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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第63話

翌日、バーゼル理科大学は警察によって立ち入り制限がかけられ、カエラ少尉や遊撃士であるアルヴィス達は警察と共に現場検証を行っていた。



10月24日、10:00――――――



~ヴェルヌ社・20F・会議室~



「ええい、一体どうなっている!?キャラハン教授が行方不明――――――パワハラの証拠も挙がっているだと!?警察とギルドにも理科大学に踏み込まれ、私まで事情聴取を受けるハメになったのだぞ!君達が来て一日でこれだ…………!一体どんな疫病神だ、ええ!?」

事件の翌朝タウゼントCEOはヴァン達を呼び出して文句をヴァン達にぶつけていた。

「…………彼らのせいじゃありません。全てはキャラハン教授の――――――いや、僕達全員の問題なんでしょう。」

「カトル君…………」

ヴァン達を庇って責任は自分達である事を答えたカトルをアニエスは心配そうな表情で見つめ

「ま、パワハラなんかは把握してなかったワケねぇよな?」

「ぐっ…………し、仕方ないだろう!?私とて彼の研究そのものにとやかく言える立場では…………!」

アーロンに図星を突かれたタウゼントCEOは唸り声を上げた後苦々しげな表情で答えた。

「ヴェルヌのような複数資本で成り立つ”合併グループ”の難しい所ですね。それがメリットでもあると思いますが。」

「――――――あの先生が”暴走”しちまってたのは誰から見ても明らかだろう。まだ原因の確定してねぇ導力ネットや導力供給網のトラブルについてもな。単刀直入に聞くが、あの先生、妙な連中と繋がってたりしなかったか?例えば裏社会――――――マフィアとか。」

リゼットがタウゼントCEOに同情している中ヴァンはタウゼントCEOにあることを訊ねた。



「う~ん、流石にそこまではないと信じたいですけど…………理科大学とヴェルヌ社の研究は、外部投資を受け入れるのが伝統なんです。」

「その意味で土壌は整っちまってる、か。あんだけの最新端末を揃えたことといい、…………可能性は否定できねぇな。」

「こ、根拠のない憶測はやめたまえ!この大事な時期に外に漏れて妙な噂でも立ちでもしたら――――――」

ヴァンの問いかけに対してエスメレー准教授は考え込み、状況を考えたジスカール技術長がヴァンの推測を肯定しかけるとタウゼントCEOは慌てた様子でジスカール技術長に注意したが

「――――――だったら少しはトップらしい対応をしやがれってんだ!警察やギルドに回さなくてもすむようにこの若造共が雇われたんだろうが!?こうしている間にもキャラハンがどうなってやがるか――――――ここが腹の括りどころじゃねぇのか、ビル・タウゼント最高経営責任者(CEO)!!」

「ッ…………」

「…………親方…………」

ジスカール技術長の正論と喝によって何も答えられず息を飲み、その様子をカトルは驚きの表情で見守っていた。ジスカール技術長の喝によって肩を落として考え込んでいたタウゼントCEOは表情を引き締めてある決意をした。



「…………わかった。私が知っていることを話そう。くれぐれも他言無用でお願いしたい。」

「その…………裏解決屋(私達)にも守秘義務はあります。こちらの株主である公国との契約である以上、その辺りは信用していただけると。」

「ま、ヴェルヌに”貸し”を作れるのもこちらとしちゃ損じゃありませんしね。」

タウゼントCEOの要請に対してアニエスとヴァンはそれぞれ答えた。

「くっ…………キャラハン教授の様子が変わったのはここ1,2年ほどだ。カルバード両州軍からの”次世代兵器”刷新の依頼――――――長年、彼が引き受けてきた分野のコンペでクロンカイト教授に敗れた辺りからだろう。」

「…………っ…………」

「…………やっぱり、そういう事なんですね~。」

タウゼントCEOの話を聞いたカトルは息を飲み、エスメレー准教授は複雑そうな表情で呟いた。

「以来、彼は取り憑かれたように独自の研究を進み始めた。内容は知らないが、相当な設備投資と人的資源(マンパワー)を必要とする何らかの研究…………やがて彼は外部スポンサーを手当たり次第に当たるようになってな。そして、半年前に”アンカーヴィル商会”なるところが破格の投資を申し出たと耳にしている。」

「その名前は…………」

「…………そちらの情報網に引っかかっていた名前か。」

「まさか煌都と同じパターンかよ?」

タウゼントCEOの口から語られたある商会に反応したリゼットの様子を見たヴァンは事情を察し、アーロンは煌都の件を思い返してリゼットに確認した。



「ええ、アンカーヴィル商会――――――あの”メッセルダム商事”と同じく彼らのダミー会社の一つと目されています。」

「…………!」

「彼ら…………?」

「…………とあるマフィアの事です。”アルマータ”―――――ギルドや警察が最もマークしている。」

リゼットの答えを聞いてアルマータが関わっている事を察したフェリが表情を引き締めている中事情を知らないカトルにアニエスが説明した。

「な…………!?」

「そ、そんなのとキャラハン教授が~…………!?」

「…………噂くらいは聞いたことあるな。近頃縄張りを広げてるみてぇだが………チッ、よりにもよってそんなのを見過ごしてたってのか!?」

アニエスの説明を聞いてマフィアの中でも相当危険なマフィアがキャラハン教授と関わっている事にカトルとエスメレー准教授は驚き、重々しい口調で呟いたジスカール技術長はタウゼントCEOを睨んだ。



「わ、私のせいじゃないぞ!?情報が回ってきたのもつい先日だ!そ、それにマフィア絡みの研究など止めたりしたら何をされていたか…………!」

「知らずに手伝わされている助手どもを第一に考えろっつうんだ!」

言い訳をしているタウゼントCEOをジスカール技術長は睨んで注意した。

「あの天才教授に負けちまって、血眼になりながら進めている研究…………”同じ分野”の可能性は高いかもな。」

「…………っ…………!」

「…………そして、そこにマフィアが莫大な投資をしている状況ですか…………」

「イヤな予感がします…………それも途方もなく…………」

ヴァンの推測を聞いたカトルは驚きのあまり息を飲み、アニエスとフェリはそれぞれ考え込んだ。

「…………0.35%まで抑えた導力供給網の異常も今朝になってまた悪化してきています。あの研究室とは別に、今も別の場所で研究が続いている可能性は高いかもしれません。」

「!だとしたらキャラハン教授はそちらの方に~?」

「ならとっとと見つけ出さねぇとな。昨日よりも本格的に嗅ぎまわらせてもらいますが――――――当然、異存はないですね?」

カトルの説明を聞いたエスメレー准教授は状況を察し、ヴァンはタウゼントCEOに確認した。



「…………気に食わんが仕方あるまい。」

「クク、だったら認証カードのランクも相応に上げてもらわねぇとなぁ?」

「くっ――――――ええい、カードを出すがいい!」

アーロンの指摘に唇を噛み締めたタウゼントCEOはザイファを取り出してヴァンに認証カードを出すよう促した。



その後仲間達と共にビルを出たヴァンは認証カードのランクを確認した。



~エントランス~



「ランク”B"――――――昨日仰っていたグレードですね。」

「へっ、、そのランクは滅多に発行されることはねぇぞ?」

ヴァンが持つセキュリティカードのランクを確認したリゼットは昨日のジスカール技術長の話を思い返し、ジスカール技術長は口元に笑みを浮かべて指摘した。

「ハッ、文句はねぇが若干セコイな。ここは一気にAに行くとこだろーが?」

「無茶言うな――――――こいつがあれば昨日より更に動きやすくなんだろ。」

「さっそく行動開始ですね…………マフィアの尻尾を掴んでみせます!」

一方アーロンはランクが”A"でない事に不満を示し、アーロンの不満にヴァンは苦笑しながら指摘し、フェリは必ずアルマータの手がかりを掴むために意気込んだ。

「…………お願いがあります。できれば――――――僕もしばらく貴方たちに同行させてくれませんか?」

「え…………?」

その時カトルが意外な申し出をし、カトルの申し出に驚いたアニエスは戸惑いの表情でカトルを見つめた。



「…………キャラハン教授のことはハミルトン門下にも無関係じゃありません。博士が留守中、なんとかするのは僕の役目です。…………どうか、お願いします。」

「カトル君…………」

カトルの決意を知ったエスメレー准教授は静かな表情でカトルを見つめた。

「ま、いいだろ。ただし一緒に行動するからには裏解決屋としての活動が主体になる。お前さんにも俺達の業務に付き合ってもらうがかまわねぇか?」

「昨日やっていた…………ええ、勿論です。きっとお役に立ってみせます。」

ヴァンの念押しにカトルは昨日のヴァン達の活動を思い返した後頷いた。

「ふふ、そっちの事はよろしくね~。わたしも色々とツテを当たってみるから。カトル君はんまり無理はしないんだよ~?」

「うん、皆さんも一緒だからエレ姉もどうか心配しないで。きっと何とかしてみせる…………――――――博士の代わりにね。」

「………うん…………」

「こっちもキャラハンが機材を調達した業者なんかを当たってみるつもりだ。何かわかったら連絡する。カトルをよろしく頼むぜ。」

「ああ、任されたぜ。」

そしてジスカール技術長とエスメレー准教授はそれぞれの行動の為にその場から立ち去った。



「ところでアニエス…………――――――昨夜、”光った”んだってな?」

「……はい。多分、キャラハン教授からの最後の通信があったタイミングではないかと。」

「いよいよ濃厚、ですか。」

ヴァンの確認に答えたアニエスの話を聞いたフェリはゲネシスが関係している可能性が濃厚な事に真剣な表情を浮かべた。

「ええ、今までもゲネシスがあそこまではっきり光った時は――――――」

「?…………何の話ですか?ゲネシス…………?」

アニエスが答えかけたその時話の意味がわからないカトルが不思議そうな表情で訊ねた。

「あー、こっちの話だ。ま、その内にな。」

「ごめんなさい、カトル君。。」

「…………まあいいけど。何か事情があるみたいだし。それでどこから調べましょうか?できれば一度、ヤン兄――――――クロンカイト教授の話は聞きたいですが。」

「消えた教授が目の仇にしてた相手か…………研究についても知ってそうだったしな。いいだろう――――――それといい加減、昨日の”依頼人”にも話を聞かねえとな。」

「あ、昨日依頼を出した匿名の…………」

「ハッ、大分メドもついてきたしそろそろ白黒つけておくか。」

「では、新市街や職人街を回りつつ、理科大学に向かう感じですね。」

「ええ、二日目の解決業務、さっそく開始いたしましょう。」

その後カトルを加えたヴァン達は業務をこなしながらクロンカイト教授を探して街を回り、クロンカイト教授を見つけると声をかけた。



~新市街~



「ヤン兄…………!」

「ようやく見つけたか。」

「カトル…………それに”裏解決屋”だったか。そろそろ来る頃だろうとは思っていた。」

(昨日二度ほど会いましたがこの方が、カルバード両州軍で進んでいる…………)

(あの人型を含めた新兵器の開発を一手に手掛けている人みたいですね…………)

(ええ、テスト運用するMK社でも度々名前は伺っておりましたが…………)

「――――――高名な先生に覚えて頂いていて光栄ですよ。俺達が訪ねてきた理由、察しがついているみたいですね?」

「ああ、君たちの立場と昨日あった出来事、そして事件を考えればな。…………キャラハン教授も困った人だ。”導力ネットや供給網の異常、マフィアとの繋がりだけならまだしも”…………巡り巡って、こうして私にまで面倒事を運んでくるのだから。」

「ど、どうして…………」

「あのCEOから聞き出したのか?」

クロンカイト教授が自分達が訪ねてきた理由を全て知っている様子にフェリは驚き、アーロンはタウゼントCEOを思い返してクロンカイト教授に確認した。



「いや?あくまで論理的な帰結だ。彼の”研究内容”とタイミングを考えれば市内の異常との因果関係は導き出せる。加えて出所不明な巨額の資金――――――”説明のつかない異変”という要素。ここ数ヶ月、カルバード両州各地で起きた不可解な事件とも符合する点も多い。――――――近頃勢力を広げているという”アルマータ”関連といったところか?」

「えええっ…………?」

「そんなことまで…………」

「ヤン兄、だったら…………!」

クロンカイト教授が今まで自分達が関わった事件にアルマータまで関わっている事に気づいている事にフェリとアニエスが驚いている中カトルは真剣な表情でクロンカイト教授にある事を訊ねようとしたが

「だったら?」

対するクロンカイト教授は冷静な様子でカトルを見つめて問い返し、クロンカイト教授の視線に対してカトルは少しの間黙って考え込んだ後答えを口にした。



「…………自ら仮説を立て、証明するために実証を重ねるのが研究者――――――過程を飛ばして得られただけの答えに何の価値もありはしない…………」

「そう、いつも言っている事だ。あくまで自分で辿り着くといい。お前も研究者の一人ならばな。FIOとXEROSを完成させた時程度なら手を貸してやらないでもないが。それでは失礼する。私も私の研究で忙しいのでね。」

カトルが自分の言いたい事を答えるとクロンカイト教授はその場から立ち去り始めた。

(おい、面倒臭すぎんぞあのメガネ…………!)

(せ、折角の手がかりが…………)

「(アニエス。)――――――ちょっと待ってください。研究者ってのは何も自分だけで答えに辿り着くわけでもないでしょう。先人の研究成果や論文なんかも参考にして更なる”知”を見出す――――――違いますかね?」

立ち去っていくクロンカイト教授の背をアーロンは睨み、フェリが焦っている中アニエスと視線を交わしてアニエスが頷くのを確認したヴァンはクロンカイト教授を呼び止めて問いかけた。



「あ…………」

「その側面は否定しない。…………それで?」

「”情報交換”ならどうかっていう取引ですよ。不可解な異変にも関わる、俺達が押さえている”鍵”―――――先生が時間を割く程度の価値は示せるんじゃないかと思ってね。」

「…………ほう…………?」

「それは…………」

「もしかして、アニエスさん…………」

「…………?」

ヴァンの話を聞いたクロンカイト教授が興味ありげな様子でヴァンを見つめている中ヴァンがゲネシスの事をクロンカイト教授に教える事を察したリゼットとフェリはアニエスに視線を向け、視線を向けられたアニエスが頷くとその様子をカトルは不思議そうな表情で見つめていた。

「――――――いいだろう。見せてもらおうか。ここ数ヶ月、、カルバード両州各地の事件の背後にあったはずの”何か”。古代遺物(アーティファクト)でもなく、一年半前の産物(シンギュラリティ)でもない”鍵たるフラグメント”を――――――」

その後ヴァン達は自分達が泊まっている宿の客室までクロンカイト教授に同行してもらい、客室に入って扉を閉めた後アニエスがゲネシスを取り出してクロンカイト教授に見せた。



~宿酒場”石切り亭”~



「こ、これは…………」

「…………なるほどな…………カトル、この装置を分析してみろ。」

ゲネシスを始めて目にしたカトルが驚いている中、クロンカイト教授は納得した後カトルに指示をした。

「触っても?」

「はい、構いません。」

クロンカイト教授の指示に頷いたカトルはアニエスからの許可を取った後アニエスからゲネシスを受け取って調べ始めた。

「この経年劣化の具合………せいぜい数十年、古代遺物じゃない。複雑だけど意味のあるボタン配置に各種インジケーターの数値………導力技術黎明期の時計技術を応用した品に似ている?でもそれらよりはるかに複雑で、間違いなく”天才”が手掛けた品――――――ま、まさか…………この装置の制作者は…………!?」

ゲネシスを分析して制作者が誰であるかの推測ができたカトルは驚きの表情を浮かべ

「博士の代わりに及第点はやろう。我が師も関わったという、導力技術の確立を導いた実験装置。かのC・エプスタインが手掛けた8つのプロトタイプ・オーブメント――――――”オクト=ゲネシス”の一つだろう。――――――今も現存しているなどついぞ聞いたことがなかったがな。」

クロンカイト教授がゲネシスの事について説明した後興味ありげな様子でゲネシスを見つめていた。



「…………まさかエプスタイン博士の手掛けた導力器に触れられるなんて…………アニエスさん、どうして貴女がこれを…………?」

「…………それは…………」

「おっと、悪いがそこまでにしてもらおう。たとえアンタらが”三高弟”繋がりでもな。見せる前に言った通り、存在自体もここにいるメンツ以外は他言無用で頼むぜ。」

カトルの疑問にアニエスが答えを濁している中ヴァンが制止の言葉をかけてカトルとクロンカイト教授に念押しした。

「ああ、約束は守ろう。だがなるほど――――――君達がバーゼルに来た理由は何となくわかった。それでは対価の支払いといこう。キャラハン教授の研究内容についてだったな。」

「ああ、あの先生はカルバード両州軍の現世代兵器の開発者って話だったな。やっぱり軍事技術方面なのか?」

「専攻はあくまで物理工学だがな。ある意味、今回彼がやっているのはそちらの難題に挑戦するようなものだ。”とある思考実験”における物理現象を兵器として利用するというな。」

「…………!」

「しこうじっけん…………?」

「ハン…………?」

(…………まさか…………)

クロンカイト教授の説明の意味を理解できたカトルが目を見開いている中理解できていないフェリとアーロンは不思議そうな表情を浮かべ、心当たりがあるリゼットは考え込んだ。

「マルドゥックの人間ならば一応、聞いたことくらいはあるか。無論、あくまで空想上の産物――――――最新技術であっても実現不可能な兵器だ。――――――それこそ何らかの”ブレイクスルー”でもない限りは。話せるのはここまでだ――――――私はそろそろ戻らせてもらう。」

「ッてオイ…………!?」

「よくわからないんですが…………」

「発表前の他人の研究内容をみだりに触れ回る趣味はないのでね。先ほどの”骨董品”の対価として十分なヒントは与えたつもりだ。あとはそこに弟弟子が辿り着くだろう。」

去り際にカトルに視線を向けたクロンカイト教授はその場から立ち去った。



「やれやれ、研究者としての一線は譲らないってワケか。」

「…………ヤン兄らしいです。」

「カトル君…………それで、先ほどの話は…………?」

クロンカイト教授が立ち去った後ヴァンとカトルは苦笑し、アニエスはカトルにクロンカイト教授の話について尋ねた。

「”思考実験”つったか――――――どんな内容なんだ?」

「…………うん。…………博士とキャラハン先生が以前、話していたことがあるんだ。物質の最小単位の反応融合を利用して莫大なエネルギーとして取り出す技術。絶対に実現できない――――――いや、してはいけない悪魔の仮想兵器。”反応兵器(リアクターウェポン)…………そんな風に呼ばれていたよ。」

「…………反応、兵器…………」

「なんでしょう…………理解が追い付いてはくれませんが。」

「クク…………怖気がするようなヤバさを感じさせるじゃねえか。」

「……………………」

「…………あくまで思考実験、理論上の存在でしかないはずです。MK社の予測シミュレーションでも現時点での実現可能性は極小レベル――――――たとえ”並列分散処理”を利用しても堪えられないブレイクスルーでしょう。

カトルの答えを聞いたフェリとアニエスは呆け、本能で危険な物であることを察したアーロンは不敵な笑みを浮かべ、ヴァンは考え込み、リゼットは問題点について指摘した。



「ええ、僕もそう思います…………たとえ一年半前の決起の黒幕でも。それでもキャラハン先生がその不可能に挑んでいたとしたら…………」

「ああ、ますます所在不明のままにはしておけなくなってきたな。」

「はい――――――何としても見つけないと!」

その後パワハラ教授の告発の依頼を出した依頼人に接触し、事情を聞いた後依頼人から行方不明になったキャラハン教授が助手達にとっては見慣れない男と頻繁に出入りしていた場所がオージェ峡谷の野外実験棟である事を教えてもらい、そこに行方不明になったキャラハン教授がいると推測したヴァン達は峡谷の野外実験棟へと向かい、野外実験棟に到着後実験棟に突入したがそこには人は誰もいなかった。



~オージェ峡谷・野外実験棟~



「あちこち錆びついてんな…………やっぱり人はいなさそうだが。」

「あっちの端末は生きてるな。導力ネットのケーブルも繋がってる。」

「もしかしてキャラハン先生が…………?」

起動し続けている端末に気づいたヴァン達は端末に近づき、カトルが端末を操作し始めた。

「調べられそうですか?」

「…………ダメだ、何重にもプロテクトがかけられている。」

「専用の走査(スキャニング)アプリを使います。十数分もあればロックを解除できるかと。」

アニエスの疑問に悔しそうな表情で答えたカトルが肩を落とすとその横でリゼットが端末を操作し始めた。

「…………凄いですね…………精密で、それでいて速い。」

「恐れ入ります。」

(…………でも、なんだろう。この速さはまるで…………)

そしてリゼットの補佐によってプロテクトのロックが解けるとカトルは端末を操作して、ヴァン達に端末の中にあるキャラハン教授に関するデータを見せた。

「こいつは――――――」

「…………キャラハン先生の手記。ここ数週間のものみたいです。」

データの内容を確認し始めたヴァンは真剣な表情を浮かべ、カトルはデータの内容を読み始めた。





『4月某日―――――探し求めたスポンサーがようやく見つかった。導力ネットでの数回のやり取りの後、”アンカーヴィル商会”の営業が訪ねてきた。そして睨んでいた通り――――彼はあの”A"の”関連企業”であることをあっけなく明かした。

彼らは莫大な資金と引き換えに”ある条件下での実験”も提案してきた。いくつかあるその”条件”を実現すれば―――実験のスピードを飛躍的に高め、不可能と思われた理論構築を現実のものにできるという。迷った末に私は”条件の一部”を受け入れた――――――何としてもあのクロンカイトに勝つために。

前提となる”最低限の条件”―――――都市全体を利用しての”並列分散処理”により、ついに全ての準備が整おうとしている。だが、まだ最後の”壁”が残っている。この”壁”はまったくもって容易ではない。それこそ”最後の条件”を受け入れなくては――――――…………最後まで迷うことになりそうだが、いずれにせよ、必ずや成し遂げてみせよう。空想と思われていた未来の兵器――――――”反応兵器(リアクターウェポン)”を、この手で生み出すために。』



「………………………………」

「カトル君…………」

キャラハン教授の手記を読み終えて肩を落として目を伏せて黙って考え込んでいるカトルをアニエスは心配そうな表情で見つめた。

「ハン…………当たりだったみてぇだな。」

「眼鏡の先生から聞いちゃいたが…………同じことを改めて聞くが実際、どれだけ現実味があるものなんだ?」

「やはり可能性は限りなくゼロです。…………少なくとも現代の技術では。それこそなんらかのブレイクスルー…………革命的転換(パラダイムシフト)技術的特異点(シンギュラリティ)が今一度、起きない限りは…………」

「…………仮にそれが起きたとしても仮説と実証の繰り返しが必要となる筈…………だからこそエプスタイン博士や三高弟でも届かなかったんでしょうから…………いいえ――――――届こうとするのを戒めた。」

ヴァンの確認に対してリゼットとカトルはそれぞれキャラハン教授の研究内容の実現は非常に厳しい事を答えた。



「で、でもさっきの手記には…………」

「…………ええ、あと一歩でそこに辿り着くような書き方でした。都市全体での並列分散処理…………それに”最後の条件”というのはわかりませんが。」

一方ある懸念を抱いたフェリにアニエスは真剣な表情で頷いて答えた。

「何十年かかるかわからない”過程”を一気に省略できるほどの強いAI…………?でも、そんなもの一体どうやって…………」

「……………………」

カトルとリゼットはそれぞれ考え込んだが答えは出なかった。

「…………他に手がかりもなさそうだ。いったん、持ち帰るしかねぇかもな。」

「はい、GIDやギルド方面もですがもしかしたら先輩あたりなら――――――」

そしてヴァンの提案に頷いたアニエスが話を続けようとしたその時、水の音のような音が聞こえてきた。

「…………なんだァ、今の音は?」

「水の音、でしょうか。」

「…………外の沼、からですね。」

「…………一応、確かめてみるぞ。」

音が気になったヴァン達が外に出るとフェリが何かを見つけた。



「――――――あそこです!」

「っ…………」

「…………チッ…………」

「アニエス!お前さんも見るな…………!」

”何か”を見つけたフェリに続くように”何か”を目にしたリゼットは息を飲み、アーロンが舌打ちをして厳しい表情を浮かべている中ヴァンは自分達の後を追って外に出てきたアニエスとカトルに警告した。

「――――――」

「そ、そんな…………」

しかしその警告は間に合わず、フェリ達が見つめている”何か”――――――沼に浮いているキャラハン教授の遺体を目にしたカトルは目を見開き、アニエスは悲痛そうな表情を浮かべ

「キャ――――――キャラハン先生ぇぇっ…………!!!?」

キャラハン教授の遺体を見つめたカトルが悲鳴を上げたその時、アニエスのポーチの中にあるゲネシスが反応していた。



その後ヴァン達の通報によって到着した警官達やカエラ少尉がキャラハン教授の遺体を検視していた。





「…………死因は溺死。何らかの形で気絶させられたあと沼に投げ捨てられた…………そんな所ね。すぐ検死に回してください。」

「了解しました!」

遺体の検視を終えたカエラ少尉は警官に要請し、要請された警官は通信でどこかと連絡を取り合い始めた。

「ちょっと待った…………!」

そこに警察よりやや遅れて到着した遊撃士協会の車から降りてきたアルヴィスとレジーナが近づき、その対処の為にカエラ少尉がアルヴィス達の向かう際ヴァンがカエラ少尉に話しかけた。

「…………任せたぜ。」

「ええ、元より貴方たちの領分じゃないでしょう。」

ヴァンの言葉に頷いたカエラ少尉はアルヴィス達と対峙した。



「どうしてこんな所で殺人が――――――当局は何を隠蔽している!?」

「こちらも現在調査中です。そもそもまだ立入許可は――――――」

「民間人の犠牲となれば話は別だ!規約に則って立ち入らせてもらう!」

「それにこの現場はメンフィル帝国領なのだから、幾ら国家間の関係が良好とは言え、北カルバード総督府――――――他国であるクロスベル帝国の所属であるGIDの貴女に指図する権限はないのじゃないかしら?」

「っ…………現場保存の鉄則は無視しないでもらいましょうか…………!」

アルヴィス達とカエラ少尉が互いに睨み合っている中ヴァン達はキャラハン教授の遺体を見つめて話し合っていた。



「ハッ…………ついに尻尾を出しやがったワケだ。」

「ああ――――――昨日の研究室での拉致も含めて。”連中”との取引の末の最期なのは疑いようもねぇだろう。」

「サルバッドと同様、ですか…………」

「あの時はエースキラーの皆様方の迅速な動きのお陰でギャスパー社長は殺されずにすみましたが…………今回もあの時と同じ”口封じ”と”見せしめ”かはわかりませんね。」

「…………随分と冷静なんですね、皆さん。人が一人、死んだっていうのに…………」

ヴァン達がそれぞれ冷静な様子で話し合っている一方その光景が信じられないカトルは信じられない表情でヴァン達に指摘した。

「――――――いえ。今にも灼けつきそうなくらいです。」

「こちとら散々やられてるんだ…………ある意味、絶好の機会ってもんだぜ。」

「…………あなたたちも…………」

「…………その、二人共、色々あったんです。」

それぞれ静かな怒りを纏っている様子のフェリとアーロンの言葉を聞いたカトルは二人もそれぞれアルマータによって親しい人たちを殺された事を悟り、カトルにアニエスが2人の事を軽く説明し

「…………先生の事は残念だった。だが、色々と手がかりも出てきた――――――確信に近づいてるのも確かだろう。その意味でまだ何も終わっちゃいない…………冷静に判断して辿り着くしかねぇ。奴らに”借り”を返すまではな。」

「…………っ…………」

ヴァンの指摘にカトルは唇を噛み締めて考え込んだ。



「やっぱり鍵になるのは、手記にあった”最後の条件”だろう。一年半前のヘイムダルの決起――――――色々あったが、あれを起こした”黒幕”は技術的特異点(シンギュラリティ)を起こしたらしい。その時点での人間には到達不可能な未来の技術が観測され、現実化し…………事件解決後にそれらの技術の全ては一切失われちまったという。」

「!そうだったんですか…………!」

「またヤバイ裏情報を…………そうした技術が使われたってことか?」

ヴァンが口にした裏情報を聞いたアニエスは驚き、アーロンは真剣な表情で訊ねた。

「いえ、それらの技術が再現不可能であるのは各方面の調査からも判明しています。逆にいえば、いずれ人類が再び到達する可能性がある技術でもあるという事ですが…………数十年、ないし数百年かかるでしょうし、”その時も反応兵器は実現されませんでした。”」

「あ…………」

「だったら似てるようで根本的に違ってるってことか…………」

「(うう…………全然ついてけませんけど…………)違うというと…………それこそアニエスさんの”ゲネシス”では?」

リゼットの説明を聞いてアニエスとアーロンが今回の件は以前起こった事件と比べると根本的に違う事に気づいている中、3人の会話についていけない事で無力さを感じていたフェリは自身が気づいたことを口にしてアニエスを見つめた。



「………!」

「ハッ、考えてみれば…………」

「ああ――――――鍵はそこだろう。決起の時には無かったフラグメント。古代遺物以上に不可解で謎めいた”奇蹟”を引き起こしてきた原型導力器。仮にそんなものがあるとしたら――――――それを利用した”最後の条件”ってのは具体的にはどんなモンになるんだろうな?」

「あ……………………」

「…………成程…………」

「た、確かにそのアプローチなら…………」

「…………チッ…………おいチビ、やるじゃねーか。」

ヴァンの指摘にカトルや仲間達が納得している中アーロンは舌打ちをしてフェリを誉め

「え、えへへ、まあそれほどでも。(全然わかってませんけど…………)」

誉められたフェリは恥ずかしそうに笑った。

(街で頻発する導力ネットと供給網の異常…………”並列分散処理”が原因なのは確定している。不可能と思われる反応兵器の研究…………殺されてしまったキャラハン先生。そして符号する点は多いけど、根本的に異なってくるエレボニアの事件―――)

カトルが考え込んでいたその時、カトルはふとある人物の言葉を思い出した。



――――――カトル、行き詰まった時は一度”全体”として見てみなさい。研究だけじゃない――――――”答え”はその中に必ずあるわ。



(…………まさか、”最後の条件”というのは…………)

「っ…………?どこから――――――」

ある人物の言葉を思い出して何かに気づいたカトルが眉を顰めたその時、アニエスのザイファに通信が入り、ザイファを取り出したアニエスが通信を開始すると映像にレンが映った。

「アニエス…………!良かった、繋がったわね。」

「せ、先輩…………?どうしたんですか。」

「ああ、早速事件のことを聞きつけやがったのか?」

「いいえ、そうじゃない――――――そっちは”目晦まし”よ!急いで戻ってきなさい”――――――”お茶会が始まってるわ”…………!」

レンからもたらされた凶報にヴァン達はそれぞれ血相を変えた。



~バーゼル市内~



「きゃあああっ!?」

「うわあああっ!?」

一方その頃バーゼル市内は人形兵器達が徘徊したり、逃げる市民達を追ったりし、市民達の一部が人形兵器達に襲われようとしている所をレンが投擲した大鎌が人形兵器達に命中し、撃破された。

「せ、先輩…………!?」

「あら見られちゃった。――――――で、みんなは避難させた?」

そこに駆け付けたアルベールとオデットは人形兵器達を撃破したレンを驚きの表情で見つめ、二人の登場に困った表情で答えたレンは二人にある確認をした。

「え、ええ…………でも、一体何が…………!?」

レンの確認に答えたオデットは困惑の表情を浮かべて周囲を見回した。



~オージェ峡谷~



「ま、街に人形兵器が…………!?」

「ええ、やはり闇市場で調達されたものでしょう…………!」

レンから市内の状況を教えてもらったアニエスは不安そうな表情を浮かべ、リゼットは人形兵器の供給元を推測した。

「幸いまだ始まったばかりだし、既にオージェ要塞にも援軍の指示を出した…………なんとか持ちこたえるわ!貴方た………急いで――――――………」

「先輩、先輩!?」

通信が途中で切れた事でレンに何か異変があったと推測したアニエスは不安そうな表情で声を上げてザイファを操作したがレンに繋がらなかった。

「…………切れちまったか。」

「妨害――――――いえ、ジェネレーターの異常動作による通信障害でしょうか。」

「ど、どうしてあんな風に光って…………何が起きているんだ…………!?」

通信が切れる前のレンのザイファ越しに映っていた光景を見て何かが気になっていたリゼットは推測し、カトルは困惑していた。その時カエラ少尉とアルヴィスがヴァン達に走って近づいてきて声をかけた。



「こっちも連絡を受けたわ!」

「一体どうなっている…………!?」

カエラ少尉とアルヴィスがヴァン達に声をかけたその時飛行艇がヴァン達の頭上を通ってどこかに向かった。

「あれは…………!」

「アルマータどもの高速艇か…………!」

「チッ…………乗れ、お前ら!」

飛行艇がアルマータの飛行艇であることにすぐに気づいたヴァンはアニエス達に指示をした後車に乗り込んでバーゼルへと急行し

「私達も向かいます――――――貴方達は現場の保存と各方面への連絡を!」

「りょ、了解しましたっ!」

「駄目、支部にも繋がらない…………!」

「っ、とにかく急いで戻るぞ…………!」

そしてカエラ少尉とアルヴィス達もそれぞれの車でバーゼルへと急行し始めた――――――



 
 

 
後書き
確定申告の資料作りや提出関連でしばらく話の続きを作るのが遅くなるので、誠に申し訳ございませんがしばらくの間更新はかなり遅くなります 
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