はホテルを出た。そして早速桜島へ向かった。
その二人をビルの上から見る影があった。影はそれを見届けるとビルの陰へその姿を消した。
「そうか、ここには一文字隼人が来たか」
それは何処にあるのであろうか。おそらく地下に設けられたその基地の指令室で一人の男が戦闘員から報告を受けていた。
男は筋骨隆々の黒人の大男である。岩石の様な顔には無数の傷まである。黒いタンクトップに白いズボンを着ている。
「やはり察しがいいな。おそらくこの地での我等の作戦も大体解かっている筈だ」
男は歩きながら言った。
「だが手をこまねいている必要はないな。奴を倒せばいいだけだ」
ニヤリ、と笑った。獰猛な、肉食獣の様な笑みだった。
「やれやれ、相変わらずですね。ジム=コーエン。いやジゴクロイドとお呼びしたほうがいいですかね」
不意に男の声がした。ジムと呼ばれたその黒人は声がした方へ顔を向けた。
「来ていたのか」
「ええ、つい今しがた。お邪魔させてもらいますよ」
村雨に針でもって攻撃したあの白人の男だ。白い服を着ている。
「あんたが来るとは珍しいな。何かあったのか」
「いえ。ただそちらの作戦の進み具合はどうなっているのかと思いましたので」
「別に変わりはないな。かなり順調にいっている。ただやっぱりあいつ等が来やがった」
「あいつ等・・・・・・成程、仮面ライダーですか」
白服の男は意味ありげな笑みを浮かべた。
「ああ。まあ情報部の予想通りだな。今からぶっ潰しに行くつもりだ」
「そうですか。楽しみにしていますよ」
ジゴクロイドのその言葉に男は頷いて笑った。
「ああ、楽しみにしといてくれ。この腕で全てを叩き潰すのが俺のやり方だ」
右で拳を作りながら笑う。やはり獣じみた笑みだ。
「フフフ、相変わらずですね。シカゴの暗黒街の影の支配者と言われた時から」
「フッ、『人間』だった時の話は止めてくれ。今の俺はそんなちんけなもんじゃない」
その言葉に表情を変え反応する。発言を咎めるような顔だ。
「そうでしたね。何しろ今の貴方は・・・・・・」
「そう、今の俺は人間じゃね。選ばれたんだからな」
「そう、貴方は選ばれし者。バダンという神に選ばれし者・・・・・・」
白服の男は含み笑いを漏らしながら言った。
「期待していますよ。貴方がこの九州を炎に包む日を」
「それはもうすぐだぜ」
ジゴクロイドは口の歯を見せて笑った。その全てが牙の様な歯だった。
「それは何より。フフフフフ・・・・・・・・・」
白服の男は消えていった。後にはジゴクロイドと戦闘員達が残った。
「相変わらず動きの速い奴だ。まあ奴には奴の考えがあるんだろうがな」
そう言うと後ろに控えている戦闘員達の方へ顔を向けた。
「オートバイ部隊のほうはどうなっている」
「ハッ、既に全員出撃用意を完了させています」
戦闘員の一人が敬礼して報告する。
「そうか。俺も出撃するぞ」
「ハッ」
戦闘員はそれに答えた。
「久し振りの『殺し』だ。腕が鳴るぜ、
ククククク・・・・・・・・・」
ジゴクロイドは両手に黒いグローブを嵌めた。そしてその上から指をボキボキと鳴らして笑った。
一文字と滝は鹿児島の道をバイクで進んでいた。行く先は桜島である。右手にはその桜島が煙を噴きながら聳え立っている。見事な雄姿である。
「こうして見るとやっぱりでかいな」
滝が愛車ワルキューレを走らせながら言った。
「ああ。鹿児島の象徴と言われるだけはある」
一文字もそれを眺めながら言った。
「大きくて力があってな。鹿児島出身の奴がよく言うな。俺もああいうふうになりたいって」
「ああ。灰を出しまくるのが凄く迷惑だって話だけれどな」
この灰のせいで鹿児島は米があまり採れない。だから薩摩芋を植えたのである。
「しょっちゅう噴火しているしな。今も煙を出しているし」
「そうでなきゃ桜島じゃないっていう人もいるしな。まあ良くも悪くも鹿児島の象徴だ」
二人は談笑しながら道を駆ける。その時ふとライダーの一団が後ろからやって来た。
「ん?黒服のライダーの一団だ」
「随分速いな。街道レーサーか何かかな」
速い。二人は道を空けようとバイクを端に寄せた。
だがその黒いライダーの一団は二人の周りを取り囲んだ。そして二人にスピードを合わせ走る。
「一文字隼人、そして滝和也だな」
その中のリーダー格らしきバイクが二人の左横に来た。
「その通りだが・・・・・・あんたは」
一文字は横目でその男を見る。ヘルメットを被っているので顔は見えない。
「俺か?俺は・・・・・・フフフ」
その男は不気味に笑った。
ヘルメットが両脇から砕けた。中から何かで砕かれたようだ。
「バダン怪人軍団の一人ジゴクロイド。御前をぶっ潰しに来てやったぜ」
黒人の男だった。一文字へ顔を向け獣じみた笑いを浮かべる。
「へえ、そりゃどうも。じゃあこれは俺へのお誘いかな」
一文字が微笑んで言った。だがその目は強く光っている。
「そうだ、パーティだ。暗黒の地の底へのな」
ジゴクロイドの眼が光った。その姿が豹変していく。
黒いジャケットが弾け飛ぶ。そして銀の髑髏模様の胸を持つ身体が現われる。
顔が変わる。眼が四つになり頭からは蟻地獄の鋏が角の様に生えてきた。
「それが貴様の正体か」
一文字はその変身する有様を見ながら言った。
「そうだ。バダンが俺に与えてくれた最高の身体だ。これで貴様を粉々にして地の底に沈めてやる」
右側の二つの眼を一文字に向ける。
「地の底・・・・・・」
一文字はその言葉に反応した。
「そうだ、こうして沈めてやる!」
右腕を道路へ向けて振り下ろす。すると道路が急に崩れ出した。
「何ィッ!」
滝はワルキューレを咄嗟にダイビングさせかわす。見れば他の黒服のライダー達もそうしていた。滝はそのダイビングで敵の囲みを突破した。そして彼等の前に出る。
「ほお、これをかわしたか。まあこれはほんの余興だからな。かわしてもらわないと面白くない」
ジゴクロイドは笑った。その四つの眼を細めていた。
「ん!?一文字隼人の姿が見えないが」
バイクを駆りながら辺りを見回す。
「地の底に落ちたわけでのないし何処だ?後ろにでもいるのか?」
後ろを振り向いたその時だった。上から声がした。
「俺はここだ!」
「ムッ!」
上を見上げる。一文字隼人はそこにいた。
「ほお、上に逃げていたか」
ジゴクロイドはそれを見て不敵な笑みを浮かべた。
一文字は仮面ライダーに変身していた。そして新しいマシン新サイクロン改で空を駆っていた。
空を飛翔しながら前へ進む。そしてジゴクロイド達の前へ降り立った。滝もそれへ合流する。
「行くぞ、バダンの改造人間!」
サイクロンを飛ばす。そして滝と共にジゴクロイド達へ向けて突っ込んで行く。
「ほお、この俺とカーチェイスを挑むつもりか」
突進してくるサイクロンを見ながら言った。
「面白い。じゃあその銀色のマシンごと粉々にしてやるぜ!」
四つの眼が光った。それを合図に黒いライダー達が一斉にアクセルを踏んだ。
黒いライダー達は一斉にヘルメットを脱ぎ捨てた。その下からは戦闘員達が現われた。
戦闘員達は懐からチェーンを取り出した。そしてそれをライダーと滝へ投げ付ける。
「無駄だっ!」
ライダーはそれを手で払う。滝はかわし、拳銃でそれを撃ち砕く。間合いが更に近くなった。
戦闘員達のバイクと交差する。その時戦闘員達が拳を繰り出す。
ライダーはそれを受け止めた。そして引っ張り地面へ叩き付ける。
「ギィッ」
地面に叩き付けられたその戦闘員は叫び声をだしそのまま倒れる。だが他の戦闘員達はそれに構わず攻撃を続ける。
ライダーのバイクを取り囲む。そして周りで激しくターンを繰り返す。
二台ずつ襲い掛かる。狼の群狼戦法の要領だ。
ライダーはそれをまずはやり過ごす。そして交差するその時にラリアットを浴びせる。
「ギッ」
再び戦闘員が倒れる。それを見たジゴクロイドは再び戦法を変えてきた。
「よしっ、ならばあれで行くぞ」
「ギッ」
怪人の言葉に戦闘員達は了承の声をあげる。ライダー達から間合いを取り縦一直線に並んだ。
そして一列になってライダーへ向けて突進する。その手には鎖がある。
「成程、縦深陣か」
ライダーはそれを見て一言呟いた。
「その機動力と数を利用して押し切るつもりか」
前から向かって来る一団を見て呟く。
「ライダー、いったいどうするつもりだ?」
滝はそれを見てライダーに問うた。ライダーはそれに対し言った。
「決まってるさ。倒すだけだ」
あっさりとした口調で言った。
「いつもの事だが簡単に言ってくれるな。そう簡単にいく相手じゃないぜ」
「まあそれは見てのお楽しみさ」
ライダーはそう言うとアクセルを噴かせた。そして突っ込んでいく。
「あっ、おいライダー!」
滝の声に構わず前へ突き進む。ジゴクロイドはそれを見て勝利を確信した。
「馬鹿め、真正面からこの縦深陣に挑むつもりか!」
ジゴクロイドはその四つの眼を再び細めて笑った。
「行けぇい!」
彼の指示が下る。そしてそれと共にそれまで縦一列だった戦闘員達が左右に散った。そしてその手の鎖を構える。
「よしっ、予想通りだ!」
ライダーは叫んだ。そしてそのアクセルのスピードを速めた。
戦闘員達が鎖を投げるより速く駆け抜けた。風より速く、鉄より強く。
「サイクロンカッター!」
新サイクロン改の両脇から羽根を出す。そしてそのまま突進する。
カッターが戦闘員達を切り裂いた。そして彼等を全て切りサイクロンは駆け抜けた。
「ヌウッ!」
ジゴクロイドはバイクを左へ捻りそのカッターを何とかかわした。彼が後ろを振り向いた時ライダーとサイクロンは駆け抜けこちらへ機首を向けていた。
「やってくれるな。この戦法を破ったのは貴様が初めてだ」
ジゴクロイドはそう言いながらバイクの機首をライダーへ向ける。
「だがな、これで勝ったとは思うなよ。次は必ず貴様を地の底へ引き摺り落としてやる」
そう言うと機首を反転させた。そして滝が追おうとするのを振り切りそのまま走り去っていった。
「糞っ、逃げ足も速いな」
滝は追いつけずワルキューレを止めて忌々しげに言った。
「まあいいさ。どうせまた奴とは戦う事になるからな。それに今の戦いで敵の能力も少し解かったしな」
ライダーは変身を解き一文字の姿に戻って言った。
「ああ。しかし蟻地獄の改造人間とはな。桜島を狙うにはもってこいだな」
「そうだな。奴等らしいといえばそうだが」
二人はそう言うとヘルメットを被った。
「しかし作戦も予想がつく。おそらく地下から来るぞ」
「多分な。桜島の地下を探ってみるか」
「よし、そうしよう」
二人はマシンのアクセルを踏んだ。そして桜島へ向けて再び駆けだした。
路上での襲撃の後ジゴクロイドは自分の基地に戻っていた。そして指令室で配下の戦闘員達と共にいた。
「噂以上だ。やはりかなり手強い相手だ」
人間の姿に戻っている。そしてモニターに映し出されている仮面ライダー二号の姿を見ながら言った。
「こうでなくては面白くない。ぶっ潰しがいが無いというものだ」
そう言って獣じみた笑いを浮かべる。
「こうなったら特別に派手に潰してやる。桜島の火口に放り込んで溶岩の中に溶かしてやるか」
残忍な笑みを浮かべて言う。
「そうとなれば奴を桜島まで誘き出さなくてはな。奴は今何処にいる?」
「ハッ、今福山を通過したようです」
戦闘員の一人が報告した。福山は鹿児島市から桜島へ行く途中にある町の一つである。
「そうか、福山か。ならばもう暫くしたらこの桜島へ入って来るな」
「はい」
戦闘員はそれに答えた。
「そうだな、普通にやっても面白くはない。ここは奴の裏をかこう」
ジゴクロイドはそう言って口の端を歪めた。
「裏、ですか?」
戦闘員の一人が尋ねた。
「そうだ、裏をかく。御前達にも協力してもらうぞ」
「ギッ」
戦闘員達はその言葉に敬礼した。
「ライダー、見ていろよ。貴様の驚く顔が眼に浮かんでくるようだ」
その眼が邪な光に包まれる。それは既に人のものではなく残忍な表情の、異形の者の眼であった。
一文字と滝は桜島に到着した。そして早速捜査を開始した。
「さて、問題はここの何処に基地があるかだな」
一文字は桜島の麓を歩きながら言った。
「そうだな。だがこの一帯にあるのは間違い無い。すぐにでも見つかるさ」
滝はそう言いながら前を歩く。
「その為にこういったものも用意してきたしな」
懐から何かを取り出した。それは小さな機械だった。
「滝、何だその小さい機械は」
「これか?これは志度博士からもらったんだ。地質を調査する機械さ」
博士がペルーに持って来ていたあの機械のうちの一つである。
「へえ、よくそんなの持って来ていたな」
「たまたまだけれどな。捜査に役に立つだろうと思って。ほら、連中はショッカーの頃から何かと地下に基地を造りたがるだろう?」
一文字はその言葉に頷いた。
「確かにな。それは俺が初めてあの連中と戦った時から変わらないな」
「だから貰ったんだが。まさか本当に使う事になるとはな」
滝はそう言って苦笑した。
「まあとりあえず使ってみよう。奴等も俺達の動きは掴んでいるし早いとこ見つけないと厄介な事になるぞ」
「ああ、それはわかっている」
滝は機械を地面へ当てた。そしてそのメーターを見る。
「どうだ?」
一文字はしゃがみ込みその機械を操る滝を見て尋ねた。
「うん。この辺りに異常は無い」
「そうか」
少し残念そうに言った。
「だがかなり遠くに異常があるようだな。そこから何か妙に高い電波が発されている」
「電波か。妖しいな」
一文字は電波、という言葉に目を光らせた。
「ああ。あちらの方だ」
滝は左手を指差した。
「よし、行こう」
二人はそちらへ向かった。それを陰から見送る影があった。
「よし、予想通りに動いているな」
それはジゴクロイドだった。
「そのまま行くがいい。そして苦悶うちに死ぬのだ、ハハハハハ」
ジゴクロイドはそう言うと姿を消した。そしてその後には正静寂が残った。
二人はその場所へ来た。そして機械を再び地面へ当てた。
「どうだ?」
一文字は再び滝に尋ねた。
「間違いないな、ここから多量の電波が感じられる」
滝は一文字の方を振り向いて言った。
「そうか。ではこの辺りだな」
一文字は早速辺りを見回した。周りは岩山ばかりである。
「出入り口を隠すにはもってこいの場所だな。さて、何処に隠してあるか」
その時遠くに黒い服の戦闘員達が目に入った。何やら子供を追いかけている。
「あいつ等、子供でも容赦はしないか。相変わらずだな」
一文字と滝はそう言うと戦闘員達の方へ向かった。
二人の姿を見ると戦闘員達は慌てて逃げ出した。二人はそれを追うよりも子供の保護を優先した。
「怪我はないかい?」
見れば赤い服を着た可愛らしい女の子である。
「うん。けどお父さんとお母さんが」
「お父さんとお母さんがどうしたの?」
滝は子供に優しく尋ねた。一見怖そうな外見であるが彼は子供が大好きだ。
「あの怖い人達にさらわれちゃったの」
「そうか。じゃあお兄さん達がお父さん達を助け出してあげるよ」
「本当?」
「ああ、本当さ。お兄さん達は正義の味方だからね」
一文字は少女を笑顔で見下ろしながら言った。彼も子供は大好きである。
「正義の味方?じゃああの悪い奴等もやっつけてくれるの?」
「勿論さ。その為にここに来たんだからね」
「じゃああいつ等のいるところを教えてくれるかい?」
「うん」
少女に案内され二人はその場所へ向かった。
「ここか」
そこは巨大な岩のまえだった。黒い玄武岩である。
「悪い奴等はここから出入りしていたの。お父さんもお母さんもこの中に連れて行かれちゃったの」
少女はその岩を指差して言った。
「そうか、この中か」
滝は機械をその岩に当てた。
「間違いないな。電波が今までとは比べ物にならない位高くなっている」
「そうか、遂に突き止めたぞ」
一文字はそう言って前に出た。
「滝、ちょっと下がってくれ」
「わかった」
滝は少女を抱いて後ろへ下がる。一文字はその岩に手を当てた。
「ムンッ」
その岩を横へ引いた。するとその奥から下へと降りる階段が現われた。
「よし、行こう」
滝が前へ進もうとする。だが一文字はそれを手で制止した。
「いや、御前はここに残ってくれ」
「何でだ?」
滝はその言葉にいぶかしんだ。
「御前はこの子を守ってくれ。そしてこの子のご両親を助けて安全な場所へ逃がすんだ」
「そうか、解かった」
滝は一文字のその言葉に納得した。
「ここは俺ひとりで行く。そしてその子のご両親を必ず救い出してくる」
「そうか、必ず救い出して来いよ」
「ああ、必ずな」
一文字は滝にそう言って階段を降りていった。
一文字は階段を慎重に降りていく。中は暗く不気味な気配に満ちている。
「間違いないな、ここに奴等はいる」
一文字はそのまま進んでいく。そして暗い廊下を進んでいく。
「問題は何処にあの子のご両親が捕らえられているかだな」
その時一人の戦闘員にバッタリと会った。
「ギィッ」
戦闘員は慌てて構えを取ろうとする。だが一文字はそれより速く彼を叩きのめした。
「ギギギ・・・・・・・・・」
苦しみ床に倒れる戦闘員。一文字は彼の首を掴んだ。
「言え。捕らえた人達は何処に収容している」
「あ、あそこだ・・・・・・」
戦闘員は奥の廊下の左手を指差した。そこには廊下が続いている。
「あそこか」
一文字は戦闘員を気絶させるとそこへ向かった。その後ろで何か足音がしたのには気付かなかった。
そこは牢獄だった。捕らえられている多くの人達がいた。
「助けてくれ!」
彼等は鉄格子越しに叫ぶ。一文字はそれに答え鉄格子を次々と打ち壊していく。
人々は次々に牢獄から出る。一文字はその人達に問うた。
「この中に赤い服を着た小さい女の子のご両親はおられますか?」
「はい」
若い夫婦が手を挙げた。
「良かった、貴方達の娘さんにここまえ案内して頂いたのですよ。お父さんとお母さんを助けて欲しいって」
「そうだったんですか、あの娘が」
「ええ。娘さんがお待ちです。さあ早く行きましょう」
「はい」
しかしその時だった。
「残念だがそれは出来ん」
彼等の後ろから声がした。そしてジゴクロイドが姿を現わした。
既に怪人態をとっている。その後ろには戦闘員達がいる。
「貴様はここで死ぬからだ。貴様が助け出した人達と共にな」
そう言うと一文字の足下に小さな蟻地獄を造った。
「むっ」
それは威嚇だった。蟻地獄はすぐに消えた。だが人々を怯えさせるのには充分だった。
「俺からは逃れられんぞ」
一文字が先程来た道からも戦闘員達が来た。彼等は挟み撃ちとなった。
「さあ、これで逃げ道は無くなった」
ジゴクロイドはその四つの目を細めた。そしてその両手を巨大な鋏に変えた。
「一人ずつ切り刻んでやる。ライダー、貴様は特に念入りにな。ククククク」
残忍な笑みを漏らす。だが一文字はそれに対して笑った。
「成程、確かにその鋏は見事だな」
「フン、死を前にして気が狂ったか」
「残念だが死ぬのは貴様らだ。俺はこの人達を全員救い出さなければいけないしな」
「世迷言を。その様な事が出来るとおもっているのか」
「出来るさ。ほら、向こうを見てみるんだな」
「何ィ!?」
ジゴクロイドは牢獄の向こう側を見た。そこでは戦闘員達が次々に何者かに撃ち倒されていた。
「なっ、どういう事だ!?」
「滝の存在を忘れていたな。入口であの女の子を守っていたんだが俺の危機を察して来てくれたんだ」
「隼人、助けに来たぞ!」
「おう滝、捕らえられていた人達を頼む!」
「解かった!」
人々は滝に連れられ基地を脱出していく。
「ヌウウッ、何故あの男が来ると解かった」
「長い付き合いだからな。こういう時あいつは必ず来てくれるのさ。貴様等の様に人である事を捨てた連中には解からん事だろうがな」
「おのれ・・・・・・・・・」
ジゴクロイドは怒った。両手のその鋏を思いきり振りかざす。
「来るか。ならば俺も相手をしよう」
一文字は不敵に笑った。そして腕をゆっくりと旋回させはじめた。
変っ
両手を手刀の形にし右手を肩の高さで横に水平にする。左手はそれに水平に肘を直角にして並べる。
そして両手をゆっくりと右から左へ旋回させる。胸がライトグリーンになり手袋とブーツが赤いそれになる。そして全身が端から黒いバトルボディに包まれる。
身
両手を左肩の位置まで持って行く。左手は垂直に上へ、右手は同じく垂直だが真横にする。両手共手は拳になっている。
顔の右半分が赤い眼をしたダークグリーンの仮面に覆われる。それはすぐに左半分も覆う。
腰の風車が旋回した。そしてそれが光を発する。
「行くぞっ!」
ライダーに変身した。そしてジゴクロイド達へ突き進んでいく。
戦闘員達が前へ出る。しかしライダーの敵ではない。次々と打ち倒されていく。
「むっ、これ以上進ませるな!」
ジゴクロイドが叫ぶ。だが戦闘員達は次々と倒されていく。
「ちいいっ!」
ジゴクロイドが蟻地獄を造る。だが狭い廊下では大きなものは作れない。しかもその動きはライダーに読まれていた。
ライダーはジャンプした。そしてジゴクロイドに蹴りを入れようとする。
しかし彼も改造人間である。戦闘員とは違う。その蹴りはかわした。
「ぬうう、ここでは不利か」
ジゴクロイドはようやく劣勢を悟った。
「退け、退け!」
ジゴクロイドは自身がライダーの前に出て鋏を振るいながら戦闘員達に撤退を指示する。彼等はそれに従いその場を退いていく。
「逃さんっ!」
ライダーは追おうとする。だがジゴクロイドが振り回す。鋏に阻まれ思うように進めない。
「そうはさせん」
「ぬうう・・・・・・」
ジゴクロイドも鋏を振るいながら退いていく。ライダーはそれを追う。
ジゴクロイドと戦闘員は廊下を走っていく。ライダーはそれを追う。
「この部屋だけは通さん」
ある部屋の扉の前に来た。ジゴクロイド達はそこで止まった。
「そこに何か重要なものがあるらしいな」
彼等の様子を見てライダーは直感した。そして意地でも進もうとする。
「させん!」
戦闘員達が襲い掛かる。だがライダーはそれを退ける。
ジゴクロイドが出て来た。狭い廊下の中で鋏を振るう。
だがライダーはその手を掴んだ。そして背負い投げを掛けた。
「グオオ・・・・・・」
背を思いきり打ちつけられ苦悶の声を出す。
「忘れていたな、俺は武道の心得があるのだ」
これで暫くは動けない。ライダーはその間に扉へショルダーチャージを浴びせ壊した。
中へ入る。そこはコンピュータールームだった。
「ギィッ」
そこには白服を着た戦闘員達がいた。どうやら科学班のメンバーらしい。
「科学班の連中か。どうやらここに桜島を噴火させる装置やそれを制御するシステムがあるな」
ライダーは直感した。彼が動くより速く戦闘員達は白服を脱ぎ襲い掛かって来た。
ライダーはそれを退ける。そして辺りを見回す。
「・・・・・・これか」
桜島の内部のコンピューター映像を映しているモニターを見た。その下のコンピューターを破壊する。
部屋のスイッチが消えた。モニターの桜島の映像も消えた。
ライダーは中の機械を次々と破壊していく。最早どの機械もコンピューターも使い物にならなくなっていた。
「グググ、よくもやってくれたな、ライダーよ」
ジゴクロイドが中に入って来た。その四つの目が憤怒で光っている。
「遅かったな、これどこの地の貴様等の作戦は潰えた」
ライダーは彼を指差して言った。
「ならばこれまでよ、この基地はこれで放棄する」
怪人は悔しさに満ちた声で呻く様に言った。
「そして貴様はここで死ね。この基地の中に埋もれてな!」
「何っ!?」
だがジゴクロイドは去って行った。すると天井が急に揺れだした。
「しまった、生き埋めにするつもりか!?」
ライダーは慌てて脱出しようとする。だがその頭上にコンクリートが次々と落ちて来る。
「見たか、それが貴様の最後だ」
ジゴクロイドは崩れ去る基地の入口を桜島の頂上に近い場所から見下ろしながら言った。周りには基地から逃げ延びた配下の戦闘員達がいる。
「作戦は失敗したがライダーは倒した。暗闇大使にもこれで顔向けが出来るな」
そう言って目を光らせた。まだ悔しさに満ちているが何とかそれを抑えている。
「よし、撤退だ。急いで戻るぞ」
戦闘員に言った。そしてその場を去ろうとする。
「悪いがそれは俺を倒してからにしてもらおうか」
上から声がした。彼等は慌てて火山の頂上を見る。
「なっ・・・・・・・・・!」
そこには死んだ筈の男が立っていた。
「な、何故貴様がそこに・・・・・・!」
ジゴクロイドは驚いた声で彼を指差しながら言った。
「言った筈だ、貴様等がいる限りライダーは死なんと。あの程度で死んだと思ってもらっては困るな」
ライダーは不敵な声で言った。
「おのれっ、死に損ないが」
ジゴクロイドの目が再び悔しさに包まれる。そこには怒りも混ざっていた。そしてそれは顔全体に広がっていた。
「ならば燃え滾る溶岩の中に叩き落としてやる。そして今度こそ息の根を止めてやるわ!」
ライダーへ右の鋏を投げ付ける。そしてそれを合図に戦闘員達が動いた。
桜島の噴火口を前に最後の決戦が始まった。ジゴクロイドと戦闘員達は足場を苦にせずライダーを取り囲む。ライダーは彼等に対しファイティングポーズを取った。
「行くぞっ!」
それが決戦の始まりを告げる声だった。ジゴクロイドと戦闘員が一斉に襲い掛かる。
戦闘員達は刀を手に襲い掛かる。ライダーは一人の横腹に回し蹴りを入れた。
戦闘員がそれを受けて吹き飛ぶ。そして火山の火口へと落ちて行く。
刀を手にする戦闘員に対しライダーは拳を主体に立ち向かう。刀を砕き、戦闘員達を吹き飛ばし火山の中へ落としていく。
「・・・・・・どうやら強化改造を受けたらしいな」
その強さは彼等の予想以上だった。街道でのバイク戦では判りづらかったがこうして実際に拳を交えるとそれが解かる。
「だが俺はバダンの怪人軍団の一人、必ず勝つ!」
ジゴクロイドも鋏を振るう。ライダーはそれをかわしつつ攻撃を仕掛ける。
何時しか戦闘員達は全て倒れるか火山の中に落とされていた。残るはライダーとジゴクロイドの二人だけである。
「喰らえええっ!」
ジゴクロイドが左の鋏を投げ付ける。それはブーメランの様な動きをしてライダーに襲い掛かる。
だがライダーはそれを冷静に見ていた。そしてそれを足で叩き落とした。
「無駄だ、この鋏では俺は倒せん」
「・・・・・・そうだな。それに蟻地獄も貴様には通用しないだろう」
ジゴクロイドは忌々しげにそう呟いた。
「ならばこれしかないな、貴様を倒せるのは」
そう言って両手を拳の形に戻した。
「これでぶっ潰してやる、覚悟しろよ」
そう言うと四つの目が笑った。禍々しい形に歪んだように見えた。
「面白い、来い!」
双方が拳を繰り出す。その衝撃が激しく交差した。
ジゴクロイドの拳がライダーの脇を通った。その衝撃がライダーの頬を切った。
それはジゴクロイドも同じであった。その傷口から赤い血が流れる。
「成程な、力の二号と呼ばれるだけはあるわ」
その血を指に取ってジゴクロイドはニヤリ、と笑った。
「この拳、以前から鍛えていたな」
二号も頬から流れる血を手の甲で拭き取って言った。
「流石に察しがいいな。そうだ、俺はシカゴをこの拳で支配していたのだ」
ジゴクロイドは満足気に言った。
「シカゴの暗黒街の帝王ジム=コーエンか。ある日忽然と姿を消したと聞いていたが」
「俺は選ばれたのだ、バダンに。この拳をな」
ジゴクロイドはライダーに誇らしげに語った。
「バダンは世界を支配する。その時俺は暗黒街の帝王よりももっと偉大な者になるのだ、そう、世界を支配する選ばれし者の一員としてな」
「愚かな、人である事を捨ててか」
「人?そんな下等な連中の事を考える必要はない」
ライダーの言葉に対しジゴクロイドは嘲笑する声で言った。
「我等は絶対の神に仕える神々の一員、そうこの世界は俺たちによって新たに創りかえられるのだ。汚らわしい者なぞ一匹もいない素晴らしい世界にな」
「それは素晴らしいな。賞賛に値する」
ライダーは皮肉混じりに言った。
「その世界創造を邪魔するライダー、貴様等は必ず潰す。そう、我等が神、偉大なる首領の御心のままに」
そう言うと拳を再び構えた。
「死ねぇい!」
拳を繰り出してきた。右のストレートである。
おそらくこの一撃で完全にライダーを倒すつもりだろう。渾身の力が込められているのがわかる。
ライダーはそれを冷静に見ていた。拳はそのまま唸り声をあげてライダーの顔に迫る。
拳がライダーの仮面を打ち砕かんと迫る。ライダーはその拳を左手で払った。
「ムッ!?」
そして右の拳をジゴクロイドの顎に入れる。これは効いた。
「ガハッ」
それは怪人の顎を打ち砕いた。ガクリ、と膝をつく怪人。
「今だっ!」
ライダーは跳んだ。そして空中でその身体を大きく捻る。
「何ッ、あの技はっ!」
その技の名はジゴクロイドも聞いていた。だが目にするのは当然ながらはじめてであった。
「ライダァーーーー卍キィーーーーック!」
捻られた身体が唸り声をあげる。そして怪人の胸を撃った。
「グフオオオッ!」
ジゴクロイドは吹き飛んだ。ドクロの銀の胸が砕けた。
「ぬうう、俺の拳をかわし逆に攻撃を仕掛けて来るとは・・・・・・」
それでも立ち上がって来た。だが最早最後の時を迎えようとしていた。
「貴様の拳は既に見切っていた。そして次に何処を攻撃してくるかも予想していた」
ライダーは着地して言った。
「そうか、それがそれが武道の熟練の一つか」
怪人はそう言いながら変身を解いていった。口から血を吐き出す。
「そうだ。長年の戦いが俺にそれを教えてくれた」
「・・・・・・流石だ。伝説の戦士と言われるだけはある」
ジゴクロイドはそう言うとまた血を噴き出した。
「いい戦いだった。次に会う時はこうはいかんぞ」
「何ッ!?」
ライダーはその言葉に疑念を覚えた。ジゴクロイドはどう見ても間も無く倒れるというのに。
「地獄から甦った時を楽しみにしていよう、それまでその腕を磨いているがいい」
そう言うと火山の噴火口の方へ向かった。
「偉大なるバダンの首領に栄光あれぇーーーーっ!!」
ジゴクロイドはそう言うと火口の中へ飛び込んでいった。そしてその中に消えた。
「地獄から・・・・・・。単なる負け惜しみか、いや・・・・・・」
その様な事を言う男ではないのはわかっていた。
「バダンにはまだ何かあるというのか。何かが」
ライダーは怪人が消えた火口の中を見下ろしていた。そして怪人の言葉を脳裏に浮かべ考えていた。
暫くして後ろから滝の声がしてきた。ライダーはその声に対し変身を解き応えた。
桜島の戦いを終えた一文字は空にいた。
「一息つく暇もないな、やれやれ」
桜島は去ろうとした時携帯に立花から連絡が入った。沖縄にバダンが出たというのだ。
一文字はすぐに空港へ向かった。滝は東京へ既に沖縄へ向かった。
「しかし敵は待ってはくれない。あいつ等がいる限り俺達は戦わねくちゃいけないしな」
そう言って窓の外を見た。その下には青い海に囲まれた桜島がある。
「また来る事もあるだろう。その時はもっとゆっくりと眺めてみたいな」
桜島は次第に小さくなっていく。そしてすぐに見えなくなった。それは新たなる戦いを告げる言葉でもあった。
「行くか。さあ今度は誰が歓迎してくれるかな」
一文字は新たなる戦いへ決意を新たにする。そこには戦士としての心があった。
地底からの魔手 完
2003・12・10
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